カスタムパーツとして既に市民権を経つつあるローター Q-Rings。今回は長年に渡ってローターを取扱うサイクルショップDADDYの鈴木雅彦店長に訊いた楕円チェーンリングのメリットと使いこなすためのTipsを紹介すると共に、CW編集部・山本による長距離インプレッションをお届けする。

「フレーム剛性によってOCPポジションを変えるとより効果的」
鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

今回、Q-Ringsが持つメリットと、それを活かすためのTipsについて伺ったのは、長年に渡ってローターを取扱う岐阜県瑞浪市のサイクルショップDADDYの鈴木雅彦店長。元競輪選手にして現在はホビーレーサーとして積極的にレースに参戦し、ツール・ド・おきなわでは市民50kmで2007、09、10年と3度の優勝を誇る。

その使用歴は7年以上と正にQ-Ringsのエキスパートであり、楕円率を高めたQ-XLの使用経験もある。そんなスペイン製楕円チェーンリングを使いこなし、全てを知り尽くした鈴木店長に、その魅力や効果を最大限に発揮するためのTipsを訊いた。

2013年度ローター取扱量日本一となった岐阜県瑞浪市のサイクルショップDADDYの鈴木雅彦店長2013年度ローター取扱量日本一となった岐阜県瑞浪市のサイクルショップDADDYの鈴木雅彦店長 ツール・ド・おきなわでは市民50kmで3度の優勝を誇る鈴木店長。2009年にはQ-Ringsを使用し2勝目をマークツール・ド・おきなわでは市民50kmで3度の優勝を誇る鈴木店長。2009年にはQ-Ringsを使用し2勝目をマーク photo:Hideaki.TAKAGI

ーまず、Q-Ringsのメリットについて教えてください。

ペダリングを意識しなくても良いということでしょうか。私の場合、真円チェーンリング使用時にパワーメーターで測定すると4時付近にMAXがあることがわかります。もちろん、4時付近で最もパワーが掛けやすいというのはローターの説明にもある通り、人間の身体の構造上とても理に適っていますし、正しいですよね。
しかしペダルを踏み込むたびに綺麗に回すことを意識せざるを得なくなります。「果たして4時付近で踏み込んでもよいのだろうか」という迷いが生じてしまい、走りに集中できなくなってしまうこともあります。ローターなら理にかなっているので迷いがなくなります。

つまり、力の掛けにくい部分を改善するよりも、力の掛けやすい部分をより有効に使って上げたほうが効率も良くなるのではないでしょうか。真円で綺麗なペダリングを目指すのであれば、Q-Ringsに変更したほうが手っ取り早いですし、そのほうが上から踏み降ろすというペダリングの基本により集中できると考えています。

ローター Q-Ringsローター Q-Rings (c)ダイアテックプロダクツ
シチュエーションとしてはダウンヒルや平坦巡航でケイデンスが高いほど真円に対してメリットを感じとれる一方、断続的にケイデンスの低いヒルクライムでの差異は極僅かというのが個人的な感触です。ただ、私とは対照的に登りに強く乗鞍マウンテンサイクリングの20歳代で優勝した当店のスタッフはヒルクライムで使っていましたし、Q-Ringsがもたらすメリットは人それぞれといったところでしょうか。

ローターは「同じ速度で走るのであれば軽いギア(=高ケイデンス)を推奨する」としています。しかし、ロードレースの場合にはそこからの加速が必要となるので、軽いギアに変更せずに同じ歯数のままで、その力を貯めてアタックなりインターバルに食らいつくという走り方をするとQ-Ringsのメリットがより活かせますね。

ーQ-Ringsの効果をより引き出すためのセッティング方法があれば教えてください。

まず、歯数については基本的に真円のチェーンリングを使っていた頃と変えていません。ただ、これは真円との違いを意識しているのではなく、Q-Ringsそのもの感触で決めた結果です。もちろん、体調やレース前のコンディションによって変えることもあります。

そしてクランクへの組付けですが、私の場合はフレームの剛性によってOCPポジションを変えています。例えばピナレロ DOGMA 65.1からカレラ Erakle TSに乗り換えた時にはフレーム剛性が低下した影響か、一番力を掛けられる位置で踏み抜けてしまう印象を覚えたのでQ-ringsを時計方向にまわして(=OCPポジションの数字を大きくして)セッティングし、下まで踏み抜ける様にしました。

「フレーム剛性によってOCPポジションを変えるとより効果的」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)「フレーム剛性によってOCPポジションを変えるとより効果的」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY) FLOWや3D+のクランクアームにはOCPポジションを1/2ずつ調整可能なMASシステムが搭載されるFLOWや3D+のクランクアームにはOCPポジションを1/2ずつ調整可能なMASシステムが搭載される (c)ダイアテックプロダクツ


上記の場合は巡航性にフォーカスしたセッティングになりますが、スプリンターやダンシングを多用するライダーであればより浅い位置で引っかけて素早く加速する必要があるため、逆にOCPポジションの数字を若くしてあげる必要があるかもしれません。

これもライダーのフィーリングによってセッティングが大きく異なることもありますから、OCPポジションを変更した際には、しばらく乗り込んで様子を見てみましょう。変えて直ぐは使う筋肉が異なるため筋肉痛が発生しがちで逆効果と思ってしまう方も少なくないでの、じっくりとセットアップを煮詰めましょう。OCPポジションを動かさないで標準位置のまま乗り続けている方も少なくないので、そうと言う方はまずは動かしてみて、乗り込んでその違いを体感してみてください。

ーシフトや耐久性などチェーンリングとしての性能はどうでしょうか?

コンポーネントメーカーの純正と比較してしまうと変速性能はやや低いですが、レースで気になるほどではありません。電動変速について、シマノDi2との相性は良好と言えますね。一方、カンパニョーロのEPSについてはフロントディレーラーの内側と外側の位置決めが可能となった現行バージョンであれば相性は良いですが、従来モデルについては相性が良くないです。また、個人的にはチェーンキャッチャーすら必要ないと思うのですが、初心者の中にはチェーンを落としてしまう方もいますので、使い始めは気をつけてあげると良いでしょう。

元世界王者ルイ・コスタ(ランプレ・メリダ)のバイク。電動変速機との組み合わせでも、Q-Ringsはプロの使用に耐えうる高い変速性能を発揮する元世界王者ルイ・コスタ(ランプレ・メリダ)のバイク。電動変速機との組み合わせでも、Q-Ringsはプロの使用に耐えうる高い変速性能を発揮する photo:Makoto.AYANO
ローター純正の3Dクランクとの組み合せではチェーンラインが最適化されるとのことですが、4アームのDURA-ACEと組み合わせてもそれは変らないというのが私の印象です。クランクとの相性以上にしっかりとフロントディレーラーを調整してあげることのほうが重要ですね。

耐久性についてはシマノDURA-ACEのほうが高そうですが、私の使用状況では大きな違いを感じることはありません。潤滑油の種類やチェーンメンテナンスの頻度によって寿命は変わってくると思います。

Q-Ringsより更に楕円率を高めたQ-XLQ-Ringsより更に楕円率を高めたQ-XL ーQ-RingsとQ-XLの違いについて

やはり、Q-XLはグッと踏み込むことができ、速度が一気に伸びる印象がありますが、その反面踏みすぎてしまうため疲れやすかったですね。そして、インナー×トップ付近でチェーンがアウターリングの内側に干渉するなど個人的にはやや使いづらいという印象でしたが、Q-XLの方がより良いという方もいますから、気になる方には試してみる価値はあるでしょう。

ーどんな方にオススメでしょうか?

ケイデンスが高いほどメリットを発揮するので、ゆったりとサイクリング派というよりはレース指向の方ですね。ただ、その効果についての感じ方は千差万別ですから、フレームの様にどんな脚質の…と一概におすすめできません。しかし、一度試して、使い倒してみる価値はあります。

「特にハイケイデンスなシチュエーションでメリットを感じる」
山本雄哉(シクロワイアード編集部)

理論に裏打ちされた確かな性能でプロアマ問わず着々と愛用者を増やし続けているQ-Rings。発売から10年弱が経過した「名作パーツ」と言っても過言ではないが、高価であることから購入を悩んでいるという方は少なくないはず。そんなサイクリストの1人である編集部・山本がQ-Rings初心者としてのインプレッションをお届けする。

国内のジャーナリストが集ったQ-Ringsメディアコンベンションでのライドを含め、1,000kmのテストを実施した国内のジャーナリストが集ったQ-Ringsメディアコンベンションでのライドを含め、1,000kmのテストを実施した
今回のインプレッションでは日々の通勤から、クリテリウムやエンデューロ、ロングライドと様々なシチュエーションで約1,000km使用し、その効果をじっくりと検証した。なおセットアップとして、以前使用していた真円チェーンリングと同じく歯数は52×36Tとし、クランクにはシャフト径24mmのローター3Dを、チェーンには10速のCH-6600を組み合わせた。

「特にハイケイデンスなシチュエーションでメリットを感じる」「特にハイケイデンスなシチュエーションでメリットを感じる」 先ず、結論から述べると筆者はペダリング効率の向上をしっかりと感じることができた。乗り始めは慣れが必要で、真円とは使う筋肉や負荷の掛かり方が異なるのか筆者の場合にはふくらはぎの裏側(下腿三頭筋)が痙攣することがあった。

しかし、Q-Ringsに交換してから2度目のライド以降は違和感が無くなり、登り、下り、平地巡航と、どんなシチュエーションにおいてもメリットを感じる様になり、ケイデンスが全般的に上昇傾向となった。

登りでは、ツインリンクもてぎでコース最大の難所とされる600m程の直登「ダウンヒルストレート」の様に、ハイケイデンスで越えられる様な緩斜面で特に効果を発揮する印象があった。加えて、緩斜面ではダンシングを多用することで楽に速度を維持できた。一方、低ケイデンスが続く長距離の登りでは、その効果は感じづらかった。

下りでは、非常に楽ができるという印象で、筆者の場合には7~8%程度の勾配があればあっという間にアウタートップが必要になる。真円なら踏み切れなかった場所でもQ-Ringsなら「もう1つ大きな53Tのギアがほしい」と思わせてくれるほど脚が回ってくれる。平地巡航についても言わずもがなという印象で、下り同様に真円リングと比べると平均ケイデンスが高くなり、ほぼ平坦の25kmの通勤路では平均時速が2km/hほど上昇した。また、クリテリウムの様にインターバルが掛かるシーンでも真円リングとくらべて楽に速度を上げることができた。

1,000km走行後の刃先の様子。塗装こそ剥がれているものの、歯自体に摩耗はほとんど見られず、変速性能の低下も感じられない1,000km走行後の刃先の様子。塗装こそ剥がれているものの、歯自体に摩耗はほとんど見られず、変速性能の低下も感じられない
サードパーティー製のチェーンリングとしては、優れた変速性能を実現しているサードパーティー製のチェーンリングとしては、優れた変速性能を実現している
3DクランクとQ-Ringsの組み合わせると、インナー×2ndまでチェーンがアウターリングに擦ること無く使用可能だ3DクランクとQ-Ringsの組み合わせると、インナー×2ndまでチェーンがアウターリングに擦ること無く使用可能だ

そして、Q-Ringsと組み合わせた際にチェーンラインが最適になる様、3Dクランクが設計されていることから、インナー×ロー付近でアウターリングとチェーンが過度に干渉することもなく、またインナーリングとアウターリングの間にチェーンが落ちてしまうことも無い。また、1,000km走った段階ではサードパーティーにありがちなチェーンリングの変形もなく、耐久性についても高いと言えそうだ。

ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)らはロードレースでは真円のno-Q、TTではQ-Ringsという使い分け方をしているが、個人的には納得で、Q-Ringsはコースプロファイルに関わらずケイデンスの高いシチュエーションで特に効果を発揮してくれる。ライダーによって感じ方に差があるのは確かだが、1度手にしてみたら、最初は効果を感じられなくとも使い込んでみることを推奨したい。

Q-Ringsを愛用するルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)Q-Ringsを愛用するルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ) photo:Tim de Waele
編集:シクロワイアード 提供:ダイアテックプロダクツ