新型ドマーネSLRをフランドル地方はロンド・ファン・フラーンデレンのコースにおいてテストライドしてのレポート、そして開発責任者のインタビューをお届けする。パヴェを含む100km以上のライドで見えてきた性能、そして初代との差異は? テスターはロンドのプロレースを撮影するフォトグラファーの綾野 真が担当する。

テストライドしたDomane SLR レースショップ・リミテッドエディションテストライドしたDomane SLR レースショップ・リミテッドエディション photo:Makoto.AYANO
フロントIsoSpeedはメカを内蔵することを感じさせないフロントIsoSpeedはメカを内蔵することを感じさせない ずらりと用意されたDomane SLRテストライドバイクずらりと用意されたDomane SLRテストライドバイク

インプレを行ったのは、初代ドマーネが登場した4年前と同じロンド・ファン・フラーンデレンのコースだ。このフランドルの地が第2世代ドマーネのテストライドフィールドに選ばれるのは、ある意味当然の流れだ。

プロレースの撮影でコース駆け巡ってから2日後、熱戦のロンドの興奮冷めやらぬうちに、世界を代表するサイクリングメディアのジャーナリストたち約30人とともに、カメラモトをドマーネに乗り換えてフランドルの地へと走りだした。前夜はカンチェラーラ自身からドマーネの紹介を受けて。

4年前と同じ風車のホテルからテストライドに出発だ4年前と同じ風車のホテルからテストライドに出発だ photo:Makoto.AYANO
肌寒い空気の中、走りだしてまず感じるのはその反応性の良さと剛性の高さだ。「快適性ではないのか?」という声が聞こえてきそうだが、パヴェへのアプローチの舗装路に漕ぎ出したプロトンは、スピードを上げてローテーション走行へと入る。まず感じるのはそのふたつの性能だ。

フランドル地方の冷たい空気を感じながら農道のアップダウンを駆け抜けるフランドル地方の冷たい空気を感じながら農道のアップダウンを駆け抜ける photo:Makoto.AYANO
ドマーネSLRは機敏に反応して軽快に走る。舗装路において「快適バイク」という印象は無く、レーシングバイクそのものだ。それも、かなり剛性が高く、反応性が良い部類に入るバイクだという第一印象だ。先入観を持って初めてドマーネに乗った人ならイメージとのギャップに驚くかもしれない。しかし、初代のキャラクターを知っている人なら、それは決して意外なことではないだろう。

アップダウンを快調にこなすプロトン。ジャーナリストとはいえ脚自慢の走り屋ばかりだアップダウンを快調にこなすプロトン。ジャーナリストとはいえ脚自慢の走り屋ばかりだ photo:Makoto.AYANO
しかしそこはベルギーの道。幹線道から小路に入ると、段差や荒れたところはいくらでもある。そこからがドマーネの本領発揮だ。意図的に段差を越えてみるのはお約束。路面のヒビや穴、砂利などの上にもタイヤを進ませてみる。

段差を乗り越えるとき、コツンとくるはずの衝撃が手に伝わってこない。わざと荒れた路肩に突っ込んでいっても、ドマーネは振動にビビるようなことなく静かに加速していく。その感覚は不思議というほかない。ヘッド周辺に追加されたフロントIsoSpeedによる衝撃吸収性の向上は10%程度ということだ。新たなIsoCoreハンドルバーも加わっているから、初代ドマーネとの差は厳密にはその場で乗り比べないと分からないが、荒れた路面でのスムーズさは驚異的だ。

運河沿いの小路をローテーションしながら走る運河沿いの小路をローテーションしながら走る photo:Makoto.AYANOロンド・ファン・フラーンデレンの路面には過去の勝者が刻まれるロンド・ファン・フラーンデレンの路面には過去の勝者が刻まれる photo:Makoto.AYANO

コルトレイクからロンドの核心部、オウデクワレモントとパテルベルグ、コッペンベルグが近づいてきた。小休止のエイドではリアのIsoSpeedを調整してみることにした。

シートチューブのボトルケージ取り付けボルトを兼ねるボルトジョイント部をアーレンキーで緩め、スライダーを動かす。ここからはもちろん最下部に下げて、シートマスト部の可動量を最大にしてみる。サドルを持って体重を掛けてみれば、面白いように前後にしなる。この状態で第1世代よりヴァーティカルコンプライアンス(垂直方向の柔軟性)で14%の向上を達成しているという。

スライダーを最下部にセットすればシートマスト部のしなり量は最大になるスライダーを最下部にセットすればシートマスト部のしなり量は最大になる ボントレガーAeolus3カーボンホイールホイールに28cのタイヤがセットされていたボントレガーAeolus3カーボンホイールホイールに28cのタイヤがセットされていた


また、今回のバイクには28Cのスリックパターンのクリンチャータイヤが装着されていた。見た目に太いが、走りの軽快さはまずまず。加速性には劣るが、巡航速度に入れば重い感じは皆無だ。

オウデクワレモントは難易度が高いパヴェだが、勾配が「激坂」というほどではない。パヴェひとつひとつの粒が大きく、中腹あたりは修復が必要なほど荒れている。スピードに乗せられる上りだけに、バイクの振動吸収性能の差が出る。ドマーネは振動をいなし、静かに加速していく。別ブランドのバイクに乗ったサイクリストを追い抜くとき、それぞれのバイクが発する音がまったく異なることから、ドマーネがいかに威力を発揮しているかが分かる。ドマーネは静かに走るのだ。

オウデクワレモントはスピードを殺さなければ駆け上がれるパヴェだオウデクワレモントはスピードを殺さなければ駆け上がれるパヴェだ photo:Makoto.AYANO
パテルベルグ、そしてコッペンベルグは激坂かつ荒れた凶悪なパヴェだ。ホビーライダーレベルの筆者も足を着かずに頂上をクリアできたことは大きな喜びとなる。そして、長いダウンヒルのパヴェ区間へ。ハイスピードで下る場面こそ、もっともバイクの振動吸収性能が問われる状況だ。

ロンドの勝負を決するパテルベルグの最大勾配部を駆け上がるロンドの勝負を決するパテルベルグの最大勾配部を駆け上がる
ダウンヒルで確かめたかったこと。それはフロント周りがブレないかどうかだった。下りでハンドル周りに共振が発生してコントロールが効かなくなるケースのほとんどは、ヘッド周辺の強度不足が要因となる。そのためバイクメーカー各社はこの20年来、ヘッドを大径化し、強度を増すことに注力してきた。他社からすればそのヘッド部を動くするようにするアイデアなど言語道断といったところだろう。はたしてドマーネSLRのフロントIsoSpeedはブレないのか?

コッペンベルグに挑むテストライダーたちコッペンベルグに挑むテストライダーたち photo:Makoto.AYANO湿り、荒れたコッペンベルグのパヴェは容赦なくライダーを攻撃する湿り、荒れたコッペンベルグのパヴェは容赦なくライダーを攻撃する photo:Makoto.AYANO

リスク覚悟で1km以上続く下りのパヴェにフルスピードで突っ込んでみた。ハンドル、そしてステアリングコラムは縦方向へしなる動きは感じるが、横方向にはまったく動じない。むしろ強固なほどの高剛性だった。自身、パヴェ走行では今まで体験したことのないスピードに達することができた。恐怖は少なかった。

100kmほどのライドの終盤は、再び舗装路でのローテーション走行だ。この日、グループ内では何のメカトラブルも無くコルトレイクに向かった。舗装路ではアタック合戦が始まり、最後はスプリントで締めた。ドマーネはただの快適バイクではない。ロードバイクとしての性能の高さも楽しめるのだ。

下りのパヴェこそ凶悪にライダーを攻撃する下りのパヴェこそ凶悪にライダーを攻撃する photo:Makoto.AYANO初代ドマーネはシートチューブが独立し、リンクで繋がれた構造になっていた。つまりフレーム三角を構成するチューブは一体ではなく、それが第2世代では一体になった。ダウンチューブからBB周りにかけて構成されるパワーコンストラクション構造という設計思想は引き継がれているものの、稼働するシートマスト部を独立させ、フレーム三角は一体になったことで、おもにBBとダウンチューブの強化によって保とうとしていた剛性が分散されたように感じる。結果、フレーム全体の剛性バランスが良くなったように感じた。メカ構造を増しながら重量増加はゼロなのも、このへんに秘密がありそうだ。

フランドル特有の寒空のなか、スピードを上げながらのグループライドフランドル特有の寒空のなか、スピードを上げながらのグループライド photo:Makoto.AYANOライドを終えてシャワーを浴び、陽の当たるテラスでベルギービールを堪能する豊かな時間。仲間たちとの会話の節々に、疲労感が少ないことが語られる。

「エンデュランスバイクとは何か?」 そういった議論も交わされる。自分がドマーネSLRに対して感じた結論は、確かに快適バイクとしてのユニークな点が際立ちがちだけれど、ロードバイクとしての運動性能の高さを満たしながらも快適性を加味しているところが素晴らしいと思う。

エアロや軽量性を重視するなら別の選択肢があるだろう(トレックならマドンとエモンダだ)。ドマーネはロードレースからグラベルライド、ブルベやロングライドに、何にでも使えてしまう「ザ・オールラウンダー」。守備範囲の広さこそが魅力だ。誤解されがちだが、活躍の場は決してパヴェだけではないのだ。

ドマーネ開発チーフ ベン・コーツ氏に訊く新型ドマーネ開発のポイント

ー 素晴らしいライドを楽しみました。初代より進化している点も体感できましたし、ドマーネの素晴らしいポイントは変わらず。まさに正常進化ですね。どの点がもっとも進化したと考えていますか?

ドマーネ開発チーフ ベン・コーツ氏ドマーネ開発チーフ ベン・コーツ氏 photo:Makoto.AYANOありがとう。部分部分ではなく、フロント、リアのIsoSpeed、IsoCoreハンドルバー、フォークのすべてがそれぞれの働きをして、それが相互に合わさって機能しあうことで新型ドマーネのパッケージとしての全体性能の向上となっています。

ー じつはテストライドする前はフロントIsoSpeedに懐疑的でした。ハンドリングに共振やバイブレーションが発生するのでは?と心配しましたが、まったく杞憂でした。

その点が今回の開発の中で非常に苦心したポイントです。フロントIsoSpeedの開発についてはチーム(トレック・セガフレード)の多大な協力を仰ぎました。なぜなら彼らは私たちエンジニアよりずっと速いスピードで走り、下れるから、その条件でテストができるんです。選手たちが性能を確認してくれたからこそ自信を持って製品化できました。

ー マドンの発表からわずか8ヶ月でのドマーネの発表です。トレックの開発チームはどうしてそんなことができるのでしょう?

ロードチームの中でプロジェクトチームごとに分かれて、違ったプロジェクトを同時に進めています。しかし我々は依然としてひとつのグループです。それぞれのグループはひとつのプロジェクトに専念しますが、横のつながりは常にあります。

プロジェクトチームはそれほどたくさんの人間で構成されるわけではありませんが、経験や知識のあるキーパーソンが多く、例えばマドンのミオ(=エアロ開発の中心人物 鈴木未央さん)のような優秀なエンジニアで構成されます。

かつ、マウンテンバイクのプロジェクトチームなどとも知識をシェアしますから、それらが有機的につながりながら開発に邁進しているというわけです。それがトレックの開発力の高さとスピードの秘密といえるでしょう。

ー カンチェラーラはどれぐらい開発に関与していますか? 今回の新型はファビアンの発案でしょうか?

ロンド・ファン・フラーンデレンを走るファビアン・カンチェラーラ(トレック・セガフレード)ロンド・ファン・フラーンデレンを走るファビアン・カンチェラーラ(トレック・セガフレード) photo:Makoto.AYANOファビアンや選手たちが開発に直接関与することはありません。ベースとなる製品はあくまでエンジニアが考案し、プロトタイプを制作します。それをテストしてもらい、選手たちに意見を求めるのです。

例えばカーボンレイアップの異なる3つのモデルをつくり、選手たちにテストしてもらい「これはどう?」「どれがベスト?」と詰めていきます。あるいはすべてダメなら最初からやり直す。

選手がテクノロジーを考えたり細部のアイデアを要求してくるのではなく、エンジニアがまずカタチをつくり、それを選手にテストしてもらうことで、次の開発に活かすという作業を繰り返します。つまり選手たちはテスター側です。

ー ドマーネに関してエアロダイナミクスを考えましたか?

いいえ。確かにマドンにIsoSpeedは搭載しましたが、ドマーネにはエアロを求めませんでした。バイクを開発する際にすべてを求めようとするとミスが発生します。何にポイントを絞るかは慎重に考えなければいけません。もちろんカンチェラーラや選手たちがドマーネにもエアロを求めるなら耳を傾けなければいけません。

すべてはバランスで成り立ちます。ファビアンはアイオロス5ホイールを使うことでエアロや高速巡航性に関しては満足しています。選手のニーズを聞き、それをバイクに落としこむ。我々は速いバイクが欲しいという選手たちの声を元にマドンをつくりました。パヴェを走るバイクにエアロも盛り込もうとすると、違うものになってしまうんです。

ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)のトレック DOMANE SLRファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)のトレック DOMANE SLR photo:Makoto.AYANO
ドマーネにエアロホイールのアイオロス5を履かせることでスピードと巡航性能のバランスが取れる、あるいはマドンに35mmハイトのアイオロス3を履かせて登りも厳しいスピードレースに対応するなど、すべてはバランスなのです。今あるテクノロジーをバイクにすべて盛り込もうとして欲張ろうとすると破錠します。レーシングカーにミニバンやSUVの要素を盛り込むことなどできないように。
提供:トレック・ジャパン photo&report:綾野 真(Makoto.AYANO)