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フェルトの新型AR特集4編目は国内でのインプレッションをお届け。フェルトのバイクでJプロツアーを戦う弱虫ペダルサイクリングチームの長塚寿生選手と、トライアスロンバイクを始めエアロマシンに造詣の深いショップ、オッティモの酒井幸男店長が新型ARを試した。

インプレッションライダープロフィール

長塚寿生(左:弱虫ペダルサイクリングチーム)、酒井幸男(右:オッティモ)長塚寿生(左:弱虫ペダルサイクリングチーム)、酒井幸男(右:オッティモ) (c)Nobuhiko.Tanabe
長塚寿生(弱虫ペダルサイクリングチーム)
漫画「弱虫ペダル」の作者である渡辺航さんが監督を務める弱虫ペダルサイクリングチームのキャプテン。2017年から3シーズンに渡ってフェルトを駆り国内Jプロツアーを戦う。オールラウンドモデルのFR、エアロロードのARともにレースで使用しており、フェルトのバイクを知り尽くしたライダー。
弱虫ペダルサイクリングチームHP

酒井幸男(オッティモ)
千葉県柏市のサイクルショップ、オッティモの店長。自身もレースに参加するほどトライアスロンに造詣が深く、エアロロードやTTバイクの走りとメカに精通する。サイクリングからロードのJBCFレース、トライアスロンまで幅広いレベルの人が集まるクラブチームの活動も盛んなショップだ。
オッティモHP

Jプロツアーライダーとショップ店長が語る新型ARの走り

― ARについて言及する前に、まずお二人のフェルト歴を教えて下さい。ブランドに対してどのようなイメージをお持ちですか?

Advancedグレードの完成車をテストする二人Advancedグレードの完成車をテストする二人 (c)Nobuhiko.Tanabe
酒井:ウチはトライアスリートのお客様が多いので、それこそエアロロードのARは良く知ったバイクです。TTバイクのIAも乗った経験がありますが、もともとブランドとして空力性能を追求している、という印象は持っていました。シートステーを下げたコンパクトなリア三角も早い段階から取り入れていましたし、エアロに関して一歩先をいっているイメージでしたね。

長塚:私がフェルトに乗ったのは弱虫ペダルサイクリングチームに加入後。3シーズンに渡ってフェルトでレースを走ってきました。オールラウンドモデルのFR、エアロロードのAR、タイムトライアルバイクのDA、どれもレースユースで乗り込んでいます。

色々乗り比べた中でフェルトのバイクに共通するのは誰が乗っても扱いやすいジオメトリー。どのサイズに乗ってもちゃんと同じ乗り味になっていて、身長も体重も違うチームメイト同士で感じるフィーリングや、ここが良かったなど共通する部分が多いんです。製品のバランスの良さはフェルトの持ち味だと思います。

― 今回デビューする新型ARを乗ってもらいましたが、率直にいかがでしたか?

「一漕ぎ目からもう違う。全然クセがない」「一漕ぎ目からもう違う。全然クセがない」 (c)Nobuhiko.Tanabe
酒井:一漕ぎ目からもう違って、思わず声が出てしまいました(笑)。エアロロードってどうしても独特な乗り味になるものが多いですが、そのイメージと全く違って全然クセがない。オールラウンドバイクのような扱いやすさですが、それにエアロが加わるのですごく武器になりますね。

引きずるような抵抗感もなくスッと進んでくれる感じは非常に好印象でした。エアロロードですから重量はそこそこあるでしょうが、それが走りの重さに繋がっているとは微塵も感じませんでしたね。いわゆる良いバイク、速いバイクと言われるモデルって、まさにこのフィーリングが共通していて、しかも今回試乗したのはAdvancedグレードですからね。価格も考えたらかなり競争力のあるバイクになると思います。

「前作よりも加速のタイミングが早くなった。挙動的にもペダリングを後押ししてくれる」「前作よりも加速のタイミングが早くなった。挙動的にもペダリングを後押ししてくれる」 (c)Nobuhiko.Tanabe
長塚:前作のARを思い返すと、やっぱり若干クセがあったんですよね。自分はバイクをあまり左右に振らずシッティングで縦に回していく高回転系のペダリングなんですけど、それは見事にマッチするバイクだったんです。でもチームメイトの前田公平選手なんかはバイクを横に大きく振っていくタイプで、それだと前作のARは進みづらいし振りづらい。ペダリングの合う合わないがハッキリ分かれていました。

そのイメージがあったので最初乗ったときはホント驚きましたよ。乗り味のクセが一切無くて、ダンシングの感触も非常にニュートラル。前作はペダリングを矯正させられるような感覚がありましたが、今作は縦に踏んでも横に踏んでもしっかりパワーがスピードに繋がるよう仕上がっています。誰もが扱いやすいエアロのピュアレーシングバイクへと順当に進化してますね。

― エアロや剛性、快適性といった走りの各要素はどのように感じましたか?

「身構える必要が無いほどに乗りやすい。疲労が溜まりづらいので脚を残せる」「身構える必要が無いほどに乗りやすい。疲労が溜まりづらいので脚を残せる」 (c)Nobuhiko.Tanabe
酒井:向かい風を受けてもなお伸びるような感覚は相変わらず持ち合わせていますね。加えて、これだけハイトの高いホイールを合わせても横風に振られるような感覚が少なかったので、その辺りも進化しているんだと思います。

見た目的にも硬いんだろうなと構えていたのですが、全然そんなことはなくて、ロングライドでも使っていける。走りは軽く、足当たりはしっとり、といった印象です。足への反発が大きくないので疲労も溜まりにくいでしょうし、平坦巡航の速さと相まってトライアスロンで使っても良さそうです。トライアスロンではランニングに脚を残す必要がありますから、消耗具合は変わりそうです。

長塚:正直硬いとは感じないのですが、それでも確実に剛性は上がっていると思います。前作は踏み込んでから加速するまでワンテンポ遅れて伸びるイメージでしたが、今作は踏んだ瞬間バイクが進む。高トルクよりもハイケイデンスの方が進ませやすいかなとは思いますが、それでも従来よりペダリングに対する許容範囲が広くなりました。わざと大きく横に振ったり低ケイデンスで踏んでみたりしましたが、どのペダリングでも素直に気持ちよく進んでくれる。誰が乗っても速さを感じられる、扱いやすい1台です。

「どんなペダリングでも素直に気持ちよく進んでくれる」「どんなペダリングでも素直に気持ちよく進んでくれる」 (c)Nobuhiko.Tanabe二股になったシートポストは握ると簡単にしなる二股になったシートポストは握ると簡単にしなる (c)Nobuhiko.Tanabe

今シーズンのJプロツアーを戦うバイクと対面した長塚選手今シーズンのJプロツアーを戦うバイクと対面した長塚選手 (c)Nobuhiko.Tanabe
それと、シートポストのスリットも端まで入るようになって、二股になった部分を手で握ると明らかにしなるくらい柔らかいんですよね。レースバイクなのでエンデュランスロードのような快適性とは違いますが、不快な突き上げもなく、乗り心地は至って快適です。

昨シーズン使っていたFRは細身で軽く、挙動は割とクイックで剛性感もカッチリ。それに対して、ARはパワーを受け止めてグーンとスピードに乗ってくれる感じ。バネ感とはまた違うのですが、ペダリングを後押ししてくれるようなリアの挙動がありますね。FRが平坦で遅いわけでも、ARが登れないわけでもないので、自分のフィーリングや脚質に合わせて選択してあげると良いと思います。

完成車の状態でカーボンディープリムホイールがついてくるので、ホントこのままレースに出られるパッケージですよね。ただ、個人的にはARには35~40mmハイトくらいのセミディープもオススメなんです。フレームそのものの空力性能の良さに、ハイト低めのホイールによるバイクの動かしやすさもプラスされるので、アップダウンがあったり細かなポジション取りが必要だったりするロードレースではかなり相性が良いと感じています。

― メカ的な部分はいかがでしょう。ユーザーフレンドリーであることに気を使った設計との触れ込みですが...

酒井:コックピットパーツを分解してみたのですが、特別難しいケーブルルーティングではありませんし、比較的組みやすい部類だと思いました。締め付けのボルトが全部4mmで統一されている点も作業性に配慮されているなと。ケーブルはほぼ内装する仕組みですが、ステアリング抵抗に繋がる感もありません。

トップキャップを外し、ステムボルト3本を緩める。全て4mm工具で統一されているのもポイントだトップキャップを外し、ステムボルト3本を緩める。全て4mm工具で統一されているのもポイントだ (c)Nobuhiko.Tanabe
「エアロロードとしては比較的組みやすい構造」「エアロロードとしては比較的組みやすい構造」 (c)Nobuhiko.Tanabe
「ルーティング的には少々キツめですが、ハンドリングを阻害することはない」「ルーティング的には少々キツめですが、ハンドリングを阻害することはない」 (c)Nobuhiko.Tanabe

ただ一点、エアロを追求した結果だと思いますが、前作で可能だったシートポストの反転ができなくなったので、トライアスロンのような極端な前乗りポジションは再現しづらくなってしまった。ですが、ハンドルは汎用品が使える仕様なのでTT用のエアロバーも装備できますし、シートポストの上下もさせやすい。この辺りはいいですね。

長塚:ディスクブレーキ化されタイヤクリアランスが広がったことの恩恵は大きいかなと思いますね。レース現場のトレンドを見てもワイドタイヤが主流となっていますし、30mm幅までの色んなチョイスができるようになった。前作はタイヤとフレームの間がかなり近く、場合によっては25Cでもダンシングしたときにタイヤが擦ってしまったり、小石が挟まってフレームを傷つけたりする問題があったので、それも解消されるのは嬉しいですね。

コーナリングもしやすくなっており、これはフロントの剛性、特にスルーアクスル化によるエンド剛性の強化が効いているなと感じます。前作は下りなどでコーナーを攻めた時に若干横に抜けるような感覚があったのですが、今作は安定して地面を捉えてライン取りできます。フォークの形状も大きく変わっていますし、しっかりディスクブレーキ化に対応した剛性感で上手く作られていると思います。

「この走りでセカンドグレード。市場価値はすごく高い」「この走りでセカンドグレード。市場価値はすごく高い」 (c)Nobuhiko.Tanabe
― 長塚選手は今期このARでJプロツアーを戦いますよね。具体的にはどのようなコースで武器になりそうですか?

長塚:平坦はもちろんですが、ある程度の登りも十分に対応できるバイクなので、ハイスピードで何度も登りをこなす群馬CSCや修善寺でも武器になりそうです。今シーズンこのバイクでJプロツアーを戦うのが今から楽しみです。
提供:ライトウェイプロダクツジャパン 制作:シクロワイアード編集部 写真:田辺信彦