Q-RINGS誕生に至るまでのヒストリーと、愛用するサポートライダーたちの活躍はvol.1でお伝えした通り。vol.2では楕円チェーンリングが何故ペダリング効率を高められるのかという理論を紹介すると共に、Rotor社アジアエリアマネージャーのアントワン・ベルテ氏へのインタビューを通して、その魅力に迫る。

楕円形状は発達した筋肉を効率よく使うため

膝とクランクの角度によってQ-RINGSはペダリング効率を高めることができる膝とクランクの角度によってQ-RINGSはペダリング効率を高めることができる 重い荷物を持ち上げる際のことを例にとると、「しゃがんだ状態」よりも「中腰の状態」からの方が楽に持ち上げられる重い荷物を持ち上げる際のことを例にとると、「しゃがんだ状態」よりも「中腰の状態」からの方が楽に持ち上げられる 自転車を前に進めるために必要なことは何か。当然だが、ペダルを踏み込んで引き上げる上下の運動をクランクで円運動へと変換し、ホイールを回転させることである。この方式はスポーツタイプに限らず、ありとあらゆる種類の自転車で採用されている「完成形」だが、効率を追求した理想型という訳でなく、ペダリング時にはクランクの位置によって力の掛けやすさが異なる。これについては読者の方の中にも体感的に理解している方は多いはず。

では、何故Q-RINGSはペダリング効率を高めることができるのだろうか。それには「膝の角度」と「クランクの角度」という2つの要素が大きく関係している。まずは膝の角度についてだが、重い荷物を持ち上げる際のことを例にとると、「しゃがんだ状態」よりも「中腰の状態」からの方が楽に持ち上げられるのは明らか。この力の掛けやすさの違いには膝の曲がり具合が関係しており、脚が伸びきる直前までは太ももとふくらはぎとの間の角度が大きいほど出力は高く、角度が小さいと出力は低い。つまり、ペダリングではクランクの下死点よりも少し手前で最も力が掛けられるということである。

Q-RINGS(53T)の仮装ギア歯数Q-RINGS(53T)の仮装ギア歯数 チェーンリングの仮装ギア歯数チェーンリングの仮装ギア歯数


一方、クランクの角度については偶力(モーメント)が関係している。ここでの偶力とはクランクアームの長さと、クランクアームに垂直な方向に左右する力の積であり、クランクアームの長さは一定であることから、クランクアームに垂直な方向に力をかけやすい3時の位置が最も効率が良い。(なお、クランクアームの長さを変化させることで高効率化を図ったのが、Q-RINGS誕生以前に市販されたRCKクランクである)。

「膝の角度」と「クランクの角度」。この2つの要素のバランスを追求した末に誕生したのがQ-RINGSであり、「力の掛けやすい場所を大きく」「力のかけにくい場所を小さく」と楕円形状によって仮想歯数を変化させているのだ。その最大の特徴はクランクアームの位置が「4時」で仮想歯数が最大とすることでペダリング時に作用する筋肉群のうち大殿筋、大腿四頭筋、腓腹筋といった発達した部位を効率良く使用できることにある。また、仮想最大歯数を「4時」とした点は他社の非円形チェーンリングとの大きな差異である。

ギア歯数とトルクの変化を表した図ギア歯数とトルクの変化を表した図 なお、Q-RINGSの楕円率は10%(56Tと34Tは7%)で、53Tを例にとると55.65T~50.35Tの範囲で仮想歯数が変化する。なお、元々オーシンメトリックを使用していたデーヴィッド・ミラー(ガーミン・シャープ)の要望を基に開発し、楕円率を16%(57T~49Tの間で変動)に高めたQ-XLも仮想歯数が最大となる位置は4時と共通である。

真円とQ-RINGSのスピンスキャンデータ真円とQ-RINGSのスピンスキャンデータ 楕円と真円を比較したローターの実験によると、クランクの位置とトルクの関係を表したスピンスキャンデータでは最大出力こそやや減少しているものの、力を掛けにくい1時と7時=仮想歯数が最も小さな領域で出力の向上が認められている。

ROADモデルには1~5まで5つのOPTIMUM CHAINRING POSITIONが搭載されているROADモデルには1~5まで5つのOPTIMUM CHAINRING POSITIONが搭載されている 更にInternational Journal of Sports Science and Engineering誌にローターが投稿した論文によれば、「レースを想定して45分間の高強度走の後に1kmTTを行ったところ、平均で1.6秒のタイム減少=0.7km/hの速度上昇と26.7W(6.2%)の出力向上が認められた」と結論づけている。また「全てのパフォーマンス向上の要因はQ-RINGに換装したことにあり、真円に戻したところパフォーマンスが悪化した」と付け加えている。

とは言っても人間の身体や用途は個々に異なり、必ずしも4時が最も効率の良い位置とは限らない。そこでQ-RINGSには仮想歯数が最大になる位置を可変させることができるOPTIMUM CHAINRING POSITION(OCP)が搭載されている。例えばROADモデルには1~5まで5つの取付位置が設けられており、ノーマルポジションの「3」の位置で、クランクアームが4時の位置で仮想歯数が最大に。一方、「1」の位置では3時付近で、逆に「5」の位置では5時付近で仮想歯数が最大になる。

TTバイクなどで使用する場合にはポジションが前乗りになるため最も力が掛けられる(膝の角度が90~100°付近)4時の位置がより深い5時方向へ移動。そのためOCPポジションを変更し対応する必要が生じる可能性がある。逆に後ろ乗りの場合は、右回りにMAXポイントを上に動かすことが可能だ。

Rotor社アジアエリアマネージャー アントワン・ベルテ氏に訊く Q-RINGSのこと

Rotor社アジアエリアマネージャー アントワン・ベルテ氏Rotor社アジアエリアマネージャー アントワン・ベルテ氏
今回、Q-RINGSや2015年のニュープロダクトをPRするためローター社のアジアエリアマネージャーであるアントワン・ベルテ氏が来日。Q-RINGSちQ-XLの差異、選び方や耐久性についてなど購入を検討する際に知っておきたいことを訊いた。

ベルデ氏もマイバイクを持ちこんで軽井沢を走ったベルデ氏もマイバイクを持ちこんで軽井沢を走った ーQ-RINGSとQ-XLの差について

大きな楕円率を求めるプロライダーの声に応えて生まれたQ-XL大きな楕円率を求めるプロライダーの声に応えて生まれたQ-XL まずQ-RINGSとQ-XLは全く異なる商品で、Q-RINGSを使った後にQ-XLが必要かどうかを検討して頂きたいです。この2つのプロダクトを自動車のエンジンに例えるならば、例えるならばQ-XLはガソリンエンジンで、素早く加速できるが体力の消耗も速いので、短時間・短距離の中でより速く走りたいライダー、つまりスプリンター向き。Q-RINGSはディーゼルエンジンで、加速は劣るけど、より長時間・長距離に渡って効果を発揮するため平均時速は高めたいライダーにぴったりなはずです。

3本のドリルホールが開けられたクランク。軽量化と剛性強化に貢献している3本のドリルホールが開けられたクランク。軽量化と剛性強化に貢献している そもそもQ-XLはデーヴィッド・ミラーを始めとした複数のサポートライダーから「より楕円率の高いチェーンリングを作って欲しい」というリクエストが挙がっていたことかから開発に着手し、製品化したモデルなのです。

Q-XL誕生のキッカケとなったライダーの1人であるデーヴィッド・ミラー(ガーミン・シャープ)Q-XL誕生のキッカケとなったライダーの1人であるデーヴィッド・ミラー(ガーミン・シャープ) (c)Makoto.AYANOー歯数の選び方について指標はあるのでしょうか?

Q-RINGSとQ-XLのどちらにおいても、歯数は真円チェーンリングと同じものを最初に試してみて下さい。理論的には、真円で52Tを踏めるライダーが楕円チェーンリングに換装すると53T以上を踏むことができますが、歯数を変えてしまうことで楕円形状の効果を実感しにくくなってしまうためです。

また、最大仮想歯数を気にしている方も少なくないでしょう。例えばQ-RINGSの52Tは最大仮想歯数が54.6Tに達しますが、あくまで54.6Tになるのはチェーンリングが1周する中でほんの一瞬であるため、最大仮想歯数を基準にする必要はありません。ただし、先ほども言った通りQ-XLを購入する際はQ-RINGSを使用した上で、事前に検討してみてください。

ー一方で真円のno-Qを使っているプロライダーが多いのは何故なのでしょう?

2014シーズン、楕円タイプ(Q-RINGS/Q-XL)と真円タイプno-Qの使用割合はガーミン・シャープが4:6、ランプレ・メリダが3:7でした。これはプロの中に新しい製品を受け入れない選手が多くいるからであり、サポートの契約上ローター製品を使用してもらいたいことからno-Qを製造しているのです。

ただ、ローター社としても楕円チェーンリングの使用を強制するのではなく、サポート外でも気に入って使用してくれるライダーを大事にして、そこからのフィードバックを製品開発・改良に活かして行きたいと考えています。そして、実際に楕円チェーンリングを使いたいというプロ選手は多くいますが、ルイ・コスタやマリアンヌ・フォスのように機材選択に自由のある選手は僅か一握りで、チームを移籍して使えなくなってしまい残念という声も聞きます。

ーコンポーネントメーカー純正品で統一した際と比較して耐久性や変速性能の低下が気になります。

楕円チェーンリングによって、確かにチェーンが上下に暴れます。しかしながら、他ブランドの楕円チェーンリングは別として、ローターの場合には常にチェーンリングとチェーンがうまく噛み合っているため、チェーンが外れたり、切れやすくなったりと言うことはないはずです。また、上下に暴れるといっても可動幅自体は微々たるものなのでリアディレーラーの耐久性についても心配する必要はありません。

「変速を滑らかにするために裏面の切削や変速品の配置や個数のアップデートを繰り返しています」「変速を滑らかにするために裏面の切削や変速品の配置や個数のアップデートを繰り返しています」
チェーンピンも各所に配置され、変速性能を心配する必要も無いチェーンピンも各所に配置され、変速性能を心配する必要も無い 大幅に肉抜きされたチェーンリング裏側の様子大幅に肉抜きされたチェーンリング裏側の様子


変速性能についても自信があります。ローターでは効率の追求以外にも、チェーンリングとしての性能も追求しており、変速を滑らかにするために裏面の切削や変速品の配置や個数のアップデートを繰り返しています。また、チェーンリング以外のパーツも併せて揃え、しっかりとセットアップすれば、純正品と同等の変速性能を引き出すことができます。

例えば、3Dクランクシリーズはローターのチェーンリングをセットアップした状態でチェーンラインが最適になる様に設計してあります。他にも専用チェーン、クランクとチェーンリングの間に挟むスペーサー、チェーンウォッチャーなど、よりQ-RINGS/Q-XLを最高の状態で使用して頂くためのアクセサリーをラインナップしています。

また昨今普及している電動コンポーネントへの対応ですが、剛性が高いエアロタイプと組み合わせるとベストですし、サードパーティのチェーンリングにありがちな変形もほとんどありません。むしろ、セッティングがバッチリと決まれば機械式で使用するよりも調子が良いぐらいだと思います。

編集:シクロワイアード 提供:ダイアテックプロダクツ