ドイツの南部で4つのステージでおこなわれるUCIジュニアネイションズカップTrofeo Karlsbergが6月20日から22日の3日間、4つのステージで行なわれた。前半2つのステージの様子を、今年で6度目の参加となる日本チームの様子をレースに帯同したJCFロード部会の柿木孝之氏によるレポートでお届けする。



UCIジュニアネイションズカップTrofeo Karlsbergに参加した遠征メンバー。UCIジュニアネイションズカップTrofeo Karlsbergに参加した遠征メンバー。
今年は各国のナショナル選手権との日程が近いということもあり、ネイションズカップ上位国のデンマーク、イタリア、フランス、イギリスといった国は参加を見合わせたが、それでも強豪国は多い。例年より集団でのコントロールが効きにくくいつもよりもアタック合戦の激しいレースになることが予想された。

本場ならではの雰囲気の中スタートが切られる。本場ならではの雰囲気の中スタートが切られる。 ジュニア遠征は初めてとなる中村仁メカニック(Hi-Bike)。ジュニア遠征は初めてとなる中村仁メカニック(Hi-Bike)。


日本チームはクロアチアでのネイションズカップ、アジア選手権を走った松本祐典(明治大)、草場啓吾、孫崎大樹(ともに北桑田高)、石上優大(横浜高)の4名と、5月の選考合宿において登りで力をみせた橋詰丈、中村圭佑(ともに昭和第一学園高)の2名を加えた6名で戦う。

チームとしての目標は、ステージ6位までと個人総合20位までが獲得できるネイションズポイントを獲ることとした。コース全体をみて一番個人総合成績で可能性のある石上をクロアチアに続きエースとしたが、個人総合成績で20位以内というのはタイムトライアルがあることを考えるといずれかのステージで逃げてタイムを稼がないと難しい。

展開次第ではどのステージも集団スプリントになる可能性もあり、石上のほかにも第1ステージの急勾配の登りスプリントでは橋詰、松本、また第2、第3ステージでは孫崎のスプリントで区間優勝も狙える。



Stage1 98.5km

2回目の急勾配の登りをいく先頭の2名。草場はこの先頭に入っていたが遅れた2回目の急勾配の登りをいく先頭の2名。草場はこの先頭に入っていたが遅れた 追走の8名。ここに石上が入ったが、このあと遅れる追走の8名。ここに石上が入ったが、このあと遅れる メイン集団の前方に松本、中村は位置するメイン集団の前方に松本、中村は位置する メイン集団の先頭がゴール。集団先頭で強豪選手らと競って登ってくる松本メイン集団の先頭がゴール。集団先頭で強豪選手らと競って登ってくる松本 石上は松本のグループから6秒遅れでゴール石上は松本のグループから6秒遅れでゴール この日は17.5kmのニュートラル区間後に31kmの周回を3周するコースで、アップダウンと平坦が続き、ゴールは1kmの急勾配の登りとなっている。逃げの展開と最後の登りでのスプリント勝負のどちらも考えられるが、例年より集団のコントロールできる国が多くはなく、逃げが決まりやすいと予想される。

草場、孫崎、松本、中村は特に逃げに積極的に乗るようにということと、登りで勝負できる石上、橋詰には危険な攻撃は逃さないこと、登りスプリントの際には他の4選手が石上、橋詰を助ける形で区間6位以内が獲得できるネイションズポイントをチームで狙うことを確認する。集団でのゴールの際でもタイム差がつくコースなので、ゴールでは最後まで力を抜けない。

レースがスタートして急勾配の登り区間後の平坦区間で草場がアタックし、それに追撃で入ったスウェーデンと2名の逃げになり、そこにオーストリアとアイルランドが合流して4名の先頭集団がメイン集団に1分ほどの差をつける。登り区間でスウェーデンとアイルランドがペースを上げたため草場とオーストリアは遅れてしまう。

2名の逃げが続く中で今度は石上が集団から抜け出し、オーストリアの選手と先頭の2名を追撃する。メイン集団は動きが止まり、タイム差は大きく拡がるが、そこから追走のドイツ、ロシア、アメリカ、ドイツ、オーストリア、スロヴェニア2名が石上に追いつきすぐに急勾配の登り区間に入る。

ここで石上に追いついてきた選手らが一気にペースを上げたため、石上は厳しくなり遅れてしまう。結局最初に逃げを形成した2名と、この追撃集団がラスト周回に入る前に追走をかけた数名とが少しメンバーを入れ替えはしたが、ゴールまで逃げ切ってしまった。
   
ラスト周回に集団からアメリカの選手と抜け出した中村はタイム差をつけるのに成功したが、アメリカの選手が下り高速コーナーを失敗したあおりを受けて落車して遅れてしまう。ゴールはタイム差がつく登り坂であるため、メイン集団では草場が急勾配の登りを得意とする橋詰を登り口までに集団前方に上げる動きをするが橋詰ははぐれてしまう。結局橋詰は自分の脚を使って一番前まで上がる形となり、その後の急勾配で失速してしまう。

松本は登り口から集団先頭に立ちペースを上げ続け集団を小さくしてメイン集団の4番手でゴールする。前半の逃げで脚を使い先頭集団から遅れた石上も集団前方でゴールして、個人総合成績でまだ上位を狙える位置に踏みとどまることが出来たのは大きかった。

この日の日本チームはレース前半から積極的に動き、危険な逃げには必ず入ってチームとしては逃げが出来る場面までは良い動きであったが、登りでは力差で遅れてしまった。草場はこの日のレースを動かす最初の攻撃をすることで、最後まで逃げ切った選手らに登坂力の差をみせつけられることになったが、世界のトップ選手との自分の現在の力差を明確に確認することが出来た。

石上は先頭の2名を追走後に、有力選手の追走グループに追いつかれた場所が急勾配の登り直前であったということも影響して遅れてしまったが、走り自体は悪くはなかった。松本は最後の急勾配の登りを先頭でペースを上げ続け、集団を大きく分断させる力をみせた。ジュニア1年目の中村も初めての海外のレースの中で、集団前方をキープして、ラスト周回に転びはしたもののメイン集団から抜け出したのは大きな自信となった。

世界トップレベルのレースで自分達から積極的に攻撃することで初めて気が付くことがある。この日は結果が伴わずレース後は落ち込む選手もいたが、この日のチームの動きは良く、次のステージに期待が持てた。     

Stage1 98.5km
1 Zverko David(スロヴァキア)2時間25分56秒
2 Jaspers Ward(ベルギー)2秒差
3 Anderberg Hampus(スウェーデン)2秒差
15 松本祐典(明治大)54秒差
29 石上優大(横浜高)1分差
49 橋詰丈(昭和第一学園高)1分9秒差
62 草場啓吾(北桑田高)1分16秒差
72 孫崎大樹(北桑田高)1分16秒差
93 中村圭佑(昭和第一学園高)2分39秒差



Stage2-1 79.5km

この日は昼からのロードレースと夕方のT.T.の2つのステージが行なわれた。昼からのロードレースは1周20.5kmの周回コースをニュートラル区間含めて4周回する79.5kmで、登り区間もあるが全体的に平坦コースとなっている。集団スプリントの可能性が高いコース設定ではあるが、ただ今回はコントロールするチームがなく乱戦状況だった第1ステージの結果を踏まえた作戦を立案した。

孫崎は集団スプリントのために備え、総合順位で遅れているが登りの得意な橋詰、中村は登りで前半からの攻撃に加わることと、総合成績のかかる石上、松本も集団内で温存するのではなく、逃げに入れる状況なら入るように動き、ラスト1周でも逃げが決まらなかった場合は孫崎のスプリントのために日本チームの力をすべて使うことを確認してスタートした。

スタート前の各賞ジャージを着た選手と集団スタート前の各賞ジャージを着た選手と集団 3周目のメイン集団。乗り遅れた総合上位のベルギー、スウェーデンが中心となって速いペースで追いかける。3周目のメイン集団。乗り遅れた総合上位のベルギー、スウェーデンが中心となって速いペースで追いかける。 3周目集団から大きく遅れたグループで走る橋詰3周目集団から大きく遅れたグループで走る橋詰 8名の先頭グループでのスプリント。優勝は昨日も逃げに入ったKUMAR Kristjan8名の先頭グループでのスプリント。優勝は昨日も逃げに入ったKUMAR Kristjan ゴール前にはコーナーや狭い区間が多く、集団スプリントの際でも集団の位置取りのセンスのある草場の誘導でラスト500mを集団の前で抜けることが出来れば、スプリント力のある孫崎にチャンスのあるコースである。

1周目から登りのペースが速く進む。2周目の登りで、アメリカ2名、ドイツ2名ロシア、チェコ、ポルトガル、アイルランド、スロヴェニアを含む9名の逃げが出来る。ここに日本チームは必ず入らなければならなかったが誰も入れない。

集団とは20秒ほどの差が出来てしまうが、下りの後のアップダウン区間でこの先行グループを行かせるのは危険と判断した石上が単独で集団から抜け出して、脚を使いながらも先頭集団へのブリッジを成功させる。メイン集団では2周目の下りで橋詰が集団から遅れ、また中村、草場も3周目の登りで遅れてしまう。

その後、先頭集団ではアイルランドの選手が登りで強さをみせるが、メイン集団との差を30秒から40秒キープして逃げ続ける。ラスト1周の登りで先頭から3名が遅れ8名となるが、石上は先頭集団に残る。最後は8名でのスプリント勝負となり石上は6位でゴールした。

これにより日本チームはUCIのネイションズポイントをまずは1ポイント獲得した。このステージは集団スプリントになることが多いコースであるが、この日は個人総合をかけた激しいレースとなり、レースリーダーを含むメイン集団もペースを落とさずこのグループを追い続けたので予想以上に厳しいステージとなった。

レース後に石上は「今まで走ったどんなレースよりも数段きついレースで完全に脚を使い切りました。午後のタイムトライアルを走る脚は全くありません」と語っていたが、石上は国内のレースでも強化合宿でも他の選手に頼らず、自分でレースを厳しくする走りを変えない。

マークが厳しい国内のレースではよほど厳しいコース以外では確実に結果を残すことは出来ないが、このようなレースでの走り、練習での積み重ねが彼自身の運動能力を向上させ、ヨーロッパの厳しいレースでは結果に結びつく走りとなった。

第1ステージでは、決定的な勝ち逃げグループから遅れてしまいショックを受けていたが、この日はそれに臆することなく自力で先頭グループに追いつき、非常に速いペースで進んだ登りでは先頭集団から遅れていく選手がいる中で最後まで粘り抜いて先頭グループに残った。


Stage2-1 79.5km
1 KUMAR Kristian(スロヴェニア)1時間50分14秒
2 BARTA William(アメリカ)同タイム
3 KURIANOV Stepan(ロシア)同タイム
6石上優大(横浜高)同タイム
19松本祐典(明治大)26秒差
36孫崎大樹(北桑田高)同タイム
61草場啓吾(北桑田高)5分44秒差
64中村圭佑(昭和第一学園高)同タイム
88橋詰丈(昭和第一学園高)12分57秒差

2-1ステージ後の個人総合順位
1 KUMAR Kristjan (スロヴェニア) 4時間13分06
2 DUNBAR Edward(アイルランド)6秒差
3 ZVERKO David(スロヴァキア)20秒差
15石上優大(横浜高)1分04秒差
20松本祐典(明治大)1分24秒差
52孫崎大樹(北桑田高)1分46秒差
63草場啓吾(北桑田高)7分04秒差
70中村圭佑(昭和第一学園高)8分27秒差
75橋詰丈(昭和第一学園高)14分10秒差

text:JCFロード部会 柿木孝之


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