グラベルバイクの進化が止まらない。32インチホイール、50Cタイヤ、1✕(ワンバイ)ドライブトレインetc...。グラベル黎明期からその変遷を見てきたニック・レーガン氏との対談で、レースシーンにおけるグラベルバイクのトレンドとセッティングの最適解を探る。

ニック・レーガン氏(左)と日本から来た5人のノルンジャーたち photo:Makoto AYANO
アンバウンド・グラベル特集への度々の登場でお馴染みのニック・レーガン氏(シマノ・ノースアメリカ)は、グラベル黎明期からの普及活動により昨年「グラベルHoF(=殿堂)」入りを果たしたレジェンド。マーケットのトレンドを導きつつ、機材への造詣も深く、イベントやプロ選手のサポート等を通して動向を見つづけてきた人物。そんな氏に3人のノルンジャー(永田隼也、綾野真、島田真琴)が話を訊いた。トークテーマは「グラベルバイクのトレンド」だ。(この対談はレース前日に収録しています)

左からニック・レーガン、永田隼也、島田真琴、綾野真 
グラベル界をリードするニック・レーガン氏(シマノ・ノースアメリカ)
永田:また乗ルンジャーの仲間たちでアンバウンドにやって来ました。ノブさん(福田暢彦)は都合によりDNS、帰国することになってしまいましたが、4人が今年のレースに燃えています。
ニック:エンポリアへおかえりなさい! 新しい仲間が増えたね。ジュンヤ、君の去年のフィニッシュ後の様子からは、今年はもう来ないと思っていたよ!ゴール後にはほとんど死んでいたからね・笑!
永田:昨年のレースは本当にキツかったです。 とくにラスト100kmは気が遠くなりそうでした。その夜はシャンプーするのも大変でした。そして日本に帰ってからも骨折したりと、散々でした。
ニック:僕も最初のレースはそんな感じだったね。本当に苦しんだけど、皆一緒だよ。でも結局は皆がまたエンポリアに帰ってくるんだ。

去年に続き200マイルに挑戦するMTBライダーの永田隼也(右) 
シマノセールス勤務でPRを担当する島田真琴。かつてプロロード選手として欧州でも走った経験を持つ
島田:僕はグラベルレースは初めての完全初心者です。20年前はロードレースの選手でした。その後、今はシクロクロスやマウンテンバイクのレースにも出ています。でもレースどころかグラベルを走るのもほとんど初めて。200マイルに不安しかありません。
綾野:島田さんは20年前はプロロード選手でしたし、今もシクロクロスとMTBクロスカントリーではエリートクラスで上位に入るフィジカルの持ち主なんです。
ニック:初グラベルで200マイル挑戦はすごいね!でも君なら大丈夫だ。自身の限界を感じることがあるかもしれないが、きっと新たな自分を発見できるよ。ひとつアドバイスするとしたら、最初から飛ばさないことだね。なぜならレースは200マイルと長い。だからマイペースを守って、とくに最初は無理をしないこと。そして終盤にかけて徐々に上げていくことだね。僕は今年はサポートに徹するよ。エイドのシマノブースに居るから何かあれば言ってくれ。
綾野:僕は今年で5回目の100マイル参戦です。4回の完走はいつも少しだけ余裕がありましたが、毎回大変でした。こうしてニックさんに事前アドバイスをもらえるからうまく走れます。

世界中から来訪するグラベルライダーで賑わうエンポリアの街 photo:Makoto AYANO
ニック:それはもう本当に大きな変化だ。2006年に34人で始まったイベントが、僕が参加した最初の年(2011年)は500人ぐらいの参加者数に。今や4,000人が集まるビッグイベントになった。じつに100倍以上の規模増大だ。通年でグラベルを走りに来るサイクリストも居て、エンポリアの経済にも大きな好影響があった。

街の目抜き通りまで拡大したエキスポ。大会規模はますます大きくなる photo:Makoto AYANO
かつての市街は空き店舗ばかりでゴーストタウンのようだったんだ。それが今や賑わいを取り戻している。アンバウンドが街の経済に一役買っているのは間違いない。今年のエキスポ(ブースエリア)はさらに拡大して、コマーシャルストリート(街いちばんの目抜き通り)を占有している。本当にクールだ。

グラベルライダーで賑わうエンポリアの街。経済的にも発展を遂げた 
ゴキゲンなカフェやアートがサイクリストを歓迎してくれる
そして、どの参加者も本当にナイスなグラベルバイクに乗っているね。そのどれもが凄いスペックのバイクで、もはやMTBやシクロクロスバイクで代用する選手はほとんど居ない。もちろんどんなバイクで走っても良いけど、皆がいい走りができるように良く研究している。個人的にはそれがたまらなくクールだ。

ミュージアム所蔵のグラベル黎明期のバイク。当時はMTBやシクロクロスバイクをベースにカスタマイズしていたことが伺える photo:Makoto AYANO
アンバウンドの歴史が20年なら、グラベルバイクと言われる自転車が出てきたのはこの10年あまりと言っていいだろう。エンポリアのグラベルHoF(殿堂)のミニミュージアムには黎明期のバイクが飾ってある。それらはMTBやシクロクロスバイクをカスタマイズしたもの。象徴的なバイクを紹介しよう。

ダン・ヒューズが駆った第1回ダーティカンザ優勝バイクのSTEELMANはシクロクロス車がベースだ photo:Makoto AYANO

ドライブトレインはロードそのままの構成だ 
太めのタイヤが収まるようカンティブレーキ仕様だ

モスラバイクの愛称を持つアンバウンド4勝ダン・ヒューズのスペシャライズドCRUX初期モデル photo:Makoto AYANO

昨年の200マイルプロクラス覇者キャメロン・ジョーンズが駆るスコットの32インチ採用プロトタイプ。シマノもコンポをカスタマイズして提供した photo:Scott
ニック:そうだね! 昨年の200マイル覇者キャメロン・ジョーンズがスコットのプロトタイプの32インチホイールのバイクに乗るんだ。シマノもスポンサードしているプロライダーだから、カスタマイズしたコンポーネントをサポートしているんだ。

前年覇者キャメロン・ジョーンズ(アメリカ)は32インチホイール採用のスコットのプロトタイプバイクで走った ©️Lifetime
永田:32インチバイクは来年増えるでしょうか?
そう思うね。今年もしジョーンズが32インチで勝てなくても増えると思う。すでにいろんなメーカーが開発に着手しているという話がシマノには聞こえている。2年もすれば大多数になっている可能性もある。

マキシスが披露した32インチタイヤ photo:Makoto AYANO

32インチと700Cの比較。驚くほど外径が大きい 
アメリカのチタン工房製の32インチバイクを展示していた。金属フレームはジオメトリーを自在に製作できる
32インチは700Cとの比較で3%速くなるというデータがあるけど、3%はあまりに大きな差だ。もちろん地形への向き・不向きはあるが、平坦に近い地形ならメリットが上回るだろうね。
島田:ジオメトリーが問題で、とくに小柄な人には設計に無理があると言われていますが?
ニック:いいや、確かに小さめサイズの適切なジオメトリーの開発には少し時間がかかるだろうが、すでにサルサがXSサイズを発表済みでこのアンバウンドにも持ち込んでいるし、時間の問題だろうね。大きめサイズに関してはなんら問題無い。
綾野:UCIが32インチを禁止することを心配していますが、どうでしょうか?
ニック:ハハハ。UCIが32インチを禁止することはできるけど、何よりアンバウンドはUCIのレースじゃないからUCI規則とは関係がないんだ。そして人は禁止されるほどそれが欲しくなるんだ。だから禁止されたらもっと増えるだろうね(笑)。アメリカ人のメンタリティはそんな感じだ。ヨーロッパでは少し違うだろうけど。
グラベルバイクは今だにいろんな進化と変化、試行錯誤が続いている。人々が探求心というエネルギーを注いで、いろんな新しいことを試そうとしているんだ。そういうところが本当に面白いね。

50C以上の太さのタイヤが入るクリアランスをもつバイクがアメリカ主導で開発されている photo:Makoto AYANO 
MTBの軽量なXCタイヤが多くの選手の興味を惹いていた photo:Makoto AYANO
綾野:50Cタイヤが主流になりそうです。まだタイヤ選択肢が少なく、MTBのXCタイヤを使う選手も増えているようですね。
ニック:僕はもっと太くなると思っているよ。”ビッグタイヤ”の何がいいって、転がり抵抗が軽いんだ。僕も今50Cより太いタイヤを使っているけど、もっと太くしてもいいと思っている。重量増は問題じゃなく、速く快適に走れるんだ。

ニック・レーガン氏はLaufのフォークに2.1インチのMTBタイヤをセットしたグラベルバイクに乗る photo:Makoto AYANO
アンバウンドは泥の問題があるけど、50Cはミニマムだと思う。僕は2.1インチ(≒ 53mm)が好きだね。乗っていて楽しいし、荒れたグラベルの表面を滑るように走れるんだ。コーナリングだって攻められるし、パンクも少ない。メリットだらけでもう細いタイヤに戻れないよ。僕は今LaufのFサスフォークを使っているんだ。2.25インチ(≒ 57mm)も可能で、クリアランスが大きいから泥だって平気だ。

永田隼也はフロントに50Cタイヤを使用。その効果をレースで実感したという photo:Makoto AYANO
雨で確実に泥になるなら細くするけれど、天気予報をギリギリまで待って、なるべく太いタイヤで走りたいね。ところで君たちのタイヤの太さは?
綾野:45Cです。フレームのリミットが45mmなんです。50mmもつくけど、フレームとのクリアランスが少ないから泥が心配で。センタースリック系タイヤを選んだので泥の付着は少ないかもしれません。でもグリップは良くないでしょうからコーナリングはシビアになりますね。それが心配事です。
島田:僕のバイクも45Cまでで、アメリカよりヨーロッパのマーケットに向けて設計されたものだと思います。UCIグラベルレース系の設計とも言えるかもしれません。
永田:僕はフロント50Cにリア45Cです。リアがややクリアランスが少ないので泥づまりを警戒してのマレット(前後で異なる)仕様です。

マチュー・ファンデルプールがUCIグラベル世界選手権で駆ったキャニオンGRIZL DuraAceフルコンポ仕様だ photo:Makoto AYANO
ニック:逆に欧州のUCIグラベルレースは高速化していて、40C以内の細目のタイヤで走れるレースも多くある。昨年のグラベル世界チャンピオンのフロリアン・フェルミールス(ベルギー)は35Cタイヤで勝ったし、そのレースは春のクラシックレースのような高速コースだったね(記事)。エキスポに飾ってあるマチュー・ファンデルプールのグラベルバイクもタイヤ太めのエアロロードバイクのようなマシン。UCIグラベルの傾向はアンバウンドとは違うと言えるね。

幅狭のエアロハンドルにデュラエースのSTIレバーを使う。タイヤは38cのほぼスリック仕様だ photo:Makoto AYANO

XTRとDuraAceのマレット仕様コンポはプロ選手が多く採用していた photo:Makoto AYANO
ニック:そうだね。ほとんどが1✕になってきている。理由は太いタイヤが使えることと、ここアンバウンドではマッド対策としてタイヤクリアランスが大きいのが有利なんだ。2✕はFディレイラーがある制約でタイヤ幅はどうしても45C以下に限られるし、泥詰まりに対して弱くなるから。1✕ならFDとインナーチェンリングが無いことで、太いタイヤが使えるからね。
綾野:トップ選手たちのスピードは40km/hに近いから、集団で走っていると路面の穴や岩を避けられない。パンクしないためにも太いタイヤは役立つと聞いています。
ニック:でも2✕を好む人もいて、それも理解できる。ギアステップ(刻み)が細かいから、とくにロード出身の人はこだわるね。でもますます少数派になってきている。
昨年プロクラスに優勝したキャメロン・ジョーンズのバイクはGRXの2✕仕様だったし、他の多くのカテゴリーでも2✕の選手が優勝した。それがどうだ、今年はすっかり1✕が主流だ。

昨年は多くの勝利を飾ったGRX Di2の2✕コンポだが、今年は1✕にその座を譲ったようだ photo:Makoto AYANO

綾野 真と愛車のサーヴェロ Aspero5 GRX 1✕ photo:Makoto AYANO
100マイルレースに5年連続出場の綾野真(シクロワイアード)の今回の愛車はサーヴェロ Aspero5。GRX Di2(RX827)の1✕、FチェーンリングはWolfToothの48Tという完成車スペック。出発直前に発売開始されたGRXの46Tチェーンリングへの交換を迷ったが、結局そのままで行くことにした。リザーヴ40/44GRホイールにタイヤはパナレーサーGRAVELKING X1の45C。ハンドルは360mm幅、背中のポケットに給水用ブラダーをセットできるカステリのエアロスーツを着て、エアロにこだわったセットアップだ。
綾野:僕はここ2年はGRXの2✕を使ってきて、とても気に入っています。実際、昨年は過去最速タイムで走れました。(2024年参戦記、2025参戦記)でも、今年は1✕で組んだバイクにも乗っています(グラベルバイク2台体制)。今回のアンバウンドにはその1✕バイクを選びました。

GRX RX827 Di2、FチェーンリングはWolfToothの48Tの1✕仕様 photo:Makoto AYANO
ニック:で、1✕はどうだい?
綾野:最初は懐疑的でした。でもまったく問題ないどころか、むしろ今は気に入っています。実はサーヴェロAspero5完成車(長期インプレ記事)にはじめからついてきたコンポが1✕のGRX(RX827)仕様で、目新しいモノ好きだからまずは試してみようと。で、結果的にはすごく気に入っています。最初は「ロー51Tスプロケットは大きすぎるのでは?」とか「ギアステップ(歯数差)が大きすぎてペダリングがギクシャクするのでは?」と思っていたけど、まったく気にならない。
ニック:そうだろう? 僕もかつてロードレーサーだったんだけど、1✕カセットの歯数差の大きさはグラベルでは気にならない。

ビッグリング✕ビッグリングの際のペダルの踏み応えの良さは使ってみないと分からない photo:Makoto AYANO
綾野:しかもそのバイクには最初からFチェンリングが48Tというビッグなエアロチェンリングがついていたんです。大きすぎるから44Tぐらいに交換しなきゃ、と思っていたけど、今回はそのままアンバウンドに来ました。
ニック:ワォ、君はなんて強いライダーなんだ!
綾野:いいえ、アベレージパワーの低い貧脚ライダーです(笑)。でも、ビッグなチェンリングとビッグなスプロケットの組み合わせが非常に良くて、ダイレクトなペダリングができますね。グイグイと進んでくれるので、理屈抜きにフィーリングが気に入っています。
ニック:わかる! そうなんだ、ビッグリング✕ビッグリングの掛け合わせはチェーンの屈曲が少ないから踏み応えがいいんだ。「ペダリング・エフィシェンシー(=駆動効率)が高い」と表現するね。多くのトッププロ選手はフロントに50Tといった大きなチェンリングを使っているよ。女子プロ選手なら君と同じ48Tが多いね。

女子トッププロ選手のハンナ・オットーさんと愛車のスコットADDICT GRAVEL。ドライブトレインは48T✕10-51T photo:Makoto AYANO
綾野:最初は「そのうちにFチェンリングを46Tか44Tぐらいに交換しよう」と思っていたんです。でも、その踏み心地の良さから、レースでなら48Tを使いたいと思って、そのままのギアでアンバウンドに来たんです。

46Tと44Tチェーンリング、165mmと160mmクランクが追加されたGRXチェーンホイール photo:Makoto AYANO
ニック:そんな要望に応えて、最近GRXのオプションに44Tと46Tの1✕用チェーンリング(新製品記事)がリリースされたね。44Tと46Tは10〜51Tスプロケットとあわせればレースや高速走行に向く組み合わせだよ。流行のショートクランクもラインアップしている。

46Tチェーンリングは高速走行に対応する 
確実なチェーンエンゲージメントを実現する1✕専用ギア形状
綾野:僕の貧脚パワーでは普段走るトレイルやグラベルツーリング的な走りなら42Tまで下げたいですけどね。48Tはレース限定です。

永田隼也とキャノンデール SuperX LAB71 photo:Makoto AYANO
2年連続出場の永田隼也はキャノンデールのレースモデル、SuperSix LAB71に乗る。コンポはDuraAceのSTIレバーにXTRのリアディレイラー、XTR10-51カセットというロード&MTBコンポのマレット(ミックス)仕様。当初は9-45TカセットにショートケージRDで組んだが、10−51Tカセット&ロングケージRDで組み替えたという。タイヤは前50C、後45Cのマレット。シューズはグラベルレースモデルの S-PHYRE RX910。(200マイル参戦レポートはこちら)
永田:僕も同じような理由で1✕をすっかり気に入ってしまいました。最初は9-45Tスプロケットで組んだけど、結局は10-51Tスプロケットに組み替えました(レース実走記事へ)。見た目に反してレースでも10-51Tのほうが使いやすいと感じます。ディレイラーは最軽量なXTRを選びましたが、GRXのRDとはほぼ共通する設計ですね。

永田隼也のバイクはDuraAce+XTRのミックスコンポ 48T✕10-51Tだ photo:Makoto AYANO
島田:1✕の場合、リアスプロケットは9-45Tを使う人、10-51Tを使う人、それぞれどれくらいの割合でしょうか?
ニック:人によるけど、大多数は10-51Tだね。トップ選手のなかには9-45Tを選ぶ人はいる。脚力やペダリングは人それぞれだからね。もちろん豪脚の持ち主なら9-45Tのギアステップの細かさは魅力。でも10-51Tを選んで間違いはないよ。
グラベルでは小さなギアステップはそんなに重要じゃないんだ。なぜなら急勾配ではすぐにスピードが落ちるし、むしろ大きく変速することが必要になる。細かく2回シフトするより1回で大きく変速できたほうが良いというのもあるね。

過酷なレースを走りきった永田隼也のドライブトレインは48TチェンリングとXTRのRDと10-51Tカセットの組み合わせ photo:Makoto AYANO
綾野:48T✕10-51Tはレースならかなり最適なギアだと感じています。僕の場合は調子良く走れているうちなら、ですが(笑)。そのギアは2✕仕様に換算すると、最大ローギア相当で31✕34Tとほぼ同じギアレシオなんです。やや高めで、保険になるローギアは無い。
ニック:そうだね! 計算上かなり近いレシオだ。それがレース向きだとイメージしやすいね。アドベンチャーライドならチェンリングを40か42を選べばいいし、2✕の場合はさらに低いレシオにできる11-36Tスプロケットがオススメだけどね。
綾野:僕は普段のグラベルライドなら2✕は11−36Tカセット一択です。過去2年もアンバウンドのレースのときだけ11-34Tにしてきました。
永田:僕も去年まで2✕派でしたが、1✕はダイレクトなペダリングフィールと、より太いタイヤが使えるのがメリット大!ですね。

島田真琴の愛車 オルベア TERRA Race+DuraAce2✕ (FDのみGRX) photo:Makoto AYANO
今回が初めてのグラベルレース出場という島田真琴の愛車はオルベア TERRA Race。コンポはDuraAceをメインに組み、チェーンホイールは50/34T、カセットは11-34T。フロントディレイラーのみリアタイヤとのクリアランスを広げるためにGRXを選択。コンポにDuraAceを選択した理由は「どのようなコンディションになるのか想像がつかなかったし、ロードでもシクロクロスでも使い慣れた、過酷な環境下でも安定した性能を発揮するDuraAceを使いたかった」と言う。
島田:僕はグラベル初心者で、イメージが無いから1✕スプロケットはギアステップ(歯数差)が大きすぎるだろうと思っていたんです。それが僕が2✕を選んだ理由です。僕はもともとロードレーサーで、かつ最近もシクロクロスを続けていて、ロードコンポに慣れています。だからやっぱり2✕を選んでしまいました。握り慣れているデュラエースのSTIレバーが使いたくて、デュラエースメインで組みました。

ドロップが浅いPRO DiscoverグラベルハンドルバーにDuraAceレバーを組み合わせる 
コンポはDuraAceだが、FディレイラーのみGRXにしてタイヤとの干渉を防ぐ
ニック:実際、シマノサポートのプロ選手もそのコンポ構成の選手は多くいたね。でも今年は1✕派が増えて、2✕派は少なくなってきている。その理由は....。
グラベルバイクはどちらかというとMTBに寄ったものだと思う。路面抵抗が大きくて、勾配が急になったり、凸凹でスピードがすぐに落ちる。だから大きく変速する必要がある。対してロードは路面がスムーズで惰性がつくからスピードが落ちにくく、細かく変速調整する必要があるんだ。まずそこが違いだと思う。

GRX RX827で構成した女子プロ選手のドライブトレイン photo:Makoto AYANO
そしてやっぱりタイヤの大ボリューム化が大きい。50C以上を使いたいとなると必然的に1✕になってしまう。もちろん細身のタイヤが有利なレースもあるけど、トレッドパターンやケーシング選択である程度調整できるからね。

アレックス・フェルムーネン(アメリカ)のレースバイクはGRX+DuraAce+XTRのミックスコンポ photo:Makoto AYANO
あとはどこに住んでいるかにも左右されるね。もしエンポリアに住んでいるなら、いつでもすぐ100%のグラベルに走りに行くことができる。だから1✕がメインバイクでいいかもしれない。
もしカリフォルニアに住んでいて、舗装路とグラベルの比率が50:50の割合だったり、お気に入りのグラベルまでの距離が遠い=舗装路を長く走ってアプローチするなら、2✕が向いているだろうね。つまりオールロード的なセッティングだ。
島田:あぁ、わかります。僕は大阪に住んでいて、グラベルに行くまでにかなりの距離の舗装路を走ります。だから2✕はフィットします。

多くのプロ選手が採用するDuraAce+XTRのマレット仕様コンポ photo:Makoto AYANO
ニック:アメリカでは最近、2✕のグラベルバイクを「オールロード」にカテゴライズする傾向があるね。僕はコロラドに住んでいて、急峻な山が近くにあって、スムーズなグラベルのネットワークも無数に広がっている。だから2✕オールロード的バイクと1✕グラベルバイクの2台を乗り分けているよ。
僕のオールロード系グラベルバイクは2✕で、F:50✕34T、R:11-34Tの組み合わせ。行動範囲を広くして、街の周辺を大きく走って楽しんでいる。

女子プロ選手のイザベル・キングはGRXの2✕仕様で走った photo:Makoto AYANO
お気に入りの山のトレイルに行くときは1✕のバイクで、10-51Tスプロケット。しかもフロントは38Tの小さいチェーンリング(XTR)で、急勾配のグラベルを登って楽しんでいるんだ。日本と同じようにコロラドにはバイクに乗って登れる林道が多いからね。つまりどこに住んでいるか、どのフィールドを好むかでチョイスすればいいね。
ニック:1✕のDi2はシンプルさがいいね。無線になるから組むのも簡単だし、操作だってシンプル。左の変速レバーが余るって? オススメはe-tubeアプリで右と同じようにリアの変速を割り当てるんだ。グラベルでは乗りながら頻繁に食べたり飲んだりする。右手で補給食を食べるときも左手で変速できれば便利でストレスがない。

ロードより幅の狭いエアロハンドルがグラベルレースでの流行。綾野は左STIレバーのスイッチも右同様の変速操作に割り当てている。 photo:Makoto AYANO
綾野:そうなんです! 最初はサイコンの操作に割り当てることも考えましたが、僕は右手のカメラで写真を撮りまくることもあって、左手側も変速に割り当てるといいことを発見しました。そして食べたり、飲んだり、左手で変速しながら利き手の右をいろいろな動作に使えるので本当に便利です。

本体に収まるGRX(RD-RX827)のDi2バッテリーは小型だ 
充電器も小型でUSB-Cケーブルを繋ぐ方式のためモバイルバッテリーでも充電が可能だ
そしてGRXのバッテリーは小型で軽いけど、だいたいビッグライド3回相当毎には充電するようにしています。長期ツーリングには小さくて軽い充電器を荷物に加えるだけ。
永田:長距離レースにはスペアバッテリーを持ってもいいかもしれないですね。とくに冬や雨が降るときは。
ニック:シマノのDi2は接点が水を被ることがないように工夫されているけど、レースや超ロングライドにスペアバッテリーをもつと安心だね。アメリカだと3日間以上走りっぱなしのようなウルトラディスタンスレースも盛んだし、ブルベなんかにも良いだろうね。だから1✕・Di2を選ぶというサイクリストも増えているよ。

漬け込み施工するホットワックスがチェーン潤滑の主流になってきた

湯煎してワックスを溶かすことでチェーンを漬け込む 
永田隼也が用意したワックス施工チェーン。本番前に未使用のものに取り替える
綾野:チェーン潤滑にワックスを使うことが主流になってきていますね。とくに1✕システムはナロー・ワイドになったチェンリングの歯先とチェーンの嵌合がキツくてゴロゴロしがちなので、ワックスだとそれが低減される印象です。音鳴りも少ない。
永田:僕もワックス化しました。でも過酷なグラベルレースではオイルとワックス、どちらがいいんでしょうか?とくに長距離で雨だとワックスは落ちてしまわないか心配です。
ニック:ワックスは摩擦が少なく、回転が軽くなってとてもいいよね。僕はいつでもワックスを使っている。汚れを寄せつけにくいからギアの摩耗も少ないし、回転抵抗が少ないからレースではワックスが速い。そのうえでレースではチェーンルブを持つといい。雨が降ってチェーンからワックスが落ちても、オイルを射せばいいんだ。
永田:オイルを?ミニボトルに入れたワックスを携帯するのはどうですか?
ニック:いや、ワックスは塗布してからしばらく乾かす必要があるんだ。レース中に乾くのを待てないから、オイルを射して応急的に対処するんだ。
島田:僕も完全にワックスに切り替えました。ワックスが切れたら上からオイルを射すので問題ないんですね? ワックスが保つのは何kmぐらいと考えればいいですか?

綾野はマックオフのLUDICROUS AFを使用。雨に流れないと評判の高性能オイルだが、降り続いた雨に再注油は必要だった photo:Makoto AYANO ニック:ノイズ(きしみ音)が発生しだしたらオイルを射せばいいんだ。ボクはチェーンの音で判断しているよ。当然雨が続けばワックスは早く切れる。オイルだって同様だ。ミニボトルで携帯するオイルは雨に強いウェットルブがオススメだね。レースが終わったら念入りにクリーニング&脱脂して、再びワックス処理すればいいんだ。
一同:なるほど!
ニック:チェックポイントにオイルのボトルを預けておくといいね。でも雨のなかグラベルを走る可能性が高いなら最初からポケットに持参して走るのがオススメだね。友人同士2人で走っているなら、お互いに射し合えばいいんだ。走りながら自分でチェーンにオイルを射すのはけっこう難しい。でも並走しながらならお互い射し合えばいいんだ。

雨の200マイルレース後の島田真琴のドライブトレイン。オイルをマメに射しながら走ったことでスムーズな回転が保てたという photo:Makoto AYANO
綾野:昨年は優勝したキャメロン・ジョーンズのチェーンに2位のシモン・ペローが走りながらオイルを射してあげていたのが話題になりましたね。ライバルなのに素晴らしいスポーツマンシップだと。
ニック:そう!クラッシーな(品格ある)行為だと評価されていたね。お互いに助け合うのがグラベルのいいところなんだ。

悪コンディションのレースに泥詰まりで苦戦する選手が多かった photo:Makoto AYANO
綾野:アンバウンドは2年ごとにコースが入れ替わり、今年は南ルートです。南は泥になることで有名ですよね。やっぱりピーナツバター泥が心配です。
ニック:そう、南ルートは緑が非常に美しい変化に富んだルートだね。泥の情報は少し出ているけど、僕なら今のところビッグタイヤ(50C)で行くだろうね。もし泥が酷いなら細いタイヤに交換するけど、その判断を待つだろう。ビッグタイヤのほうが有利だからね。3年前の2023年より、2015年は泥がもっとも酷い年だった。あのときのことは今でも覚えているよ。

泥を掻き出すペイントスティック。「誰かを助けるためにも2本持つといい」 photo:Makoto AYANO
アナログな対処法として、おなじみのスティックは2本持つんだ。万一に備えることと、人にあげて助けるためにね。でもスティックを使う前に、泥セクションにきたらバイクを担いで泥がつかないようにするのも重要。泥が積もるとバイクがすごく重くなるからね。だからすぐにストップすること。乗って行けるまで乗ろう、なんて考えないほうがいいんだ。バイクを壊さないことが重要だからね。

スティックを使って泥を掻き出す photo:Makoto AYANO
泥セクションがあるとレースペースが大きく落ちる。泥と格闘する時、自分だけじゃなく誰でも皆が苦しんでいる。皆が同じようにペースを落とすから、タイムは全体的に悪くなる。良い時もあれば悪いときもある。今は苦しくても、また調子よく走れる時が来る。グラベルレースはその繰り返しなんだ。だからいっときの感覚で諦めてはいけない。また良い時が来ると信じて走り続けるんだ。
ところで走り切るための良いニュートリション(栄養)プランはある? とくに200マイル以上は食べて・食べて・飲んで・食べて・飲んで・食べ続けることなんだ。僕は「イーティング・コンペティション」と呼んでいるよ。
島田:ジェルやMAULTENドリンクを用意しました。つまりハイカーボ(高炭水化物)サプリメントです。たくさん揃えると、とても高価です...。

レースでの補給戦略を話し合いながら準備を進める 
ハイカーボドリンクで炭水化物補給、ミネラルタブで汗で失う塩分と各種ミネラルを補給する
ニック:そうだね(笑)。ハイカーボはアマチュアレーサーの間でも常識になりつつある。練習時から摂取し慣れておく必要はあるけど。
永田:僕は昨年、疲れた胃がレース後もしばらく食べ物を受け付けず、苦しみました。そのあたりのトレーニングやノウハウも必要ですね。
ニック:ハイカーボドリンクは理にかなっているのと同時に、胃に優しいから胃痛や腹もたれしにくいのはいいね。それにしても10時間以上も水分や補給食を飲み食いし続けて走るグラベルレースはやっぱりアブノーマル(普通じゃない)!としか言いようがないね(笑)。
「アンバウンドで体験するあらゆる苦難が人生に役立つ」とは、今年グラベル殿堂入りしたメグ・フィッシャー(片脚の女性サイクリスト)の言葉だ。レースで苦痛を経験すれば、人生で遭遇する苦難も乗り越えられる、と。グラベルレースはメンタルも鍛えられる、つまりは人生のトレーニングなんだ。そう思えばレースに対する態度も変わってくるだろう? ぜひ素晴らしいレースを楽しんで来て。Good Luck!

アンバウンド・グラベル特集への度々の登場でお馴染みのニック・レーガン氏(シマノ・ノースアメリカ)は、グラベル黎明期からの普及活動により昨年「グラベルHoF(=殿堂)」入りを果たしたレジェンド。マーケットのトレンドを導きつつ、機材への造詣も深く、イベントやプロ選手のサポート等を通して動向を見つづけてきた人物。そんな氏に3人のノルンジャー(永田隼也、綾野真、島田真琴)が話を訊いた。トークテーマは「グラベルバイクのトレンド」だ。(この対談はレース前日に収録しています)


永田:また乗ルンジャーの仲間たちでアンバウンドにやって来ました。ノブさん(福田暢彦)は都合によりDNS、帰国することになってしまいましたが、4人が今年のレースに燃えています。
ニック:エンポリアへおかえりなさい! 新しい仲間が増えたね。ジュンヤ、君の去年のフィニッシュ後の様子からは、今年はもう来ないと思っていたよ!ゴール後にはほとんど死んでいたからね・笑!
永田:昨年のレースは本当にキツかったです。 とくにラスト100kmは気が遠くなりそうでした。その夜はシャンプーするのも大変でした。そして日本に帰ってからも骨折したりと、散々でした。
ニック:僕も最初のレースはそんな感じだったね。本当に苦しんだけど、皆一緒だよ。でも結局は皆がまたエンポリアに帰ってくるんだ。


島田:僕はグラベルレースは初めての完全初心者です。20年前はロードレースの選手でした。その後、今はシクロクロスやマウンテンバイクのレースにも出ています。でもレースどころかグラベルを走るのもほとんど初めて。200マイルに不安しかありません。
綾野:島田さんは20年前はプロロード選手でしたし、今もシクロクロスとMTBクロスカントリーではエリートクラスで上位に入るフィジカルの持ち主なんです。
ニック:初グラベルで200マイル挑戦はすごいね!でも君なら大丈夫だ。自身の限界を感じることがあるかもしれないが、きっと新たな自分を発見できるよ。ひとつアドバイスするとしたら、最初から飛ばさないことだね。なぜならレースは200マイルと長い。だからマイペースを守って、とくに最初は無理をしないこと。そして終盤にかけて徐々に上げていくことだね。僕は今年はサポートに徹するよ。エイドのシマノブースに居るから何かあれば言ってくれ。
綾野:僕は今年で5回目の100マイル参戦です。4回の完走はいつも少しだけ余裕がありましたが、毎回大変でした。こうしてニックさんに事前アドバイスをもらえるからうまく走れます。
Dirty KanzaからUnbound Gravelへ グラベル黎明期から20年の歩み
綾野:さて、20周年記念大会です。初期の時代や「ダーティカンザ」と呼ばれた頃のレースを振り返ると、今のアンバウンドとの違いは何か感じますか?
ニック:それはもう本当に大きな変化だ。2006年に34人で始まったイベントが、僕が参加した最初の年(2011年)は500人ぐらいの参加者数に。今や4,000人が集まるビッグイベントになった。じつに100倍以上の規模増大だ。通年でグラベルを走りに来るサイクリストも居て、エンポリアの経済にも大きな好影響があった。

かつての市街は空き店舗ばかりでゴーストタウンのようだったんだ。それが今や賑わいを取り戻している。アンバウンドが街の経済に一役買っているのは間違いない。今年のエキスポ(ブースエリア)はさらに拡大して、コマーシャルストリート(街いちばんの目抜き通り)を占有している。本当にクールだ。


そして、どの参加者も本当にナイスなグラベルバイクに乗っているね。そのどれもが凄いスペックのバイクで、もはやMTBやシクロクロスバイクで代用する選手はほとんど居ない。もちろんどんなバイクで走っても良いけど、皆がいい走りができるように良く研究している。個人的にはそれがたまらなくクールだ。
黎明期のグラベルバイクはシクロクロス車やMTBのカスタマイズから

アンバウンドの歴史が20年なら、グラベルバイクと言われる自転車が出てきたのはこの10年あまりと言っていいだろう。エンポリアのグラベルHoF(殿堂)のミニミュージアムには黎明期のバイクが飾ってある。それらはMTBやシクロクロスバイクをカスタマイズしたもの。象徴的なバイクを紹介しよう。




動画「アンバウンド・グラベル20年の歴史と歩み」
アンバウンド・グラベルにみるグラベルバイクの最新トレンド
綾野:今回はバイクの最新トレンドについて聞かせてください。今年のもっとも大きなトピックは32インチホイールの登場でしょうか。
ニック:そうだね! 昨年の200マイル覇者キャメロン・ジョーンズがスコットのプロトタイプの32インチホイールのバイクに乗るんだ。シマノもスポンサードしているプロライダーだから、カスタマイズしたコンポーネントをサポートしているんだ。

永田:32インチバイクは来年増えるでしょうか?
そう思うね。今年もしジョーンズが32インチで勝てなくても増えると思う。すでにいろんなメーカーが開発に着手しているという話がシマノには聞こえている。2年もすれば大多数になっている可能性もある。



32インチは700Cとの比較で3%速くなるというデータがあるけど、3%はあまりに大きな差だ。もちろん地形への向き・不向きはあるが、平坦に近い地形ならメリットが上回るだろうね。
島田:ジオメトリーが問題で、とくに小柄な人には設計に無理があると言われていますが?
ニック:いいや、確かに小さめサイズの適切なジオメトリーの開発には少し時間がかかるだろうが、すでにサルサがXSサイズを発表済みでこのアンバウンドにも持ち込んでいるし、時間の問題だろうね。大きめサイズに関してはなんら問題無い。
綾野:UCIが32インチを禁止することを心配していますが、どうでしょうか?
ニック:ハハハ。UCIが32インチを禁止することはできるけど、何よりアンバウンドはUCIのレースじゃないからUCI規則とは関係がないんだ。そして人は禁止されるほどそれが欲しくなるんだ。だから禁止されたらもっと増えるだろうね(笑)。アメリカ人のメンタリティはそんな感じだ。ヨーロッパでは少し違うだろうけど。
グラベルバイクは今だにいろんな進化と変化、試行錯誤が続いている。人々が探求心というエネルギーを注いで、いろんな新しいことを試そうとしているんだ。そういうところが本当に面白いね。
50Cタイヤが主流に? より太いマウンテンバイクタイヤを使う選手も


綾野:50Cタイヤが主流になりそうです。まだタイヤ選択肢が少なく、MTBのXCタイヤを使う選手も増えているようですね。
ニック:僕はもっと太くなると思っているよ。”ビッグタイヤ”の何がいいって、転がり抵抗が軽いんだ。僕も今50Cより太いタイヤを使っているけど、もっと太くしてもいいと思っている。重量増は問題じゃなく、速く快適に走れるんだ。

アンバウンドは泥の問題があるけど、50Cはミニマムだと思う。僕は2.1インチ(≒ 53mm)が好きだね。乗っていて楽しいし、荒れたグラベルの表面を滑るように走れるんだ。コーナリングだって攻められるし、パンクも少ない。メリットだらけでもう細いタイヤに戻れないよ。僕は今LaufのFサスフォークを使っているんだ。2.25インチ(≒ 57mm)も可能で、クリアランスが大きいから泥だって平気だ。

雨で確実に泥になるなら細くするけれど、天気予報をギリギリまで待って、なるべく太いタイヤで走りたいね。ところで君たちのタイヤの太さは?
綾野:45Cです。フレームのリミットが45mmなんです。50mmもつくけど、フレームとのクリアランスが少ないから泥が心配で。センタースリック系タイヤを選んだので泥の付着は少ないかもしれません。でもグリップは良くないでしょうからコーナリングはシビアになりますね。それが心配事です。
島田:僕のバイクも45Cまでで、アメリカよりヨーロッパのマーケットに向けて設計されたものだと思います。UCIグラベルレース系の設計とも言えるかもしれません。
永田:僕はフロント50Cにリア45Cです。リアがややクリアランスが少ないので泥づまりを警戒してのマレット(前後で異なる)仕様です。

ニック:逆に欧州のUCIグラベルレースは高速化していて、40C以内の細目のタイヤで走れるレースも多くある。昨年のグラベル世界チャンピオンのフロリアン・フェルミールス(ベルギー)は35Cタイヤで勝ったし、そのレースは春のクラシックレースのような高速コースだったね(記事)。エキスポに飾ってあるマチュー・ファンデルプールのグラベルバイクもタイヤ太めのエアロロードバイクのようなマシン。UCIグラベルの傾向はアンバウンドとは違うと言えるね。

1✕(ワンバイ)or 2✕(ツーバイ)? フロントシングルが主流に
永田:今年はとくに1✕(ワンバイ)ドライブトレインが急速に普及したように見えます。GRXにも昨年1✕が出揃いましたね。僕はXTRとDuraAceのミックスコンポですが、1✕にしました。
ニック:そうだね。ほとんどが1✕になってきている。理由は太いタイヤが使えることと、ここアンバウンドではマッド対策としてタイヤクリアランスが大きいのが有利なんだ。2✕はFディレイラーがある制約でタイヤ幅はどうしても45C以下に限られるし、泥詰まりに対して弱くなるから。1✕ならFDとインナーチェンリングが無いことで、太いタイヤが使えるからね。
綾野:トップ選手たちのスピードは40km/hに近いから、集団で走っていると路面の穴や岩を避けられない。パンクしないためにも太いタイヤは役立つと聞いています。
ニック:でも2✕を好む人もいて、それも理解できる。ギアステップ(刻み)が細かいから、とくにロード出身の人はこだわるね。でもますます少数派になってきている。
昨年プロクラスに優勝したキャメロン・ジョーンズのバイクはGRXの2✕仕様だったし、他の多くのカテゴリーでも2✕の選手が優勝した。それがどうだ、今年はすっかり1✕が主流だ。

綾野 真:サーヴェロ Aspero5 GRX 1✕

100マイルレースに5年連続出場の綾野真(シクロワイアード)の今回の愛車はサーヴェロ Aspero5。GRX Di2(RX827)の1✕、FチェーンリングはWolfToothの48Tという完成車スペック。出発直前に発売開始されたGRXの46Tチェーンリングへの交換を迷ったが、結局そのままで行くことにした。リザーヴ40/44GRホイールにタイヤはパナレーサーGRAVELKING X1の45C。ハンドルは360mm幅、背中のポケットに給水用ブラダーをセットできるカステリのエアロスーツを着て、エアロにこだわったセットアップだ。
綾野:僕はここ2年はGRXの2✕を使ってきて、とても気に入っています。実際、昨年は過去最速タイムで走れました。(2024年参戦記、2025参戦記)でも、今年は1✕で組んだバイクにも乗っています(グラベルバイク2台体制)。今回のアンバウンドにはその1✕バイクを選びました。

ニック:で、1✕はどうだい?
綾野:最初は懐疑的でした。でもまったく問題ないどころか、むしろ今は気に入っています。実はサーヴェロAspero5完成車(長期インプレ記事)にはじめからついてきたコンポが1✕のGRX(RX827)仕様で、目新しいモノ好きだからまずは試してみようと。で、結果的にはすごく気に入っています。最初は「ロー51Tスプロケットは大きすぎるのでは?」とか「ギアステップ(歯数差)が大きすぎてペダリングがギクシャクするのでは?」と思っていたけど、まったく気にならない。
ニック:そうだろう? 僕もかつてロードレーサーだったんだけど、1✕カセットの歯数差の大きさはグラベルでは気にならない。

綾野:しかもそのバイクには最初からFチェンリングが48Tというビッグなエアロチェンリングがついていたんです。大きすぎるから44Tぐらいに交換しなきゃ、と思っていたけど、今回はそのままアンバウンドに来ました。
ニック:ワォ、君はなんて強いライダーなんだ!
綾野:いいえ、アベレージパワーの低い貧脚ライダーです(笑)。でも、ビッグなチェンリングとビッグなスプロケットの組み合わせが非常に良くて、ダイレクトなペダリングができますね。グイグイと進んでくれるので、理屈抜きにフィーリングが気に入っています。
ニック:わかる! そうなんだ、ビッグリング✕ビッグリングの掛け合わせはチェーンの屈曲が少ないから踏み応えがいいんだ。「ペダリング・エフィシェンシー(=駆動効率)が高い」と表現するね。多くのトッププロ選手はフロントに50Tといった大きなチェンリングを使っているよ。女子プロ選手なら君と同じ48Tが多いね。

綾野:最初は「そのうちにFチェンリングを46Tか44Tぐらいに交換しよう」と思っていたんです。でも、その踏み心地の良さから、レースでなら48Tを使いたいと思って、そのままのギアでアンバウンドに来たんです。

ニック:そんな要望に応えて、最近GRXのオプションに44Tと46Tの1✕用チェーンリング(新製品記事)がリリースされたね。44Tと46Tは10〜51Tスプロケットとあわせればレースや高速走行に向く組み合わせだよ。流行のショートクランクもラインアップしている。


綾野:僕の貧脚パワーでは普段走るトレイルやグラベルツーリング的な走りなら42Tまで下げたいですけどね。48Tはレース限定です。
永田隼也:キャノンデール SuperSix LAB71 DuraAce&XTR 1✕

2年連続出場の永田隼也はキャノンデールのレースモデル、SuperSix LAB71に乗る。コンポはDuraAceのSTIレバーにXTRのリアディレイラー、XTR10-51カセットというロード&MTBコンポのマレット(ミックス)仕様。当初は9-45TカセットにショートケージRDで組んだが、10−51Tカセット&ロングケージRDで組み替えたという。タイヤは前50C、後45Cのマレット。シューズはグラベルレースモデルの S-PHYRE RX910。(200マイル参戦レポートはこちら)
永田:僕も同じような理由で1✕をすっかり気に入ってしまいました。最初は9-45Tスプロケットで組んだけど、結局は10-51Tスプロケットに組み替えました(レース実走記事へ)。見た目に反してレースでも10-51Tのほうが使いやすいと感じます。ディレイラーは最軽量なXTRを選びましたが、GRXのRDとはほぼ共通する設計ですね。

島田:1✕の場合、リアスプロケットは9-45Tを使う人、10-51Tを使う人、それぞれどれくらいの割合でしょうか?
ニック:人によるけど、大多数は10-51Tだね。トップ選手のなかには9-45Tを選ぶ人はいる。脚力やペダリングは人それぞれだからね。もちろん豪脚の持ち主なら9-45Tのギアステップの細かさは魅力。でも10-51Tを選んで間違いはないよ。
グラベルでは小さなギアステップはそんなに重要じゃないんだ。なぜなら急勾配ではすぐにスピードが落ちるし、むしろ大きく変速することが必要になる。細かく2回シフトするより1回で大きく変速できたほうが良いというのもあるね。

綾野:48T✕10-51Tはレースならかなり最適なギアだと感じています。僕の場合は調子良く走れているうちなら、ですが(笑)。そのギアは2✕仕様に換算すると、最大ローギア相当で31✕34Tとほぼ同じギアレシオなんです。やや高めで、保険になるローギアは無い。
ニック:そうだね! 計算上かなり近いレシオだ。それがレース向きだとイメージしやすいね。アドベンチャーライドならチェンリングを40か42を選べばいいし、2✕の場合はさらに低いレシオにできる11-36Tスプロケットがオススメだけどね。
綾野:僕は普段のグラベルライドなら2✕は11−36Tカセット一択です。過去2年もアンバウンドのレースのときだけ11-34Tにしてきました。
永田:僕も去年まで2✕派でしたが、1✕はダイレクトなペダリングフィールと、より太いタイヤが使えるのがメリット大!ですね。
島田真琴:オルベア TERRA Race DuraAce2✕ (FDのみGRX)

今回が初めてのグラベルレース出場という島田真琴の愛車はオルベア TERRA Race。コンポはDuraAceをメインに組み、チェーンホイールは50/34T、カセットは11-34T。フロントディレイラーのみリアタイヤとのクリアランスを広げるためにGRXを選択。コンポにDuraAceを選択した理由は「どのようなコンディションになるのか想像がつかなかったし、ロードでもシクロクロスでも使い慣れた、過酷な環境下でも安定した性能を発揮するDuraAceを使いたかった」と言う。
島田:僕はグラベル初心者で、イメージが無いから1✕スプロケットはギアステップ(歯数差)が大きすぎるだろうと思っていたんです。それが僕が2✕を選んだ理由です。僕はもともとロードレーサーで、かつ最近もシクロクロスを続けていて、ロードコンポに慣れています。だからやっぱり2✕を選んでしまいました。握り慣れているデュラエースのSTIレバーが使いたくて、デュラエースメインで組みました。


ニック:実際、シマノサポートのプロ選手もそのコンポ構成の選手は多くいたね。でも今年は1✕派が増えて、2✕派は少なくなってきている。その理由は....。
グラベルバイクはどちらかというとMTBに寄ったものだと思う。路面抵抗が大きくて、勾配が急になったり、凸凹でスピードがすぐに落ちる。だから大きく変速する必要がある。対してロードは路面がスムーズで惰性がつくからスピードが落ちにくく、細かく変速調整する必要があるんだ。まずそこが違いだと思う。

そしてやっぱりタイヤの大ボリューム化が大きい。50C以上を使いたいとなると必然的に1✕になってしまう。もちろん細身のタイヤが有利なレースもあるけど、トレッドパターンやケーシング選択である程度調整できるからね。

あとはどこに住んでいるかにも左右されるね。もしエンポリアに住んでいるなら、いつでもすぐ100%のグラベルに走りに行くことができる。だから1✕がメインバイクでいいかもしれない。
もしカリフォルニアに住んでいて、舗装路とグラベルの比率が50:50の割合だったり、お気に入りのグラベルまでの距離が遠い=舗装路を長く走ってアプローチするなら、2✕が向いているだろうね。つまりオールロード的なセッティングだ。
島田:あぁ、わかります。僕は大阪に住んでいて、グラベルに行くまでにかなりの距離の舗装路を走ります。だから2✕はフィットします。

ニック:アメリカでは最近、2✕のグラベルバイクを「オールロード」にカテゴライズする傾向があるね。僕はコロラドに住んでいて、急峻な山が近くにあって、スムーズなグラベルのネットワークも無数に広がっている。だから2✕オールロード的バイクと1✕グラベルバイクの2台を乗り分けているよ。
僕のオールロード系グラベルバイクは2✕で、F:50✕34T、R:11-34Tの組み合わせ。行動範囲を広くして、街の周辺を大きく走って楽しんでいる。

お気に入りの山のトレイルに行くときは1✕のバイクで、10-51Tスプロケット。しかもフロントは38Tの小さいチェーンリング(XTR)で、急勾配のグラベルを登って楽しんでいるんだ。日本と同じようにコロラドにはバイクに乗って登れる林道が多いからね。つまりどこに住んでいるか、どのフィールドを好むかでチョイスすればいいね。
電動変速はマスト ますます無線化に向かう?
永田:もちろんDi2は主流ですね。無線化したDi2システムはあらゆる面でラクですね。変速もパワフルでチェーンも暴れず、荒れた路面でもチェーンが外れる心配がないのでストレスが無いです。ニック:1✕のDi2はシンプルさがいいね。無線になるから組むのも簡単だし、操作だってシンプル。左の変速レバーが余るって? オススメはe-tubeアプリで右と同じようにリアの変速を割り当てるんだ。グラベルでは乗りながら頻繁に食べたり飲んだりする。右手で補給食を食べるときも左手で変速できれば便利でストレスがない。

綾野:そうなんです! 最初はサイコンの操作に割り当てることも考えましたが、僕は右手のカメラで写真を撮りまくることもあって、左手側も変速に割り当てるといいことを発見しました。そして食べたり、飲んだり、左手で変速しながら利き手の右をいろいろな動作に使えるので本当に便利です。


そしてGRXのバッテリーは小型で軽いけど、だいたいビッグライド3回相当毎には充電するようにしています。長期ツーリングには小さくて軽い充電器を荷物に加えるだけ。
永田:長距離レースにはスペアバッテリーを持ってもいいかもしれないですね。とくに冬や雨が降るときは。
ニック:シマノのDi2は接点が水を被ることがないように工夫されているけど、レースや超ロングライドにスペアバッテリーをもつと安心だね。アメリカだと3日間以上走りっぱなしのようなウルトラディスタンスレースも盛んだし、ブルベなんかにも良いだろうね。だから1✕・Di2を選ぶというサイクリストも増えているよ。
チェーン潤滑はワックスが主流に



綾野:チェーン潤滑にワックスを使うことが主流になってきていますね。とくに1✕システムはナロー・ワイドになったチェンリングの歯先とチェーンの嵌合がキツくてゴロゴロしがちなので、ワックスだとそれが低減される印象です。音鳴りも少ない。
永田:僕もワックス化しました。でも過酷なグラベルレースではオイルとワックス、どちらがいいんでしょうか?とくに長距離で雨だとワックスは落ちてしまわないか心配です。
ニック:ワックスは摩擦が少なく、回転が軽くなってとてもいいよね。僕はいつでもワックスを使っている。汚れを寄せつけにくいからギアの摩耗も少ないし、回転抵抗が少ないからレースではワックスが速い。そのうえでレースではチェーンルブを持つといい。雨が降ってチェーンからワックスが落ちても、オイルを射せばいいんだ。
永田:オイルを?ミニボトルに入れたワックスを携帯するのはどうですか?
ニック:いや、ワックスは塗布してからしばらく乾かす必要があるんだ。レース中に乾くのを待てないから、オイルを射して応急的に対処するんだ。
島田:僕も完全にワックスに切り替えました。ワックスが切れたら上からオイルを射すので問題ないんですね? ワックスが保つのは何kmぐらいと考えればいいですか?

一同:なるほど!
ニック:チェックポイントにオイルのボトルを預けておくといいね。でも雨のなかグラベルを走る可能性が高いなら最初からポケットに持参して走るのがオススメだね。友人同士2人で走っているなら、お互いに射し合えばいいんだ。走りながら自分でチェーンにオイルを射すのはけっこう難しい。でも並走しながらならお互い射し合えばいいんだ。

綾野:昨年は優勝したキャメロン・ジョーンズのチェーンに2位のシモン・ペローが走りながらオイルを射してあげていたのが話題になりましたね。ライバルなのに素晴らしいスポーツマンシップだと。
ニック:そう!クラッシーな(品格ある)行為だと評価されていたね。お互いに助け合うのがグラベルのいいところなんだ。
タイヤクリアランスと泥対策、補給食プラン

綾野:アンバウンドは2年ごとにコースが入れ替わり、今年は南ルートです。南は泥になることで有名ですよね。やっぱりピーナツバター泥が心配です。
ニック:そう、南ルートは緑が非常に美しい変化に富んだルートだね。泥の情報は少し出ているけど、僕なら今のところビッグタイヤ(50C)で行くだろうね。もし泥が酷いなら細いタイヤに交換するけど、その判断を待つだろう。ビッグタイヤのほうが有利だからね。3年前の2023年より、2015年は泥がもっとも酷い年だった。あのときのことは今でも覚えているよ。

アナログな対処法として、おなじみのスティックは2本持つんだ。万一に備えることと、人にあげて助けるためにね。でもスティックを使う前に、泥セクションにきたらバイクを担いで泥がつかないようにするのも重要。泥が積もるとバイクがすごく重くなるからね。だからすぐにストップすること。乗って行けるまで乗ろう、なんて考えないほうがいいんだ。バイクを壊さないことが重要だからね。

泥セクションがあるとレースペースが大きく落ちる。泥と格闘する時、自分だけじゃなく誰でも皆が苦しんでいる。皆が同じようにペースを落とすから、タイムは全体的に悪くなる。良い時もあれば悪いときもある。今は苦しくても、また調子よく走れる時が来る。グラベルレースはその繰り返しなんだ。だからいっときの感覚で諦めてはいけない。また良い時が来ると信じて走り続けるんだ。
ところで走り切るための良いニュートリション(栄養)プランはある? とくに200マイル以上は食べて・食べて・飲んで・食べて・飲んで・食べ続けることなんだ。僕は「イーティング・コンペティション」と呼んでいるよ。
島田:ジェルやMAULTENドリンクを用意しました。つまりハイカーボ(高炭水化物)サプリメントです。たくさん揃えると、とても高価です...。


ニック:そうだね(笑)。ハイカーボはアマチュアレーサーの間でも常識になりつつある。練習時から摂取し慣れておく必要はあるけど。
永田:僕は昨年、疲れた胃がレース後もしばらく食べ物を受け付けず、苦しみました。そのあたりのトレーニングやノウハウも必要ですね。
ニック:ハイカーボドリンクは理にかなっているのと同時に、胃に優しいから胃痛や腹もたれしにくいのはいいね。それにしても10時間以上も水分や補給食を飲み食いし続けて走るグラベルレースはやっぱりアブノーマル(普通じゃない)!としか言いようがないね(笑)。
「アンバウンドで体験するあらゆる苦難が人生に役立つ」とは、今年グラベル殿堂入りしたメグ・フィッシャー(片脚の女性サイクリスト)の言葉だ。レースで苦痛を経験すれば、人生で遭遇する苦難も乗り越えられる、と。グラベルレースはメンタルも鍛えられる、つまりは人生のトレーニングなんだ。そう思えばレースに対する態度も変わってくるだろう? ぜひ素晴らしいレースを楽しんで来て。Good Luck!
text&photo:綾野 真、photo : Life Time、提供:シマノ