「ヨーロッパとアジアを結ぶレース」という大会のテーマを象徴するように、ボスポラス海峡をまたぐボスポラス大橋を渡る最終ステージ。マルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)が3勝目で8日間の闘いを締めくくった。



ユールイェンセンとスタート前に談笑する宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)ユールイェンセンとスタート前に談笑する宮澤崇史(サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsujiトルコ最終日を迎える佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)トルコ最終日を迎える佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji

ツアー・オブ・ターキーは、トルコ最大の都市イスタンブールでのゴールスプリントで締めくくられる。2011年大会まではイスタンブールが第1ステージをホストしてきたが、昨年大幅にコースレイアウトを変更し、2年連続で閉幕地として同国最大のロードレースを迎え入れている。

ブルー・モスク(スルタンアフメト・モスク)をあとにするプロトンブルー・モスク(スルタンアフメト・モスク)をあとにするプロトン photo:Kei Tsuji

金角湾にかかるガラタ橋を渡るプロトン金角湾にかかるガラタ橋を渡るプロトン photo:Kei Tsuji人口1350万人の歴史ある巨大都市は、マルマラ海と黒海と結ぶボスポラス海峡でヨーロッパ側とアジア側に真っ二つに分かれている。第8ステージはヨーロッパ側のイスタンブール旧市街にあるブルー・モスク(スルタンアフメト・モスク)前をスタートし、観光客でごった返した広場を抜け、市街地を抜け、海峡をまたぐ第一ボスポラス大橋を渡ってアジア側へ。「ヨーロッパとアジアを結ぶレース」というネーミングがぴったり当てはまるレイアウトであり、最後は海沿いのアジア側に作られた周回コースを8周してフィナーレを迎える。

ボスポラス海峡に架かる第一ボスポラス橋に差し掛かるボスポラス海峡に架かる第一ボスポラス橋に差し掛かる photo:Kei Tsuji一日18万台の交通量がある大橋を通行止めにしてしまうあたり、政府や警察の強いバックアップを感じずにはいられない。なお、イスタンブールは東京とマドリードとともに2020年夏季オリンピック開催地の立候補都市。今年9月7日のIOC総会で開催地が決定する。

昨年の経験から「橋(第一ボスポラス大橋)までずっとペースが上がって、集団はずっと一列棒状になる」宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)は予想したが、この日の逃げは案外すんなり決まる。

今大会最も長く逃げ、白いターキッシュビューティースプリント賞ジャージを着るミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)と、過去にサウニエルドゥバルでジャパンカップにも来日しているハビエル・メヒアス(スペイン、ノヴォノルディスク)、そしてベンジャミン・ヴェラース(ベルギー、アクセントジョブス)の3人が先行。メイン集団を引き離しながら、全長1510m・高さ64mの第一ボスポラス大橋を渡りきった。

ボスポラス海峡に架かる第一ボスポラス橋を渡るボスポラス海峡に架かる第一ボスポラス橋を渡る photo:Kei Tsuji
ボスポラス海峡に架かる第一ボスポラス橋を渡る佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)ボスポラス海峡に架かる第一ボスポラス橋を渡る佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsujiイスタンブールのアジア側を走るプロトンイスタンブールのアジア側を走るプロトン photo:Kei Tsuji

歓声を受けながら走るムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)歓声を受けながら走るムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール) photo:Kei Tsuji逃げを追うのは、英雄的扱いを受けるリーダージャージのムスタファ・サヤル(トルコ)擁するトルクセケルスポール。この地元トルコチームが連日報道されたことで、沿道には多くの観客が詰めかける。

宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)宮澤崇史(サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsuji悲しいかな、昨年総合優勝したイヴァイロ・ガブロフスキー(ブルガリア)にEPO陽性が発覚し、失格処分を受けたことを多くのトルコ人は知らない。もちろんガブロフスキーのスキャンダルによってスポンサーが離れる等、大会は被害を被っているのは確かだ。しかし、世界的な扱いとしてガブロフスキーは失格になっているが、国内では今でもガブロフスキーが総合優勝者として扱われているように感じる。イスタンブール市民の目には、トルコチームが大会連覇を飾ったように写っている。

ゴールが近づくにつれて集団が伸びるゴールが近づくにつれて集団が伸びる photo:Kei TsujiUCIプロチームやUCIプロコンチネンタルチームの選手を圧倒的な力で抑え込み、UCIコンチネンタルチームに所属する無名のトルコ人選手が総合優勝。昨年ガブロフスキーのアシストに徹していたとは言え、総合160位から総合1位のジャンプアップはあまりにも不自然だと言っていい。

当然サヤルにはドーピングを疑う質問が集中するが、改めてそれらの懐疑的な声を一蹴する。「他のチームがスプリンターを軸にした編成だったのに対し、我々は山岳にフォーカスしたメンバーだった。それがアドバンテージになったのだと思う。黒海に近い地域の出身なので、周りにはトレーニングに最適な丘や山が沢山ある。高地に住んでいることも味方になった。特にこの数ヶ月は質の高いトレーニングをこなせたので、最高の状態でレースに挑めた」。

トルコの大統領に讃えられながら、表彰台で優勝トロフィーを受け取ったサヤルは「とにかくトルコ人のスポーツマンとして考えうる限り最高の満足を得たよ」と話す。優勝トロフィーを駆けつけた母親に渡すところで、会場のボルテージは最高潮に達した。

イスタンブールのアジア側を走るプロトンイスタンブールのアジア側を走るプロトン photo:Kei Tsuji

アルゴス・シマノやロット・ベリソルが引き続きメイン集団を牽引アルゴス・シマノやロット・ベリソルが引き続きメイン集団を牽引 photo:Kei Tsujiレースに話を戻すと、先頭で最後まで粘ったイグナチエフは最終周回で吸収。アルゴス・シマノとオリカ・グリーンエッジを中心とした熾烈なリードアウトバトルの末、大会5度目のゴールスプリントに。

アルゴス・シマノが隊列を組んで集団前方へアルゴス・シマノが隊列を組んで集団前方へ photo:Kei Tsujiラスト2kmで発生した落車の影響を受けたのは、最終ステージに懸けていた宮澤。「残り2周からチームで動き前の位置をとりに上がる。チームで動けている所はきれいに上がって行くが、途中でばらけてしまったサクソチームはまとまれないままゴールへ。残り2kmで右側で起きた落車のあおりを受けてしまい、ブレーキ…。上がるには遅すぎ、残念ながら勝負に絡めなかった」。

「アシストとしての動きとしては良く動けていたので、引き続き勝負どころでの強さを磨きたい」と前を向くが、8日間のレースで結果を出せなかったことに落胆を隠せない。チームとしてはローリー・スザーランド(オーストラリア)が総合10位。3年連続トルコを走った宮澤は翌日にイタリアに戻る。

佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)はこの日もチームメイトとともに終盤にかけて集団前方に上がったが、ゴール前でのアンドリアートとキッキの連携が上手く行かず。ジロ・デ・イタリアを前に、フランチェスコ・キッキ(イタリア)の調子の悪さが気にかかる。佐野は「このデコボコ道は8日間で充分です」と笑う。佐野は一旦イタリアに戻り、ツアー・オブ・ジャパン出場のため5月に帰国する予定だ。

オメガファーマ・クイックステップやアスタナのリードアウトに抑え込まれながらも、タイミング良くスプリントに持ち込んだのはアルゴス・シマノのキッテル。ポイント賞ジャージのグライペルが後方に沈む中、キッテルが悠々と先頭でフィニッシュラインを駆け抜けた。

スプリント3勝目を飾ったマルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)スプリント3勝目を飾ったマルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji

総合優勝に輝いたムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)総合優勝に輝いたムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール) photo:Kei Tsujiステージ3勝目を飾ったキッテルは「今日はチームとして計画通りスプリントに向けての準備を進めたけど、集団の前に出るのが早すぎた。それでも上手くスプリントに持ち込めたのはトマ・ダムソーのおかげ。彼はゴール前で信じられないほど良い仕事をしてくれたんだ」とコメントする。

悔しい表情で海を眺める宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)悔しい表情で海を眺める宮澤崇史(サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsuji好調のキッテルと、「二人の間には相互のリスペクトがある」グライペルは、ともにジロ・デ・イタリアに出場せず、ツール・ド・フランスに照準を合わす。「好調なのは間違いないよ。でも今回の活躍はチームとしての走りが上手く行ったことによるところが大きい。昨年はミスが重なったことで徐々に勝利が減って行った。それらのミスを一つ一つ細かく分析することで、毎年リードアウトを進化させている。ツール・ド・フランスに向けてこれからシエラネバダ(スペイン)での高地トレーニングに挑む。最高のコンディションでマーク・カヴェンディッシュと対決するためにね」。

一方「向かい風が強くて、スプリントまでに力を使いすぎてしまった。オメガファーマ・クイックステップの選手(フェン)の番手を取ったと思ったら、キッテルが左から仕掛けて行った。2位には決して満足していないし、好調だからこそ負けたことがすごく悔しい」と話すのは、2日連続ステージ2位のアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)。アスタナのエーススプリンターはジロ・デ・イタリアに出場予定。ジロ開幕は6日後に迫っている。




ツアー・オブ・ターキー2013第8ステージ結果
1位 マルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)             2h43'45"
2位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)
3位 アンドリュー・フェン(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)
4位 アイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)
5位 ステファン・ファンダイク(オランダ、アクセントジョブス)
6位 モレーノ・ホフランド(オランダ、ブランコプロサイクリング)
7位 フランチェスコ・ラスカ(イタリア、カハルーラル)
8位 マキシミリアーノ・リチェーゼ(アルゼンチン、ランプレ・メリダ)
9位 アンドレア・パリーニ(イタリア、ランプレ・メリダ)
10位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)
34位 宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)
122位 佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)

個人総合成績
1位 ムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)          29h13'13"
2位 ナタナエル・ベルハネ(エリトリア、ユーロップカー)             +41"       
3位 ヨアン・バゴ(フランス、コフィディス)                   +44"
4位 マキリム・メドレル(フランス、ソジャサン)                 +57"
5位 ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)                  +1'00"
6位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)      +1'02"
7位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、コロンビア)              +1'08"
8位 フロリアン・ギロー(フランス、ブルターニュ・セシェ)           +1'09"
9位 ダナイル・アンドノフ(ブルガリア、カハルーラル)             +1'13"
10位 ローリー・スザーランド(オーストラリア、サクソ・ティンコフ)      +1'15"

ポイント賞
アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)

山岳賞
セルゲイ・グレチン(ウクライナ、トルクセケルスポール)

ターキッシュビューティースプリント賞
ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)

チーム総合成績
コフィディス

text&photo:Kei Tsuji in Istanbul, Turkey