ロード全日本チャンピオンを決める大会が6月22、23日に大分県で行われる。今年は標高差合計5000m以上の厳しい山岳コース。このために帰国参戦する選手たち、そして迎え撃つ国内勢。栄冠は誰の頭上に。

標高差5640mの山岳コース

のつはる少年自然の家前がスタート/フィニッシュ地点のつはる少年自然の家前がスタート/フィニッシュ地点 photo:Hideaki TAKAGI今年の全日本ロードは山岳コース、それも飛び切り厳しいもの。1周15.0kmで上り標高差は470m。上りと下りしかなく、上りは8~10%の勾配が延々と続く。そして下りは車の離合も難しいほどの狭い林間のワインディング。唯一平坦に近いのはスタート/フィニッシュライン付近の数百mだけ。

ここを12周する男子エリートは累積標高差5640mという、ジロの山岳顔負けのコース。当然ながら秀でた登坂力を持つことが優勝の条件だが、下りのスキルや展開など、登坂力だけでも勝てないのが全日本だ。
そして今年も新城幸也(ユーロップカー)がこのレースのためだけに帰国する。ナショナルチャンピオンジャージを着てツール・ド・フランス出場を目指す。

レース概要

大会名:第82回全日本自転車競技選手権大会ロード・レース
兼2013年ロード世界選手権自転車競技大会代表候補選手選考参考大会
会場:大分県県民の森 平成森林公園周辺特設ロード・レースコース(15.0km/周)

日程
6月22日(土)
8:00 MU17+MU15 スタート 60.0km (15.0km×4周)
8:05 WJ+WU17 スタート 45.0km (15.0km×3周)
11:00 MU23 スタート135.0km (15.0km×9周)
11:05 MJ スタート 90.0km (15.0km×6周)

6月23日(日)
8:00 ME スタート180.0km (15.0km×12周)
8:05 WE スタート90.0km (15.0km×6周)

コース紹介

1周15.0km、累積標高差470mの山岳コースで平坦はほとんど無い。スタート/フィニッシュ地点の、少年自然の家付近がコース内最高標高の約690m。ここから北方向へ平成パークラインを走る。ここは尾根沿いの小さなアップダウン区間。短くもきつい上りが存在。4kmほど進み大峠から一気に400m近いダウンヒル。

下りは基本1.5車線で狭くワインディング。師田原ダムから今度はゴールへ向けて一気に400mほどを上る。一ヶ所距離500mほど直線状にいったん下り、ラスト2.5kmは上ってゴール地点へ。1周の標高差は470m、12周するエリートの標高差合計は5640m。予想ラップタイムは男子エリートで30~32分、同女子で40分ほど。つまり男子エリートでさえ平均時速30キロに満たない可能性がある。

一言で表すならば厳しい山岳コース。高い登坂能力のあることが優勝するための必要条件。しかし平成パークラインでのアップダウンの攻防、テクニカルな下り区間、そしてラスト3kmにある少しの下り、これらのために登坂能力だけでも勝てないコースだ。クライマーは単独または少人数での大逃げで、上れるスピードマンはラスト2.5kmまで残れば、それぞれに勝機がある。下り区間だけでスペシャリストならば1分をつめるのはたやすいことだろう。

展開は厳しいコースゆえ、もはや逃げ集団と追走・メイン集団という図式は成立しない。先頭集団が次第に数を減らして終盤は独走のパターンがもっとも考えられる。しかし厳しすぎるコースの場合、皆が牽制して終盤勝負になることもある。この展開ならばクライマーでなくとも、上れるスピードマンならば勝負できる。男子エリート以外の各クラスは、序盤から数を減らして独走ゴールの可能性が高い。

各クラスの注目選手たち

男子エリート

国内レースで確実に結果を出している土井雪広(チーム右京)、伊丹健治(ブリヂストンアンカー)も好調国内レースで確実に結果を出している土井雪広(チーム右京)、伊丹健治(ブリヂストンアンカー)も好調 photo:Hideaki TAKAGI土井雪広(チーム右京)
現・全日本チャンピオンの土井は上りを得意とし、そのレース経験もあいまって本大会の優勝候補最右翼。ツール・ド・熊野では日本人最高位の総合5位、栂池ヒルクライムも日本人最高位の3位。チームも狩野智也、山下貴宏、阿部嵩之らと土井を支えるに十分な体制。

新城幸也(ユーロップカー)

昨年同様にこの全日本ロードだけのために一時帰国する新城。「もしツール・ド・フランスに出場できることになれば、27日にはスタートの地、コルシカ島に万全の状態で入らなければいけないということもあり、23日に大分での全日本選手権参戦は、非常に厳しいスケジュールになるというチーム監督たちの判断から、ぎりぎりまで調整を重ねましたが、本人の強い希望で参戦を決意いたしました」(飯島美和)という強行軍。
ツールドフランス出場を目指し、ピレネーで 自主合宿をしてきた新城。上ってきた峠を見おろすツールドフランス出場を目指し、ピレネーで 自主合宿をしてきた新城。上ってきた峠を見おろす photo:Miwa IIJIMA
「全日本選手権への参戦は、今後のレーススケジュールを考えると、かなりハードになることは分かっているので、正直迷っていました。 今年のコースは非常にきついコースとも聞いているし、直前に帰国して時差ボケや日本特有の蒸し暑さの中、自分がどれだけ走れるだろうという不安もありますが、いつも応援してくださっている日本のファンの皆さんの前で走れる数少ない機会ですし、自分の走りを楽しみにしてくれている方がいるということを感じ、参戦を決意いたしました。日本チャンピオンジャージを着て、ツール・ド・フランス100回記念大会に出場できれば最高ですね!」と新城は語っている。

手首骨折後だった昨年と違い今年は体調も万全。パンチャーのイメージがあるが登坂力に関してもトップレベル。昨年のツール・ド・フランス第16ステージ超級山岳オービスク峠で、トマ・ヴォクレール(ユーロップカー)をアシストし山岳賞獲得に貢献、自身も3位で峠を通過している。国内データは少ないが2008年TOJ富士山ステージ(当時梅丹本舗)では、狩野智也に次いで日本人2位の44分52秒で上っている(優勝はガロッファロ、43分01秒)。当時よりも力をつけているのはもちろんだ。

西薗良太(チャンピオンシステム)

TOJ南信州ステージで個人総合5位に浮上した西薗良太(チャンピオンシステム)TOJ南信州ステージで個人総合5位に浮上した西薗良太(チャンピオンシステム) photo:Hideaki TAKAGIツアー・オブ・ジャパンではチームのエースとして参戦、日本人最高位の総合6位。とくに難しいステージだった南信州でレースの展開を読み上位に食い込んだことが特筆される。続くツール・ド・熊野では期待された第2ステージ、アクシデントで落車し負傷。ディフェンディングチャンピオンで臨んだ1週間後の全日本選手権個人タイムトライアルでは1秒差で2位に。だからこそ必ずタイトルを取る強い意志で本大会に臨む。

増田成幸(キャノンデール・プロサイクリングチーム)と佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)は本来の体調ならば間違いなく優勝候補。日本のファンの前に、出来うる限りの体調を整えその姿を見せる。急成長を見せている飯野智行(宇都宮ブリッツェン)は次代を担う若手筆頭株。大学卒業後1ヶ月で臨んだ昨年は何と4位に、その後も急速に力を増している。本大会でその走りが特に注目される。

今年41歳の福島晋一(チームNIPPO・デローザ)は、TOJと熊野でその存在感を示した。集団を牽引する先頭は福島か内間康平。両大会通じてこの2人で総距離のおよそ半分を引いたはず。高いクライム能力を持つ福島を内間らが強力にバックアップする。ブリヂストンアンカーは清水都貴をエースとし伊丹健治が強力にサポートする。とくに伊丹は国内大会での上りでは先頭集団で走り高い能力を見せている。

愛三工業レーシングチームは中島康晴と平塚吉光が逃げで、そして終盤勝負ならば上れるスピードマンの西谷泰治の両方で勝負できる強みがある。とくに中島は好調そして西谷はラスト2.5kmまで先頭集団に残れたならば優勝候補だ。シマノレーシングは畑中勇介と鈴木譲をメインに戦う。終盤勝負の展開ならば可能性が高い。森本誠(Cプロジェクト)と高岡亮寛(イナーメ信濃山形)はその高い走力と経験で表彰台を狙える力を持つ。

與那嶺恵理中心の女子エリート

優勝候補筆頭は全日本選手権個人タイムトライアル優勝の與那嶺恵理(チーム・フォルツァ!)全日本選手権個人タイムトライアル優勝の與那嶺恵理(チーム・フォルツァ!) photo:Kei TSUJI。2週間前の全日本選手権個人タイムトライアルで優勝の與那嶺恵理(チーム・フォルツァ!)。上りの能力が高く独走が得意。昨年は経験の差で僅差の2位になったが今年は序盤から独走することも考えられる。対抗するのは現日本チャンピオンの萩原麻由子(Wiggle Honda)、金子広美(イナーメ信濃山形)そして崎本智子(ナカガワAS.K'デザイン)。

萩原の強みは集中力。とくにTTのタイトルを逃しロードに専念する姿勢は、男子エリートの西薗と同じ。金子は男子顔負けのヒルクライム能力が武器。上り区間は與那嶺に十分対抗できる。そしてトライアスリートの崎本は独走が得意。大学生では学生個人TT2連覇の小島蓉子(日本体育大)と同および学生個人ロード2位の上野みなみ(鹿屋体育大)、そして福本千佳(同志社大)らが注目どころ。

激戦の男子U23

山本元喜と黒枝士揮が中心の鹿屋体育大学山本元喜と黒枝士揮が中心の鹿屋体育大学 photo:Hideaki TAKAGIエリートと同じく強豪参加で実力伯仲なのが男子U23。鹿屋体育大は山本元喜、黒枝士揮を中心に石橋学、徳田鍛造・優らがサポート。U23一年生だが西村大輝(シマノレーシング)と小橋勇利(ボンシャンス)そして城田大和(宇都宮ブリッツェン)は優勝候補に名を連ねる。ただし大学生は有力勢の半数が1週間前の個人ロードで落車しており、そこからの復調もポイント。

1週間前の学生個人ロードを制した辻本尚希(順天堂大)、同2位の前園浩平(立命館大)、昨年のインカレロード2位の榊原健一(中京大)、独走力の高い田典幸(Espoir Asia)、ベルギーで経験を積む小石祐馬(チームユーラシア-IRCタイヤ)も候補。そして1週間前の富士山ヒルクライムで日本人1位の池部壮太(マトリックスパワータグ)は地元大分県出身、注目だ。

男子ジュニア、男子U17・15、女子ジュニア・U17

海外遠征で力をつけている男子ジュニア。高いレベルであり、そしてお互いの力もわかっているだけに接戦が予想される。横山航太(篠ノ井高)、全日本個人TTチャンピオン岡篤志(Cプロジェクト)、橋詰丈(昭和第一学園高)、岡本隼(和歌山北高)、松本祐典(北桑田高)、雨澤毅明(那須ブラーゼン)らが候補だ。

男子U17・15では石上優大(横浜高)、日野竜嘉(松山聖陵高)、日野泰静(ボンシャンス)、徳田匠(北桑田高)、大町健斗(チームサイクルプラス)、黒澤虎南(VC Fukuoka)らが有力。女子ジュニア・U17では坂口聖香・楓華(パナソニックレディース)、元砂七夕美(榛生昇陽高)、伊藤杏菜(Ready Go JAPAN)らが有力。

text:高木秀彰