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スムーズな変速、タフライドに効くギアレンジ。ブラケットの形状変更も、ブレーキフィーリングもいい。新型GRXはコンポーネントとして確実なレベルアップを果たしている。グラベルの本場アメリカはオレゴンを舞台に2日間に渡って試した新世代グラベルコンポのレポートをお伝えする。

アメリカ、オレゴンのグラベルフィールドを駆け巡る

デシューツナショナルフォレストのグラベルロードを2日間に渡って駆け抜けた photo:SHIMANO

この記事を読んでいるあなたがもし「デシューツ」という名前に聞き覚えがあれば、それはきっと、新型GRXお披露目の場となったデシューツナショナルフォレストの近くにあるブリュワリーの名前だと思う。

シマノの新型GRXグローバルローンチが開催されたのは、アメリカはオレゴン州、ベンド郊外にあるコテージだ。市街地からもアクセスが用意で、無数のトレイルやグラベルロードが広がるデシューツナショナルフォレスト(国有林)の入口とも言える場所。ハイカーやサイクリスト、雪解け水が轟々と流れるデシューツ川で川遊びを楽しむ人が集うマウンテンリゾート地域だ。

ベンド郊外のコテージを貸し切って行われた新型GRXのプレゼンテーション photo:SHIMANO
日本のシマノ本社からも3名が参加。右は製品企画担当の松本裕司さん。世界中のグラベルフィールドを走った経験をGRXに投入している photo:SHIMANO


新型GRXを装備したテストバイクたち。フロントダブル、シングルとセッティングは様々だった photo:SHIMANO

カスケード山脈に沿う国有林であり、ホテルの周囲は標高2,764mのバチェラー山に向かって、なだらかな針葉樹林がずっと、それこそずっと続いている。だからこそ舗装路も、林内に刻まれたファイアロード(防火目的の未舗装路=グラベル)も日本のようなつづら折れではなくて、ひたすらにまっすぐ。トレイルであっても日本からすればほぼ平坦と言うべき緩斜面だから、MTBよりもワイドタイヤを履いたグラベルロードがマッチする。なんなら宿泊先のコテージにもきちんと整備されたシングルトラック(これはどちらかと言えばMTB用だった)が伸び、30秒くらいの下りを楽しめる。こんなにも「グラベル天国」な場所に一週間もいたら社会復帰できなくなってしまうんじゃないかと思えるほどだ。

アンビータブル、なフロント40T+リア10-45Tギア

筆者に充てがわれたテストバイク。フロント40T+リア10-45T仕様だ photo:SHIMANO

ジャーナリストには新型GRXを装備した様々なメーカーのグラベルバイクが充てがわれ、私・磯部に用意されていたのはアメリカの直販ブランドOBEDのBoundaryというカーボンモデル。GRXはもちろん上位のRX820で、「UNBEATABLE=無敵」を掲げるフロントシングルのフロント40T+リア10-45T。もちろんホイールは新型のRX880。比較的ノブの高いシュワルベのG-ONE(45c)タイヤを組み合わせたセッティングだ。

コテージからきちんと整備されたバイクレーンを通ってナショナルフォレストに入り、シングルトラックを繋げながら2日間に渡ってグラベルロードを駆け抜けた。赤っぽい地面、真っすぐに高く伸びた針葉樹林、日本とは全く違うグレイッシュな色合いの植物。そして何よりもバフバフと立ち上る土煙がこのあたりの降水量が少ないことを示していた。

パッと見こそ簡単な道でも、その表面には粉のような土埃がたっぷりと積み重なっていて、気を抜いて走っているとフロントタイヤがもっていかれてしまう。集団の真ん中で走っていると土煙で視界も空気もかなり悪く、なるべく前位置をキープするよう心がけたほどだ。シマノが用意してくれたお土産の中には首に巻くバンダナが入っていたが、単なるファッションではなく、キチンと使うための実用品だったというわけだ。

新型GRXインプレッション

ハイパーグライドプラス化がもたらした、スムーズ極まりないシフトチェンジ

土埃が煙るシングルトラックを降る。ハイパーグライド+化によって変速ストレスが激減 photo:SHIMANO

テストバイクに跨って一番最初に気が付いたのが変速性能だった。渡米前には少しだけ先代GRXを触る機会があったが、操作に対するシフトスピードと滑らかさは先代GRXを置き去りにするレベル。10-45Tカセットというディレイラーに対して負荷がかかる歯数であるものの、ハイパーグライド+(プラス)化を果たしたカセットとチェーンは、5T飛ばしのシフトチェンジでも乗り手に「よっこいしょ感」を感じさせない。

ハイパーグライド+はスプロケットとチェーンのかみ合わせの改善やリテンションの強化によってペダリングの円滑化を図り、結果的に変速時間やショックを減らすことに貢献したシステム。シマノが現行XTR(M9100)に初めて採用した後にDURA-ACE(R9200)とULTEGRA(R8200)へと波及させており、その効果を体感したユーザーも少なくないはずだ。それがGRXにも採用されたのだから、変速性能差は推して知るべしというもの。

フレアハンドルにマッチする新型ブラケット。ブレーキフィールも扱いやすさを増していた photo:SHIMANO

シフトアップするときは「コクッ」、シフトダウンするときは「カチッ」という、誰もが馴染みがあるはずの、シマノの機械式ロードコンポらしい変速フィールがこんなにもワイドなカセットでも味わえるだなんて、大昔にULTEGRAの11-23Tでスポーツバイクを始めた自分からしたらちょっと感動してしまった。オフロードユースを前提に開発されたシステムだから当たり前なのかもしれないが、重機のキャタピラ跡が刻まれたとんでもない凹凸路面(ボトルが飛んでいった)でも、あえてトルクを掛けてシフト操作してもトラブルは一切無かった。

そもそも現行ULTEGRAに機械式変速は存在しないから、同等グレードとなるRX820は今現在シマノがラインナップする最高峰機械式ロードコンポーネントと言うことができる。ここに魅力を感じて選ぶユーザーがいても何ら不思議とは思わない。

10-45Tカセットは"アリ"。一日走るための大きな武器だ

スタンダードとなる10-45Tカセット。変速時の無理やり感もなく、単純なメリットが大きい photo:So Isobe

アンビータブルを掲げる10-45Tカセットは「10-12-14-16-18-21-24-28-32-36-40-45T」というギア構成だ。緩斜面が多いナショナルフォレスト内のコースでは歯数が飛びすぎることもなく非常に扱いやすく、舗装路の下りでも10T化したトップギアのおかげで余裕のあるペダリングができた。10-51Tと10-45Tで迷った場合、日本国内でもあらゆるシチュエーションを通して使いやすいのは10-45Tだと思う。

ただし実際の勾配以上にパワーを喰われる砂の登りなど51Tを欲しい場面はあったし、誰かのペースに合わせざるを得ない集団走行時には、フロントダブルを使うジャーナリストの方が確実にギア選択の余裕があった。一日山中の未舗装林道を走るツーリングだったら体力セーブのために10-51Tを選ぶべきだろう(特に急勾配が多い日本の林道ではメリットが最大化するはず)し、河川敷や平らなグラベルをグループライドする機会が多い人はフロントダブルを選ぶべきだろう。ギアの選択肢が広いのはさすが「United in Gravel」を掲げるシマノならではと言えるはず。

余談ではあるものの、アンバウンドグラベルで優勝争いを繰り広げるトップ選手は52✕36Tのようなロードギアを使っているが、これは全体から見れば例外中の例外だ。GRX製品企画担当者の松本裕司氏によれば、新型GRXではあえてこれを無視し(チェーンはロードと共通であり12速のロード用クランクセットも組み合わせて使える)、「グラベルロードバイクの面白さとは何か」という議論から導き出されたギア構成を採用したのだという。

MTB並みの小さなチェーンリングが無いのも同じ理由だった。登れるか登れないかレベルの激坂はサスペンションとハイグリップブロックタイヤを備えたMTBフィールドであり、グラベルバイクを楽しく走らせられる場所ではフロント40Txリア51Tの0.78ギアで十分。限られたギアリソースの中で追い求めすぎるよりも、誰にとっても使いやすく現実的なギアレシオが研究されたという。

ビギナーにも、下りを攻める人にも扱いやすくなったブレーキフィール

60km/hを優に超える一直線のダウンヒル。ダイナミックな走りができるのはアメリカならでは photo:SHIMANO

グラベルカルチャーの牽引役の一人であるニック・レーガンも共に走った。元ジャーナリスト、現在シマノUSA所属 photo:SHIMANO
シマノ本社からも参加した鞍谷融紀さん(左)と枝村拓哉さん(右) photo:SHIMANO


公式資料には謳われていない部分ではあるものの、ブレーキのフィーリングも扱いやすいものになった。新車状態のテストバイクをある程度走らせ、ブレーキの馴染みが出ても初期制動がマイルドだったことを不思議に思っていたら、松本氏が「実は...」とその答えを教えてくれたという流れ。

従来はもう少しカツンと効き、直線的に静動力が立ち上がっていくイメージだったけれど、効き始めがジワーッと穏やかなものになった(もちろん最終的なストッピングパワーが落ちるわけではないので安心してほしい)。だからこそ滑りやすい路面でのスピードの調整や、バイクの挙動をコントロールするときに調整幅が広く、安心感が高まった。そもそもオフロードは舗装路と比べてタイヤと路面の摩擦係数が低いのだから、もし制動力が突然マックスになるようなブレーキだったらとても乗れたものじゃない。ロードバイクとはブレーキの効き方が違って当たり前なのだ。

50km/hに達する緩くて長いダウンヒルのコーナリング中、リアブレーキを当ててスピードを調整し、イン側のハンドルを少しずつ押し込んだり戻したりしてグリップの境界を探り続ける。アメリカらしい幅の広い道をめいっぱい使って、できるだけスピードを殺さないように、コントロール領域を飛びださないように...。そんなヒリつく場面で新しいGRXのブレーキはとても扱いやすかった。何よりも、扱いやすさというのはビギナーがスポーツバイクを楽しむ上で必要不可欠なものだ。

思いきりトルクをかけた状態でのシフト操作にも問題なし。言わずもがな、コンポーネントとしての完成度は非常に高い photo:SHIMANO

余談となるが、松本氏によればブレーキフィールはキャリパーとパッド、そしてレバーそれぞれの構造はもちろん、3つの組み合わせが密接に関わっているという。例えばワンピース構造のキャリパーを採用しているDURA-ACEはカッチリとしたフィーリングで、ツーピース構造のULTEGRAは僅かにたわむのでマイルドになる、といった具合に。もちろんレバーの素材がカーボンか、樹脂か、それとも金属なのかで違うし、もしGRXのキャリパーにDURA-ACEのレバーを組み合わせたとしたら感触はかなり異なるはず、とも。

それからコントロール繋がりでもう一点、フレアハンドルに対応したという新しいブラケット形状もその差をしっかりと感じ取れるものだった。筆者は冬を除いてノーグローブ派なのだけど、確かに一日乗っても局所的に痛くなる場所もなく、他のジャーナリストに充てがわれた超フレアハンドルのテストバイクに乗らせてもらった時も手当たりの感覚は良かった。

扱いやすさを増した「仕上がりの良い」グラベルコンポーネント

土埃が付着した時にライン浮き上がるGRX特有のクランクデザイン。ロードコンポと異なる意匠が組み込まれている photo:So Isobe

12速化やチェーンとスプロケットのハイパーグライド+化などは特に目新しいものではないものの、DURA-ACEがR9100からR9200に、ULTEGRAがR8000からR8100になった時と同じ驚きがGRXにも波及したことは、やはりどう考えてもプラスでしかない。新しいギアレンジ、使いやすさを考えた各部など、新型GRXは先代GRXユーザーが載せ替えを考えた時も、新しくグラベルの世界に入ろうかなと考えているユーザーにとっても確実なメリットがある。

コンポーネントとしての完成度をより一層増した新型GRX。既にデリバリーも始まっている。問い合わせは最寄りのシマノ取扱店まで photo:SHIMANO

新型GRXは世界各地のフィールドを自ら走り、その土地のサイクリストやプロ選手と意見を交わし続けたシマノグローバルチームが考える、最新最良のグラベルコンポーネントだ。

筆者プロフィール

磯部聡(シクロワイアード編集部)

CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。ロードの、あるいはグラベルのダウンヒルを如何に速く、そしてスマートにこなすかを探求してやまない。アメリカでのグラベルライドは今回で4度目。謎の無料アップデートにより爆安レンタカーがダッジ・チャレンジャーに化けるというハッピー案件も起こりホクホクで帰国。
提供:シマノ/text&photo:So Isobe