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兵庫県豊岡市のスキー場アップかんなべに登場したMTBゲレンデ"UP MTB PARK IN KANNABE"。6月からE-MTB用コース"BOSCH Uphill Flow Volcano"が登場し、さらなる盛り上がりを見せるなか、プロジェクトの仕掛け人である阿藤寛さんにコースへ込めた思い、そしてE-MTBの遊び方についてインタビューを行った。

インタビュイーライダープロフィール

阿藤寛阿藤寛 photo:Hiroyuki NAKAGAWA浅野善亮浅野善亮 photo:Hiroyuki NAKAGAWA

阿藤寛
2014年Jシリーズ優勝を筆頭に、DOWNHILL SERIES 2019では総合2位につけるなどトップDHライダーとして数々の大会で入賞経験多数。MTBの普及活動にも精力的に取り組み、クラウドファンディングを通して"UP MTB PARK IN KANNABE"を実現した立役者。
浅野善亮
2019CJシリーズランキング7位。どんなコンディションでも表彰台を獲得する安定した走りが持ち味のベテランDHライダー。機材への造形も深く、バイクセッティングは得意分野だという。シリーズランキングの頂点を目指し、日々研鑽を怠らない実力派。



コースビルダーが語るUP MTB PARK IN KANNABEに込めた願い


「初心者の人にとって入り口となるような場所にしたい」と語る阿藤さん「初心者の人にとって入り口となるような場所にしたい」と語る阿藤さん photo:Hiroyuki NAKAGAWA
CW:撮影お疲れ様でした。気づいたら1日経っているような楽しいコースでしたが、どういったコンセプトのコースとして設計されたのですか?

阿藤:まず、前提として関西にはリフトがあるフィールドというのが全く無かったんですよ。いわゆるトレイルはたくさんあるんですが、オープンに出来るようなコースはあんまり無くて。一方で、有料のリーガルなコースでも押上げだったり漕ぎ上げる必要があるところが多いんですよね。そうなると、初心者の方には厳しいじゃないですか。やっぱりリフトがあるとないとじゃ大違いですよね。

僕はダウンヒルレーサーなので、MTBってやっぱり下ってナンボ、みたいな考えがあって(笑)。初心者でも、気軽にMTBで山を下ることの楽しさとか面白さを気軽に味わえるような場所を関西に作れたら、と思って様々な普及活動をしていたんです。その中で、このかんなべの支配人さんと知り合うことができて、先方も夏のアクティビティとしてMTBに興味があると。そこで話が進んでいき、クラウドファンディングをやってみようということになったんですよ。

「怖さにつながる激しい振動を無くして、流れを楽しんで気持ちよさが残るようなコースを設計しました」阿藤寛(Acciarpone racing)「怖さにつながる激しい振動を無くして、流れを楽しんで気持ちよさが残るようなコースを設計しました」阿藤寛(Acciarpone racing) photo:Hiroyuki NAKAGAWA
CW:ビギナーがMTBを楽しめるような場所にしたいと。

阿藤:そうです。これからMTBを始めたい人や最近始めた人が、楽しく乗っている間に自然と上手くなっていけるようなフィールドを作るというのが僕の夢なんです。まずは、初心者の人にとって入り口となるような場所としてこのコースを作ったので、すでにダウンヒルを楽しんでいる人たちにとっては、自分たちの場所じゃないな、と思われる方もいると思います。

でも、こういったビギナー向けのコースを作ることでMTBに乗る人が増えれば、だんだんマニアックで尖ったコースを求める人も少しずつ増えていくと思うんですよね。今は、ベテランDHライダーは富士見や岩岳へ通っていますが、いくいくはそういった人たちも楽しめるフィールドへと成長できればいいな、とは思っています。

CW:裾野を広げるため、あえてビギナー寄りの設計にしていると。具体的にはどういったところがビギナー向けなのでしょう?

阿藤:ただ簡単にしたというわけでなく、「ツラさ」を無くしたコースにすることが一番大きなポイントですね。とにかく怖さにつながる激しい振動を無くして、流れを楽しんで気持ちよさが残るようなコースを設計しました。正直、自分で走っていて気持ちよくって、これほど快適さにフォーカスしたコースってなかなか無いんじゃないかな、と思います。

楽しく走るうちに自然とスキルアップ出来るような仕掛けも施しているんです。初心者とベテランの違いって色々あると思うのですが、一番はやはりスピード。このかんなべはゆっくり走ったらゆっくり走ったなりに、速ければ速いなりに難しいところを設定しています。

「正直、自分で走っていて気持ちよくって、これほど快適さにフォーカスしたコースってなかなか無いんじゃないかな、と思います」阿藤寛(Acciarpone racing)「正直、自分で走っていて気持ちよくって、これほど快適さにフォーカスしたコースってなかなか無いんじゃないかな、と思います」阿藤寛(Acciarpone racing) photo:Hiroyuki NAKAGAWA
CW:リフトがありつつも、E-MTBのヒルクライムコースも用意されたというのは非常に面白い取り組みだと思いますが、なにかきっかけがあったのでしょうか?

阿藤:E-BIKEにはもともと可能性を感じていて。めちゃくちゃ楽しいし、1日でたくさん走れるようになるじゃないですか。でも、だからこそ専用のフィールドを用意する必要があるな、と思っていたんです。

トレイルメインで走る人がE-MTBに乗り換えて、倍の本数走れるようになったら、トレイルは倍の速度で傷んでいきますよね。そうするとやっぱり批判的な声も大きくなっていくことが予想されたので、早いうちにリーガルなE-MTBのフィールドを造らないとせっかくの魅力的な乗り物が広まっていかないんじゃないか、という危機感があったんですよね。

「E-MTBはトレイルに負担がかかりやすいからこそ、リーガルに走れる場所を作りたかった」と語る阿藤さん「E-MTBはトレイルに負担がかかりやすいからこそ、リーガルに走れる場所を作りたかった」と語る阿藤さん photo:Hiroyuki NAKAGAWA
CW:E-MTB専用コースもなかなかテクニックも求められる印象でした。

阿藤:E-BIKEって、単純にアシストがあるから楽に走れる、という物ではないと思うんですよね。アシストがあるからこそこれまでできなかったことが出来るようになる、というのがE-BIKEの一番の魅力だと思っているので、そういった経験が出来るようなコース設計にしました。

例えば、絶対足をつかずに登れなさそうな急な登りでも、E-BIKEなら登りきれる。そういったチャレンジングなコースで、E-BIKEでないと走れないようなコースだからこそ、「専用」ということなんです。なので、これからまたバリエーションも増やしていきたいですね。

現役トップDHライダーが語るE-MTBの魅力

アップかんなべに阿藤さんが込めた想いは伝わっただろうか。ここからは、今日一緒に乗っていただいた浅野さんを加え、2名のトップDH選手にE-MTBの醍醐味や楽しみ方を聞いてみた。

CW:お二方とも普段から結構E-MTBには乗られているんですよね?

阿藤:もちろん!でも、実はコースを作った当初は自分のバイクは持っていなかったんです。コース作って、レンタルバイクを用意して広報すれば、乗ってみたいという人が来てくれるんじゃないか、という予想をしていたのですが、現実はそんなに甘くなかった(笑)。(レンタルの)価格が高い事もあって、他のバイクが出払っているので仕方なくE-MTBを借りる、という人がほとんどで、「これではだめだ!」と。

それで、E-MTBの楽しさを発信するためには自分でその良し悪しを知らないといけないな、と思って自分のバイクを用意したんです。自分のバイクとして所有して、カスタムして、とことん遊んで発信していったら、結構周りに興味を持ってくれる人が出てきましたね。

浅野:自分も最初はアンバサダー的な経緯で、E-MTBの良さを広めるために乗り始めたのですが、いざ乗ってみると予想以上に面白くて。今では毎日E-MTBで走り回っていますね。

「自分でとことん乗り込むと周りの人もだんだん興味を持ってくれた」と語る阿藤さん「自分でとことん乗り込むと周りの人もだんだん興味を持ってくれた」と語る阿藤さん photo:Hiroyuki NAKAGAWA
CW:お二人にとってE-MTBの醍醐味とはなんでしょう?

浅野:とにかく乗る距離や頻度が増えました。E-MTBを手に入れてからは、ほぼ毎日のように乗っているのでかなりボリュームを稼ぐことに貢献してくれていると思います。もちろん単純に乗り物としての楽しさは抜群なのですが、選手目線ではトレーニング機材としても優秀です。

阿藤:電動アシストと聞いて想像するような、ラクが出来るバイクというわけではないですね。例えば舗装路の登りでは、ロードで練習しているような感覚で走り続けられるので逆に休めない(笑)。踏めなくなるとアシストが増えるので、ペースがそこまで落ちなくて、もう一度頑張れるギリギリをずっとキープし続けられる。

そのままトレイルに入ると、登りの緩斜面でもコントロールしている感覚が下りに近いんです。今までは下りだけを楽しんでいたのが、登りも楽しく攻められるようになったのは大きな違いです。

車重が嵩むE-MTBでも、トップライダーの手にかかればこの通り華麗なエアも余裕で決まる。車重が嵩むE-MTBでも、トップライダーの手にかかればこの通り華麗なエアも余裕で決まる。 photo:Hiroyuki NAKAGAWA
CW:なるほど。下りだけにフォーカスすると、どうでしょう?

阿藤:普通のエンデューロバイクに比べると、重さがいい意味でも悪い意味でも影響してきますね。初心者にとっては、どっしりと安定感のある乗り味で安心できると思います。一方で、僕らのようなDHライダーにとっては、バイクを動かすために必要な力が増える。

デメリットのように感じるかもしれませんが、トレーニングとしてみればむしろ最高なんですよ。めちゃくちゃハードで体力的な限界付近で夢中になれる。E-MTBでしか感じられない独特のゾーンがあって、登りも下りもノンストップで走りきってしまう。

CW:E-MTBから普通のバイクに戻しても違和感は無いですか?

阿藤:大きな違和感は無いですね。どちらも一長一短といったところで、普通のエンデューロバイクは軽いけど重心が高くて不安定、E-MTBは重いですが低重心で安定感がある。ストローク的にはエンデューロバイクレベルなんですけど、DHバイクのような安定感があって、ストレスが少ない。富士見や岩岳で走ってみても、結局E-MTBばかり乗っていました(笑)

浅野:下りだけであれば、個人的にはノーマルバイクの軽やかさ、クイックな動きはやはり捨てがたいですね。とはいえ、それもコース次第だと思います。速く切り返す必要があったり、急勾配であったりするならばノーマルバイク、かんなべの様に路面がキレイでフローなコースであればE-MTBのほうが良いですね。、

「かんなべの様に路面がキレイでフローなコースであればE-MTBのほうが良い」と浅野さん「かんなべの様に路面がキレイでフローなコースであればE-MTBのほうが良い」と浅野さん photo:Hiroyuki NAKAGAWA
CW:速くなりたい下り系ライダーの新たなトレーニング機材として有望そうですね。

阿藤:時間がない人には最高だと思いますよ。ロード練習をして、ジムで体を作って、フィールドで練習して、とこれまで別々のワークアウトだったものが、E-MTBであれば一度に全て賄えるので、忙しい社会人ライダーにはぜひ乗ってみてもらいたい。実際、自分もE-MTBに乗り始めてからはトレーニングとしてロードバイクに乗る機会はかなり減りましたね。

CW:そうすると、今はE-MTBがメインといったところでしょうか?

阿藤:そうですね、エンデューロバイクとE-MTBの比率で言えば、0.2:9.8くらいの割合でしょうか(笑)

CW:そんなに!

E-MTBはE-MTB同士で走るのが最高に楽しい、と2人とも口を揃えたE-MTBはE-MTB同士で走るのが最高に楽しい、と2人とも口を揃えた photo:Hiroyuki NAKAGAWA
阿藤:ゲレンデで走るDHバイクはまた別ですが、実際トレイルを走る時はE-MTBが多いですね。仲間がノーマルバイクのときにはノーマルバイクに乗る、というくらい。良く走りに行くメンバーは、私がRailに乗り始めたらあっという間にみんなE-MTBだらけになりました(笑)

浅野:自分は50:50くらいです。阿藤さんと同じで、仲間が何に乗っていくかに合わせて選ぶイメージですね。E-MTBとノーマルバイクが一緒に走ると、ペースが絶望的に合わなくてお互いにつらい時間になってしまうので、そこは合わせていくようにしています。

阿藤:そうだね、E-MTBとノーマルバイクだと遊びのスケール感も違うし、楽しいと思える部分も違ってくるから、結局どちらも我慢することになってしまう。なので、E-MTBはE-MTB仲間と一緒に走るのが一番楽しいと思います。是非、E-MTBの輪を広げていきたいですね!

E-MTBでもカスタムは楽しめる。阿藤寛のトレック Rail9.7

阿藤寛のトレック Rail9.7 2021モデル フルカスタムされたこだわりの一台だ阿藤寛のトレック Rail9.7 2021モデル フルカスタムされたこだわりの一台だ photo:Hiroyuki NAKAGAWA
トレックのハイエンドE-MTB、Rail9.7。もちろんそのままでも十分トレイルライドを楽しめるスペックを備えたバイクではあるが、各部のパーツを交換することで更にそのパフォーマンスを引き出すことが出来る。機材に関して強いこだわりを持つ阿藤さんの愛車はこだわりが随所に盛り込まれた一台となっていた。

最も大きな変更点はフロントフォーク。完成車に付属するRockShox Yari RCからスタンチオン径をサイズアップしたFox 38 FLOAT FactoryのE-MTBモデルに換装している。「やはり車体が重くフォークにかかる負担が大きいので、38mm径にサイズアップすることで剛性を確保しています。また、E-MTBに最適化された設定で、ブレーキング時の挙動が改善されてるんですよ」と阿藤さん。

完成車についているものよりワンサイズ大きなFox 38 FLOAT Factoryに換装完成車についているものよりワンサイズ大きなFox 38 FLOAT Factoryに換装 photo:Hiroyuki NAKAGAWA
マグラのE-MTB用モデルマグラのE-MTB用モデル"MT5 eSTOP" photo:Hiroyuki NAKAGAWA制動力に優れた4ピストンモデルだ制動力に優れた4ピストンモデルだ photo:Hiroyuki NAKAGAWA

マグラのE-MTB用パッドを使用。フィーリングが滑らかでコントロールしやすいという。マグラのE-MTB用パッドを使用。フィーリングが滑らかでコントロールしやすいという。 photo:Hiroyuki NAKAGAWA
もう一つの外せないポイントはブレーキで、マグラのE-MTB用モデル"MT5 eSTOP"を組付けられている。「普通のモデルとの大きな違いはパッドなんです。普通のバイクに比べると、下りで速度が付きやすいのでどうしてもブレーキを当て効きさせることが多いんです。普段使っている、最初からガツンと効くようなパッドだとコントロールしづらいんですが、このE-MTB用のパッドは当て効き時のフィーリングが滑らか。実際に使い比べてみたんですが、圧倒的にE-MTB用がコントローラブルですね」と語ってくれた。

また、クランクも純正のスラム X1からホープのE-BIKE CLANKへ交換されている。踏んだ力に応じてアシストトルクが変動するE-MTBモードで、可能な限りタイムラグを無くすために高剛性なクランクへと交換したのだという。

クランクはホープ。剛性重視のチョイスだというクランクはホープ。剛性重視のチョイスだという photo:Hiroyuki NAKAGAWA
駆動系はTRP TR12を使用する駆動系はTRP TR12を使用する photo:Hiroyuki NAKAGAWAレバーの位置が絶妙で操作しやすいと太鼓判を押すTRPのシフターレバーの位置が絶妙で操作しやすいと太鼓判を押すTRPのシフター photo:Hiroyuki NAKAGAWA

変速系はTRPのTR12を採用。チェーンやスプロケットに大きな力のかかるE-MTBでも大きな問題は起きておらず、信頼度は高いとのこと。特にお気に入りだというのがシフターだ。シフトアップ時に斜めに動くストローク方式と、グリップ側に寄せられたシフトレバーの設計が最高にマッチするという。「ハンドル上で手を動かさなくても全てのレバーにアクセスできるシフターは初めてでした」とベタ惚れだ。ハンドルやステム、サドルやペダルなどはDEITYで統一。ステムは35mmと短めだが、E-MTBならではの荷重バランスに合わせたセッティングとのことだ。

このように、ラインディングスタイルやスキルに合わせてE-MTBもカスタムを楽しめる。ただ、E-MTB特有の注意事項やメーカー毎のポリシーもあるため、一度はプロショップに足を運んで相談しながら進めていったほうが安心だ。
提供:ボッシュジャパン 制作:シクロワイアード編集部