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大手ブランドがこぞって参入する群雄割拠のエアロロード界に、フェルトが投げ打った新型AR。フェルト開発陣は5カ年計画の末に生み出した虎の子にどのような思いを込め、何を託したのか? カリフォルニアでのテストライドを終えたタイミングで、開発を主導したプロダクトマネージャー、アレクサンダー・ソリア氏に話を聞いた。

本社プロダクトマネージャーに聞く、新型AR開発秘話

ロードプロダクトマネージャーのアレクサンダー・ソリア氏に話を聞いた。手にしているのはプロトタイプのAR FRDだロードプロダクトマネージャーのアレクサンダー・ソリア氏に話を聞いた。手にしているのはプロトタイプのAR FRDだ (c)FELT
1月9日、アメリカはカリフォルニア州、オーハイにて開催されたワールドプレミアで、我々メディア陣の前に姿を表したフェルトの新型AR。「全く白紙の状態から作り上げた」と紹介された新世代機は、実に懐の深い、フェルトの考える次世代エアロロードにふさわしい乗り味だった。

「ARを開発するにあたり、ただ速いバイクを作りたかったわけではありません。あくまでユーザー目線に立った、乗っていて楽しいバイクであり、整備性に優れたバイクを作ろうとしました」と言うのは、5年間にも及ぶ新型AR開発を指揮したプロダクトマネージャー、アレクサンダー・ソリア氏だ。筆者はテストライドを終え、共に走ったソリア氏にインタビューする機会を得た。

「自分自身ARの走りに驚いた」

ARを駆って走るソリア氏。プロト初号機の走りに自分自身驚いたというARを駆って走るソリア氏。プロト初号機の走りに自分自身驚いたという (c)FELT
ロード個人TT世界王者であり、トラック競技でも数々の偉業を打ち立ててきたクロエ・ダイガート(アメリカ)もARを駆るロード個人TT世界王者であり、トラック競技でも数々の偉業を打ち立ててきたクロエ・ダイガート(アメリカ)もARを駆る (c)FELT前項でお伝えした新型FRの感想を伝えると、「私自身、プロトタイプ初号機に乗った時に驚きました」と屈託の無い答えが帰ってきた。氏は続ける。「パワー伝達に一切のロスがなく、スピードに乗せるとバイク自らが前に進もうとする感覚が強かったからです。路面をしっかり掴もうとする感覚が強く、エアロロードにありがちな不安定感もない。そして、低速域でも前に進む感覚が強いゆえに登りだって得意です。私自身何度も獲得2000m級のライドに出かけましたが、FRと比べてフィーリングは一切遜色ありません」。

「それに、カーボンレイアップの工夫はもちろん、シートポストとエラストマーで乗り心地を高めているため、走りそのものも不快感がありません。快適性については空力改善と同じくらい積極的に取り組んだ要素ですし、それゆえレースバイクでありながら、もっとカジュアルなライドにもマッチします。今回試乗してもらったAdvancedグレードはARのエントリーグレードですが、それですら完成度は非常に高いと自負しています。我々のトップモデルたるFRDは剛性や快適性、路面追従性、そしてパワー伝達性能を極限まで高めて設計していますが、実際、このノーマルグレードの新型ARは重量を除く全ての要素を高次元で満たしています」。

今回のモデルチェンジにあたり、最も苦心したのはフレームシェイプの造形だったという。それぞれのチューブに対する最適な形状を一つずつシュミレーションし、更にフレームの形に組み上げてからもシュミレーションを繰り返した。「スポーツバイク業界では開発を外部委託する場合が少なくありませんが、私のようなエンジニアからすればそれは大きな疑問です。性能を追求することがスポーツバイクの第一条件であるはずなのに」と氏は笑う。

ARの供給台数は口コミで増えた?

選手たちを待つ真新しいAR。チームでの使用率は65%に及ぶという選手たちを待つ真新しいAR。チームでの使用率は65%に及ぶという photo:So.Isobe
フェルトはその昔から、サポートチームに対しPRのために使うバイクを指定するのではなく、各選手のリクエストに応じてFR(過去はF)、もしくはARを供給してきた。サポート担当のスタッフによればラリーサイクリングでは半数を超える選手たちが今季のメインバイクとしてARを選んだという。ラリーサイクリングにはAdvancedグレードが供給されるため、正直に言えば、フレーム重量1200g弱のAR Advancedを選んだという事実は意外だった。ソリア氏は言う。

「チームに新型ARを届けて数週間ですが、当初FRを選んだ選手ですら"ARに替えてくれないか"と要求を受けているんです。チームが使うFR FRDはおよそ700g前後ですが、新型ARのAdvancedグレードは1200g弱。まったく正直な数値ですが、この差があるにも関わらず、最終的には恐らく65%以上の選手がARに乗ることになるでしょう。当初ARを選んだ選手はもっと少なかったのですが、供給され始めると、口コミで"自分もARにしたい!"という選手が増えてきました。ちょっと嬉しい悲鳴ですね(笑)。

電動工具でハンドルの微調整を行うメカニック。ARの作業性は優秀だという電動工具でハンドルの微調整を行うメカニック。ARの作業性は優秀だという photo:So.Isobe
まだポジションが定まりきっていないため、1日に何度も調整を繰り返す。作業性が悪ければストレスに感じる部分だまだポジションが定まりきっていないため、1日に何度も調整を繰り返す。作業性が悪ければストレスに感じる部分だ photo:So.Isobe作業しやすいのでコーヒーを飲む余裕もあるよ、と笑うメカニック作業しやすいのでコーヒーを飲む余裕もあるよ、と笑うメカニック photo:So.Isobe


エアロロードのみならず、軽量モデルであっても複雑な専用ハンドルやステムを標準装備することが増えてきた昨今。新型ARも専用ステムこそ採用しているが、ハンドルは一般的な31.8mmクランプを使用するセミ・インテグレート式で、ステムは一般的な製品に交換することも可能だ。更に言えば非内装式ハンドル/ステムを装着することを踏まえ、シフトワイヤーはダウンチューブから、フロントブレーキホースはフォーク上部から内装させることも可能という、他に類を見ない拡張性も持たされている。

「近年のエアロロードバイク、特にそのハンドル周りは複雑すぎます。空力を優先するあまり使いづらいバイクになってしまっては誰も喜べません。新型ARは空力を含めて全ての基本的性能を高めることはもちろん、一般的なロードバイク同等レベルまで使い勝手を高めることを念頭に置いています」とソリア氏は言う。ライド前にはラリーチームのメカニックと話す機会があったが、まだ選手たちのポジションが定まっていない(=頻繁に調整を行う)現時点でも作業性に不満はないという。

「決して開発を焦らない。ブランドの本質を守るために」

限られた時間の中で収録したインタビューの最後に、筆者は今回のモデルチェンジがフェルトにとってどのような意味を持つのかを聞いてみた。その答えを一言で表現するなら「ハイパフォーマンスブランドとしての前進」になると言う。

ARに幸先良い初勝利をもたらしたクロエ・ホスキング(オーストラリア、ラリーサイクリング)ARに幸先良い初勝利をもたらしたクロエ・ホスキング(オーストラリア、ラリーサイクリング) photo:Kei Tsuji
「我々フェルトは創設以来ずっと、その時代最高のバイクを作るという明確な目標と共に活動してきましたし、それはロシニョールグループの一翼を担う存在となった今、そしてこの先も変わらない事実です。例えばトレックやスペシャライズドなどは大規模で、全ジャンルのバイクを短期間でどんどん発表できるリソースを有していますが、一方我々フェルトは非常に小規模なブランド。もし競合他社と同じようにもっと多くのバイクをリリースしたとすれば、性能を第一に据える我々のメッセージは失われてしまうでしょう」。

「実際、カジュアルなライフスタイルバイクも作れますし、BMXだってビーチクルーザーだって作ろうと思えば作れます。でも、それは本当のフェルトではありません。本当のフェルトとは、リアルなハイパフォーマンスロードバイク、TTバイク、そしてシクロクロスバイクを納得いくまで作り込む技術者集団を筆頭にした会社なのです」。

「スポーツバイクを愛するエンジニアとして、この世で最も優れたバイクを作りたいし、そのバイクでライドを楽しみたい」「スポーツバイクを愛するエンジニアとして、この世で最も優れたバイクを作りたいし、そのバイクでライドを楽しみたい」 (c)FELT
「私自身もそうです。スポーツバイクを愛するエンジニアとして、この世で最も優れたバイクを作りたいし、そのバイクでライドを楽しみたい。研究のために競合他社のバイクに乗ることも多いのですが、そのたびに「これよりもっと良いものを、もっと快適で速いバイクを作りたい」と考えています。小さい会社ゆえ大きな広告を打つことはできませんが、全フェルト製品にはこういったメッセージが秘められています」。



次頁では、ライトウェイプロダクツジャパン主催による国内発表試乗会を舞台に聞いた、弱虫ペダルサイクリングチームの選手とショップ店長による評価をお届けする。
提供:ライトウェイプロダクツジャパン、text:So.Isobe