2020/09/23(水) - 16:29
フランス国内で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、ツール・ド・フランスはパリ・シャンゼリゼにたどり着くことに成功した。熾烈なポイント争奪戦が繰り広げられたマイヨヴェール争いは、ドゥクーニンク・クイックステップに軍配が上がった。本章では2021年モデルとしてリリースされたフラッグシップシューズ「S-PHYRE RC9」にフォーカスする。
ツール・ド・フランス会期中の9月2日に発表されたシマノの新型フラッグシップロードシューズのS-PHYRE RC9(新型の型番はSH-RC902)。一部のサポート選手が早くも新型シューズに足を通し、21日間の過酷なレースを駆け抜けた。
S-PHYRE RC9を着用した代表的な選手を挙げるとしたら、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)の名前は外せないだろう。ある日はプリモシュ・ログリッチのアシストとして、ある日はアシストをこなしつつスプリント勝負に絡むライダーとして常に存在感を示し続けた今大会のハイライトと言っても過言ではない。そんなハイライトの一人の足元を支え続けたのは新型シューズであった。
もちろんファンアールトだけではなく、今大会キーとなる動きを見せた選手たちが新型S-PHYRE RC9を着用している。ユンボ・ヴィスマで言えばログリッチの山岳アシストとして強力にサポートし、ライバルたちのチーム戦略を粉砕したロベルト・ヘーシンクとセップ・クスが新型S-PHYRE RC9を履いて、他のチームを圧倒する仕事をこなした。
加えて、アルケア・サムシックのワレン・バルギル、ディエゴ・ローザ、ウィネル・アナコナも新型S-PHYRE RC9の着用者だ。
今大会で多くの選手が躍進したサンウェブも、S-PHYRE使用チームの1つ。何度も果敢にトライした末に独走優勝を果たし、総合敢闘賞を獲得したマルク・ヒルシと、チーム戦術で優勝を掴み取ったセーアン・クラーウアナスン、集団スプリントでの頭角を現し始めたケース・ボル、ニキアス・アルント、ティシュ・ベノートなどの足元を支えた。
ここからは新型S-PHYRE RC9のテクノロジー面も紹介しよう。このシューズに採用された技術のハイライトは"360°サラウンドラップアッパー"だ。一般的なシューズはアッパーとソールの境界がはっきりしているが、この技術はアッパーが土踏まず部分まで回り込む設計がされている。足裏(ソール)から足を包み込むことで、シューズと足の一体感や安定性などを向上させている。
アッパーの爪先部分生地が強化メッシュとされていることも進化ポイント。足の甲やアキレス腱周りの生地は従来通りマイクロファイバーであり、2種類の生地を使い分けることでフィット感、柔軟性、剛性、通気性などシューズに求められるあらゆる性能が高められた。
新型でフォーカスされているのはシューズと足の一体感とスタビリティの向上。シマノはペダリングにおける足の動きの研究やペダリングモニターによる分析を行い、ヒールカップのデザインを改め"アンチツイストスタビライザー"という仕様へアップデートしている。
前作では土踏まずまで伸びていたヒールカップが今作ではかかと部分のみに変更されている。この設計変更によって、ねじれに対する強さを狙ったものだという。また、アキレス腱部分のアンチスリップデザインも変更されており、スプリントのようなハイパワーで加速する状況でもシューズが足をサポートしてくれるという。
また、BOAダイヤルが"IP1"から最新モデルの"Li2"へと変更されている。Li2はIP1よりもダイヤルが薄く、落車に巻き込まれた際のダイヤル破損の可能性を低減している。アクシデントに見舞われたとしても最後まで仕事をこなす必要のあるプロ選手たちにとって、シューズが壊れにくいというのは1つの美点となるだろう。締付け方向と緩める方向、どちらにも1ノッチずつ調整することができるため、ライド中でも細かい調整が行いやすくなっている。
RC902ではサイクリストからのフィードバックを受け、シューズのラスト(足型)もアップデートされている。前足部も形状面からフィット性を向上させることで、長距離のレースでも最後まで快適な状態を維持、終盤まで優れたパフォーマンス発揮が可能となるだろう。販売スペックなどは以下の通りだ。
COVID-19のPCR検査で全員陰性という結果を受け、ツールのプロトンはパリ・シャンゼリゼへの道が開かれた。第3週目は週明けから3日間連続で山岳ステージが登場し、総合優勝争いが更に加速していく。その後1つの平坦ステージを挟み、1級山岳の登りが待つ個人TTとなりマイヨジョーヌ争いに決着がつく。そして、2ヶ月遅れでパリへとプロトンは凱旋する。
5つものカテゴリー山岳が詰め込まれた第16ステージは、ステージ優勝と総合争いという2つのレースが進行するような展開に。この日の優勝が懸かった計23名の大規模逃げ集団には、メイン集団をコントロールするユンボ・ヴィスマ以外のシマノ・グローバルサポートチームから最低一人は送り込まれる形となった。
逃げ集団が最大の難所である1級山岳サンニジエ=デュ=ムシェロットでは、優勝を狙う選手たちのアタックが始まり、先頭の人数が絞り込まれる。頂上が近づくと今大会で何度も攻撃を仕掛けているレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)が満を持してアタック。独走に持ち込んだケムナに追いつける選手はおらず、第13ステージで2位だった悔しさを晴らす逃げ切り勝利を決めた。
マイヨジョーヌのログリッチが控えるメイン集団は終日ユンボ・ヴィスマのコントロール下にあり、動きを見せたのはサンニジエ=デュ=ムシェロットの後に現れる3級山岳だった。主導権をユンボ・ヴィスマから奪おうとするチームが現れるもののワウト・ファンアールトがそうさせない。残り1kmからロングスパートが始まるもののログリッチはきっちりとライバルをマークし、堅実に1日を終わらせた。
第17ステージでツール・ド・フランスは、ラ・マドレーヌ峠とメリベル/ラ・ロズ峠という超級山岳が連続するクイーンステージを迎えた。前日に引き続きケムナ、アラフィリップ、リチャル・カラパスが乗った逃げは、総合成績アップを狙うチームによるペースアップによって捉えられ、メリベル/ラ・ロズ峠でステージ優勝とマイヨジョーヌ争いが勃発。
激坂と緩斜面がコンスタントに入れ替わる最終盤に差し掛かると、有力選手達がこぼれ落ちるサバイバルな展開に。マイヨジョーヌのログリッチは先行する選手を捉えるべく自ら追走を行い、総合2位の選手をふるい落とし、総合タイム差を57秒に広げる結果を手に入れた。ログリッチは一歩ずつ足元を確かめながら、マイヨジョーヌへの道を歩んでいっている。
今大会最後の山岳コースが用意された第18ステージではイネオス・グレナディアーズが輝いた。この日の逃げに乗ったカラパスとミハウ・クフィアトコウスキは12%近い急勾配が続く超級山岳プラトー・デ・グリエールでライバルたちをふるい落とすことに成功する。積極的かつ、未舗装区間をノートラブルで乗り越える確実な走りで先頭に立った2人は追撃を許さず、肩を組んでフィニッシュラインを通過。イネオスらしい強さを発揮したクフィアトコフスキはステージ優勝、カラパスはマイヨアポアを勝ち取った。
「今日という日を一生忘れない。これまで多くの成功を収めてきたものの、ラスト数キロはずっと鳥肌が立っていた」とレース後に振り返るクフィアトコフスキ。今大会苦戦が続いたイネオス・グレナディアーズに価値のある勝利をもたらした。
獲得標高差4,400mのアルプスステージでの総合争いは、中団の成績につけるチームがレースを動かす。ユンボ・ヴィスマとログリッチはマイヨジョーヌを脅かす動きを見逃すこと無く、攻撃に対してはしっかりと対処を続けた。後方からマイヨジョーヌ集団に追いついたファンアールトが3位に入ることで、ライバルのボーナスタイム獲得を許さない。ユンボ・ヴィスマによる徹底的なレースコントロールのもと、アルプス決戦の幕が下りた。翌日の平坦ステージでさえも油断しないログリッチが、また一歩マイヨジョーヌへ近づいた。
第19ステージではサム・ベネットとペテル・サガンによるマイヨヴェール争いが勃発。中間ポイントではメイン集団内でのスプリント勝負とされたが、レース終盤のアップダウンが繰り返される区間でサガンがアタック。ベネットを切り離すことを画策したものの、ベネットはマークを外さない。サガンのアタックはそのまま12名の逃げ集団を形成した。
スピードが上がりきらないメイン集団は、エース級の選手たちが乗った逃げ集団にステージ優勝の行方を委ねた。逃げ集団で再びアタックが行われるとそのカウンターとして、第14ステージで優勝しているセーアン・クラーウアナスンが逃げ集団から飛び出した。ベネットとサガンらがお互いにマークをし合う間に差をつけたクラーウアナスンが再びのステージ優勝を獲得した。
一方、後方のマイヨヴェール争いでは、ベネットが先頭でフィニッシュし最も多くのポイントを獲得。シャンゼリゼを前に、サガンへ更なるポイント差をつけ、ベネットが有利な状況。ウルフパックのスプリンターがポイント賞首位の座に王手をかける。
最後のマイヨジョーヌ争いが繰り広げられた第20ステージは、1級山岳ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユを駆け上がる個人タイムトライアル。序盤はタイムトライアルバイクが活躍する平坦区間で、その後に1級山岳が待ち受けるコース設定とされているため、途中でロードバイクに乗り換える選手も少なくなかった。
そんな中、すべての区間をTTバイクでこなしたトム・デュムランが暫定首位に立つほどの好走を披露。デュムランがフィニッシュするまではワウト・ファンアールトが暫定首位に立っており、ユンボ・ヴィスマのチーム力の高さを証明していた。
しかし、マイヨジョーヌ候補ログリッチがまさかのクラック。トップから1分56秒差をつけられてしまい、ここまで堅実に守り続けてきたマイヨジョーヌが手から滑り落ちる結果に。一体何が起こるのか予測できないのがツール・ド・フランスの総合優勝への難しさ。それを痛感するレースとなった。
総走行距離3484kmのうち、わずか36.2kmのレース結果で手元から逃げてしまうほど守ることが難しいマイヨジョーヌ。それを11日間も着用し続けたログリッチ、彼を守り続けたユンボ・ヴィスマの強さも際立つ結果となった。
激動のタイムトライアル決戦より一夜明け、ツール・ド・フランスもいよいよ最終ステージを迎えた。フランス国内では新型コロナウイルスの感染拡大が続く現状もあり、いつレースがストップするかわからない状況の中、プロトンは無事にシャンゼリゼにたどり着いた。ハードな21日間を過ごした選手、スタッフから笑顔が溢れる。
シャンゼリゼ通りを駆け抜けるスプリント勝負は、マイヨヴェールのサム・ベネットに軍配が上がる。熾烈なポイント賞争いが繰り広げられた今大会。その最終スプリント勝負にふさわしい結末でツール・ド・フランスの幕は下りた。
シマノ・グローバルサポートチームが獲得した特別賞は、サム・ベネットによるマイヨヴェールとマルク・ヒルシが受賞した総合敢闘賞。ヒルシは積極的な逃げでレース展開を作り、ステージ優勝をみせて今大会を盛り上げた一人だ。最後にシマノ・グローバルサポートチームの大会通しての活躍を振り返る。
世界最高峰の選手たちを足元から支えるフラッグシップシューズS-PHYRE RC9
ツール・ド・フランス会期中の9月2日に発表されたシマノの新型フラッグシップロードシューズのS-PHYRE RC9(新型の型番はSH-RC902)。一部のサポート選手が早くも新型シューズに足を通し、21日間の過酷なレースを駆け抜けた。
S-PHYRE RC9を着用した代表的な選手を挙げるとしたら、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)の名前は外せないだろう。ある日はプリモシュ・ログリッチのアシストとして、ある日はアシストをこなしつつスプリント勝負に絡むライダーとして常に存在感を示し続けた今大会のハイライトと言っても過言ではない。そんなハイライトの一人の足元を支え続けたのは新型シューズであった。
もちろんファンアールトだけではなく、今大会キーとなる動きを見せた選手たちが新型S-PHYRE RC9を着用している。ユンボ・ヴィスマで言えばログリッチの山岳アシストとして強力にサポートし、ライバルたちのチーム戦略を粉砕したロベルト・ヘーシンクとセップ・クスが新型S-PHYRE RC9を履いて、他のチームを圧倒する仕事をこなした。
加えて、アルケア・サムシックのワレン・バルギル、ディエゴ・ローザ、ウィネル・アナコナも新型S-PHYRE RC9の着用者だ。
今大会で多くの選手が躍進したサンウェブも、S-PHYRE使用チームの1つ。何度も果敢にトライした末に独走優勝を果たし、総合敢闘賞を獲得したマルク・ヒルシと、チーム戦術で優勝を掴み取ったセーアン・クラーウアナスン、集団スプリントでの頭角を現し始めたケース・ボル、ニキアス・アルント、ティシュ・ベノートなどの足元を支えた。
新型S-PHYRE RC9のテクノロジー
ここからは新型S-PHYRE RC9のテクノロジー面も紹介しよう。このシューズに採用された技術のハイライトは"360°サラウンドラップアッパー"だ。一般的なシューズはアッパーとソールの境界がはっきりしているが、この技術はアッパーが土踏まず部分まで回り込む設計がされている。足裏(ソール)から足を包み込むことで、シューズと足の一体感や安定性などを向上させている。
アッパーの爪先部分生地が強化メッシュとされていることも進化ポイント。足の甲やアキレス腱周りの生地は従来通りマイクロファイバーであり、2種類の生地を使い分けることでフィット感、柔軟性、剛性、通気性などシューズに求められるあらゆる性能が高められた。
新型でフォーカスされているのはシューズと足の一体感とスタビリティの向上。シマノはペダリングにおける足の動きの研究やペダリングモニターによる分析を行い、ヒールカップのデザインを改め"アンチツイストスタビライザー"という仕様へアップデートしている。
前作では土踏まずまで伸びていたヒールカップが今作ではかかと部分のみに変更されている。この設計変更によって、ねじれに対する強さを狙ったものだという。また、アキレス腱部分のアンチスリップデザインも変更されており、スプリントのようなハイパワーで加速する状況でもシューズが足をサポートしてくれるという。
また、BOAダイヤルが"IP1"から最新モデルの"Li2"へと変更されている。Li2はIP1よりもダイヤルが薄く、落車に巻き込まれた際のダイヤル破損の可能性を低減している。アクシデントに見舞われたとしても最後まで仕事をこなす必要のあるプロ選手たちにとって、シューズが壊れにくいというのは1つの美点となるだろう。締付け方向と緩める方向、どちらにも1ノッチずつ調整することができるため、ライド中でも細かい調整が行いやすくなっている。
RC902ではサイクリストからのフィードバックを受け、シューズのラスト(足型)もアップデートされている。前足部も形状面からフィット性を向上させることで、長距離のレースでも最後まで快適な状態を維持、終盤まで優れたパフォーマンス発揮が可能となるだろう。販売スペックなどは以下の通りだ。
シマノ S-PHYRE RC9
第20ステージで登場したタイムトライアル機材にフォーカス
今大会のタイムトライアルは第20ステージのみ。PROの3Spoke WheelやDisc Wheelが登場したのもこの日のみ。PROのタイムトライアル用機材を使用しているチームを写真でプレイバック。ベネットがマイヨヴェール、ヒルシが総合敢闘賞を獲得 ツール第3週目を振り返る
COVID-19のPCR検査で全員陰性という結果を受け、ツールのプロトンはパリ・シャンゼリゼへの道が開かれた。第3週目は週明けから3日間連続で山岳ステージが登場し、総合優勝争いが更に加速していく。その後1つの平坦ステージを挟み、1級山岳の登りが待つ個人TTとなりマイヨジョーヌ争いに決着がつく。そして、2ヶ月遅れでパリへとプロトンは凱旋する。
5つものカテゴリー山岳が詰め込まれた第16ステージは、ステージ優勝と総合争いという2つのレースが進行するような展開に。この日の優勝が懸かった計23名の大規模逃げ集団には、メイン集団をコントロールするユンボ・ヴィスマ以外のシマノ・グローバルサポートチームから最低一人は送り込まれる形となった。
逃げ集団が最大の難所である1級山岳サンニジエ=デュ=ムシェロットでは、優勝を狙う選手たちのアタックが始まり、先頭の人数が絞り込まれる。頂上が近づくと今大会で何度も攻撃を仕掛けているレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)が満を持してアタック。独走に持ち込んだケムナに追いつける選手はおらず、第13ステージで2位だった悔しさを晴らす逃げ切り勝利を決めた。
マイヨジョーヌのログリッチが控えるメイン集団は終日ユンボ・ヴィスマのコントロール下にあり、動きを見せたのはサンニジエ=デュ=ムシェロットの後に現れる3級山岳だった。主導権をユンボ・ヴィスマから奪おうとするチームが現れるもののワウト・ファンアールトがそうさせない。残り1kmからロングスパートが始まるもののログリッチはきっちりとライバルをマークし、堅実に1日を終わらせた。
第17ステージでツール・ド・フランスは、ラ・マドレーヌ峠とメリベル/ラ・ロズ峠という超級山岳が連続するクイーンステージを迎えた。前日に引き続きケムナ、アラフィリップ、リチャル・カラパスが乗った逃げは、総合成績アップを狙うチームによるペースアップによって捉えられ、メリベル/ラ・ロズ峠でステージ優勝とマイヨジョーヌ争いが勃発。
激坂と緩斜面がコンスタントに入れ替わる最終盤に差し掛かると、有力選手達がこぼれ落ちるサバイバルな展開に。マイヨジョーヌのログリッチは先行する選手を捉えるべく自ら追走を行い、総合2位の選手をふるい落とし、総合タイム差を57秒に広げる結果を手に入れた。ログリッチは一歩ずつ足元を確かめながら、マイヨジョーヌへの道を歩んでいっている。
今大会最後の山岳コースが用意された第18ステージではイネオス・グレナディアーズが輝いた。この日の逃げに乗ったカラパスとミハウ・クフィアトコウスキは12%近い急勾配が続く超級山岳プラトー・デ・グリエールでライバルたちをふるい落とすことに成功する。積極的かつ、未舗装区間をノートラブルで乗り越える確実な走りで先頭に立った2人は追撃を許さず、肩を組んでフィニッシュラインを通過。イネオスらしい強さを発揮したクフィアトコフスキはステージ優勝、カラパスはマイヨアポアを勝ち取った。
「今日という日を一生忘れない。これまで多くの成功を収めてきたものの、ラスト数キロはずっと鳥肌が立っていた」とレース後に振り返るクフィアトコフスキ。今大会苦戦が続いたイネオス・グレナディアーズに価値のある勝利をもたらした。
獲得標高差4,400mのアルプスステージでの総合争いは、中団の成績につけるチームがレースを動かす。ユンボ・ヴィスマとログリッチはマイヨジョーヌを脅かす動きを見逃すこと無く、攻撃に対してはしっかりと対処を続けた。後方からマイヨジョーヌ集団に追いついたファンアールトが3位に入ることで、ライバルのボーナスタイム獲得を許さない。ユンボ・ヴィスマによる徹底的なレースコントロールのもと、アルプス決戦の幕が下りた。翌日の平坦ステージでさえも油断しないログリッチが、また一歩マイヨジョーヌへ近づいた。
第19ステージではサム・ベネットとペテル・サガンによるマイヨヴェール争いが勃発。中間ポイントではメイン集団内でのスプリント勝負とされたが、レース終盤のアップダウンが繰り返される区間でサガンがアタック。ベネットを切り離すことを画策したものの、ベネットはマークを外さない。サガンのアタックはそのまま12名の逃げ集団を形成した。
スピードが上がりきらないメイン集団は、エース級の選手たちが乗った逃げ集団にステージ優勝の行方を委ねた。逃げ集団で再びアタックが行われるとそのカウンターとして、第14ステージで優勝しているセーアン・クラーウアナスンが逃げ集団から飛び出した。ベネットとサガンらがお互いにマークをし合う間に差をつけたクラーウアナスンが再びのステージ優勝を獲得した。
一方、後方のマイヨヴェール争いでは、ベネットが先頭でフィニッシュし最も多くのポイントを獲得。シャンゼリゼを前に、サガンへ更なるポイント差をつけ、ベネットが有利な状況。ウルフパックのスプリンターがポイント賞首位の座に王手をかける。
最後のマイヨジョーヌ争いが繰り広げられた第20ステージは、1級山岳ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユを駆け上がる個人タイムトライアル。序盤はタイムトライアルバイクが活躍する平坦区間で、その後に1級山岳が待ち受けるコース設定とされているため、途中でロードバイクに乗り換える選手も少なくなかった。
そんな中、すべての区間をTTバイクでこなしたトム・デュムランが暫定首位に立つほどの好走を披露。デュムランがフィニッシュするまではワウト・ファンアールトが暫定首位に立っており、ユンボ・ヴィスマのチーム力の高さを証明していた。
しかし、マイヨジョーヌ候補ログリッチがまさかのクラック。トップから1分56秒差をつけられてしまい、ここまで堅実に守り続けてきたマイヨジョーヌが手から滑り落ちる結果に。一体何が起こるのか予測できないのがツール・ド・フランスの総合優勝への難しさ。それを痛感するレースとなった。
総走行距離3484kmのうち、わずか36.2kmのレース結果で手元から逃げてしまうほど守ることが難しいマイヨジョーヌ。それを11日間も着用し続けたログリッチ、彼を守り続けたユンボ・ヴィスマの強さも際立つ結果となった。
激動のタイムトライアル決戦より一夜明け、ツール・ド・フランスもいよいよ最終ステージを迎えた。フランス国内では新型コロナウイルスの感染拡大が続く現状もあり、いつレースがストップするかわからない状況の中、プロトンは無事にシャンゼリゼにたどり着いた。ハードな21日間を過ごした選手、スタッフから笑顔が溢れる。
シャンゼリゼ通りを駆け抜けるスプリント勝負は、マイヨヴェールのサム・ベネットに軍配が上がる。熾烈なポイント賞争いが繰り広げられた今大会。その最終スプリント勝負にふさわしい結末でツール・ド・フランスの幕は下りた。
シマノ・グローバルサポートチームが獲得した特別賞は、サム・ベネットによるマイヨヴェールとマルク・ヒルシが受賞した総合敢闘賞。ヒルシは積極的な逃げでレース展開を作り、ステージ優勝をみせて今大会を盛り上げた一人だ。最後にシマノ・グローバルサポートチームの大会通しての活躍を振り返る。
ステージ:11勝
第2ステージ | ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
第4ステージ | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボヴィスマ) |
第5、7ステージ/2勝 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ) |
第10、21ステージ/2勝 | サム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
第12ステージ | マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) |
第14、19ステージ/2勝 | セーアン・クラーウアナスン(デンマーク、サンウェブ) |
第16ステージ | レナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) |
第18ステージ | ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グネナディアーズ) |
マイヨジョーヌ:18日間
第2~4ステージ/3日間 | ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
第5~8ステージ/4日間 | アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) |
第9~19ステージ/11日間 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボヴィスマ) |
マイヨヴェール:19日間
第3、4、7~9ステージ/5日間 | ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) |
第5、6、10~21ステージ/14日間 | サム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
マイヨアポア:2日間
第18、19ステージ/2日間 | リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) |
マイヨブラン:8日間
第2、3ステージ/2日間 | マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) |
第7~12ステージ/6日間 | エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) |
敢闘賞:12回
第6ステージ | ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サンウェブ) |
第7ステージ | ダニエル・オス(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ) |
第9、12、18ステージ/3回 | マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) |
第10、14ステージ/2回 | シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ) |
第11ステージ | マチュー・ラダニュ(フランス、グルパマFDJ) |
第13ステージ | マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) |
第16ステージ | リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) |
第17ステージ | ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
第19ステージ | レミ・カヴァニャ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) |
2020年のツール・ド・フランスは事前から難易度が高いと言われていたように、全ての争いが熾烈を極めた。栄冠を掴める者は一人であり、簡単に栄光を掴ませてくれないからこそ、誰もがその栄光を勝ち取るために何度も挑戦するからこそ、ツールは世界最大規模のレースとして君臨し続ける。シマノ・グローバルサポートチームはこれからも勝利を目指して戦い続ける。
提供:シマノ 企画/制作:シクロワイアード