いまや軽量化はブームではなく永遠のテーマ。2013年モデルにおいて超軽量という定義は、フレーム単体重量800g以下を指す。そんな状況にリドレーが放った意欲作が「ヘリウムSL」だ。

ツール・ド・フランス2012、ユルゲン・ヴァンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)が駆ったヘリウムSLツール・ド・フランス2012、ユルゲン・ヴァンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)が駆ったヘリウムSL photo:Makoto.Ayano

その車名から分かる通りこれまで軽量車としてラインナップされてきたヘリウムの進化バージョンとなるヘリウムSL。ヘリウムSLは他社で見られるようなカーボン素材の単なる置き換えによる軽量化ではなく、設計をゼロからスタートさせた全くのニューモデルである。

ベースとなる素材は60Tグレードを筆頭に、40T、30Tのハイモジュラスカーボンをフレームエリアの特性に合わせて配置する、他モデルにも見られる手法が用いられた。フレーム形状については従来のヘリウムでもアッパー部をコンフォートゾーン、ロワー部分をスティフネスゾーンとして開発してきたが、ヘリウムSLも同様のコンセプト。しかしながらヘリウムSLは、上下でメリハリのあるより大胆なシルエットに変化した。

トップチューブは横扁平の断面が与えられる。ヘッド部のねじれ剛性を高めつつ快適性を高めるトップチューブは横扁平の断面が与えられる。ヘッド部のねじれ剛性を高めつつ快適性を高める
ダウチューブは角型の大きな断面を持つように成型され、パワーラインに十分な剛性を与えるダウチューブは角型の大きな断面を持つように成型され、パワーラインに十分な剛性を与える
軽量性と剛性をバランスするため下側のベアリングを1-1/4インチとしたテーパードヘッド軽量性と剛性をバランスするため下側のベアリングを1-1/4インチとしたテーパードヘッド

スティフネスゾーンの起点となるヘッド部はテーパードスタイルだが、下側のベアリングは軽量化のためにヘリウムよりも小さな1-1/4インチに変更されている。しかし新たに設計した角型断面の大径ダウンチューブを用い、プレスフィット30規格のハンガーシェル、ハンガーからリヤエンドまでを一体成型したチェーンステーを組み合わせることでパワーロスの少ない効率性を追求している。

一方で、コンフォートゾーンの核となるのはシートステーだ。これはヘリウムで開発されたフレキシブルシートステーのコンセプトをさらに進化させたもの。横方向に扁平加工されたステーは“極細”という言葉がふさわしいほどのサイズに成型され、軽量化を実現しながら垂直方向からの荷重に対しては十分な柔軟性を発揮させ乗り心地を高めている。また、シートまわりはオーソドックスな27.2㎜径シートポストを採用する細身の設計とすることで、軽量化と乗り心地の向上を目指した。

シートステーは剛性を疑ってしまうほど極めて細く仕上げられるシートステーは剛性を疑ってしまうほど極めて細く仕上げられる シートチューブのポスト側は丸型の断面に成型。27.2㎜径のシートポストが装備できるシートチューブのポスト側は丸型の断面に成型。27.2㎜径のシートポストが装備できる 緩やかなベンドを与えられたフロントフォーク。エンド部までカーボンで一体成型される緩やかなベンドを与えられたフロントフォーク。エンド部までカーボンで一体成型される


変速ケーブルはヘッドチューブからチェーンステーに至るまで完全内蔵方式となり、電動と機械式の兼用、シマノDi2、EPSの双方に対応するなど、最新コンポーネントをスマートに装備可能。より柔軟な対応を見せる。

こうした最先端の設計を施すことにより、ヘリウムSLはフレーム単体で750g、フロントフォーク310gというトップクラスの超軽量を実現している。しかも驚かされるのは、従来のヘリウムよりも単に18%の軽量化を果たしただけでなく、剛性や快適性といったデータが向上していることだ。

リドレーのデータによると従来のヘリウムに比べて、横剛性が3%、ボトムブラケットは8%、ヘッド部は4%の剛性アップに成功。かつ快適性については7%の向上を見た。

軽量フレームであっても石畳の路面でテストされている。もちろんUCI公認フレームだ軽量フレームであっても石畳の路面でテストされている。もちろんUCI公認フレームだ
ダウンチューブには電子ケーブル内蔵穴が装備され、しっかり電動コンポに対応しているダウンチューブには電子ケーブル内蔵穴が装備され、しっかり電動コンポに対応している
モノコック成型されてコンパクトながら十分なボリュームを与えたカーボン製リアエンドモノコック成型されてコンパクトながら十分なボリュームを与えたカーボン製リアエンド


従来のヘリウムもオールラウンドな軽量モデルとして高い評価を得ていたが、ヘリウムSLはこれらのデータからも分かる通り、単なる超軽量バイクではなく、さらにオールラウンドな性能に磨きをかけたモデルへと進化している。

昨シーズンのツール・ド・フランスの頃より実戦投入されたヘリウムSLだが、ロット・ベリソルのエース、ユルゲン・ヴァンデンブロックが山岳ステージのみならず、平坦ステージでも使用していた事実は、このバイクの優れたオールラウンド性ゆえ。あらゆるシーンで超軽量のアドバンテージを享受できる、それがヘリウムSLというバイクである。

リドレー HELIUM SLリドレー HELIUM SL

リドレー HELIUM SL

サイズXS、S、M
カラーロット・レプリカ
フレーム素材60/40/30Tハイモジュラスカーボン
重量750g(フレーム単体)、フロントフォーク=310g
フレームセット価格36万1200円(税込)


インプレッション

「ダンシングでの軽さが際立つヒルクライムバイク」(浅見和洋 なるしまフレンド)

このスペックと性能で約36万円の価格は、絶対に買いの一台だこのスペックと性能で約36万円の価格は、絶対に買いの一台だ とにかくバイクを振りやすいのが印象的です。750gしかない軽量フレームはもちろんですが、27.2㎜のシートポストを採用するなど、フレームの上側に行くにしたがいボリュームは抑えられたフレーム形状で、それも振りの軽さにつながる要素だと言えるでしょう。そして、一般的な27.2㎜のシートポストとは商品の選択肢も多く、ヒルクライム用の超軽量バイクを作るには好都合です。

肉薄なチューブは体に響く感じがあり、いわゆる軽量カーボンバイクの固さを感じやすいライディングフィールです。超軽量ながらもフレーム剛性は最新のプレスフィットタイプのBB規格を使うなどして、高いレベルを実現しています。軽量フレームの場合、多くはBBまわりによれやたわみを感じやすいものですが、ヘリウムにはそうしたマイナスとなるような感覚はなく、キビキビとした走りができます。

ウイップはありますが悪いものではありません。とくに扁平形状のシートステー部分は、路面からの突き上げを絶妙に緩和してくれ、それが加速の伸びに範囲されていると思います。フレームは固いだけでなく、伸びもしっかりあります。

加速のかかりは、リドレーのほかのモデルの方が優れるものもあります。といってもそれはかなり次元の高いレベルでの話で、一般レベルで考えると非常に優れた性能が確保されています。ヘリウムSLは、ノアのように高速域をターゲットとせず、上りのコースで活躍するように設計されたモデルですから、それを考えれば十分な加速性能なレベルです。

また、用途を考えてヘッドチューブの下側ベアリング径をリドレーのほかのモデルよりも小さくした1-1/4インチにするなど、目的をはっきりとした設計が魅力的です。サイズダウンしたヘッド部の剛性に不安はありません。
さすがにハンドリングは750gの軽量車なので軽く、軌道修正をしつつ下るような感じで、抜群の安定感という程ではありませんが、十分に対応できるレベルです。

上りでの走りはライダーのタイプによって好みは別れると思いますが、おおむねどんな踏み方でも応えてくれます。けれどもヘリウムSLが持つ軽い走りを生かすのなら、ダンシングを使うスタイルの方が向いています。

組み合わせるホイールは、リムハイトの高いエアロタイプだとダンシングでの軽さが生かされにくいので、試乗車に装備されたFFWDのF4Rのような軽量エアロがいいでしょう。また、思い切ってローハイトの軽量ホイールを装備して、5㎏台の超軽量ヒルクライムバイクを組のも面白そうですね。

ヘリウムSLは、上りを得意とする“ヒルクライム職人”的なライダーに最も適していますが、決してそれだけのバイクではありません。ある程度体やテクニックなどでカバーする範囲を増やせば、どんな場面でも対応できるでしょう。
そして、なんといっても750gという超軽量スペックが、40万円以下で手に入るというのはヘリウムSL最大の魅力です。ほかのメーカでは100万円近くなってしまうものもあるので、この価格は絶対に買いの一台です。


「抜群に軽い運動性能は、上りのレースで大きなアドバンテージ」(吉本 司)

モデル名こそヘリウムSLだが、これまでのヘリウムとは似ても似つかないルックスだ。下側のヘッドベアリングを1-1/4にダウンサイズさせ、極細に成型されたシートステーを装備するなど、見た目にも徹底的に軽量化を追求してきたことが分かる。

当然のことながら走らせてみると、軽量なFFWD F4Rホイールを装備することも拍車をかけているのだが、ひと踏み目から抜群の軽さを体験できる。肉薄で硬質なチュービングらしいパリっとした軽快なペダリングフィールを持ち、ダンシングでのバイクの振りも軽く、鋭い出足によって上りを駆け上がってゆく。これぞ軽量バイクという仕上がりだ。

ひと踏み目から圧倒的に軽いペダリングフィールが最大の魅力ひと踏み目から圧倒的に軽いペダリングフィールが最大の魅力

フレーム全体の剛性は、750gという超軽量を考えれば高いレベルにある。危うさのような感覚はない。ノアのようながっちり感には及ばないものの、通常の使い方を考えれば不満はないだろう。もちろんある程度のしなりはあるものの、それはネガティブなものではない。

ヘッドやハンガー部といった剛性を必要とされる部分がしっかり作られているので、しなりはペダリングにおける「ため」を生み出し、上りでは加速の軽さにつながり、平地でもリズミカルなペダリングを生む。ヘリウムSLが最も活躍できるフィールドはヒルクライムをはじめとする上り基調のコースだと思うが、単なる軽いだけのバイクではなく、ロードレースにも対応できる性能はしっかりと確保している。それはツール・ド・フランスで活躍したことを考えれば明白だろう。

ハンドリングはフレームの軽さはもちろん、フォークは300gと軽量に仕上げられているので入力に対してはリニアに反応する。とはいえいピーキーというレベルにはないので、最初は軽さを感じるものの、慣れてしまえばストレスはない。

リドレー HELIUM SLリドレー HELIUM SL 軽量車の場合、車重の軽さから下りが落ち着かないモデルもあるが、ヘリウムSLはノアとほぼ同様に設計される安定感のあるジオメトリー、同時に横方向に扁平された極細のシートステーも高い振動吸収性を発揮して、バイクの安定感を演出している。おそらくこのジオメトリーがなければ、ハンドリングやダウンヒル性能はかなりストレスもあっただろう。さすがに大きなギャップに突っ込むと車重の軽さゆえにバイクが暴れやすい傾向もあるが、これは軽量車全般にいえることだろう。

750gという軽さを最大限に生かしてクライミング性能に優れるヘリウムSLだが、その性能は超軽量バイクにありがちなピーキーな感覚はなく、軽い運動性能を上手に表現しながら上手く全体のバランスをまとめ上げている。

最新の電動コンポにしっかり対応した内蔵方式とし、シートポストも汎用性の高い27.2㎜タイプとするなど、仕様面にも死角はない。そして、これだけの充実したスペックと性能を持ちながら価格が約36万円というのは驚かされる。そのプライスパフォーマンスは、2013年モデルとしてはトップといっても過言ではなく、ヒルクライマーや軽さを重視するライダーにはきわめて魅力的な存在だ。
編集:シクロワイアード 提供:ジェイピースポーツグループ