圧倒的なボリュームのタイヤを装備したMTB「ファットバイク」。その魅力に取りつかれたオルタナティブバイシクル代表の北澤肯さんが、アラスカで行われた世界選手権へと参加したレポートをお届けします。



冬季アラスカへの誘い

アラスカのタルキートナで開催されたファットバイク世界選手権に参加してきた。タルキートナは、あの日本を代表する登山家である植村直己さんが最後に消息を絶ったマッキンリー山(現地では「デナリ」と呼ばれる)の玄関口となる、アラスカの州都アンカレッジから車で2時間ほどの小さな町だ。

アラスカは僕が2014年に、SSWC(シングルスピード世界選手権)の招致を勝ち取った思い出深い場所でもある。昨年10月にオーストラリアで開催されたSSWCで再会したアンカレッジ在住のマイクに「3月のアラスカはレースもあるし、スノーライドも最高だから来い!」と強く誘われ、じゃあ行こうかと決めた。

ファットバイク選手権へ参加すべくアラスカへと旅立ったファットバイク選手権へ参加すべくアラスカへと旅立った photo:Koh.Kitazawa
旅に同行することになったのは、日本で最も早くファットバイクに乗り始めた一人でもある鵜飼さん。彼は約30年前に開催された第一回全日本MTB選手権大会にも出ているほど、MTBの経験も長い。未知の冬季アラスカへ同行するには最適のパートナーだ。

しかし実際に極寒のアラスカを走るとなると、どんな装備が必要なのか全く見当がつかない。そこでFacebookで「アラスカにファットバイク世界選手権に行くことになった」と投稿すると、そんな僕を心配して色々と面白そうな誘いが来た。最初のオファーは、みやぎ蔵王の標高1800mの樹氷林を見に行くというツアーの実験台。3月にツアーを本格始動する予定なので、そのテストに来るようにとのことであった。

1月の厳冬期の樹氷原は吹雪けばマイナス20度にもなるというので、アラスカの練習には最適だ。普段トレイルで使っているファットバイクの可変シートポストを普通のポストに変更し(シール部が凍るため)、タイヤをチューブレス仕様からチューブドにし(チューブレスのシーラント液が凍るのと、空気圧を0.1bar以下にするからチューブレスだとタイヤが外れてしまうから)、シューズやウェアを、サポートを受けているKEENとパタゴニアに相談しながら、冬登山用をベースに、サイクリングにも耐えうるように見繕って、なんとか準備完了。

これ以上行くと凍傷、遭難の恐れがあるため、泣く泣く登頂を断念これ以上行くと凍傷、遭難の恐れがあるため、泣く泣く登頂を断念 photo:Koh.Kitazawa
1月19日に仙台へと向かった。標高1100mのすみかわスキー場からファットバイクに乗り始め、1800mの樹氷原を目指すが、途中1500m付近でブリザードに遭い、そこからは一歩も進めず、登頂は断念。強い風で体感温度はマイナス20度以下になり、顔が痛い。アラスカはもっと寒いのかとかなり不安になる。

次のチャレンジは八ヶ岳の麦草峠。日本でMTBレーサーとして活躍したカナダ人のポール・チェットウインドさんが主催しているスノーライドツアーに参加した。麦草峠まで、雪のために閉鎖された道路を登り、そこからスノーシュー用の雪のシングルトラックを茶臼山山頂まで登るツアーだった。

茶臼山山頂に登頂!茶臼山山頂に登頂! photo:Koh.Kitazawa
雪のシングルトラックは人生初体験だった。思わず笑みがこぼれる雪のシングルトラックは人生初体験だった。思わず笑みがこぼれる photo:Koh.Kitazawa天気も雪質もこれ以上はないというくらいの最高のコンディションで、初めてシングルトラック(人一人が通れる幅の山道)でスノートレイルライドを楽しんだ。

そして、いよいよアラスカだ。出発は3月7日。成田からLA経由でアンカレッジに向かう。アンカレッジに着いたのは早朝の5時。そこからタクシーでマイクの家まで向かう。マイクと再会を喜び、しばし就寝。お昼頃マイクの友達が迎えに来てくれて、彼の働くバイクショップに行く。そこでファットバイクを組み立て、さっそく市内をライド。初めて使うスパイクタイヤが、ガシガシと音を立てて凍り付いた道路に食いつく。

マイクと鵜飼さん。マイクの働くバイクショップの前でマイクと鵜飼さん。マイクの働くバイクショップの前で photo:Koh.Kitazawa
アンカレッジは町中が雪に覆われ、全ての道がファットバイクのコースになっている。町中がマウンテンバイクのトレイルみたいなもので、こんな経験は初めて。公園も、凍結した湖も、歩道も、全て楽しいシングルトラックなのだ!

そして公園を走っているとムース(ヘラジカ)に出会う。ものすごい迫力。襲われることもあるらしいので、慎重に写真を撮る。まさか市内で、こんな風に野良犬みたいにムースがいるなんて、アラスカは本当に驚異的だ。

町中がスノートレイル。遠くに見える山も迫力がある。町中がスノートレイル。遠くに見える山も迫力がある。 photo:Koh.Kitazawa野生のムースに遭遇!こんな風に耳を後ろに倒している時は、神経質になっている印だとマイクから注意を受けた野生のムースに遭遇!こんな風に耳を後ろに倒している時は、神経質になっている印だとマイクから注意を受けた photo:Koh.Kitazawa


そして凍結した湖を渡る。市内でこんなアドベンチャーなライドができるなんて、アラスカは本当にワイルドで素敵だ。一点気になったのは、アラスカの人は犬好きが多く、犬を散歩している人に多く遭遇するのだが、最近の日本のように犬の糞を飼い主が回収するルールがないらしく、よく見ると町中犬の糞だらけで、それだけちょっと気になった。

なんと3つのホイールを重ねたバイク。1988年製だというなんと3つのホイールを重ねたバイク。1988年製だという photo:Koh.Kitazawaその後、レースを主催しているスピードウェイサイクルというショップに行き、レースの登録を済ます。このショップは壁に歴代のファットバイクの原型とも言えるバイクが飾ってあり、まさにファットバイク博物館の様相を呈していた。

このショップのオーナーであり、レースの主催者でもあるグレッグさんに聞くと、ファットバイクはイディタリロッドという1900キロにもなる伝統的な犬ぞりレースを自転車で走るために開発されたという。最初は専用のバイクがなかったので、こんな風なホイールを2本、3本装着したバイクだったそうだ。そして手作りのファットタイヤが作られていった。このファットバイクの歴史については、改めて記事を書くのでお楽しみに。

さて、夜になりバーで宴会。2014年以来の再会となるトール・ポール(身長2mを余裕で超えるノッポのポール)や、SSWC常連のイギリス人のギルも加わり、かなりの大盛り上がりで、ビールをガンガン空け、アンカレッジの夜も更けていった。

クロスカントリースキー用のコースを走るクロスカントリースキー用のコースを走る photo:Koh.Kitazawa楽し過ぎてはしゃぐ大人たち楽し過ぎてはしゃぐ大人たち photo:Koh.Kitazawa

森を縫うシングルトラックはテクニカルで興奮!森を縫うシングルトラックはテクニカルで興奮! photo:Koh.Kitazawa
翌朝、僕と鵜飼さんは酷い二日酔いだった。他の3人はケロッとしている。やはり欧米人はアルコール耐性が違うらしい。ボロボロの体になんとか活力を入れて、ライドの準備。今日はアンカレッジ近郊のクロスカントリースキー場へいく。ここにファットバイク専用コースがあるというのだ。

コースはダブルトラックから、森の中を縫うシングルトラックと多様で、アップダウンや細かいスイッチバック(つづら折り)もあり、かなりテクニカル。シングルトラックは倒れてコース外に足を着くと、そこは圧雪されていないので50㎝以上ずぼっと足が埋まってしまい、足を抜くのに苦労するのだ。

2時間ほど走り、ビールで乾杯。アラスカはアメリカでも人口比で最もビール醸造所が多いらしい。ライドにもビールをもって行って森で乾杯するのがアラスカ流だ。

こうして最高に楽しいスノーライドを満喫し、翌日からはいよいよレースの開催されるタルキートナに出発だ。こうして最高に楽しいスノーライドを満喫し、翌日からはいよいよレースの開催されるタルキートナに出発だ。 photo:Koh.Kitazawaこの続きは次の記事で!この続きは次の記事で! photo:Koh.Kitazawa


こうして最高に楽しいスノーライドを満喫し、翌日からはいよいよレースの開催されるタルキートナに出発だ。

この続きは次の記事で!



このアラスカトリップの報告会を4月19日に渋谷で開催します。ぜひお越しください!

ファットバイク世界選手権アラスカ報告会&スライドショー
4月19日 19時より渋谷グデン(渋谷区渋谷2-7-13)にて開催!レースの模様からトレイルスノーライド、氷結した湖を渡って見た氷河ライド、ファットバイクが生まれたアラスカの自然とバイク事情からファットバイクの歴史とカルチャーまで色々話します。

申込はメールにて受付中。
[email protected] へ、件名を「アラスカ報告会参加」として
参加費:4千円(2時間飲み放題、料理7品)
話す人: 鵜飼洋、北澤肯

text&photo:Koh.Kitazawa