故マルコ・パンターニにはポジティブな面とネガティブな面がある。熱烈なファンも入れば、ドーピングのイメージの強さから否定的なファンもいる。チッポ・ディ・カルペーニャに集まった観客の多くは肯定的。かつてイル・ピラータが一人でこもってトレーニングを積んだ静かな山をジロは走る。



IL CARPEGNA MI BASTA!!IL CARPEGNA MI BASTA!! photo:Kei Tsuji
トロフェオ・センツァフィーネトロフェオ・センツァフィーネ photo:Kei Tsuji華やかなフォリーニョのスタート地点華やかなフォリーニョのスタート地点 photo:Kei Tsuji



22のコーナー毎に看板が立てられた1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャ22のコーナー毎に看板が立てられた1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャ photo:Kei Tsuji最初の1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャは、パンターニに「Il Carpegna mi basta(カルペーニャがあれば十分だ)」と言わしめた、かつての練習コース。カルペーニャがあれば十分、つまり高地トレーニングや温暖な南の島でのトレーニングキャンプを行なう必要はなく、カルペーニャで練習を積んでいさえいれば大丈夫という意味だ。

1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャを先頭で登るジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング)1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャを先頭で登るジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsujiカルペーニャがジロに初登場したのは1969年のことで、最近では2008年に通過している。その時に頂上を先頭で通過してステージ優勝したアレッサンドロ・ベルトリーニ(イタリア)は大会関係者として今年のジロに随行しており、BMWのオフィシャルカーのハンドルを握っている。

ステージ優勝は叶わなかったが、マリアアッズーラを手中に収めたジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング)ステージ優勝は叶わなかったが、マリアアッズーラを手中に収めたジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji初日のチームTTで優勝し、マリアローザを失わず、さらにマシューズがステージ優勝するという、完璧な一週間を経験したオリカ・グリーンエッジ。毎朝チームマネージャーのシェイン・バナン氏はホクホク顔でスタートにやってくる。

しかしその輝かしい一週間の代償としてアシストは疲労困憊。すでにブレット・ランカスター(オーストラリア)がリタイアしており、アシストとしてここまで長時間にわたって集団を引き続けたキャメロン・マイヤー(オーストラリア)も体調不良でスタートしなかった。

そのマイヤーが2008年に総合優勝したTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)が始まりましたね。TOJと言えば、マリアローザのマシューズは2010年大会の初日TTでステージ優勝している(タイムは3分14秒31)。

そして、2012年から2年連続TOJで総合優勝したフォルトゥナート・バリアーニ(イタリア)をアシストしながら、自身も総合2位に入ったジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング)が第8ステージで逃げた。

27歳のバースデーエスケープを試みたエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)を含む逃げグループの中で、アレドンドの登坂力は抜きん出ていた。おそらく集団に残っていてもステージ優勝を狙えていたであろうアレドンドが逃げグループから飛び出すことは、別府史之も「予想していた」。

モンテコピオーロの落車でタイムを失ったため、アレドンドは総合を狙うには厳しい状態。前評判の高さと比べるとパッとしないコロンビア勢の中で、グランツール初出場のアレドンドが輝きを見せた。レース後に「もはや死人のよう」というコメントを残しているが、本人は案外ケロッとしていた。



1級山岳モンテコピオーロに向かうメイン集団1級山岳モンテコピオーロに向かうメイン集団 photo:Kei Tsuji
1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャ1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャ photo:Kei Tsuji1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャで遅れたミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アスタナ)1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャで遅れたミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji



1級山岳モンテコピオーロの頂上を目指すメイン集団1級山岳モンテコピオーロの頂上を目指すメイン集団 photo:Kei Tsujiモンテクルピオーロのフィニッシュはジロ初登場。10%を超える勾配が登場したと思えばすぐに勾配が緩み、平坦になり、勾配が増し、下りに転じる。登坂中ずっと10秒毎に変速しないといけないような登りで、なんともリズムが掴みにくい。

フィニッシュ地点からはサンマリノ共和国が見えるフィニッシュ地点からはサンマリノ共和国が見える photo:Kei Tsujiプーリア州から数珠つなぎに北上を続けたジロはマルケ州に入った。モンテコピオーロは、いつもティレーノ〜アドリアティコに登場するマルケの丘陵地帯をさらに内陸に入った辺り。眺望は良好で、遠くにはアドリア海が見える。世界で5番目に小さな国であるサンマリノ共和国も遠くに見える。

1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャに駆けつけた小さなパンターニファン1級山岳チッポ・ディ・カルペーニャに駆けつけた小さなパンターニファン photo:Kei Tsuji(注:ここから話が脱線しますのでTOJの結果が気になる忙しい方は飛ばして読んで下さい)ちなみにサンマリノ共和国は、標高749mの岩山を中心に広がる世界最古の独立共和国。今でこそサンマリノだけが独立共和国として存在しているが、かつてはイタリア中にそんな丘の上の都市国家があった。

残り250mで捉えられ、失意のピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)残り250mで捉えられ、失意のピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー) photo:Kei Tsujiそれがイタリア王国として統一されたのは1861年の話(1946年に共和制に移行)。つまり今から153年前まで、それぞれの丘の上の街が一つの国家として機能していた。だから今でも街の中での結びつきや地元愛が極めて強い。イタリア語で「国」は「パエーゼ(PAESE)」とだが、街のことを「パエーゼ」と呼ぶ場合も多い。

34分遅れでフィニッシュするマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)34分遅れでフィニッシュするマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji「出身はどちらですか?」と聞くと「トスカーナです」とか「マルケです」といった州の名前は返って来ない。日本だと都道府県名で答えてしまうところだけど、イタリアでは決まって自分の愛する街をピンポイントで示してくる。

そんな地元愛の強さがサッカー人気に拍車をかけていると感じる。中世の時代のライバル国との闘いを、自分の街を代表するサッカー選手に託しているような(以上、脱線終了です)。

この日の獲得標高差は3350m。アルプスやドロミテではないと侮るなかれ、その難易度は高い。

ステージ3位に入ったウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ベルキン)は毎日STRAVAにログをアップしているのでご覧になってください→第8ステージのページ。最後の1級山岳モンテコピオーロを平均387Wで16分12秒間踏んでいる。

別府史之(トレックファクトリーレーシング)は「最初の1級山岳の勾配のあるところまで、しっかりとロバート(キセロフスキー)のために集団の前で位置取り。でも勾配がきつくてギアが足りなかった(笑)走れている感じはあるし、ロバート2位に入ったし、アレドンドが(山岳賞)ジャージを取ったし、満足しています」と笑顔を浮かべる。ここにきてトレックが存在感を増してきた。

チームメイトと一緒ににこやかにフィニッシュした新城幸也(ユーロップカー)は、尾てい骨の痛みからしっかりサドルに座れていないことを認めながらも、「まぁそれなりに登れました。痛みがあるので今は我慢です。しょうがないです。でも徐々に痛みがひいてきているので、このまま山岳を乗り切りたいと思います」と言って麓のチームバスまで下山。レース続行可能な状態に、こちらも胸を撫で下ろしている。



今大会最初の本格山岳ステージを終えた別府史之(トレックファクトリーレーシング)今大会最初の本格山岳ステージを終えた別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsujiフィニッシュ後、テントに腰を下ろす新城幸也(ユーロップカー)フィニッシュ後、テントに腰を下ろす新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji




text&photo:Kei Tsuji in Montecopiolo, Italy