「多くのサイクリストがより遠くへ、より楽しく快適に走れる自転車」をコンセプトに、ロングライドに特化したディスクブレーキロードバイクを開発するVolagi(ヴォラージ)。その処女作としてリリースされ、優れた快適性と走行性能を兼ね備えるフルカーボンモデル「LISCIO(リシオ)」をインプレッションする。



ヴォラージ リシオヴォラージ リシオ (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
ヴォラージは共に米国スペシャライズドの元社員であるロバート・サイ氏とバーレイ・フォルスマン氏が立ち上げたロングライド向けディスクブレーキロード専業ブランド。両氏共に35年の長きに渡って自転車業界に携わり、後に革新的と呼ばれるプロダクトの数々を生み出してきた。その中には自転車用LEDライトも含まれ、これを1980年台に開発していたサイ氏が如何に先見の明を持っているかを伺い知ることができる。

そんな彼らはレースでは無くロングライドメインに楽しむ熱心なサイクリストでもあり、常々「エンデュランス系と謳うバイクの殆どはレースバイクの改良品である」という考えを持っていた。そして、「一からサイクリストが求める高い快適性を備えながらも走行性能に優れるバイクを創りたい」という熱意がヴォラージを創業するキッカケとなった。そして誕生した処女作が今回インプレッションを行うリシオだ。

キャリアバッグ用のダボ穴が設けられているキャリアバッグ用のダボ穴が設けられている 下側1-3/8インチとしたテーパードヘッドチューブ下側1-3/8インチとしたテーパードヘッドチューブ ディスクブレーキの制動力に対応する剛性を備えるフロントフォークディスクブレーキの制動力に対応する剛性を備えるフロントフォーク


最大のトピックスは特許を取得した衝撃吸収機構の「Longbow Flex(ロングボウフレックス)」にある。これはトップチューブとシートステーを一体化し、シートチューブとシートステーを分離することで縦方向の変形を積極的に促し、身体に伝わる衝撃を和らげるというもの。素材特性と併せて、一般的なダイアモンド型フレームよりも格段にコンフォート性能を高めることに成功。実際に、アメリカの自転車雑誌が行った実験によればヴォラージは競合する3社の代表的なエンデュランスバイクに対して24%~32%も衝撃吸収性が優れているとしている。

そのLongbow Flexを強度面で支えるのがカーボン素材とフレームデザインである。構造体を大きく変形させるには十分な強度の確保が必須条件であり、リシオでは綿密かつ膨大な回数のコンピューターシミュレーションによって、30Tと24Tの2種類のハイモジュラスカーボンを組み合わせ方や積層を工夫することで、この問題を解決した。

悪天候にも対応できるようにワイヤー類は内蔵された悪天候にも対応できるようにワイヤー類は内蔵された シートステーはシートチューブから分離されているシートステーはシートチューブから分離されている

ボトムブラケットシェルはBB30ボトムブラケットシェルはBB30 ポストマウント方式のディスクブレーキポストマウント方式のディスクブレーキ


そして、ロード用ディスクブレーキの対応することもトピックスだ。急に降りだした雨や突然現れる未舗装路にも影響されず、常に少ない力で強力な制動力が得られる点は、ブレーキ操作も疲労の要因の1つとなるハードなロングライドでは大きな安心感へとつながる。

フレームには強力なストッピングパワーに対応するための設計が多く施されている。ヘッドチューブは下側が1-3/8インチのテーパーヘッドとされ、同時にコーナリング性能の向上にも貢献する。ブレーキ台座はポストマウント方式とされ、制動力を受け止めながらもシートステーを積極的に変形させるためにリア側はチェーンステーに設置。ケーブル類はトラブルの少ない内蔵式とされている。

曲線的な造形のシートステーとチェーンステーの集合部曲線的な造形のシートステーとチェーンステーの集合部 エアロ効果を追求した翼断面形状のダウンチューブエアロ効果を追求した翼断面形状のダウンチューブ


また、エンデュランスバイクながらダウンチューブやシートチューブ、フロントフォークを翼断面形状としている。これは自転車を走らせる上で最も大きな抵抗である空気抵抗を減らすことで体力の消耗を抑え、「より遠くへ、より楽しく快適に走れる自転車」というコンセプトより一層推し進めるものだ。

ユニークな設計が目立つ一方、ジオメトリーはエンデュランスバイクとしては一般的な数値に収まっており、アップライトなポジションを実現可能とするため、ヘッドチューブが長く取られている。サイズは4種類がラインナップ。コンポーネントは電動式と機械式のどちらにも対応し、油圧式ブレーキも装着可能だ。リアエンド幅は135mmで、タイヤの太さは最大32cをアッセンブルすることができる。

エアロ効果を狙うシートポストエアロ効果を狙うシートポスト シートステーからトップチューブまで弓なりを描くシートステーからトップチューブまで弓なりを描く タイヤの太さは最大で32cまで対応するタイヤの太さは最大で32cまで対応する


登場から日が浅いながらも、1200kmを走破する最古の自転車イベントであるパリ~ブレスト~パリの完走をアシストしたという実績を持つリシオ。今回のインプレッションライダーであり、共にレース派である鈴木雅彦氏と二戸康寛氏はこのユニークなエンデュランスバイクをどう評するのか。早速インプレッションに移ろう。



ーインプレッション

「フレームの柔らかさがペダリングを軽やかにしているバイク」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

長時間のライドで魅力を感じるような自転車ですね。バイクのコンセプト通りに自転車全体がしなってくれるため、荒れた路面でも振動を気にせず走行できます。むしろ、荒れたところを走ることが楽しくなり「踏んでみようかな」という気持ちにさせてくれました。ただ、エンデュランス系バイクにありがちな、たわみが大きく頼りないというという印象はありませんでした。

この自転車はフレーム全体が大きくしなります。重いギアを踏んだ時のしなりは推進力に変換されており、パワーロス無く軽やかに加速して行きました。柔らかいフレームは軽いギアで踏んだ時は加速感が鈍いという印象を持っていましたが、このバイクは軽いギアでもしなりを活かした加速を見せてくれました。

「フレームの柔らかさがペダリングを軽やかにしているバイク」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)「フレームの柔らかさがペダリングを軽やかにしているバイク」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)
登りでも加速感に軽さがあり、普段よりも重目のギアを踏むことができます。このバイクは登りのプロフィールに得意不得意はなく、道を選ばないです。急勾配の上り坂においても軽いギアでペダルを回して進むことができますし、緩い勾配の坂道では重めのギアを一定ペースで踏むことでテンポよく登ることができるでしょう。

巡航中もペダルを気持ちよく踏めました。特に中速域ではハンドリング、ペダリングなどの扱いやすさは素晴らしかったです。高い出力のダッシュをした時もしなやかさを活かして加速してくれます。レースシーンでも十分に使えると思います。

軽量~一般的な体重のライダーであれば実業団のE3・E2カテゴリで使用しても、十分に活用できるでしょう。ペダリングの軽さが体力の温存につながり、重要な場面で勝負に絡むことができると思います。そのため、距離が短いクリテリウムよりも距離が長いロードレースに向いていますね。

下りではマイペースで下ることが向いています。スピードを出しすぎて恐怖心が先行してハンドルにしがみついてしまうと、フロント周りのグリップ力が落ちるという印象があります。また、下りやコーナリングの途中で路面のギャップを拾い、振動が入力されてしまうと挙動が乱れやすいです。しっかりと路面の状況を把握したほうが良いと感じました。

ディスクブレーキは制動力が強いというイメージを持っていましたが、そのイメージよりも効きが甘いと感じました。初動の効きは緩く、低速域に入ったところからしっかりとブレーキが効き始めます。このブレーキのフィーリングは慣れてしまえば問題のない範囲でしょう。

フレームのコストパフォーマンスは非常にいいです。同じような価格帯でプロ選手が使うようなフレームがラインナップされていることを考えれば、お手頃感がでています。ロングライドには非常に魅力的なフレームでしょう。


「振動吸収と走行感が気持ちいいエンデュランスバイク」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)

コンセプト通りフレームが柔らかくしなやかな乗り心地のバイクというのが第一印象です。ウィップ感が強く、ペダリングパワーがしなりによって推進力に変わるので、気持よく前へ進んでくれます。さらに、ある程度の速度域に達した時の巡航性が高く、気持ちよくバイクに乗ることができました。

このバイクの大きなトピックスであるトップチューブとシートステーの集合部の造形は、非常に効果を発揮していると思います。振動吸収のために縦方向への動きがあるのですが、それ以上に横方向へのウィップ感を感じました。このしなりはヘッド周りやBB付近の要所要所の高い剛性と相まって、マイルドながら気持ちが良い加速感につながっていると思います。

「振動吸収と走行感が気持ちいいエンデュランスバイク」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)「振動吸収と走行感が気持ちいいエンデュランスバイク」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos) 振動吸収などのエンデュランス性能に特化するばかりではなく、高い走行性能を兼ね備えることで、ロングライドにおいて疲労感が少ないエンデュランスバイクとなっていると思います。平地ではエアロ形状と整えられた剛性バランスによって直進性の良さを感じられました。30km/hほどの風を感じるような速度域において、一定のスピードで巡航をしている際は、気持ちよくペダリングをすることができました。

登りでの走行性能に関しては、フレームの柔らかさが効いていているためシッティングでギアを回す登り方が適していると思います。スピードを上げようとダンシング多用するとレスポンスの鈍さが気になってしまいます。ロングライドではアップダウンが続くような場面でも、ストレス無く淡々とペースを維持できると思います。

ハンドリング性能に関してはバイクが素直に追従してくれます。下りのコーナリングにおいても減速を確実に行うことで、バイクが安定してスムーズに曲がることができました。一方で、バイク全体が柔らかくマイルドな味付けとなっているので、若干直進安定性が強いという印象があります。

一方で、エアロフォルムやフレームの柔らかさに由来するデメリットがあり、力を入れてペダリングをした時にダウンチューブなどがたわんでしまうことがありました。特に、フロント周りに柔らかさがあり、ハンドルを左右に振った場合にタイヤが浮いてします。スプリンター系のライダーには物足りなさを感じる点かもしれませんね。

シートステーが縦方向の衝撃を緩和しているので荒れた路面での振動吸収性は抜群に良かったです。さらに、路面からの衝撃のみならず、ペダルを踏み込んだ時の反力やストレスもいなしてくれました。これは、シートステーがトップチューブまで延長されていて、横方向への動きを促していることに理由があります。

アッセンブルされているディスクブレーキは非常に扱いやすく、初心者におススメできると思います。想像していたよりも効き始めの制動力はゆるく、レバーの握りこみ次第で制動力が増していきました。ディスクブレーキの採用に合わせてフロントフォークの縦剛性は高く設定されていて、フォークが制動力をしっかりと受け止めます。雨天でも制動力は左右されることはないので、安心してブレーキングができますね。

キャリア用のダボ穴が設けられ、タイヤは32cにまで対応していることから、レースではなくグランフォンド、ブルベをこなすという目的がはっきりしているライダーにはおススメできます。フレームのコストパフォーマンスは、ロードバイクエントリーから脱したあたりの方やサンデーライダーにとって非常に良いと思います。ロングライドを目指しているサイクリストに乗ってもらいたい1台です。

ヴォラージ リシオヴォラージ リシオ (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
ヴォラージ リシオ
カラー:ホワイト、ブラック
付属品:エアロカーボンシートポスト
サイズ:47、50、53、55
素材:HM 30/24T Carbon Monocoque
フォーク:Aero full carbon fork
価格:250,000円(税抜)



インプレライダーのプロフィール

鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)鈴木雅彦(サイクルショップDADDY) 鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

岐阜県瑞浪市にあるロードバイク専門プロショップ「サイクルショップDADDY」店主。20年間に及ぶ競輪選手としての経験、機材やフィッティングに対するこだわりから特に実走派ライダーからの定評が高い。現在でも積極的にレースに参加しツール・ド・おきなわ市民50kmで2007、09、10年と3度の優勝を誇る。一方で、グランフォンド東濃の実行委員長を努めるなどサイクルスポーツの普及活動にも力を入れている。

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二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos) 二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
高校時代から自転車競技を始め、卒業後は日本鋪道レーシングチーム(現 TEAM NIPPO)に5年間所属しツール・ド・北海道などで活躍。引退後は13年間なるしまフレンドに勤務し、現在は東京都立川市を拠点とする地域密着型ロードレースチーム「東京ヴェントス」を監督として率いる。同時に立川市に「Punto Ventos」をオープンし、最新の解析機材や動画を用いて、初心者からシリアスレーサーまで幅広い層を対象としたスキルアップのためのカウンセリングを行っている。

東京ヴェントス
Punto Ventos


ウェア協力:アソス

text:Gakuto.Fujiwara
photo:Makoto.AYANO
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