独自のテクノロジーを投入し、戦闘力と快適性を両立

2011年、ピナレロはコブ60.1というモデルを発表し、エンデュランスバイクのハイエンド市場に殴り込みをかけた。その後ドグマKと名を変えたこのバイクは、ドグマに快適性を付加したバイクと言えるだろう。

2012年のパリ~ルーベでモビスターチームによって使用されたピナレロ DOGMA K2012年のパリ~ルーベでモビスターチームによって使用されたピナレロ DOGMA K (c)Makoto.AYANO
このバイクは、チームスカイのプロ選手からの「北のクラシックのためにドグマのSUV版を作って欲しい」というリクエストに応える形で誕生している。目的はあくまでレース。他のコンフォートバイクとは一線を画す存在だと言える。

このドグマKには、アシンメトリックデザイン(完全左右非対称設計)や東レ60トンカーボンという高品質なフレーム素材、高弾性カーボンの弱点である破断性を補うナノアロイテクノロジー、フレーム内壁を滑らかに仕上げるEPSモールディング製法など、ドグマと同等のテクノロジーが使われる。つまりドグマKは、ドグマと血を分けた兄弟モデルなのである。

ヘッドチューブは下ベアリング径が1-1/4インチとなる上下異径タイプで、安定性と機敏なハンドリングを両立ヘッドチューブは下ベアリング径が1-1/4インチとなる上下異径タイプで、安定性と機敏なハンドリングを両立
高弾性カーボンの弱点である破断性を補うという東レ独自の最新技術、ナノアロイテクノロジーを取り入れる高弾性カーボンの弱点である破断性を補うという東レ独自の最新技術、ナノアロイテクノロジーを取り入れる
ヘッドをはじめとする各チューブに施される強化リブ加工。ドグマ65.1より丸みを帯びたものとなるヘッドをはじめとする各チューブに施される強化リブ加工。ドグマ65.1より丸みを帯びたものとなる


ドグマ65.1との違いはフレーム形状とジオメトリにある。シート角とヘッド角が寝かされ、リヤセンターが長くなり、フォークオフセットも増やされるなど、ロングライドに適した直進安定性重視のジオメトリとなっている。また、オンダシートステーではなく、大きくベンドする「センチュリーライドシートステー」を採用している。

動力伝達に必要な横剛性を確保し、スプリント性能やコーナリング能力はドグマ65.1と同等のレベルを維持したまま、フレーム形状や素材を工夫することで縦方向の柔軟性を向上させているのである。ロングライドに適した28Cのタイヤが装着できるように、ホイールクリアランスも拡大された。

ピナレロのアイコンであるオンダシートステーではなく、より快適性の高い「センチュリーライドシートステー」を採用ピナレロのアイコンであるオンダシートステーではなく、より快適性の高い「センチュリーライドシートステー」を採用 前後ともタイヤクリアランスは大きくとられており、悪路用に太いタイヤ(28C)を装着することができる前後ともタイヤクリアランスは大きくとられており、悪路用に太いタイヤ(28C)を装着することができる フロントにはオンダフォークを採用するが、オフセットを47mmと大きくして安定性を高めたドグマKの専用品フロントにはオンダフォークを採用するが、オフセットを47mmと大きくして安定性を高めたドグマKの専用品

プロのために開発されたフレームだが、リラックスしたライディングフォームと高い快適性を求めるロングライド愛好家にも人気を博すこととなった。2012年の「ドグマK」への名称変更は、ドグマと同等のハイエンドモデルであることを明確にアピールする狙いがある。このロングライド最速バイクは、2013年も継続してラインナップされる。

ピナレロ ドグマKピナレロ ドグマK

ピナレロ ドグマK

サイズ45SL, 48SL, 51.5SL, 54SL, 55SL, 56SL, 57SL, 58SL (C-T)
マテリアルCarbon 60HM1K Nanoalloy™ Torayca®
フォークOnda K Carbon 60HM1K 1” 1/8 1” 1/4 integral system
リアステイCentury Ride Carbon 60HM1K
ボトムブラケットMOst Croxover (ITA規格)
フレーム重量約950g (サイズ54、ベア重量)
価 格399,000円(フレームセット)

インプレッション

「コンフォート一辺倒ではなく、レーシングバイクに近い」 二戸康寛

二戸:いいですね、コレ。コンフォート一辺倒ではなく、レーシングバイクに近い乗り味。ジオメトリや作りからはロングライドをターゲットにしていることがうかがえるんですが、実際に乗ってみると反応がすごくいい。高速巡航性も優れているし、レースに使っても全く問題ないでしょう。

振動はそれなりに上がってきますが、アルミのようにガンガン突き上げるような乗り味とは全く違います。荒れた路面に突っ込んでもバイクの挙動が乱れにくく、直進性は高いまま。トータルのパフォーマンスが高く、「石畳のレース用」という狙い通りの性能がでています。

「コンフォート一辺倒ではなく、レーシングバイクに近い」 二戸康寛「コンフォート一辺倒ではなく、レーシングバイクに近い」 二戸康寛
白川:コンフォートバイクと謳っていますが、まったくキビキビと走りますね。ドグマ65.1と比較すると確かにマイルドですが、ドグマ2のようなウィップ感があり、どんなペダリングも許容して楽に進ませる。気持ちよくスピードに乗るバイクです。長時間乗ると、もっとその良さが出てくるんだろうな、という予感がします。

CW:ドグマKのセールスポイントである安定性はどうですか?

二戸:安定性は非常に高く、高速になったときにラク。ハンドリング感覚も適度。このくらい安定性が高いほうが万人向けでしょう。これは長距離を走る際のストレス軽減に貢献してくれると思います。

白川:ヘッドが寝ているので安定感は非常に高いですね。でも、ヘッド周りがしっかりとしているのでハンドルを振ったときのキビキビ感を残しつつ、気持ちよくまっすぐ走ってくれます。

「ハイアベレージ・一定ペースのロングライドに最高」 白川賢治

CW:ドグマよりソフトなんでしょうか?

「ハイアベレージ・一定ペースのロングライドに最高」 白川賢治「ハイアベレージ・一定ペースのロングライドに最高」 白川賢治 白川:ウィップは大きいですね。でもそれは「かったるさ」につながるネガティブなウィップではなく、いい意味でのウィップ。柔らかいという感覚はなく、しっかり進む。懐が広く、ライダーの力を蓄えてくれる。ペダリングのトルクむらを均してくれて、後押ししてくれているような印象ですね。

二戸:確かにガチガチではないですね。でもフレームそのものはしっかりしていてパワーの伝達がものすごくいい。ウィップは多少出ていますが、白川さんが言われるように、それが走りの軽快感につながっているのでしょう。硬すぎないのでケイデンスを維持しやすく、ダンシングでも軽い走行感。自分くらいの体重だと剛性があると後半がツラくなるので、適度なウィップがあったほうがいいんです。ドグマKくらいの剛性感だと、ウィップがいい方向に働いています。いやあ、このバイクは自分の好みにピッタリです(笑)。

CW:二戸さんにとってはベストなバランスだったわけですね。

二戸:はい。ピナレロファンはどうしてもドグマ65.1のほうに目が行ってしまうと思いますが、ドグマKの方がマッチするという人はたくさんいると思います。体重が軽い小柄な人だと、よけいにそうですね。

CW:ヒルクライム能力はどうでしたか?

白川:登りでも結構走ってくれました。ダンシングでトルクをかけて、ウィップを上手く利用するとさらに楽になるでしょう。下りも安定しています。

二戸:登りで下ハンドル部を持って思い切りトルクをかけたときでも、回転を持続させやすく、グーッと伸びるんですよ。ガンガン踏んでもカラダに負担をかけない。シートステーなどの剛性をあえて落としているんでしょう。それが見事にいい方向に向いている。

CW:結局、ドグマKはどういうモデルなんでしょう?最適な用途とは?

白川:ブルベやロングライドだけでなく、耐久レースのソロなどにも向いてますね。ハイアベレージで一定ペースのロングライドには最高でしょう。

二戸:もちろんロングライドにも向きますが、クリテリウム以外の全てのレースに使えると思います。ヒルクライムにも使えるんじゃないでしょうか。シートステーがオンダではないので、ピナレロファンの中には違和感を抱く人がいるかもしれませんが、素晴らしい実力を秘めたバイクです。
編集:シクロワイアード 提供:カワシマサイクルサプライ