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チューブレスタイヤに革命を マヴィック ロードUST

満を持して登場したUSTを用いたロード用チューブレスシステム。幅広い製品レンジが出揃っている満を持して登場したUSTを用いたロード用チューブレスシステム。幅広い製品レンジが出揃っている
転がり抵抗、耐パンク性、重量。ロードレーサー向けのタイヤに求められる多くの性能を高次元で実現するチューブレスタイヤだが、クリンチャーやチューブラーといった他の規格のタイヤに比べると、見かけることの少ない規格であることは誰もが認める事実だろう。

その原因として真っ先に挙げられるのは、取り扱いの難しさだろう。リムへの嵌合がきつくてタイヤがはめられない、苦労して装着しても空気が漏れる、出先でパンクした時の対処が不安などなど、チューブレスタイヤにそういったマイナスイメージを抱いてきた人は多いのではないだろうか。

だが、そんなイメージはもはや古い固定観念になりそうだ。今やロード用チューブレスタイヤはマヴィックの「USTチューブレス」によって新たなステージへと突入した。これまで、多くのユーザーが抱いてきたチューブレスタイヤシステムに対するネガティブなイメージは、マヴィックのテクノロジーを結集したこの新規格によって過去となる。

ロードチューブレスという存在が提唱されてから、現在に至るまで保ち続けてきた沈黙をついに破ったホイール界の巨人マヴィック。MTBの世界では先駆けてチューブレスの規格を策定し、その普及に大きな役割を果たした姿を知るベテランサイクリストから見れば、その沈黙は不気味でもあっただろう。そのマヴィックが満を持して世に問うたロード用USTチューブレスというテクノロジーについて掘り下げていこう。

テーマは3つ “EASY. SAFE. FAST.”

ロードUSTチューブレスシステム断面図 ホイールとタイヤをトータルで設計できるマヴィックならではの設計となるロードUSTチューブレスシステム断面図 ホイールとタイヤをトータルで設計できるマヴィックならではの設計となる ついに登場したマヴィックのロードUSTチューブレス。大本命とも言えるこの規格がロードチューブレスの世界にもたらすものは何か。それは、“EASY. SAFE. FAST.”という3つのテーマとして表現されている。つまり、サイクリングの途中でも簡単にビードが上がり、それでいてエア漏れの心配が無く、チューブレスらしい軽い走行感が味わえる、そんな夢のようなシステムがロードUSTチューブレスなのだ。

どうしてそんなことが可能になったのか。大きなキーワードとなるのが、ここ数年マヴィックが積極的に取り組んできたホイールとタイヤをシステムとして捉え、トータルで設計する”WTS”(ホイールタイヤシステム)だ。チューブに拠らず、リムとタイヤの密着によってエアを保持するチューブレスシステムは、極めて精密な設計が求められる。

これまで世に出てきたロード用チューブレスはホイールメーカーとタイヤメーカーそれぞれが開発した製品を組み合わせてきたが、マヴィックはそれらを一つのシステムとし、そのマッチングを可能な限り高めるための設計を行った。

カギはビード直径とリム断面形状にあり

まず、タイヤとリムのマッチングを高める為に重要になるのがリムのサイズを定義するビード直径値だ。車輪に関する世界的な規格であるETRTO(エトルト)によれば、700cのリムの基準となるのは621.95±0.50mmと定められている。しかし、マヴィックはリムの精度をさらに上げるため、誤差を±0.35mmに設定する。

そして、そのリムに対応するタイヤビードに関しては、619.6±0.2mm、ビード強度を113daN/mm±3という範囲に設計している。これは競合するモデルに対して少し長いビード寸を持ちながら、より高い精度と変形しづらいビードを持っているということになる。つまり、タイヤを装着しやすい一方でエア漏れしづらく、またバーストなどのトラブルリスクもしっかりとマネジメントされているということだ。

緻密に設計されたリム。マヴィックが誇るハイレベルな製造技術が製品化に結びつけた緻密に設計されたリム。マヴィックが誇るハイレベルな製造技術が製品化に結びつけた
細かな数字が続き、理解しづらいという方もいるかもしれない。だが、ここがUSTのコアとなる部分であり、またこれまでのロード用チューブレスシステムの扱いづらさの原因となっていた部分でもある。

要約すると、これまでのチューブレス対応ホイールは、ブランド毎にリムサイズが微妙に異なっていた。そしてタイヤ側はその差に対応すべく、最も安全マージンを確保した設計を行う必要があった。つまり、タイヤビードが短く設計され、安全ではあるものの嵌め込み作業しづらいタイヤになっていた、というのが既存のロード用チューブレスタイヤが抱えてきた問題である。

その問題に対し、マヴィックが示した解決策はリム側に厳密な規格を定めること。リムサイズを一定の範囲内に収めることは、タイヤ側の設計を最適化することに繋がっていく。ホイールとタイヤをトータルで考えるマヴィックだからこそ持つことのできた着眼点であり、解決策だといえるだろう。

リム断面形状のモデル図 この各部寸法に込められたテクノロジーがUSTのキモだリム断面形状のモデル図 この各部寸法に込められたテクノロジーがUSTのキモだ ビードの長さと耐えられる気圧の相関図 YKSION PRO USTが実用十分でありながら装着しやすい寸法であることが分かるビードの長さと耐えられる気圧の相関図 YKSION PRO USTが実用十分でありながら装着しやすい寸法であることが分かる

これに加えて、リムの断面形状も煮詰められている。タイヤの密着度、そして安全性に関わるリムサイドウォールは他社よりも高い5.2mmとすることで気密性を高めている。また、タイヤを装着する際に重要な役割を果たすリムセンターグルーブ(溝)については、R4.5mm、深さ2.8mm、ビード保持力を向上させるためにグルーブの両側に設けられたハンプは0.25mmとコンマ数mmの精密な設計を施されることで、タイヤを装着しやすく、ビードが上がりやすく、かつトラブルが起きづらいという究極のバランスを持ったシステムとして実現した。

そして何よりこの精密な設計を実際の製品として製造できるというのは、リムを自社工場で加工するマヴィックだからこそ。FORE、ISM、SUPといった様々なテクノロジーを独自開発してきたマヴィックが新たに確立した成型技術によって、高精度なリムを実現しているのだ。

ハッチンソンと共同開発したコンパウンドを使用するレーシングタイヤ YKSION PRO UST

多くのタイヤがテストされた その数は50種類以上に及んだという多くのタイヤがテストされた その数は50種類以上に及んだという
専用設計のタイヤと聞いて、拒否感を示す人もいるだろう。路面と唯一接する部分であるタイヤは、個々のライダーにとって、大きなこだわりがあるパーツでもあるからだ。だからこそ、タイヤの専門メーカーに負けず劣らずのレーシングモデルとして、マヴィックはこのYKSION PRO USTをデビューさせた。

メンテナンス性については先ほど詳述した通り。USTチューブレスにベストマッチする設計で、極めて扱いやすいタイヤとなっているのはもちろん、レーシングタイヤとして求められる軽い走行感と高いグリップ力を併せ持つハイエンドモデルとして開発されている。

YKSION PRO USTは過酷な性能テストをクリアして生み出されているYKSION PRO USTは過酷な性能テストをクリアして生み出されている
タイヤの性能の要となるコンパウンドは同郷のタイヤメーカーであるハッチンソンと共同開発を行った”11STORM(イレブンストーム)”を採用する。これはハッチンソンのトップモデルにも採用されるコンパウンドであり、その実力は折り紙付き。特にウェットコンディションで行われたテストでは、他社のタイヤに比べてグリップと走行抵抗の両面において優れた結果を残したという。

タイヤ重量も260gと軽量に仕上がっており、シーラントを使用しても多くのクリンチャータイヤとチューブの組み合わせよりも軽く収まることも特徴だ。もちろんライドフィーリングは好き嫌いがあるものだが、スペック面で見ればタイヤ専業メーカーに優るとも劣らないタイヤとして期待が持てる。

ショップ店長が語るロードUSTチューブレスの実力

さて、そんなロード用チューブレスタイヤにおけるゲームチェンジャーを目指すマヴィックだが、実際のところどれだけの進化を果たしているのか。多くの経験を持つプロショップのベテランスタッフたちが語るロードUSTチューブレスの実力とは。

「この簡単さはぜひ体験してほしい」(岩切玲、スペースゼロポイント)

「この簡単さはぜひ体験してほしい」(岩切玲、スペースゼロポイント)「この簡単さはぜひ体験してほしい」(岩切玲、スペースゼロポイント) きっと、皆さんがチューブレスタイヤに対して抱いている漠然とした不安は、USTシステムの取り付け作業を一度経験してもらえれば、綺麗に消えてなくなっちゃうんじゃないでしょうか。それくらい簡単に作業できるのは驚きでしたね。本当に携帯ポンプでもビードは上がりますし、しかもチューブレスタイヤ特有の「バチン!」という音もしないほどスムーズ。装着しづらいな、と感じた時はしっかりとビードが中央の溝に落ちているかを確認して寄せてあげれば、素直に入ってくれると思います。

誰がやってもきっちりビードが上がるのであれば、チューブが無い方が作業は楽ですよね。私は過去バイクの整備工場で働いていた経験もあるのですが、たまにチューブが入っている車両が来たときは本当に面倒臭かった(笑)。自転車もそんな風に感じる時代がすぐそこまでやってきたのかな、と思いますね。

そして、もちろん走りも良いんです。ロングライドやツーリングでは、乗り心地の良さが大きなメリットになるはずです。空気圧を下げて乗ることが出来るので、身体への負担がとても少なくなりますね。私は25cで5気圧くらいが丁度良くって、通常使っているタイヤより1〜2気圧ほど下げるのが一つの目安になりそうです。空気圧を高める必要が無いので、空気入れの手間も減るというのも隠れたメリットかもしれないですね。

「YKSION PROは全方位に高性能なタイヤです」(岩切玲、スペースゼロポイント)「YKSION PROは全方位に高性能なタイヤです」(岩切玲、スペースゼロポイント)
乗り心地に加えて走りも軽いですからレースに使っても全然問題ありません。グリップもとても高いですし、ホイールの高剛性も相まってコーナーではもう無敵ですよ。マヴィックのタイヤというと「ホイール屋さんが片手間に作っているんでしょ?」みたいなイメージを持っている方もいらっしゃいますけれど、私からすれば食わず嫌いって勿体ないと思ってるんです。

その方たちは、きっと最初期のモデルの印象が残っているんじゃないかな。確かに最初のデビュー作はお世辞にも出来が良くなくってお店にも置かなかったんですけど、そこからどんどんアップデートされてるんです。現行のYKSIONは数あるタイヤの中でも特にお気に入りです。よく行くコースに少しグリップが低いタイヤだと滑ってしまうようなグレーチングがあるんですけど、最近のマヴィックのタイヤは全然滑らない。耐久性も高いんですよ。車でも運転をためらうような雨の中、八ヶ岳を走った時も、タイヤには一切傷が入ってなくて、ちょっと感動しちゃいました(笑)。

YKSION PRO USTはコンパウンドも最新の物に進化していますし、性能がさらに向上しているのは間違いないです。タイヤの選択肢が少ないことを気にされる方もおられるでしょうけど、全方位に高性能なタイヤですから、よっぽど思い入れのあるタイヤがあるのでなければこれ一本できっと満足できるはずです。とにかく一度、触ってみて欲しいですね!

「カーボンチューブラーを超えた初めてのチューブレスシステム」(中務博司、タキサイクル)

「カーボンチューブラーを超えた初めてのチューブレスシステム」(中務博司、タキサイクル)「カーボンチューブラーを超えた初めてのチューブレスシステム」(中務博司、タキサイクル)
今、自分のバイクにはKSYRIUM PRO CARBON チューブラーを使っているのですが、KSYRIUM PRO USTに乗り換えます。そのくらいの好印象のホイールとタイヤでした。これまでにもチューブレスタイヤを使う機会はあって、そのたびに決して悪い印象ではなかったのですが、チューブラーの軽さや乗り味を越えるほどのものとは出会えなかったんです。でも、遂にその壁を越えるホイールシステムが出てきました。

実際に西伊豆のアップダウンが厳しい海岸線を走ってテストしてきたんです。まず感じたのはタイヤの剛性感ですね。ヨレないのでビシっと安定しているし、返りも良いのでロングライドからヒルクライムまで対応してくれます。空気圧の設定は独特で、5気圧から7気圧までと指定されています。これまでYKSIONを7.5気圧で使ってきたので、上限の7気圧で試してみたらかなり跳ねたので、だいぶ空気を抜いた状態で丁度いい乗り心地になりましたね。私の体重は72kgほどですから、7気圧入れれば相当大柄な人でも大丈夫だと思います。

絶対的な数値で見れば、重量的にはカーボンチューブラーに比べればトータルで200gほどプラスになりますが、実際に走った時にその分の重さを感じるかといえば、全く感じないですね。むしろ軽く感じるくらいで、ヒルクライムもこのホイールで走りたいですね。

旧型ハブ(左)に対して新型ハブ(右)はフランジ幅が広がっている旧型ハブ(左)に対して新型ハブ(右)はフランジ幅が広がっている
ハブが新型になって、フランジ幅が広がっているため、横剛性も増しています。ダンシングでもリズムが取りやすいですし、この走行感の軽さはプロレベルでも受け入れられるのではないかと思わせてくれるほどです。登りオンリーのタイムトライアルなど、極端な状況でなければこのホイールで賄えてしまうのではないでしょうか。カーボンリムの軽量モデルへの期待も高まりますね。国内レースであればアルミモデルで十分ですよ。

気になる作業性ですが、クリンチャーと変わらないと言えるレベルです。嵌め合いに関しては、タイヤレバーの必要性は感じませんし、少しきついと感じるのであれば石鹸水を使ってあげればよいでしょう。気密性も高く、シーラントがサイドから漏れてくることもなかったですね。一点注意するとすれば、前後タイヤで組み付ける方向が逆だという点でしょうか。

シーラントも使用量が通常の半分ほどで済むので、作業時も汚れづらいですし重さも感じません。むしろ、細かなパンクのリスクが無くなってくれるので、初心者にとっても嬉しいタイヤとなるでしょうね。もちろんサイドカットなどは防げないですから、長距離ツーリングなどでは念のためチューブやタイヤブートを持っていくと良いでしょう。

USTチューブレスタイヤ脱着のコツを2人のショップ店長が動画で解説

スペースゼロポイント岩切玲さん 「タイヤの脱着の基本について」



タキサイクル中務博司さん 「脱着からシーラントの注入、嵌合の確認まで」


提供:アメアスポーツジャパン 製作:シクロワイアード text:Naoki.Yasuoka