フィジークの2021年シューズを深堀りする本特集は、いよいよ各モデルのインプレッションに移る。まず取り上げるのはラインアップの中でも異彩を放つVENTO STABILITA CARBON。独自のアーチサポートを採用したイノベーティブな一足を、なるしまフレンドの藤野智一さんと小林浩史さんが徹底分析してくれた。

フィジークの意欲作 VENTO STABILITA CARBONに迫る

ネクストステップへと進む研究開発プロジェクト CONCEPTS

フィジーク VENTO STABILITA CARBONフィジーク VENTO STABILITA CARBON photo:Makoto AYANO/cyclowired.jp
近年のフィジークは尖った製品を次々とリリースし、イノベーティブな研究開発で一歩先を行くメーカーとなった。サドルのADAPTIVEシリーズは革新的な製品の代表例と言って良いだろう。長い年月の間、サドルのクッションにはフォームが使用し続けられ、それが当たり前となっていた。しかしフィジークは3Dプリントのクッションという選択肢を我々サイクリストに提示し、新しい発想をもたらしてくれたブランドの1つとなった。

これらのプロダクトには「CONCEPTS」と名付けられたプロジェクトが背景にある。CONCEPTSには各プロダクトの専門家と学者が参画し、製品デザインとテクノロジー、スポーツ科学、理学療法などの観点を革新的なアイデアの発想と製品製作に落とし込んでいるという。

ラボでテストが重ねられた後、路上テストに移りプロアスリートからホビーライダーまで様々サイクリストからのフィードバックを収集、分析を行い、リアルな状況で使えるプロダクトを開発しているという。そんなCONCEPTSから生まれた最新作がロードシューズの「VENTO STABILITA CARBON」だ。

ペダリングを支えるための斬新な設計 Dynamic Arch Support 2.0

VENTO STABILITA CARBONを代表するテクノロジー「Dynamic Arch Support 2.0」VENTO STABILITA CARBONを代表するテクノロジー「Dynamic Arch Support 2.0」
フィジークのプロダクトには、ライダーのパフォーマンスを発揮させながら快適なライドフィールを生み出すという目標が通奏低音として流れている。STABILITAではライダーの踏力を効率よくペダルに伝えるために、土踏まずのアーチサポートをシューズで行おうという発想が取り入れられた。

土踏まずを支えパワートランスファー効率を高めることは、かつてフィジークはシダス社とコラボしたアーチサポートインソールを採用していた実績があり、各ブランドもならうように手法としては確立されたものだ。しかしSTABILITAが革新的であるのは、アプローチを従来のインソールから転換した発想にある。

インソールはVENTO STABILITA CARBON専用設計のものがインサートされているインソールはVENTO STABILITA CARBON専用設計のものがインサートされている
その新しいアイデアとは、クロージャー兼アーチサポートのベルトでアッパーごと土踏まずを持ち上げるDynamic Arch Support 2.0だ。BOAダイヤルでワイヤーを締め上げ、吊り上げられたベルトが、アッパーと一緒に土踏まずのアーチをサポートしようという大胆な構造。

Dynamic Arch Support 2.0のメリットは、1mm刻みでワイヤーを巻取り/解放できるBOAクロージャーを採用したことで、各ライダー・左右の足で異なる土踏まずの形に合わせたフィットを得られるようになっていること。熱成形インソールなどで行ってきたことを、シューズ単体で近しく行うのがSTABILITAだ。

ミッドソールも蛇腹状となり、アーチサポートの柔軟性を確保しているミッドソールも蛇腹状となり、アーチサポートの柔軟性を確保している
また、アーチサポートがシューズの機能として統合されたことで、足裏と甲側のフィットに統一感が生まれることも美点だ。すべてを一体として開発を行うことは、シューズ全体としてのフィット感をコントロールできることに加え、フィジークが意図した性能を発揮させることができるいうことなのだ。

Dynamic Arch Support 2.0を具現化するに当たり、フィジークはソール関係をゼロから開発した。アウトソールの土踏まず部分は大きくカットオフし、ミッドソールやインソールには切り込みを施し、足形に合わせて柔軟に変形するデザインを採用。既存のロードシューズからの脱却を果たし、他に類を見ないフィットを実現したのはこの設計によるところが大きいだろう。

アーチサポートのために大胆にカットオフされたカーボン製アウトソールアーチサポートのために大胆にカットオフされたカーボン製アウトソール
アグレッシブな形状のアウトソールだが、剛性指数はフィジークの中でもっとも硬い10/10レベル。加えて、アウトソールはベンチレーションホールを設け、シューズの中を風が通るような設計。クリート装着ポジションはやや後方気味に設定された仕様となっている。

新しいマテリアルを採用するアッパー&クロージャー

メッシュにPUラミネートを施したアッパー素材が採用されているメッシュにPUラミネートを施したアッパー素材が採用されている
アッパーにはPUラミネート加工を施した目の大きなメッシュ生地を採用。生地による快適性、通気性、柔軟性と同時に、ラミネートによるアッパー剛性や強度を確保することでレーシングシューズに求められる履き心地を実現した。

クロージングシステムはDynamic Arch Support 2.0を構成する足首側と、"∞"の軌道を描くつま先側の2つのBOAダイヤルで行う。前後で独立させることで、それぞれのフィット感を好みに合わせて細かく調節することが可能となるため、幅広いライダーに最適なフィット感を提供してくれるだろう。

BOAダイヤルには最新のLi2が採用されているBOAダイヤルには最新のLi2が採用されている
また、BOAダイヤルが今作から小さく薄い新型の"Li2"に変更されている。Li2は1ノッチごとの巻取り量が少なく、従来型よりさらに細かい調整が行えるようになっている。耐衝撃性やエアロダイナミクスにも優れることが特徴だ。

なるしまフレンド 藤野&小林インプレッション

インプレライダープロフィール

インプレッションを担当したなるしまフレンドの藤野智一さん(左)と販売担当としてアドバイスを頂いた小林浩史さん(右)インプレッションを担当したなるしまフレンドの藤野智一さん(左)と販売担当としてアドバイスを頂いた小林浩史さん(右) photo:Makoto AYANO
藤野智一
なるしまフレンドの店長。バルセロナ五輪ロードレース代表、2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦績を持つ元プロレーサー。ブリヂストン在籍時にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ人物。シディWIREなどから履き継ぎ、現在はシマノ S-PHYRE RC9を愛用中。

小林浩史
数多のサイクリストの要望を聞き最適な製品をレコメンドする、なるしまフレンドの販売担当。体に起きる違和感などの悩みを解決してくれるフィッターとしても活躍している。トライアスリート歴21年というベテラン。シューズはBONTなどを履き継ぎ、現在は藤野店長と同じシマノ S-PHYRE RC9を愛用中。

なるしまフレンド神宮店
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CONCEPTSプロジェクトから生み出された革新的シューズのVENTO STABILITA CARBONCONCEPTSプロジェクトから生み出された革新的シューズのVENTO STABILITA CARBON photo:Makoto AYANO
CW:フィジークから非常に独創的なシューズが登場しました。VENTO STABILITA CARBON(以下、STABILITA)を初めて見た時、履いてみた時の印象はいかがでした。

藤野:STABILITAのようなアーチサポートの方法は初めて目にしたので興味深かったですよ。見たところの印象を正直に言ってしまうと、履く前は引っ張り上げる部分に負荷がかかるのではないかと疑っていましたが、実際に履いてみると土踏まずを持ち上げるような感覚は想像より薄かったんです。

サポート感は薄いのですが、ペダリングを始めると拇指球が四角いボックス状の何かに乗っているような感触がありました。ソールの厚みの影響も受けていると思いますが、アーチサポートが拇指球に近い部分から土踏まずを持ち上げており、アーチが浮いているような感覚がそう思わせるのでしょう。アーチサポートという感じではありませんが、不思議な履き心地のシューズです。

「しばらく乗ってみたら足がシューズに馴染むような感覚がある」藤野智一「しばらく乗ってみたら足がシューズに馴染むような感覚がある」藤野智一 photo:Makoto AYANO
小林:私は藤野さんとは異なる印象です。試し履き程度でしたが、私の場合はダイヤルを締め上げていくにつれて、アーチも吊り上げられていくのを感じました。シューズを熱整形したり、付属のパーツでアーチサポートを変えたりする他社とは異なるアプローチは面白い発想ですし、実際に新鮮な感覚を得られました。

藤野:私の場合は乗り始めて10~15分くらい経過したところから、徐々に違和感が薄れていきました。最初はかかと部分が浮いているような感覚があって、つま先でペダリングしているようなイメージがあるのですが、走っているうちに足が落ちてきてピタリとシューズに収まるんですよ。

そうなるとクランクが2時~5時までの力をかける時、特に3時のポジション時に力が真下にかかるようになります。5時以降もスッと下死点を通過して、次のペダリングを迎えられるような印象です。具体的には平地でケイデンス90~100回転/分のペダリングで長時間気持ちよく回し続けられ、上り坂でのダンシングでは拇指球部分にバシッと力がかかり、引き足を使っている時はカスタムインソールを入れている時のようなフィット感で力をロスさせずに回せるというイメージです。

フィジークらしい洗練されたルックスのVENTO STABILITA CARBONフィジークらしい洗練されたルックスのVENTO STABILITA CARBON
藤野:ただ上り坂でシッティングしている時は、踵を少しだけ落とすようなペダリングをした時にトルクが最も掛かるような感触がありました。普段履いているシューズとはフィーリングが異なったので、STABILITAを履く時は自分が気持ちよく踏めるペダリングを見つける必要がありそうです。

CW:アーチサポートの効果があるということでしょうか。

藤野:引き足の時にピタリとフィットしている感覚があるので、機能はしていると思います。そもそもアーチサポートというのは、足裏の形が変わらないようにするための物です。アーチの高い人がサポートのないシューズを履くと、足裏(土踏まず)とシューズの間に空間が生まれますよね。ペダルを踏み込んだ時はアーチが潰れるのでフィットしていますが、その状態で引き足に移行するとアーチが元に戻り、足が浮いているような状態になります。

そのままペダリングで何千回、何万回と同じ動作を繰り返していると、シューズの中で足がずれているような不快感に繋がりますし、足がずれないように指で踏ん張ってしまうんですよね。そうすると足裏に疲労を感じやすく、ふくらはぎに負担がかかりすぎて脚が攣る原因になります。

インソールの蛇腹が土踏まずにフィットするため、STABILITAの場合は純正をオススメする藤野智一インソールの蛇腹が土踏まずにフィットするため、STABILITAの場合は純正をオススメする藤野智一
藤野:アーチサポートで土踏まずの状態を維持し、シューズと足が一体となるようなフィット感を得られていると前足部に力を入れなくて済むんです。リラックスした状態で、拇指球からアーチ部分でペダリングできるので、力をロスすること無く長時間ペダリングを続けることができます。これがアーチの状態を維持したい理由ですね。

小林:STABILITAの場合は、カスタムインソールがインソールと踵とアーチをサポートしているのに対し、アーチだけを支えようとするアプローチですよね。それによってペダリング時の足の軌道を補正しようという考えなのでしょう。

新鮮な感覚を得られたという小林浩史新鮮な感覚を得られたという小林浩史
藤野:ペダリング中にアーチが潰れると膝が内側に入り込んでしまい、痛みの発生に繋がります。最近は店で簡単なフィッティングを行うことが多いのですが、ホビーサイクリストは何が正しいペダリングなのかわからない場合もあり、ガニ股になっていたり、膝が内側に入っている方も少なくないです。そういう時のフィッティングでは意識してペダリングをしてもらい、良い状態というのはどういうことかを確認してもらうんですが、アーチサポートでは綺麗な足の軌道でのペダリングを無意識に引き出してくれるんです。

小林:ただSTABILITAはベルトの締付けでサポート具合が変わってくるので、各サイクリスト個人がサポートのスイートスポットを見つける必要があります。試し履きで直立している時とペダリングしている時でアーチの状態は変わるので、乗っている状態で微調整をしてあげたいですね。購入した場合はBOAダイヤルのクリック数を覚えておくと良いでしょう。

低く、大径のLi2ダイヤルの操作感も良好だという低く、大径のLi2ダイヤルの操作感も良好だという
CW:ダイナミックアーチサポートは人によって感じ方が変わる可能性があると。シューズ全体で見た時のフィット感はいかがでしょうか。

藤野:現在使用しているシューズサイズは41なので、インプレ用に41サイズを借りてみましたが、若干大きめという印象です。フィットしていないわけではなく前足部はピッタリと足にマッチするのですが、ヒールカップが深めの作りとなっているのか踵部分に空間が生まれてしまったために大きいと感じるのかもしれません。サイズとしては丁度よいか、ハーフサイズ小さめがベストフィットかの判断は実際に履いてみないとわかりません。アキレス腱部分のグリップがしっかりとしているのでペダリング中に足が滑るということはありませんので、安心してください。

フィット感について付け加えておくと、前足部の作りが2世代前より改善されているのが最近のフィジークの良さです。昔はアッパー生地が重なり合う部分が足に当たり違和感がありましたが、STABILITAはダイヤルを強めに締めても痛みが発生しないんですよ。

「アッパーの生地の重なりが上手く作られているため、ダイヤルを締め込んでも痛みが出ない」藤野智一「アッパーの生地の重なりが上手く作られているため、ダイヤルを締め込んでも痛みが出ない」藤野智一
CW:STABILITAのアッパー生地はこれまでのマイクロテックスとは違うメッシュ+コーティング生地ですが、どのような印象がありますか。

藤野:ガツッと足をホールドしてくれるような剛性感ですが、長時間履き続けても拇指球や小指球に痛みを感じること無く走り切ることができました。ただ、このあとインプレッションを語るVENTO INFINITO CARBONのほうが生地は柔軟なので足を入れた時の第一印象は心地よさはあります。STABILITAの生地には柔軟性はありませんが、安定感という意味では優れていると思います。

クリートポジションはやや後方気味に設定できるようなデザインとなっているクリートポジションはやや後方気味に設定できるようなデザインとなっている
CW:大胆な形状のアウトソールは、見ただけでは不安に感じてしまいます。実際に走ってみた感覚はいかがでしたか。

藤野:剛性不足を感じることはありませんし、ソールがねじれることもありません。剛性指数はフィジークの最高数値10/10ですが、感触としては硬すぎることもありませんでした。他社のカーボンソールのほうが硬いというのは実感としてあります。STABILITAはスタックハイトも若干高めですね。

爪先部分にはベンチレーションホールが開けられていますが、そのサイズが小さく、排気用ホールが開けられていないこともあり、通気性に関しては風の流れを感じにくかったです。大胆なカットオフ部分が歩行中に地面と当たることもありませんし、気にせず使えると思いますよ。どうしても汚れるとは思いますので、気になる方はソックスタイプのシューズカバーなどでいつも覆ってあげると良いでしょう。

左STABILITA、右VENTO INFINITO。開口部の大きさが違うことがわかるだろう左STABILITA、右VENTO INFINITO。開口部の大きさが違うことがわかるだろう
CW:STABILITAのクリートポジションは若干後方に移ったとのアナウンスです。藤野さんはどのようなクリートポジションにセットしていますか。

藤野:選手時代から比べると、最近は後ろに装着しています。元々浅めのセッティングでしたが、フィッティングの講習会で示された基準が自分のポジションより後ろだったんです。そのポジションで乗ってみるとトルクがかけやすくなったので、今は後ろ気味のセッティングです。その意味ではSTABILITAの調整範囲内で無理はありませんでした。

普通のシューズを履いた時の感覚で足を回すと、踵が浮くような感覚がある普通のシューズを履いた時の感覚で足を回すと、踵が浮くような感覚がある
小林:ミッドフットクリートの場合は踵が落ちにくくなるんですよね。私も自転車を始めた時はクリートを一番前に装着すると教わりましたが、自分で調節していくうちに徐々に後退していきました。経験的にも今のニュートラルである「拇指球よりも後ろ気味」の設定は自然なのかもしれませんね。

CW:最後の質問です。STABILITAはどのようなサイクリストにおすすめしますか。

藤野:ダイナミックアーチサポートというテクノロジーが採用されているので、今のシューズで足の裏にフィットを感じていない方には良いのかなと思います。足を入れた瞬間は不思議な感覚がありましたが、乗っているうちに足がシューズ内で落ち着き、ペダリングがスムースになるようなシューズでした。

一際目立つDynamic Arch Support 2.0によって足裏のフィット感を求める方にオススメ一際目立つDynamic Arch Support 2.0によって足裏のフィット感を求める方にオススメ
小林:面白い発想のシューズですよね。土踏まずを支えることでペダリングや走りは変わってくると思うので、ペダリング周りで変化を求めている方には良いでしょう。

フィジーク VENTO STABILITA CARBON

フィジーク VENTO STABILITA CARBONフィジーク VENTO STABILITA CARBON (c)カワシマサイクルサプライ
アッパーPUラミネート メッシュアッパー
ソールR1 フルカーボンアウトソール(ソールの剛性感 10/10)
クロージングシステムLi2 BOAダイヤルクローサー
カラーブラック/イエロー
サイズ36、37~44(ハーフあり)、45
重量227g(片足)
税抜価格48,000円
製品情報https://www.riogrande.co.jp/product/node/76647

提供:カワシマサイクルサプライ 制作:シクロワイアード編集部