緩やかにアップダウンを繰り返す未舗装路に突っ込んでみる。穴ぼこだらけの舗装路より、ずっと走行抵抗が少ない。ところどころ馬の蹄の跡が残る未舗装路を、ワクワクしながら走っている。ふと隣のサイクリストを見ると顔が緩んでいる。何故か、無性に楽しい。




白い道と、杉の並木白い道と、杉の並木 photo:Kei Tsuji「ロードバイクで未舗装路を走る? なんでそんな馬鹿げたことをする?」と思う人がいるかも知れない。もしかしたら自分が思っている以上に、そう考える人が多いのかも知れない。MTBで走ったほうが快適だと言うかも知れない。

モンタルチーノに向けて勾配のある登りを進むモンタルチーノに向けて勾配のある登りを進む photo:Kei Tsujiでもここで断言しておきたい。ストラーデビアンケの未舗装路ではロードバイクが一番速い。ロードバイクが一番速いからロードバイクを選ぶ。MTBのほうが速いような荒れた路面ならMTBを選ぶだろう。

ひたすらレロイカの看板を辿るひたすらレロイカの看板を辿る photo:Kei Tsuji路面の荒れ具合によってはシクロクロスバイクが最適だとは思うけど、無理してロードバイクで走っているのではないことを強調しておきたい。「ロードバイク=舗装路」という観念を取っ払いたい。今から100年前、未舗装路を繋ぐツール・ド・フランスを走ったロードバイクのタイヤはそれほど太くない。

毎年10月には、同じシエナ近郊の未舗装路でレロイカ(日本ではエロイカ)というヴィンテージレースが開催される。規定として、1987年以前に作られたバイクに乗ってレトロな出で立ちで走るイベント。コースは大好きだけど、なぜかそのコンセプトに惹かれたことは一度も無い。

今回イタリアに持ち込んだバイクはキャノンデールのCAAD10で、ホイールはボディを入れ替えたばかりのカンパニョーロ・ユーラス(輪行で少し後輪が振れた)。タイヤはチャレンジのストラーダ25Cで空気圧は5.5。

ジロ・デ・イタリアと同じRCSスポルトが主催するストラーデビアンケの前日に、シエナを発って、ワインの街モンタルチーノを目指す。シエナとモンタルチーノの間に広がるヴァル・ドルチャ(オルチャ渓谷)こそ、自分の中でのトスカーナのイメージに合致する。「オルチャ渓谷」でGoogle検索するとイメージを掴んでいただけると思います。

白い道が尾根に沿って続いている白い道が尾根に沿って続いている photo:Kei Tsuji

そのうち舗装路では物足りなくなってくるそのうち舗装路では物足りなくなってくる photo:Kei Tsuji給水給水 photo:Kei Tsuji

翌日のストラーデビアンケに備えて泥を取り除く、朝7時から一人で翌日のストラーデビアンケに備えて泥を取り除く、朝7時から一人で photo:Kei Tsuji今回用意したのはシエナとモンタルチーノを往復する110kmコースで、そのうち未舗装の割合は3分の1ぐらい。ストラーデビアンケとレロイカのコースを組み合わせ、そこに2010年ジロ・デ・イタリア第7ステージを足したようなコース。そう、みんな泥んこになったあのステージのラスト35kmを辿る。

レトロなバイクが並んだガイオーレ・イン・キアンティのレロイカショップレトロなバイクが並んだガイオーレ・イン・キアンティのレロイカショップ photo:Kei Tsuji未舗装路でもタイヤはしっかりグリップしてくれる。さすがに下りコーナーではラインとスピードを選ぶものの、バイクは快適に前に進み続ける。

エヴァンスと再会を果たしたヴィンちゃんエヴァンスと再会を果たしたヴィンちゃん photo:Kei Tsuji季節的に沿道のワイン畑が貧相なのは仕方ないとして、緩いコーナーを抜けた先に広がる風景にレンズを向け、最大15%の激坂を無言で這い上がり、丘の上に見えてきたモンタルチーノに向けて無意味にギアを上げてみる。路面が少し水分を含んでいたため、砂埃に咳き込むこともなく、泥を被ることもなく。

とりあえずシエナのカンポ広場にゴールしてみるとりあえずシエナのカンポ広場にゴールしてみる photo:Kei Tsuji大小さまざまな丘を越えて、未舗装路の余韻に浸りながらシエナに帰着。ホテルでシャワーを浴びて、気前の良いおじさんがホールを仕切るトラットリアでたらふく飲んで食べ、こんな毎日を過ごしていたら馬鹿になると思いながらベッドに倒れ込む。現実(帰国)が近づいていることに目を瞑る。

そして迎えた3月2日、ストラーデビアンケのレース当日。朝、窓を開けると清々しい空気と青い空が飛び込んできた。

シエナの北30kmに位置するガイオーレ・イン・キアンティのスタート場所に着くと、いつもジロで顔を合わす大会スタッフや同業者に「なに?今回は遊びで来たのか?けしからん!」と突かれる。それでも暖かく迎えてくれ、さりげなくプレスパスを5人分配ってくれる気前の良さは、イタリアレースの良いところ。

今回の旅に同行したヴィンちゃんことヴィンセント・フラナガンは、京都在住のオーストラリア人、50歳。言わずと知れたMTBクロスカントリーの元全日本チャンピオンで、1991年にはオーストラリアのMTBクロスカントリーチャンピオンにも輝いている。親しみやすいキャラで関西シクロクロスではお馴染みの存在だが、実は凄い人なのだ。

そんなヴィンちゃんが今回の旅行に参加した目的の一つが、ストラーデビアンケを走るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)に会うことだった。

エヴァンスがジュニア選手として走っていた当時、ヴィンちゃんはMTBエリートのオーストラリアチャンピオンだった。一緒にレースを走った仲であり、エヴァンスがサエコチームでジャパンカップに出場した際にはヴィンちゃんが東京を案内している。

10年ぶりに会うヴィンちゃんとエヴァンスがハグを交わす。前週までインフルエンザで寝込んでいたヴィンちゃんは、もうすっかり復調していたものの、プロ選手にウィルスをうつしてはいけないので握手はしない。

エヴァンスの目つきからは、ヴィンちゃんに対するリスペクトが伝わってくる。旧友との再会に頬を緩めながらエヴァンスが出走サインに向かうのを見送って、我々は車でコースに繰り出した。

シエナから数キロ離れただけで道はサイクリストのものになるシエナから数キロ離れただけで道はサイクリストのものになる photo:Kei Tsuji

ゴール地点はシエナのカンポ広場ゴール地点はシエナのカンポ広場 photo:Kei Tsujiモゼールのゴールに間に合ったモゼールのゴールに間に合った photo:Kei Tsuji

丘陵のてっぺんを目指す白い道丘陵のてっぺんを目指す白い道 photo:Kei Tsujiプレス登録していなかったためプレスカーのステッカーは無いが、それでも車とロードバイクで動き回ることで、途中2回レースを見て、ゴールまで楽しめた。レースと追いかけっこして、遠くから中継ヘリの音が聞こえてきた時のワクワク感は何とも言えない。

最終日にはキアンティに脚を伸ばし、また違った風景を見ながらペダルを踏む。キアンティワインの酔いに軽く頭痛を覚えながら、予定を詰め込んだ1週間の充実した旅が終わった。

海外輪行の可能性を感じた今回のトスカーナツアー。確かに運送時のバイク破損リスクや、運搬に際してのオーバーチャージがネックになるけど、それらをクリアすることが出来れば、グググッと世界が広がる。

ただ乗り回すだけではなく、レースを観戦し、現地の特産物を口に運ぶ。そんな自転車を連れた旅をお勧めしたい。海外だけではなく、国内にも走りたい場所は山ほどある。自転車ほど刺激的なスパイスは無い。(家族にはまだ話していないけど)すでに来年どこに行こうか妄想は広がっている。

将来的にはしっかりとツアーを組んで多くの日本人をイタリアに連れて行きたいと強く思う。それが自分の天職かと思うほどに。

石畳を登り、要塞都市モンテリッジョーニに入る石畳を登り、要塞都市モンテリッジョーニに入る photo:Kei Tsujiなかなかハズレに出会わないなかなかハズレに出会わない photo:Kei Tsuji




text&photo:Kei Tsuji in Siena, Italy

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