CONTENTS
新型GRXをアンバウンド・グラベルで実走インプレッション。CW編集部の綾野真がピーター・ステティナやシマノ開発者・原田氏らにアドバイスを受けて100マイルレースを走るという実戦インプレ企画だ。同時にグラベルライド全般に役立つノウハウを掘り下げながらバイクセットアップの最適解を探ってみた。

chapter2KAHA +シマノGRX RX825 Di2 photo:Makoto AYANO

発表されたばかりの新型GRXコンポ一式を受け取ったのは5月10日、アンバウンド・グラベルへの出発の2週間前のことだった。あらかじめ用意してあったchapter2 KAHAのフレームを用いて、サイクルハウスMIKAMIの三上店長にお願いして急遽組み立ててもらった。ギリギリである。

急遽組付けてくれた、グラベルバイクに詳しいサイクルハウスMIKAMIの三上和志さん
前後ブレーキ油圧ホースとドロッパーのケーブルを内装する。たった3本で済むためハンドリングにも影響が少ない


ちなみに1日で組み上げてくれた三上さんによれば、「変速系の配線が無線化されたためプロなら組むのは簡単。シマノ105とほぼ共通でした」とのことだった。一体型ハンドルを用いたケーブルフル内装でのビルドアップだったが、ケーブルが少ないぶんドロッパーポストを使用する余裕が十分にあった。「もしこれがメカニカルコンポだとケーブルは5本になり、フル内装フレームだと組む難易度がかなり上がるでしょう」とのこと。Di2&無線式の恩恵はまずここに。ケーブルの少なさはハンドルの切りやすさ、ハンドル周りのセッティング自由度の高さにも貢献している。

補給食や装備を収納するORUCASEハンドルバーバッグ
ダイレクトマウントしたORUCASEのトップチューブバッグにエナジージェルなどを入れた


GRX RX825 Di2コンポーネント photo:Makoto AYANO

組み上がってから出発までに乗れる日は3日間のみで、300kmほど乗り込んだ。グラベルには入らず、ポジションを調整するためにオンロードでじっくり乗り込んで、最後にコラムカットしてステム高を決めた。オフロードで乗るバイクとはいえ、長丁場のグラベルレースではバイクが身体に完全にフィットしていることは重要だ。

サドルを下げられるドロッパーシートポストを使用した
ドロッパー操作レバーをドロップ部に設置した


グラベルのポジションはロードとは少々違っていると思う。参考までに、ロードバイクより約1.5cm高いハンドル高にした。ブラケットフードに手を添えたときは気持ち高めに感じるけれど、ドロップ部をより積極的に握れるようにと考えた。グラベル専用設計の一体型ハンドルは下部に向けて12°フレアした形状で、上部幅が370mmと狭めで、ドロップ部幅470mmという設計。フード部を握った際のエアロとダウンヒルでの安定したハンドリングを両立している。だからそれに沿ったポジションを試走で煮詰めてセッティングしてみた。

ケーブル内装フレーム&ハンドルはバックやアクセサリー取り付けにもメリット photo:Makoto AYANO

最新のグラベルレーシングフレームはリーチが伸びているし、シートピラーもゼロオフセットが前提で、ロードバイクに寄せた設計だ。GRXのSTIレバーはロードレバーより前方に3mmほど長く伸びているので、その分ステム長を短くする必要もある。

後になって思えばこうしたライディングポジションの煮詰め作業が良く効いて、100マイルレース中も常にベストポジションを感じて走ることができた。

ワイドタイヤ対応内幅25mmリムはエアボリュームの大きさもメリット photo:Makoto AYANO

ホイールには新型GRXに相当するWH RX880ホイールをセット。スプロケットは11-34Tと11-36Tの2種をあらかじめ揃えた。基本は34Tを使い、36Tは普段のライド用として。そしてレースではデュラエースの34Tを使うことに。もともとGRXコンポに含まれる34Tスプロケットはアルテグラのものなので、デュラエースとも歯数構成は同じ。ならばレースでは軽いデュラエースを使おうと、ロードバイクに使用しているスプロケに交換して渡米した。87g軽量化できる計算だ。

GRX用スプロケットにはCS-R8101(左/11-34T)とHG710(右/11-36T)の2つがラインアップされる photo:Makoto AYANO

R8100スプロケット(11-34T)は341g
デュラエースのスプロケットはわずか254g


バッグ類は使い慣れたORUCASEを中心に、容量の異なる数種のバッグを用意して天候に合わせてチョイスするつもりで。アクセスの良いトップチューブバッグは必ず使い、パンク修理キットや補給食を詰め込むハンドルバーバッグは揺れの少ないもので。そして雨予報ならカメラやスマホを丸ごと収納できるよう防水仕様のORTLIEBのサドルバッグを使う。このあたりのノウハウは過去走った経験から。

前日の試走会「シェイクアップライド」で路面状況を把握する photo:Makoto AYANO

前日までのコース試走でグラベルの感触を確かめ、バイクのセットアップを決めた photo:Tabuchin

カンザス入りしてからユーチューバーのけんたさん、インフルエンサーの神楽坂つむりさんとも面会し、一眼カメラを持つべきか・持たないべきか、3人で悩んだ。私の過去の経験からは重いカメラを持っても撮れず、雨と泥のせいで壊してきた経験をお伝えした。そして自分でもレース当日まで天気とにらめっこで悩むことに。

レース前夜、パナレーサーハウスに日本人エントラントが集った photo:Makoto AYANO

レース当日の天気予報は晴れ。これで取り付けるバッグは最小限に。しかし暑くなることを見越してボトルを3本取り付けるためにダウンチューブ下部にもケージを増設。路面がかなり荒れているという情報に、ガレ場でボトルを落下させないようホールド力の高い形状のケージを使用した。そしてパンク修理の用意を手厚くすることに。

好天予報にボトルを3本に増設した photo:Tabuchin
泥対策の掻き出しスティックは必需品だ


背負ったキャメルバック レインギアやスマホ、モバイルバッテリーを収納
用意した補給食。暑くなったのでジェル系を主に使用した


暑さ対策としてPOCのミラーレンズのゴーグルとメッシュのウェア、雨対策として軽量レインジャケット、そして泥を掻き出すスティック(へら)は持ったが、降水確率が低いことで過去イチの軽装となった。

3度目のアンバウンド・グラベル100マイルレース挑戦


7:30のスタートを待つ。自己申告6時間台は猛者ばかり photo:Makoto AYANO

スタートは自己申告により6時間台の隊列に並んだ。これが最速グループだ。国歌斉唱の厳かな雰囲気のなか、朝7時半にスタート。MCの派手な盛り上げが気分を奮い立たせてくれる。100マイルクラスは1,500人もの参加者が一斉スタートする超人気クラスだ。

ハイスピードでグラベルに突入すると白煙が上がった photo:Makoto AYANO

スタート直後からペースが速く、大集団はロードレースのようなスピードで舗装路を滑走していく。その間にポジションを上げていこうとするが、速すぎて思うように位置を上げることができなかった。シクロクロスでのダッシュには自信があったのに、これは意外だった。皆が速いのだ。

地元エンポリアはグラベルライダーたちを大歓迎 photo:Snowy Mountain Photography

エンポリアの街外れからさっそくグラベルに突入。きめ細かな締まった砂利道に白煙が上がる。集団は長く伸びつつもそのスピードは落ちない。どうやら自己申告6時間台は猛者揃いで相当に速い、と遅まきながら気付いた。そういえば去年は7時間帯列に並んだから、レベルが一段上のようだ。集団のスピードにあわせて流すつもりが、脚がいっぱいになり、ずるずると後退してしまう。序盤で無理をするわけにもいかず、最後まで脚を残すべく小まめにギアチェンジしてつなぐ走りに。

100マイルレースの先頭集団がグラベルを突き進む photo:Arron Davis

同クラスの日本人選手たちも速かった。昨年女子4位で表彰台に上がった竹村舞葉さんはパートナーの中曽佑一さんとペア走行で飛ばし、前方に消えていった。そして日本中のグラベルイベントほとんどすべてを走っている森廣真奈さんもいいペースで飛ばしている。

ペアで好走する中曽佑一と竹村舞葉さん photo:Arron Davis
森廣真奈さんは2度目の挑戦で100マイル女子年代別4位に photo:Arron Davis



しばらく森廣さんと同じグループで走ったが、その集団が結構速かったので離れることに。タンデムで参加しているカップルを何組か見かけるが、例外なく速いので驚く。力の揃った2馬力は平坦グラベルでは速いのだ。

爆走するタンデムペアが引く集団で走る森廣真奈さん photo:LifeTime

乾いたグラベルは走っていて気持ちがいい。35km/hオーバーのスピードで快走するのはグラベルレースの醍醐味だ。しかしグループが速すぎると消耗するので、脱落しては後方から来た別のグループに乗り換えるという走りを繰り返すことに。

グラベルに入ってあまりのハイスピードに脚が悲鳴をあげはじめた photo:LifeTime

70km地点の丘で、先を行っていた舞葉さん中曽さんペアが停まっていた。路肩に座り込んだ中曽さんはおそらく脱水になったようで、顔面蒼白で完全にストップしてしまう。今回は第1チェックポイントが87km地点と遠く、暑くなれば水が足りなくなってしまう恐れがあったが、午前はずっと涼しい曇り空だったことが幸いして給水量は少なかった。しかし運動強度が高いぶん水分は確実に身体から抜けているので、意識して水を飲んでいないと脱水を起こしてしまうのだ。「CPで飲めるだけ水を飲んだほうがいい」と伝えて先に行くことに。

脱水症状で路肩に座り込む中曽さん photo:Makoto AYANO

延々と続くグラベルのアップダウン photo:Makoto AYANO

LEGION STUDIUMチェックポイントに着く。有料サービスの「Crew for Hire」(45$)に申し込んであったので、指定エリアに駆け込んで冷えた缶コーラをいただき、まさに生き返る気持ちがした。ここではジェルや補給食を好きなだけ受け取れるので、このサービスに申し込んでいれば第1CPまでの補給食さえ持ってスタートすれば良いので、とても助かる。つまりサポーター無しの単身参加も可能なのだ。

CP1に到着。指定されたエリアを探して向かう
Crew for Hireではボランティアスタッフが手伝ってくれる


エイドでは子供ボランティアがヘルプしてくれる
冷えた缶コーラは生き返るような美味しさ


日が射して暑くなってきたのでリキッド系のエナジージェルを中心に5本ほどポケットに詰め込み、走り出す。昨年は足攣りが続いて辛い思いをしたが、今年はここまでにミネラル系タブを溶かしたドリンクを飲んでいたので脚は良い状態で持ちこたえていた。それでも高速走行での消耗はかなりのもの。

荒れたグラベルの急坂を押して登るエントラント photo:Makoto AYANO

後半になるにつれ、だんだんと道がガレてくる。尖った石が目立ち、路肩でパンク修理している選手が目立つようになる。「ドロッパーポストは不要」と前ページで言ったものの、使うことも多くなる。そんなテクニカルでガレた下りでは歩く選手が多かった。MTBも好きで日本の林道やトレイルに慣れている自分はバイクを降りるほどじゃないが、多くの選手が歩いていることを考えるとテクニックが無い人にはドロッパーが有効だと思う。300gほどの重量増になるが、その区間ドロッパーを使うことで乗ったまま下れるとしたら帳消しにできる話だ。

勢いをつけてリバークロッシングをこなす photo:North404photography

同じように、パンクが続出していたガレ場の下りも、自分はラインを見て下れたのでパンクはなかった。シクロクロスをやってきた経験も活きたと思う。尖った石を避けたラインを狙ってタイヤを通せる人なら、パンクの頻度は少なくできると思う。つまり軽量なタイヤを使えることにもつながる。

急勾配のアップダウンが脚を削っていく photo:LifeTime

130km地点に湖リゾートが出現 photo:Makoto AYANO

爽やかに拓けた風景が続いた132km地点、SUPを楽しむ人が遊ぶ湖の先にKAHORA HILLが待っていた。空へ続くような勾配6%・長さ695mの急坂を、選手が蛇行しながらよじ登る。「Good Job! Great Job!」とボランティアが声援を送ってくれるなか、脚は悲鳴を上げるが足を着くことなく登りきれた。ここでもアメリカ人はすぐ歩き出していたが、比較して体重が軽い日本人は上りが得意なんだろう、と思った。

空に向かって登るKAHOLA HILL photo:Makoto AYANO

360°パノラマが楽しめるKAHORA HILLを登る photo:Makoto AYANO

頂上からは360°の絶景パノラマ。そしてここからはひたすら直線的な高速グラベルが続いた。残り40マイル(64km)、脚は限界が近づいているけど、後半のスピード感と疾走感は爽快そのもの。見渡す限りの平原を、脚の合う・気の合う選手たちと先頭交代しながら飛ばし続ける。「何処からきたの?」と陽気に話しかけてきたライダーと仲良くなった。(後でStarava上でもつながった)

大草原のグラベル。走り抜ける選手を牛の群れが見つめる photo:Makoto AYANO

先頭交替を繰り返すうち仲間になったライダーと photo:Makoto AYANO

快調に飛ばしながらも、常に脚が攣らないように心がけていた。登りの繰り返しで脚が痛みだすが、痙攣の兆しがあればすぐにギアを落とし、先頭を替わってもらう。ギリギリを攻めてペダルを回し続ける。

細かな砂のグラベルから先で路面が荒れるのが分かる photo:Makoto AYANO

昨年までの2年間で走った南ルートは後半に厳しいアップダウンが続いたが、北ルートの後半は平坦基調だったのが助かった。同じグループになった15人ほどが公平に先頭を回し、ハイスピードを保ち続けた。

広大なカンザス大平原のグラベルを走る photo:LifeTime

エンポリアの街が近づくと舗装路パートも増えてきて、前後のグループが合体して大きな集団になった。調子に乗って先頭を引いていたら突然の足攣り。ラスト3kmのグラベル区間でそのグループから脱落してしまい、それだけで順位は20位くらい違ったかもしれない。

3度目の100マイルレースをフィニッシュ。タイムは6時間53分38秒 photo:LifeTime

MCがマイクで名前をコールしてくれるなか、エンポリアの大通り「コマーシャルストリート」を走り抜け、観客の大歓声に包まれてフィニッシュ。豪華な完走メダルとフィニッシャーグラスを受け取り、感激の時間に浸る。アンバウンドグラベルでは、完走者全員が勝者で、すべての選手に対して惜しみない称賛が送られる。この体験はほかでは味わえない。

100マイル=160kmでなく実測で174kmもあったが、3度目の100マイルレース挑戦も無事走り切れた。しかも昨年より1時間35分も速い過去最速タイムで、「サブ7」を達成することができた。

6時間53分38秒で完走。昨年より1時間35分も速い過去最速タイム photo:Makoto AYANO
走行データ
タイム 6時間53分38秒
獲得標高 1,528m
走行距離 174.74km
平均時速 25.2km/h
総合順位 405位/1429人
男子順位 349位/1192人
M50-59クラス 99位/ 391人
バイクやウェアは乾いた砂埃まみれで真っ白に。雨に降られることもなく、泥がなかったのも初めての経験だ。過去3年で最高の好条件で快走することができた。そしてすぐに拠点の寮に戻り、シャワーを浴びて他レースの取材のため再びコースに出た。

自分が感じた好条件は誰にとっても同じで、男子エリートをはじめ各クラスで過去最速タイムが続出したとのことだった。自分でさえ平均時速25km/hオーバー、エリート男子にいたっては35.5km/hという高速レースだった。

GRXインプレッション

100マイルレースを実走しての新型GRXのインプレを記そう。書いた通りの高速レースで、グラベルレース向きのGRX Di2は非常に調子が良かった。終始集団走行となったが、集団内では小まめな変速を繰り返すことで脚力がセーブできた。それは昨年フロントシングルのバイクで走ったときと比べてなので、フロントダブルチェンリングと歯数差の少ないクローズステップギアの有効性を明確に感じ取れた。

レースを走り終えたバイク 100マイル走ってノートラブルだった photo:Makoto AYANO

12スピードになってトップ側5枚(11〜15T)の歯数差が1T刻みになったことも、やはり細かなケイデンスコントロールを行うのに有効だと感じた。ギアレシオもF:48×31T×R:11〜34Tでベストだった。ピーター・ステティナらプロレーサーはロードクランクを使うが、アマチュアならGRXのレシオは「どストライク」だと思う。もちろんそれは脚力やコース状況によるが。

実はこの日までギア比をもう少下げるにはどうするか?を考えていたが、その必要はなさそうだ。日本での普段のライドなら36Tスプロケットに変えるだけで急勾配やトレイルも走れて良いと思う。

走り終えたバイクは砂まみれだ photo:Makoto AYANO

今回カセットスプロケットには軽量なデュラエースを使用したが、脚が攣るか攣らないかの状況において駆動部が軽いに越したことはなかった。総重量で軽くなったバイクは取り回しが良く、上りでも助けになっただろう。マージナルゲインに近いとはいえエネルギーロス低減には一役買っているはずだ。

前頭交替しながらスピードを保つグループについていく photo:LifeTime
Di2の変速の速さやパワーロスの無さも長丁場のレースでは有効だった。高速走行でハンドルグリップに余念がない時も、ガレ場で腕が辛くなってあがるときも、指先の軽いタッチだけで変速するDi2は有効だ。変速はパワフルで、動作速度もメカニカルの比ではない。結果、楽に走ることにもつながる。ステティナが自身のことを「Di2信者」と言っていたのもうなずける。

ハンドルについてはドロップ部を積極的に使える高さにセッティングしたが、フレアハンドルによって下りでの安定感は大きく向上させることができた。下広がりのドロップ部を握ってもレバーが自然な指先の位置にくることでスピードコントロールがしやすかった。

GRXのレバーブラケットの新形状は、前作11Sレバーと比べて僅かな違い程度に思っていたが、握り込むことも、掌で抱えるようなグリップも可能で、バリエーション豊か。わずかに太くなって握り心地も良く、レバー裏の隙間もエッジが皮膚に食い込まないように樹脂パーツで埋められている念入りさ。そして中指や薬指、ときに小指まで使って変速ができる自由度の高さでストレスが少ない。ブラケットフード表面のパターンも、素手で握り込んでも痛くならない形状に変更されたのも好印象だ。

砂塵にまみれたチェーンホイール photo:Makoto AYANO

12Sチェーンホイールの変更点は目立たないが、11Sに比べてアウターチェーンリングに補強のリブが設けられたことで剛性が大幅に増し、ダイレクトなペダリングフィールにつながっている。変速時にアウターギアが撓まず、変速の確実性が向上していることが実感できる。

またブレーキもパッドクリアランスが拡がったと同時に、アップグレードを受けたローターとの組み合わせでハードブレーキング時に擦りにくく、よりダイレクトなブレーキングフィーリングになった。レースでは砂塵を巻き込む状況が続いたが音鳴りも発生せず、終始安定したスピードコントロールができた。

新型GRX Di2は、単に12スピード&Di2化された以上に、エルゴノミクスや使い心地といった性能が全方位的に向上している。そして細かなギアステップ、そして速くてパワフルかつ確実な変速性能という、スペック上では特長としにくい当たり前の性能が高い次元でブラッシュアップされていると感じた。

グラベルカーボンホイール WH-RX880

シマノWH-RX880 カーボンホイール photo:Makoto AYANO

WH-RX880 C32ホイールセットは、今回12スピード化に伴って同時に使用した新型GRXホイールだ。GRXの名前が冠されていないものの、前モデルWH-RX870のアップデート版であり、デュラエース同様のダイレクトエンゲージメント採用ハブはMICRO SPLINEとHG L2 12スピードフリーハブボディの換装が可能となっている。

フロントハブ。スポークはオーソドックスなJベンドタイプ
クラシックな丸フランジハブにダイレクトエンゲージメント機構を搭載


前後セット重量は1394g(F:635、R:759 / MICRO SPLINE)。前モデルと比較して1ペアあたり64グラム軽量化。リムハイトは32 mmロープロファイルで加速性に優れ、軽量かつ柔軟性のある乗り心地。内幅25mmリムを採用したチューブレス対応ホイールであり、前後とも24本Jベンドスポーク仕様だ。

リムサイドにC32ロゴが小さく表記されるのみ。至ってシンプルなデザインからはその特徴が分かりにくいが、今回レースを走ってGRXコンポの走行性能の凄さに感心したのは、このホイールの占める割合もかなり大きかった。

リムサイドに控えめに入るC32のグラフィック photo:Makoto AYANO

スムーズに転がる軽い走りにはハブの精密さや回転の軽さが貢献していることを感じ取れるほどだ。極太のハブ軸周辺の剛性感があり、撓むことなくホイール全体を支えている感触だ。ペダルを漕ぎ直したときにデュラエースに似た素早い「掛かり感」があった。シマノに確認したところ、カタログ等に明記されないもののエンゲージ角はデュラエースR9270ホイールと同じ8°ということだった(前作WH-RX870は爪ラチェット仕様でエンゲージ角は20°)。

砂利の浮いたグラベル上をコーナリング。ワイドリム&タイヤのエアボリュームと高トラクションを実感した photo:LifeTime
コースティング(滑走)時の抵抗が小さく、かつペダルを漕ぎ直した際には素早く駆動力が掛かる。加速の良さ、転がりの良さはハブ周りの精巧さが効いていると感じた。シマノ原田氏に聞けば「ダイレクトエンゲージメントハブは駆動剛性の点でも従来のラチェット構造ハブより優れている」ということだった。

そしてリムはグラベルで主流となっている内幅25mmで、リムウォールにフックを備えるのも安心だ。

リムサイドのGRXグラフィックが無くなったのは、このホイールがオールロード的な使われかたをすることを見込んだもので、つまりはロードコンポとの組み合わせも想定しているのだという。グラベルとロードの境目の無い使用シーンにおいて、ときにGRXロゴが違和感を呼んでしまうため、それを避ける意味があるようだ。私もこのホイールのスペックをチェックした際「ロードバイクにも使えそうだ」と考えたぐらいだから。

また前作はストレートスポークだったのが今回はJベンドスポークを採用しているのは、エンデュランス、アドベンチャー、ロングツーリングのような使用シーンでの破損時にスポークの入手性の良さや修理が容易であることを重視したからとのことだ。

前作GRXホイールも2年前のアンバウンド・グラベル100マイルレースで使用したが、今回ライドフィーリングが大きく異なっていたのは組み方によるものもあると感じた。ストレートスポーク仕様ホイールは剛性感が出るものの、縦方向には突っ張り感が出てしまうものだが、Jベンド仕様はそのツンツンした感じが無く、ブレーキング時には前後方向に粘りが出て扱いやすいホイールになる印象だ。ホイールの軽さや精度によってエネルギー消費量に差が出るだけでなく、走って気持ちの良い高性能ホイールに仕上がっている。

chapter2KAHA +シマノGRX RX825 Di2 タイヤは前42C、後38Cを使用 photo:Makoto AYANO

32mmハイト&ワイドタイヤ対応の内幅25mmリムは現在のグラベルシーンど真ん中の設計といえるだろう。iRC BOKEN DOUBLECROSSタイヤの42mmを装着すると44mmに、38mmは40mmの太さになった。

iRCサポートライダーでもあるピーター・ステティナは「実測して44mmなら44mmタイヤとして考えれば良い」と言う。前後で異なる太さのタイヤを装着することは「マレット」と呼び、アメリカではすでに定着しつつあるセットアップ。私の場合は前44mm、後40mmで走破性と漕ぎの軽さの両立を求めてみたが、今回のレースの路面状況でその組み合わせが最適だったと感じた。

text&photo:Makoto AYANO
photo:Snowy Mountain Photography, Life Time