中田尚志さんによる、コロラド州・ボルダー遠征記の最終話。今回レポートでは、地元ローカルレースへの出場と新ベロドローム建設に携わる人々に触れ、感じたことを記していきます。



テーブル マウンテン レース シリーズ(Table mountain race series)

レース会場へのドライブ。アメリカらしい風景が続くレース会場へのドライブ。アメリカらしい風景が続く ボルダーから車で南へ小一時間、ゴールデンで開催されたクリテリウム「テーブル マウンテン レース シリーズ」に参加してきました。このレースは、6〜8月の火曜日の夕方に全10戦開催されているトレーニングレースです。いわゆるトワイライト・クリテと呼ばれるもので、夕方から始まるレースに向け、会場には続々と選手が集合してきます。

開催場所は交通規制の必要がない州のパトロール訓練所の敷地内で、運営はかなり小規模(10人程度だったのではないでしょうか)で行なわれていました。

私がエントリーしたのは「MenCat.1/2/3/Pro+Women1/2」クラス。 アメリカでは大きいレースを除いて殆どのレースがCat.1/2/Pro混走で行なわれていますが、カテゴリー3と女子まで混走というのは初めての経験でした。 レースオーガナイザーは「Peak to Peak」というコーチングシステムの会社です。

コロラドの大自然の中開催されたグラスルーツレースコロラドの大自然の中開催されたグラスルーツレース
スタート時刻は PM7:00。とは言えサマータイムが導入されている為、まだ充分に明るい中でレースは行なわれます。 Cat.1/2/3/Proは一時間のレース。集団の密度はそれほど高くないものの、皆慣れておりマナーも良く、走行中危険を感じることはありませんでした。

レースは、展開と開催地の標高が違うため比較は難しいのですが、あえて参考の為に記載すると実業団のE1や京都車連のC1と同じか、それよりも少し高いくらいでしょうか。

Cat4/5 Mastersのレース前ミーティングCat4/5 Mastersのレース前ミーティング ゼッケンをクシャクシャにして空気抵抗を減らすのがこちら流ゼッケンをクシャクシャにして空気抵抗を減らすのがこちら流

Cat4/5 MastersカテゴリーがスタートしていくCat4/5 Mastersカテゴリーがスタートしていく Cat4/5 Mastersレース風景Cat4/5 Mastersレース風景


50人ぐらいで出走した集団は、少しづつメンバーを減らしていき、終盤には20名程度に。私も15名程度の集団に残りましたが、最後の周回でセレクションがかかったところで終了。着には絡めませんでした。ゴール直後は標高が高い為か強烈な酸欠に見舞われ、目の前に星が飛びしばし悶絶してしまいました。

地元のライダーたちはゴール後、夕闇にせかされるように慌しく荷物を積み、それぞれの帰路に着きます。このレースはトレーニングレースの色合いが強いので、運営は徹底的に 簡素化されています。レースの参加賞はもちろん、ゴールの横断幕さえありません。受付 はトラックの荷台、ゴールの判定もトラックの荷台から行なわれます。ゴール判定は 10位まで。つまり 11位以下は全員同タイムで DNP(順位なし)となります。

豪華さや派手さはないものの、平日にこのような手軽なレースがある事は、サラリーマンレーサーにとってはトレーニングとして、また技術・戦術を磨く上で大きなアドバンテージであると言えるでしょう。また、少人数で運営されている為か参加費も$19(約 1,900 円)、シーズンパスを使えば一回あ たり$16(約 1,600 円)と、とても安価なのもサラリーマンレーサーにはありがたいところです。

レース後、参加選手と記念撮影。レース後のおしゃべりは万国共通だレース後、参加選手と記念撮影。レース後のおしゃべりは万国共通だ Cat.1/2/3/Proで最後まで集団に残っていた女性サイクリストCat.1/2/3/Proで最後まで集団に残っていた女性サイクリスト


ちなみにアメリカでは公式レースの結果は USAC のデータベースに登録され、誰でもレースの結果を検索する事ができます。注目の選手の活躍、ライバルの動向、過去のレースリ ザルトを参照してコースの特性の研究が出来るなど非常に有効だと言えます。 是非日本でも導入して頂きたいシステムだと感じました。(興味のある方は以下のリンクをチェックして下さい)

コロラド車連の HP http://www.coloradocycling.org/
アメリカ車連の HP http://www.usacycling.org/



再建を目指すボルダー バレー ベロドロームを訪ねる

ボルダーに滞在中、ボルダーから程近いエリーという町に、ベロドローム(競技場)を建設していると聞き訪ねてみました。

コロラドでは、あの中野浩一氏がV10を決めた「7-11 ベロドローム」が有名です。しかしボルダーからは車で2時間程度かかる為、地元にトラックを作るのはボルダーのサイクリストの長年の夢だったそうです。私も訪れるのを楽しみにしていたのですが、訪問する1週間ほど前にトルネードがベロドロームを襲い、木製のトラックは倒壊の憂き目に遭ってしまっていました。

倒壊してしまったベロドローム倒壊してしまったベロドローム
現地に着くと、まるで工芸品のように繊細な木製のトラックは見るも無残に崩れてしまい、トラックの完成を心待ちにしている関係者の気持ちを察すると、見ているだけで気の毒になるような状況でした。非常に美しいエリーの町にあって、ベロドロームだけが崩れ落ちている姿は、何とも残酷なコントラストを描き出していました。

写真を撮るのもためらうような状況でしたが、少し詳しく状況を見てみようと許可を取って中に入ると、数人の大工さんが作業中だったため、声をかけてみました。

基礎がなぎ倒され、路面は吹き飛ばされていた基礎がなぎ倒され、路面は吹き飛ばされていた 無傷のバックストレッチを望む。倒壊した部分とのコントラストが鮮明だ無傷のバックストレッチを望む。倒壊した部分とのコントラストが鮮明だ

「大変でしたね。」
「あぁ。トルネードが来てこの通りだ。数日前からやっと修復作業に入ったけど、そう簡単じゃないね。ところで日本にはどれくらいベロドロームがあるんだい?」
「50くらいありますよ」
「そりゃあ羨ましいな。俺たちは長い間トラック建設を望んで来て、やっとここに州で二番目のベロドロームが作れたんだよ。でもまたやり直しだけどね。」
「お気持ちお察しします。早く回復できると良いですね。」
「ありがとう。頑張ってやるだけだよ。」

彼は言葉少なくそう言い終えると、金づちと釘を手に作業に戻りました。


"頑張ってやるだけだよ。"

復旧作業にあたる方達復旧作業にあたる方達 ベロドロームは全てが手作りだったベロドロームは全てが手作りだった ボルダーに来てからこの最後の言葉を聞くまで、まるでアメリカの自転車界は全てが日本よりも進んでいるように感じていましたし、日本よりも多くの予算と人手をかけられる事がアメリカの自転車文化を支えているような気がしていました。しかし結局のところ、実際に自転車文化を支えているのは、こういった根っからの自転車好きの努力だという事に改めて気づかされたのです。

確かにアメリカは、日本とは比較にならないほど自転車人口が多いですし、ビジネスもより大規模です。大きな予算で動くプロジェクトはスムーズでパワフルに見えます。

しかしそれらの活動も結局は、サイクリングを愛し発展を願っている人々の地道な努力で支えられており、彼らの努力なくしては成り立ちません。

それはアメリカも日本も同じではないかなと感じます。私の住む京都でも長年に渡り車連の方々が地道に努力してきた結果、素晴らしいレースやグランフォンドが開催されるようになりました。一朝一夕にアメリカのサイクリングカルチャーに追いつくことは出来ないかもしれませんが、自転車を好きな気持ちは万国共通で、それが自転車文化発展の原動力になっている事は間違いありません。

前編で述べたUSACの活動、コーチング、レースオーガナイズなど、特にレース関連の分野に関しては、心底自転車を愛している人々が運営していくことが、今後の日本のレース界の発展に繋がるのではないだろうか。そう思わせてくれる遠征であったのです。

ボルダー バレー ベロドロームの HP(英語) : http://www.bouldervalleyvelodrome.com/


「カフェ アマンテ」と、「ボルダー サイクルスポーツ」のドリンクボトル「カフェ アマンテ」と、「ボルダー サイクルスポーツ」のドリンクボトル さて、読んでいただいた方にささやかですが、ボルダーからお土産があります。 ボルダーのサイクリストが集まる「カフェ アマンテ」と、サイクルショップ「ボルダー サイクルスポーツ」のドリンクボトルを1名に差し上げます。ご希望の方はシクロワイアードお問い合わせフォームにプレゼント希望と書いてお申し込み下さい。当選は発送をもってかえさせて頂きます。


4回にわたって掲載頂いたサラリーマンレーサーのアメリカ遠征も今回で最後となりました。最後になりましたが、今回の遠征に多大な協力を頂きました 八ヶ岳バイシクルスタジオの矢野氏、そして何よりお付き合い頂いた読者の方にお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。




中田尚志(なかた たかし) 
中田尚志さん中田尚志さん 1973年生まれ39歳、京都市在住、会社員
自転車歴:MBK-YAMAHAあづみの、京都岩井商会、ナカガワ、NEX-COLNAGOなどを経てTacurino.netを2007年に立ち上げ

成績など
シマノ鈴鹿チームロードB 表彰台7回
2006年 西日本チャレンジロード マスターの部優勝
日本スポーツマスターズ ロード3位
西日本実業団ポイントレース3位・昨年レース3勝など

今までのアメリカ訪問歴
1994年、学生時代に初めてカリフォルニア州バークレーに自転車留学その後、数回に渡り渡米し西海岸のPro/1/2クラスを経験


text&photo:Takashi NAKATA
edit:Hideaki TAKAGI