インテグラルヘッド、オンダフォーク、左右非対称フレーム等々、常に時代の先端を切り拓き続けてきたイタリアンブランド、ピナレロ。今回インプレッションするのはセカンドグレードに位置するPRINCEだ。ピナレロの伝説的な名車の名を受け継ぐにふさわしいバイクなのか、徹底インプレッションをお届けしよう。



ピナレロ PRINCEピナレロ PRINCE (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
初代プリンスがお目見えしたのは今から遡ること16年前、1998年のツール・ド・フランス。ヤン・ウルリッヒが駆ったプロトタイプのカーボンバックフレームは、当時のロードレースファンに衝撃を与えた。同年にミラノショーにおいて正式に世界初のカーボンバックバイクとして発表された初代「プリンス」によって、ピナレロはレーシングバイクのトレンドを牽引する存在となったのだ。

そして、現在のピナレロを象徴するONDAフォークを手に入れて更なる進化を果たしたプリンスSLを経て、2005年に一旦ラインナップから姿を消す。次にプリンスが登場したのは2008年。3年間の開発期間を経て、フルカーボンバイクとして新たに生まれ変わった「プリンスカーボン」はピナレロフラッグシップバイク初のカーボンモデルとして登場し、本格的なカーボンバイク全盛期の幕明けを告げる象徴的なモデルであった。

トップチューブ上部にはThink Asymmetricのレターが入るトップチューブ上部にはThink Asymmetricのレターが入る フォーククラウンとダウンチューブが繋がるようなデザインフォーククラウンとダウンチューブが繋がるようなデザイン 近代ピナレロの象徴でもあるONDAフォーク近代ピナレロの象徴でもあるONDAフォーク


そして、3度目の登場となったのが今回インプレッションするプリンスだ。これまでは常にピナレロのフラッグシップとして登場してきたプリンスが、今回の復活ではセカンドグレードという位置づけでのラインナップとなる。2015年ピナレロのフラッグシップとなるのは、完全新作であるドグマF8だからだ。

しかし、それはピナレロがプリンスをおろそかにしたことを示すものではない。プリンスはピナレロ2015ライナップの中では「ハイエンドバイク」として位置づけられている。そして、ドグマF8はラインナップの中でも別格の「スーパーハイエンドバイク」として位置づけられていることからも窺えるように、他のブランドであれば十分トップモデルとして送りだされておかしくない車格をもったバイクなのだ。

形状はいかにもピナレロ然とした、ONDAフォークとONDAシートステーを備えたフォルム。それもそのはず、2014年のフラッグシップを務めたドグマ 65.1Think2のフレーム形状を受け継いでいるのだから、これまでのピナレロスピリットが詰まったフォルムになるのは当然の帰結だ。

ワイヤーケーブルは内蔵とされるワイヤーケーブルは内蔵とされる トップチューブは滑らかに湾曲し衝撃をいなすデザインとされるトップチューブは滑らかに湾曲し衝撃をいなすデザインとされる

トップチューブから流れるようにシートステーへとつながっていくトップチューブから流れるようにシートステーへとつながっていく バックフォークもONDAデザインだバックフォークもONDAデザインだ


ドグマ 65.1Think2の特徴はそのままに、使用するカーボンのグレードを落として作られた3代目プリンス。フレーム製作において、もっともコストがかかる金型を流用し、使用するカーボングレードによっていくつものモデルを製作するというのはここ数年のピナレロバイクで良く見られる手法だ。

とはいえ、使用しているカーボンは60HM3Kと非常に高いグレードのものであり、他社であればトップグレードでも使用されないような高品質のカーボンによって製作されている。ちなみに2012年のトップモデルであるドグマ2に使用されていたのと同じトン数のカーボンであり、いわばドグマ2の復刻モデルという見方もできるだろう。

これまでのピナレロバイクの系譜から外れたデザインによって、新たなライディングフィールを切り拓いたドグマF8とは異なり、ピナレロがこれまで蓄積してきたノウハウによって作り出されたプリンスは、これまでのピナレロファンにとっては非常に馴染みやすいルックスと性能を持っている。

BBはスレッド式ながらもボリュームたっぷりBBはスレッド式ながらもボリュームたっぷり チェーンステイも一度ベンドされているチェーンステイも一度ベンドされている


外見的な特長としては、フィン状に成形されたフォーククラウン部だろう。ダウンチューブとの隙間を埋めることで乱流の発生を防ぎ、エアロ効果の向上を果たしている。ヘッドチューブは上:1-1/8インチ、下:1-1/2インチの上下異径タイプを採用。高いヘッド剛性と、ONDAフォークによってピナレロらしい正確なハンドリングを実現している。

また、ドライブトレインが右側に集中しているために起こる応力バランスの左右差を考慮した左右非対称デザインを採用。最適化された左右の剛性バランスが、たぐいまれな動力性能をバイクにもたらしてくれるのは、ドグマ65.1を駆って2012年のツール・ド・フランスでブラドレー・ウィギンズが総合優勝したことが証明している。

そして、もうひとつ特筆すべき点はボトムブラケットだ。BB30やBB86といった圧入式のBB規格が幅を利かせている昨今、プリンスは昔ながらのスレッド式BBを採用している。BB幅を広げることによる剛性上昇といった性能面でのメリットから製造コストを低く抑えることができるという商業的メリットまで、多くのメリットがある圧入BBだが、異音がなりやすい、メンテナンス性が低いといったデメリットが存在するのもまた事実。

ボリュームのあるダウンチューブがしっかりとペダリングパワーを受け止めるボリュームのあるダウンチューブがしっかりとペダリングパワーを受け止める エアロ形状のシートチューブが空気抵抗を軽減するエアロ形状のシートチューブが空気抵抗を軽減する 左右非対称に設計されるリア三角左右非対称に設計されるリア三角


一般ユーザーにとっては、長期使用におけるメンテナンス性や耐久性はそのままフレームへの信頼性につながる問題でもある。そのため、ピナレロは「最高の解決策」としてイタリアン規格のBBを継続して採用している。アシンメトリックデザインといった最新の設計を採用する一方で、ユーザーの利便性を第一に考えてオーソドックスなBB規格を採用するピナレロ。そこから見えてくるのは、真にロードバイクに求められているものは何か、ということを真摯に考える姿勢だ。

初代プリンスの登場から連綿と続く、ピナレロフラッグシップモデルのDNAを色濃く受け継いだ3代目のプリンス。名前とともに受け継がれているものを確かめてくれるのは、2名のライダー。今回のテストバイクにアッセンブルされているのは、機械式デュラエースにフルクラム レーシングゼロ。それでは早速インプレッションに移ろう。




―インプレッション

「どんなレベルのライダーでも扱いやすい万人向けバイクとして完成度が高い」 藤野智一(なるしまフレンド)

ピナレロらしいライディングフィールは受け継がれていることを感じるハイエンドバイクですね。前年トップモデルのドグマ65.1と同じ形状というのは非常にポイントが高いです。カーボンの積層の違いで乗り味を演出しているのですが、とがった部分がない乗りやすさはレースでも使えるし、快適性も高いラグジュアリーな乗り味はどんなレベルのライダーでも楽しめるはずです。

少し剛性レベルは落とされているのですが、ちょっと乗った程度ではわからないぐらいの差です。ただ、その少し落とされた剛性がマイルドで扱いやすい性格を演出しており、トッププロではないホビーライダーにとっても走らせやすい剛性バランスに仕上がっていますね。

どんなレベルのライダーでも扱いやすい万人向けバイクとして完成度が高いどんなレベルのライダーでも扱いやすい万人向けバイクとして完成度が高い
登りでも、大きな力で踏み抜くよりも、じんわりと丁寧に踏みこんでいくと非常にレスポンスよく登っていきます。斜度に関係なく、しっかりとしたリアバックが踏んだ力を逃さず、推進力へと変えてくれるのでキビキビと走ってくれます。

フロントフォークおよびリアバックに搭載されているONDAフォークの影響もあり、快適性も確保されています。ダンシングしても他のバイクのように後輪が浮いてトラクションが抜けてしまうということは無く、しっかりと地面をとらえて前へと進んでいきます。

ハンドリングには少し癖があり、バイクを倒しこむ際に少し寝かせづらい感覚があります。以前、別のサイズに乗った時にはそういった感覚は無かったため、小さめのサイズだったということが影響しているのかもしれません。一方で直進安定性は非常に高く、ゆったりと安心して乗ることができるバイクでもあります。

やはり活躍するシーンとしてはレースでしょう。特に長距離のロードレースがバイクのポテンシャルを最大限に発揮してくれると思います。アルミホイールでも十分ですが、カーボンディープホイールを履かせると最高でしょう。快適性も確保されたラグジュアリーバイクでもあるので、ロングライドなどでもキビキビとした高い運動性能を感じながら走りたいという方には向いていると思います。

バランスのとれたオールラウンドバイクで、どんなレベルのライダーでも扱いやすい万人向けバイクとして完成度の高いバイクです。レーシング性能だけではなく、快適性やコストパフォーマンスといった面まで考慮にいれるとすれば、トップモデルよりもセカンドモデルのプリンスがぴったりの方も多いでしょうね。


「あらゆる面でスキが無いオールラウンドバイク」 山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)

あらゆる面でスキが無いオールラウンドバイクあらゆる面でスキが無いオールラウンドバイク 細かい振動を吸収してくれつつも、きちんとパワーをかけて踏んでも芯があって踏力を無駄にしないフレームです。前後、左右の剛性バランスが相当良く、初心者から上級者までも満足させてくれる。今までバランスが良いと評価してきたフレームというのは、選手向けに考えるとどうか、という観点であったのですが、このプリンスはあらゆるレベルのライダーを受け入れてくれる懐の深さがあります。

弱点があるとすれば、重量が最近のモデルとしては重めといったところでしょうか。軽量山岳フレームの様なひらひらとしたわかりやすい軽さは感じられないでしょう。しかし、軽量フレームに比べると踏み出しのわかりやすい軽さは無いけれども、登りで軽いギアでも多いギアでもまわした分進んでくれる芯の強さがあります。

初心者でも乗れるというところは圧倒的に良いですね。少しグレードを下げたカーボン繊維とベンドしたONDAフォークなどのさまざまな工夫によって地面からの突き上げが少なく、非常に快適性が高いです。軽さ、目に見えない上質な走行フィールを追求していると感じます。ハンドリングも落ち着いた感覚でゆったりと安心してコーナーに入ることができるので、非常に優しい特性でしょう。

2台目としてはもちろんのこと、初めてのバイクでも良いバイクが欲しくて、快適性も犠牲にしたくないなら間違いなくコレをオススメ出来ます。11速であればコンポーネントはそこまで走行性能に関わらないですし、いろいろなホイールのポテンシャルを引きだしてくれるので、どんなホイールともマッチングは良いでしょう。

レースであれば、ステージレースをこなしていった後に最後に勝負出来そうな乗り味ですね。身体へのダメージも抑えてくれるので、ブルベなどでも気持ちよく使えると思います。でもスプリントでも使えるだろうし、ほんとにオールラウンドなバイク。重量以外はあらゆる面でスキが無いバイクです。

ピナレロ PRINCEピナレロ PRINCE (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ピナレロ PRINCE
カラー:919/ブラックオレンジフルオ、921/ホワイト、920/ブラックイエローフルオ
サイズ:44SL, 46.5SL, 50, 51.5, 53, 54, 55, 56, 57.5, 59.5, 62 (C-C)
マテリアル:Carbon 60HM3K Nanoalloy? ToraycaR
ボトムブラケット:ITA
対応コンポ:THNIK2・電動 / メカニカル
価格(税抜):
365,000円(フレームセット)
465,000円(アルテグラ仕様完成車)
575,000円(コーラス仕様完成車)



インプレライダーのプロフィール

藤野智一(なるしまフレンド)藤野智一(なるしまフレンド) 藤野智一(なるしまフレンド)

92年のバルセロナオリンピックロードレースでの21位を皮切りに、94・97年にツール・ド・おきなわ優勝、98、99年は2年連続で全日本ロードチャンピオンとなるなど輝かしい戦歴を持つ。02年に引退してからはチームブリヂストン・アンカーで若手育成に取り組み、11年までは同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。

なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップ

山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO) 山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)

1978年神奈川県藤沢市生まれ。中学生2年生の頃藤沢市の自転車店ワタナベレーシングに入会し本格的に自転車競技を始める。高校卒業後は4年間のヨーロッパ選手生活を経て2000年からは国内トップチームで活躍した。U23全日本選手権2連覇をはじめ、優勝経歴多数。選手時代から地元でキッズ向け自転車スクールを開催するなど活動を行い、2013年6月に出身ショップを引き継ぐかたちで「BICYCLE FACTORY YAMAMOTO」をオープンさせた。

BICYCLE FACTORY YAMAMOTO


ウェア協力:sportful(日直商会)

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANO