6年間の沈黙を破りデビューしたフェルトの新型ARをインプレッション。その端正なルックスの内側に秘められていたのは、エアロロードのイメージを崩す圧倒的な乗りやすさと、新体制となった今も変わらないフェルトの哲学。アメリカ、カリフォルニア州から報告する。

カリフォルニアで開催されたワールドプレミアに参加

発表会2日目の朝がやってきた。いよいよ新型ARを試す発表会2日目の朝がやってきた。いよいよ新型ARを試す photo:So.Isobe
ロサンゼルス空港からレンタカーを走らせ、太平洋に面したカリフォルニア州道1号線を北上する。1月だというのに太陽の日差しは暖かく、窓から入り込んでくる風が時差ぼけの身体に心地いい。サンタモニカ、マリブ、ベンチュラ...。ロードムービーのようなシーサイドドライブを楽しんでいるうちに、フェルトの大型バンが止まったリゾートホテルに到着した。

アメリカと日本から、たった4人のジャーナリストだけを集めて開催されたワールドプレミア。リゾートホテルの小さな会議室でプレゼンテーションを受け、翌日にはラリーサイクリングチームが所有するビーチハウスを拠点に、ウインターキャンプ中の選手たちと新型ARに乗り、インタビューする機会を得た(エースのロブ・ブリットンのインタビューは記事下部)。

スタート地点はラリーサイクリングのベースキャンプ。既に数週間ARを乗り込んだ選手たちも準備を進めるスタート地点はラリーサイクリングのベースキャンプ。既に数週間ARを乗り込んだ選手たちも準備を進める photo:So.Isobe
今回私に充てがわれたのは、ラリーサイクリングも駆る実質的なレースモデル「Advancedグレード」のシマノULTEGRA Di2完成車(510サイズ)。身長176cmの私にはやや小さめだが、後に日本国内で開催されたメディア発表会にて540サイズを試乗させていただいた。

新型ARを目の当たりにした第一印象を正直に白状すると、「うーん、普通だな」だった。6年前にデビューした先代モデルからは大幅な進化を果たしているものの、直線基調のフレームデザインや、セミ内装式のルーティングも特段珍しいものではない。パテント取得済みというフィッシュテールシートチューブや、フォーク/フレームとツライチになるスルーアクスルシャフトも、高らかに打ち出すにしてはかなり地味だ。でも、翌日のテストライド開始後すぐに、その凡庸なイメージは裏切られることとなる。

恐ろしいまでの乗りやすさ、滑らかさ

エアロロードとは思えない、クセの無い走りが気持ち良い。登りでも傾斜がキツくならない限り重量を感じることはなかったエアロロードとは思えない、クセの無い走りが気持ち良い。登りでも傾斜がキツくならない限り重量を感じることはなかった
帰国後、国内で開催された試乗会で同じAdvancedグレードの54サイズを試した帰国後、国内で開催された試乗会で同じAdvancedグレードの54サイズを試した (c)Nobuhiko.Tanabe走り出した瞬間から、恐ろしくスムーズだ。エアロロードにありがちな、縦の硬さに起因する振りづらさや過剛性感を感じることなく、スーッと滑らかに前に出る。それは単に乗り心地が良いということではなく、フレーム全体の優れたバランス感によって生み出されるものだ。

注意深く走らせてみると、その性格の軸にあるのはフロントフォークとヘッドチューブだということに気づく。レースバイクゆえに高剛性であることは間違いないが、そのボリュームゆえか軽量クライミングバイクとは違って乗り手に神経を使わせることもない。ハンドリングも極めてシャープで、エアロロードらしい立ちの強さが無く、ダンシングも全くもってスムーズだ。

懐の広さはペダリングにも共通していた。セカンドグレードのAdvancedフレームということもあるだろうが、トルクフルに踏み込むと、タッチは優しく、その奥に芯の強さがあって、足が下死点に向かう時にスッと抜ける。エアロロードの剛性感が上手く包み込まれているからペダリングしやすく、気持ちよくスピードが上がっていくのだ。BB周辺の「いなし」はひび割れた路面上でも効果を発揮し、脚が弾かれることなく速度を維持できた。スピードメーターが示す数字が増すにつれ、空気が流れる感覚が強くなるのはトライアスロンバイクを出自とするフェルト開発陣の努力の賜物だろう。

これは他のジャーナリストたちも同じように感じたようで、走りながら「すごく乗りやすいね」と意見を通わせる。ド平坦や下りも良いけれど、踏みやすさゆえにスピードを残したまま、ダンシングでクリアする登りは最高だった。フレームの素性が良いだけにペア重量1700gというカーボンホイールの外周部の重さが気になったが、コストパフォーマンスは良く、優秀な巡航性能を考えれば積極的に交換を勧めるものではない。同行したライトウェイプロダクツのスタッフ(FRを所有するクライマー)も、FRに通ずる扱いやすさを見出していたようだ。

試乗コースに厳しい登りは含まれていなかったが、ライド終了後にホテル周辺にある10%越えの登坂に連れ出してみた。フレーム重量が1200gもあるため、純粋にヒルクライムを楽しみたいユーザーにはFRをオススメするが、先述した踏みやすさゆえに、細かい勾配変化にもある程度一定ギアのまま押し切れる感覚がある。グランフォンド的な走り方を好む方であれば、40mm程度のハイトを持つホイールに交換すれば扱いやすさは増すはずだ。

エアロロード特有の立ちが薄く、ハンドリングも自由自在。操る楽しさを秘めたバイクだエアロロード特有の立ちが薄く、ハンドリングも自由自在。操る楽しさを秘めたバイクだ (c)Nobuhiko.Tanabe
開発陣が苦心したという先割れ形状のシートポストと、4箇所のエラストマーを用いて減衰するスリーブの組み合わせは、かなり有効なものだった。悪い意味で柔らかいのではなく、レースバイクとしての乗り味を損なわない絶妙な味付け。昨年末に本州縦断バイクパッキングを敢行したラリーサイクリングのエース、ロブ・ブリットンも「長距離レースで体力を残せるし、僕が日本を走ったような超長距離ライドにもすごく良いと思う」とお墨付きだ。

薄まることのないフェルトらしさ。ARは誰もが楽しめるエアロロードだ

左側ドライブトレインのトラックバイク「TA」のような仰天エアロ設計もなければ、重量的にもそこまでメリットもない(むしろ若干ディスアドバンテージだ)。ただ実直に空力性能と乗りやすさ、そしてメンテナンスのし易さを突き詰めた末に生まれた新型ARは、恐らく誰にでも愛され、乗りこなせる懐の深いエアロロードバイクだった。

塊のような剛性感や、爆発的な加速感こそ無いものの、エアロロード界のベンチマークとなったスペシャライズドのVengeやキャノンデールのSystemSixよりも扱いやすく、同じく上質な走りを身上とするトレックのMadoneよりも足当たりは優しい(セカンドグレードなので当然ではあるが、それであっても、ということを付け加えたい)。最上級モデルのFRDグレードではよりソリッドな走りになると推測されるが、扱いやすさが損なわれることは無いだろう。そもそもフレームセット30万円以下という価格を考えればライバル不在、と言い切れるだけの性能は十分にある。

現代エアロロードに恥じない魅力的なルックスと、懐の広い乗り味を両立する現代エアロロードに恥じない魅力的なルックスと、懐の広い乗り味を両立する photo:So.Isobe
創業者ジム・フェルトとビル・ドーリングが会社を離れ、ロシニョールグループの一員となったことでMTB開発を停止、さらにはこれまで中枢を担ってきたエンジニア数名が離脱するなど、外野から見る限りトーンダウンを否めなかったフェルトだが、新体制下の第1号作品である新型ARからは、これまで堅持してきた性能第一主義や、ユーザーフレンドリーといったフェルトらしさを確かに感じ取ることができた。

乗り手の脚力レベルに関係なく、現代エアロロードに恥じない魅力的なルックスと、懐の広い乗り味を両立するのが新型ARだ。レース機材としても、趣味の相棒としても選べる一台だと思った。

ラリーサイクリングの総合エース、ロブ・ブリットンに聞く新型AR

筆者はライドを共にしたラリーサイクリングの山岳エース、ロブ・ブリットン(カナダ)に、新型ARの印象を尋ねてみた。その印象や、昨シーズン使用した軽量オールラウンダーのFRから乗り換えた理由とは?

ロブ・ブリットン(ラリーサイクリング) プロフィール

ラリーサイクリングの総合エースを務めるロブ・ブリットン(カナダ)。ARと共に五輪カナダ代表メンバー入りを目指すラリーサイクリングの総合エースを務めるロブ・ブリットン(カナダ)。ARと共に五輪カナダ代表メンバー入りを目指す photo:So.Isobe
1984年生まれ、現在35歳のベテランオールラウンダー。2010年、25歳の時にビッセルプロサイクリングチームで遅咲きのプロデビューをして以来、一貫してアメリカのプロチームに身を置いてきた。長身を武器に独走力に長け、2017年には個人TTを制してツアー・オブ・ユタで総合優勝。昨年は個人TTのカナダ王者に輝いた。

プロロードレーサーでありながら自然を愛し、バイクパッキングでのツーリングも趣味。昨年には友人と来日し、本州縦断旅行を行った。「ゆっくり見て回った日本は本当に素晴らしかった。今年はオリンピックメンバーとして再び日本を訪れたい」と語る。

― フェルトのメンバーから、今シーズンは新型AR(Advancedグレード)をメインに使うと聞きました。昨年使ったFRから乗り換えを決めた理由を教えてください。オールラウンダーなのにARを選んだのは意外に感じました。

「今まで経験した中でも最も扱いやすい、乗りやすいバイクを手にできた」「今まで経験した中でも最も扱いやすい、乗りやすいバイクを手にできた」 photo:So.Isobe「FRよりも同じ出力で2〜3km/h速く走れる」「FRよりも同じ出力で2〜3km/h速く走れる」 photo:So.Isobeやはりロードレースではスピードこそが勝敗を分けるから。フェルトから「新しいARが出る」と聞いてすぐに選んだけれど、本心ではこれまで乗ってきたエアロロードバイクに良いイメージをもっていなくて、開発陣の言葉に半信半疑だったんだ。

でも、驚いた。走りの性格はFRとすごく似通っていて、よほど急勾配の登りでない限りデメリットはほとんど感じない。確かに重量は重いけれど、レースで決定的な差がつくほどではないし、ハンドリングもTTバイクとは全く違って思い通りのラインを描くことができる。乗っていて楽しいバイクなんだ。

今現在のプロトンを見れば分かるけど、現在はアップダウンを含むコースでもほとんどの選手がエアロロードを選んでいる。これは紛れもなく現在のトレンドだし、これまでチームに足りなかったことの一つ。それも今まで経験した中でも最も扱いやすい、乗りやすいバイクを手にできたのでとても満足している。

― 実際にアドバンテージを感じる場面はありましたか?

このトレーニングキャンプで確かめたけれど、実際にARは、FRと同じ出力で走っていても平均して2〜3km/hスピードが出るんだ。チームメイトたちとも確認してる。これはチームとしての共通意見だよ。

今年のメインバイクをFRにするか、それともARにするかと聞かれたのが昨年8月。例えばツアー・オブ・ユタやツール・ド・スイスなど、僕ら北米のプロチームにとっても1日4000〜5000m登るレースはあるにはある。けれどそこまで厳しいステージは実際には多くなくて、平均して山岳ステージでも2000〜3000mくらいが相場で、その場合でも平均スピード40km/hを超えることも多い。登りで勝負が決まる山頂フィニッシュではFRを使うけれど、よく考えた末にメインバイクはARに決めたんだ。

― 東京五輪への出場が決まった場合、FRとARどちらを選びますか?

すごく難しい質問だけど、おそらく僕はARを選ぶことになると思う。カナダチームとして僕が担う任務は、マイケル・ウッズを三国峠の麓まで良いポジションで連れて行くことになる。序盤のアップダウン区間(道志みち)やその後の登坂区間も高速でこなすことになるだろうから、それを加味するとやはりARが有利だ。

「1日4000〜5000m登るレースはそう多くない。総合的に考えるならARの方がメリットになる状況が多い」「1日4000〜5000m登るレースはそう多くない。総合的に考えるならARの方がメリットになる状況が多い」 (c)CorVos
― 開発陣は快適性向上にも苦心したと語っていました。その点に関してはいかがですか?

エアロロードバイクにしては非常に乗り心地が良い。5,6時間乗ったとしてもそこまで疲労が溜まらないので、勝負所まで体力をセーブしておけるのはすごく良いし、これは一般サイクリストにとっても大きなメリットになると思う。28mm、30mmくらいのタイヤを入れればブルベやバイクパッキングにだって連れ出せると思う。

― バイクパッキングと言えば、昨年末は日本にバイクパッキング旅行に来ていましたね。

そうなんだ。僕にとって自転車は仕事道具だけじゃなく、人生を豊かにしてくれるもの。もともと知らない土地に行くのが好きだし、自然の中に身を置くのが好きなんだ。だからMTBも楽しむし、最近はバイクパッキングツーリングが好きだね。日本は広島から東京までゆっくり林道メインで旅したけど、本当に素晴らしいものだったよ。だからこそ五輪メンバーに選ばれることが大きな目標なんだ。



次頁で紹介するのは、新型AR開発を主導したフェルトプロダクトマネージャーへのインタビュー。どのように新型ARは開発され、どのような思いを込め形になったのか。そしてブランドとしての興味深いストーリーを聞くことができた。
提供:ライトウェイプロダクツジャパン、text:So.Isobe