5月28日(日)、ピストクリテリウム「sfiDARE CRIT」が初開催された。開催地は長良川の河川敷、岐阜県は平田リバーサイドプラザ。この特異なレースの模様と、主催者で先日のRed Hook Critにも参戦した児玉利文さんへのインタビューをお届けする。



初開催を迎えたsfiDARE CRIT。特製バナーも用意された初開催を迎えたsfiDARE CRIT。特製バナーも用意された photo:kikuzo
固定ギア、ブレーキレスの車両のみで争われるこのピストクリテリウム「sfiDARE CRIT」。競技そのものが日本初開催となるが、開催前からSNS等で注目を集めたその理由のひとつに、海外で熱狂的な支持を受ける「Red Hook Crit(以下RHC)」と同じレギュレーションで行われることが挙げられる。

主催をしたのは、サイクルショップ「104サイクル」のオーナーであり、現役競輪選手として先日開催されたRHC第1戦に参戦を果たした児玉利文さん(sfiDARE)。今回は初開催でエキシビジョン形式ということもあり、彼が選出した16名の選手で争われることとなった。

長良川の河川敷で、大小7つのコーナーを含む反時計回り一周1.1kmの特設コース。樹木生い茂る幅の狭い道から、風の影響を強く受けるストレート、複数のコーナーを経てスタート/ ゴールへと戻って来る。競技は計12周回で争われた。

スタートラインに揃った16名の選手達スタートラインに揃った16名の選手達 photo:kikuzo中盤、徐々にバラけ出した集団内でテンハヴがアタックを繰り返す中盤、徐々にバラけ出した集団内でテンハヴがアタックを繰り返す photo:kikuzo

序盤〜中盤で集団を形成したテンハヴ、蜂須賀、筧、佐野の四名序盤〜中盤で集団を形成したテンハヴ、蜂須賀、筧、佐野の四名 photo:kikuzoペースの上がる先頭集団を追走するボゲデンと児玉ペースの上がる先頭集団を追走するボゲデンと児玉 photo:kikuzo


試走ではコースを考えた児玉選手を先頭に、入念にライン取りの確認を行った。参加者のほとんどが他自転車競技で活躍するアスリートだが、小さなギャップなどほんの少しのことが命取りとなるため、注意箇所を出走前に全員で確認し、多くのギャラリーが見守る中一斉に出走した。

序盤、まとまった集団が牽制しながら周回を重ねる。様々な競技からやってきた選手達、それぞれ異なるギア比、レースを展開するスピード自体も手探りだ。徐々に足の揃う集団に分かれていき、BUCYO COFFEE/CLTの筧太一と蜂須賀智也、そしてRHCに参加したカナダ人のジャスミン・テンハヴ(iBike)が先行する。

タイトなコーナーと、その後に続く向かい風のストレートでどんどん集団の差が広がっていく中、経験者テンハヴが率先してアタックを繰り返し、2人がそこに反応。力尽きた筧が集団を離脱し、その後児玉とクルーズ・ボゲデンが先頭へ合流、集団のペースは更に加速していった。

終盤、2名が合流した先頭集団を蜂須賀が牽引する終盤、2名が合流した先頭集団を蜂須賀が牽引する photo:kikuzoゴールスプリントでは経験者児玉をボゲデンが刺し、初回大会勝利をもぎ取ったゴールスプリントでは経験者児玉をボゲデンが刺し、初回大会勝利をもぎ取った photo:kikuzo


最終周回のジャンが鳴る中、テンハブが早めのアタック。タイトな細道を先行することで後続を引き離す作戦だ。コーナーを抜け、テンポ良く向かい風を突き進むが、ストレートを抜けたあたりで児玉とボゲデンがテンハヴを吸収。最終ストレートでのスプリントを制したボゲデンが、初開催のsfiDARE CRIT優勝を掴んだ。

この大会の仕掛け人である児玉利文さんに、今大会に至った経緯と、ピストクリテリウムの魅力についてお話を伺った。児玉さんは現役の競輪選手であると共に、ロード、シクロクロス、マウンテンバイクなど複数の自転車を乗りこなし、自身で自転車店まで営む。

「(競輪の)プロだからお客様の期待に応えるのが基本なのですが、やっぱり自分自身が楽しむ姿をお見せしたい、それが僕の使命だと思っています。そんな自分に何ができるかということを考えている中で、ピストクリテリウムという競技をRHCを通じて初めて知りました。このイベントを知って、とにかく行ってみよう、そして今年参戦してみて、コレだ!と刺激を受けて帰国したんです」

主催者の児玉利文さん。レースを作った選手・観客全に対して感謝を述べる主催者の児玉利文さん。レースを作った選手・観客全に対して感謝を述べる photo:kikuzo
「RHCでは、とにかくお客さん、選手がみな楽しみ方を知っています。現状のルールに縛られず、どんな選手、どんな自転車でもOKなんです。例えば、リオオリンピックメダリストのアダム・スキナーも出場していたんです。予選落ちしていましたが…(笑)。そのとき気付いたのが、マン島TTにmotoGPの選手が挑戦しても歯が立たなかったソレと似てるんです。そう言った感覚がRHCにはあります。RHCヘの出場の仕方を訊ねてくる選手もあったり、落車して酷い目にあうかもしれないけど、それでも興味を持ってくれている人が多いのも事実です」

日本では数年前、ブレーキレスピストが巷に溢れたことで世間から冷ややかな目線を浴びた過去がある。ピストでクリテリウムをすることについて反対意見もあったのではないだろうか?

「そうですね。人伝いですが”あのイベントをやっている児玉は何を考えているんだ”という声も聞こえてきました。ですが、今回のレースについて書いたFacebookの投稿はアクセスが通常の何倍にもなり、多くの方が興味を持ってくれていることを感じました。観戦に来てくださった方の中には、例えばロードの競技者だけでなくNagasawaのフレームにカジュアルな装いをした若い方も見えて、これは本当に嬉しかったです」

優勝を飾ったクルーズ・ボゲデン選手優勝を飾ったクルーズ・ボゲデン選手 photo:kikuzoジャイアントから限定販売されたOMNIUMを駆る蜂須賀智也さんは4位にジャイアントから限定販売されたOMNIUMを駆る蜂須賀智也さんは4位に photo:kikuzo

52x15というギアで5位に入った尾関将樹さん52x15というギアで5位に入った尾関将樹さん photo:kikuzoメッセンジャースタイルのナベタクメッセンジャースタイルのナベタク photo:kikuzo

「わざわざピストでクリテリウムをすることについては賛否両論ありますが、ブレーキが付いていない分コーナーへの侵入などテクニック、スキルが必要です。例えばスケートボードのように、よりその乗り物を乗りこなす必要が出てきますし、その分自転車を操縦する楽しみを体験することが出来ます。脚力だけではなく、レース中はたくさん頭を使うことになりますし、コース毎にギア比を選定するのも楽しみのひとつです」

安全面に関しても、個人的には通常のロードバイクで行うクリテリウムとそれほどリスクは変わらないように思えた。落車の主たる原因は前のタイヤにハスる、またはペダルを擦ることだが、このピストクリテリウムで大前提として語られるのが「スキッド厳禁」という点。急激な減速はすなわち落車を意味する為、何度も何度もその点については出走前に確認が行われた。

また明らかなオーバースピードでコーナーへ侵入することも、ブレーキがついていない以上落車を誘発させる。しかし数周試走を行えば何が危険なのか自ずと理解が出来る。無理なコーナーでのオーバーテイクはなく、ベストラインを全員が通過していく。ブレーキの有り/無しに関わらず、落車を防ぐには主催者・参加者の安全走行に対する配慮が必要であり、このsfiDARE CRITでは実際に落車も起こらず、その部分が特に強調されていたように感じた。

「無理なコーナーでのオーバーテイクはなく、ベストラインを全員が通過していく」「無理なコーナーでのオーバーテイクはなく、ベストラインを全員が通過していく」 photo:kikuzo完走をした選手みなが観客とのハイファイブを繰り返した完走をした選手みなが観客とのハイファイブを繰り返した photo:kikuzo


ちなみにこの日、エントリーした16名の1人となった筆者のギア比は50x16の3.125。参加者の多くは48x16の3.0を選んでいたので少し重めの設定。ただ、何ぶん初めてのことで、52x15の3.466で挑む選手がいたり、逆に2.8くらいのギア比だったり、参加者もみな手探りだった様子。フレームは完成車ベースのアルミが多いものの、メッセンジャー仕様のクロモリであったり、児玉さんが作っているsfiDAREのカーボンであったり。国籍や出身競技もバラバラのメンバーが揃った。

私はコーナー後の強風で見事に千切れてしまうのだが、12周もすると徐々に「慣れ」が生まれ、ブレーキが付いていないぞ、というルール上の脳内情報は薄れていき、握りしめているドロップバーとペダル、路面に接しているタイヤからの情報が段々研ぎ澄まされていき、自転車と自分が一体になっていく感覚がとても楽しかった。

例えばロードバイクで峠を下っている際、直線ではしっかりペダリングして加速、コーナー手前できっちりブレーキング、そしてタイヤをグリップさせてコーナリング、また加速・・・という各項目が独立して脳内処理されるが、ピストクリテリウムでは全部の動作に区切りが無く、全て流れで作業をしていく感じ、といえば分かりやすいだろうか。

晴天の中、たくさんの方が応援に駆けつけた晴天の中、たくさんの方が応援に駆けつけた photo:kikuzo
RHCが徐々にメディアに取り上げられ出した頃は、ブレーキレスピストの社会問題もあり正直私自身、「なんて危ないレースだ!こりゃ長続きしないだろうなぁ」と感じていた。しかし、昨今の盛り上がりを目にし、更に人気が高まると、チームを抱えるスペシャライズドが各ステージ毎に新しいグラフィックのジャージとバイクを用意するなど、その熱狂ぶりを感じたこと、そして今回ピストクリテリウムに参加したことで、その考えを改めさせられたのだった。

レース後は、参加した選手と観客がハイファイブする姿も見られ、その場に居た皆がレースの盛り上がりを讃えた。コース脇に飾られた巨大バナーは今回使用する為だけにはあまりにも完成度が高く、このレースを続けていこうと考える児玉さんの意欲を強く感じさせられた。

sfiDARE CRIT 結果
1位 クルーズ・ボゲデン
2位 児玉利文
3位 ジャスミン・テンハヴ
4位 蜂須賀智也
5位 尾関将樹
6位 筧太一



腰山雅大(ALL-CITYJAPAN/662CCC)腰山雅大(ALL-CITYJAPAN/662CCC) photo:Kei.Tsujiライタープロフィール:
腰山雅大(ALL-CITYJAPAN/662CCC)


1986年4月10日生まれの兵庫県出身。BMX競技者としてのバックグラウンドから'14年にシクロクロスを始める。変速機のないシングルスピードの車両(SSCX)で参戦を続け、現在トップカテゴリーを走る。’15年からアメリカ、ミネアポリスの自転車ブランド “All-City Cycles” のライダーとして、パナレーサーのアンバサダーとして活動中。趣味はコーヒーとクルマ。Instagram→@vhlg

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