2013年のキャノンデールは、MTBに本気だ。まず、トレール系フルサス『トリガー』 でオーバーマウンテン構想を完成させたこと。そして、キャノンデール独自のフロントサス『レフティ』 がフルリニューアルしたこと。2013年のキャノンデールは、そのルーツとも言えるMTBの新たな局面へとライダーを誘い始めた。

新型レフティ、カーボンモデル新型レフティ、カーボンモデル photo:Kei Tsuji新作MTB、『トリガー』にもレフティは標準装備新作MTB、『トリガー』にもレフティは標準装備 photo:Koichiro Nakamura

トレール系新フルサス『トリガー』の登場、『オーバーマウンテン』構想の完成

キャノンデールは、ここ数年をかけ、『オーバーマウンテン』という構想を描いてきた。 これは、ジャンルの境を『クロス・オーバー』するライディングスタイル、つまり、ジャンルやフィールドを選ばず乗れるということ。XCレース用、ダウンヒル用、トレールラ イド用といった専門化の進むMTBのありかたを今一度見直し、1台のマシンに、より多くのフィールドを走れる性能を与えようというもの。

幅広い状況を走れるMTB、それがオーバーマウンテン幅広い状況を走れるMTB、それがオーバーマウンテン photo:Koichiro Nakamura汎用性を持たせた性能汎用性を持たせた性能 photo:Koichiro Nakamura

その先陣として発表されていたのが、2年前に登場した『ジキル』と『クレイモア』。2台分の性能を1台で、という新機軸を、FOX新開発のリアサスのユニット『DYAD(ダイアード)ショック』で実現。スイッチ操作ひとつで、上り用と下り用と、異なる性能にサスの動きの量とバイクの基本設計であるジオメトリーを切り替えられるというMTBだ。

120mm/180mmストロークで、ハイスピード・ダウンヒルと、上り返しもスムーズに走れる『クレイモア』。90mm/150mmストロークで、トレールライドから常設MTBパークのゴンドラダウンヒルまでこなせる『ジキル』。ただジキルの基本設計は正直、上りの多い長距離ライドをこなせるものではなかったのだ。ということで実質上、長距離系オーバーマウンテンMTBのポジションが、ぽっかりと空いていた。

’12年モデルの『ジキル』。トレイルからDHパークまでこなせる性能’12年モデルの『ジキル』。トレイルからDHパークまでこなせる性能 photo:Kei Tsuji2つの性能を秘めた1つのショック『ダイアードショック』が搭載される2つの性能を秘めた1つのショック『ダイアードショック』が搭載される photo:Koichiro Nakamura

その穴を埋めたのが、『トリガー』だ。XC系長距離ライドから週末のトレールライドまでを大きくカバーする、26インチホイールのMTBである。特徴的なのは長距離も走れるジオメトリー。前重心で長めのトップチューブ、SDA大滝100kmなどロングライドイベントでも活躍できる基本設計となっている。

長距離向きジオメトリーと言っても、 重心の位置は中央付近。 フルサスではあるけれども、もっさりとしたペダルロスは少なく、すっと前に出る感じの乗り味だ。全体のコントロール性とコーナーの回転性能はバッチリで、これは、ホイール径が26インチなのもそうだが、XC系というよりフリーライド系に近い、遠過ぎないハンドル位置なのもその理由。長距離だけでなく、トレールで左右に振って遊ぶ走り方もできるよう、考えられている。

カーボンフレームの、しっとりと、そして軽快な乗り心地カーボンフレームの、しっとりと、そして軽快な乗り心地 photo:Koichiro Nakamuraパーツも統一デザインとして考えるキャノンデール『SI』システムのステムパーツも統一デザインとして考えるキャノンデール『SI』システムのステム photo:Koichiro Nakamuraリアサスのリンクは、全て太いシャフトでつながれ、高い剛性を誇るリアサスのリンクは、全て太いシャフトでつながれ、高い剛性を誇る photo:Koichiro Nakamura

標準装備のフロントサスは新型のレフティ。これも走りの軽快さを求めた結果だ。新型レフティに付いては、また後で詳しくのべよう。リアサスだが、2013年に日本で発売されるトリガーには、この可変式ダイアードショックは残念ながら搭載されない。ロックアウト付き120mmストローク のモデルのみが販売される。とはいえ、ロング向きジオメトリーと軽めの車重、そして120mmストローク量。《トリガー2》カーボンフレームで、499,000円。日本のトレール向きのモデルと言える。


『レフティ』リニューアル。剛性と耐久性を上げ、よりスムーズな動きに。

レフティとは、キャノンデールが独自に開発した、左側にしかレッグがないサスペンションフォークだ。誕生してから13年。最初は「またキャノンデールが、突飛なことを」と言われたものだった。しかし今もコンセプトはブレることなく、今もトップレベルの性能で、今も正真正銘メイド・イン・USAのフォークだ。

カズこと山本和弘選手。レフティとともに進化してきた日本のトッフカズこと山本和弘選手。レフティとともに進化してきた日本のトッフ photo:Kei Tsujiアルミのレフティは、その造形すらも美しいアルミのレフティは、その造形すらも美しい photo:Koichiro Nakamura新たに装着された、プラスティック製ガート新たに装着された、プラスティック製ガート photo:Kei Tsuji

日本MTB、トップレベルのシリーズ戦である『Jシリーズ』。このXCレースで優勝を重ねているライダー、カズこと山本和弘選手(キャノンデール・レーシング)は、おそらく日本で最も長く、レフティを乗りこなしているライダーである。

そのカズが得意とするのは下りセクション。荒れてラフであるほど、他のライダーとの差は開いていく。「ボクは、レフティの進化とともに、下りの技術を上げていった」そうで、このレフティの進化と共に磨かれたカズの下りの速さが、彼を日本レースシーンのトップにする大きな要因だ。

そのレフティが、2013年発売モデルから大きくリニューアル。以下がその大きな変更点となる。

1)ベアリングを増やし、高剛性+耐久性
  内部構造の特徴であるニードルベアリングに加え、
  もう一つ『グライドベアリング(スライドメタル)』というベアリングを増やして、
  剛性と耐久性をアップしたハイブリッド・ニードルベアリング。

2)新規保護シールを加え、内部をオイルバスに
  下のインナーレッグを丸くし、内部の保護シーリングを追加。
  これにより、内部はオイルバス構造(オイルで充満している)となり
  潤滑性を高め全体のメンテナンス回数を減らせた。

3)アルミ製の一体型内部構造カートリッジ
  内部のダンピング&エアスプリングが、一体カートリッジ式システムに。
  細かな部位がアルミ製となり、耐久性&メンテナンス性もグッと向上。

4)プラスティック・プロテクター
  内部保護シールがホコリなどの侵入を防ぐので、
  インナーレッグをラバーブーツで覆う必要がなくなり、
  プラスチック製の保護ガードになり、見た目もグッド!

新たに採用された、内部保護のシール新たに採用された、内部保護のシール photo:Koichiro Nakamura上のニードルベアリングと、下部緑色のグライドベアリングの2つを採用。ハイブリッド・ニードルベアリング・システムだ上のニードルベアリングと、下部緑色のグライドベアリングの2つを採用。ハイブリッド・ニードルベアリング・システムだ photo:Cannondale

さらに剛性が上がったことにより、フォークに負荷が掛かったとき、つまり障害物に前輪が引っかかったり、急なブレーキングをしているときでも、動きはシブくならず、スムーズなまま。つまり、危ない! と思ったときにもきちんと動き、路面からのグリップを失わず障害物を乗り越え、ホッと胸を撫で下ろすことが増える、というわけ。

ロンドン五輪のMTBで銅メダルを取ったマルコ・フォンターナも、レフティたロンドン五輪のMTBで銅メダルを取ったマルコ・フォンターナも、レフティた photo:Cannondale12年度のシリーズチャンプをカズが取れば、レフティの実力も証明されるか12年度のシリーズチャンプをカズが取れば、レフティの実力も証明されるか photo:Koichiro Nakamuraいつ見てもビックリする、レフティ右側からの光景。『タイヤ、浮いてる!』いつ見てもビックリする、レフティ右側からの光景。『タイヤ、浮いてる!』 photo:Koichiro Nakamura

マニア向けと思われがちなレフティだが、実はこんなふうに、初心者のスピードと、遭遇しがちな危険な状況でこそ、その真価を発揮するフォークとなっている。そして、進化したこのレフティは、カズ選手の下りを、さらに速くするだろうか。それも楽しみだ。


こ、これは本当に29er? トレールモデル『スカルペル29‘ER』再考

『オーバーマウンテン』の基本は26インチだけれども、キャノンデールはもちろん29erも忘れちゃいません。

2013年キャノンデールMTBの裏の主役、スカルペル29‘ER2013年キャノンデールMTBの裏の主役、スカルペル29‘ER photo:Kei Tsuji

キャノンデール・リアサスのコアとも言える、太いシャフトでの高剛性リンクキャノンデール・リアサスのコアとも言える、太いシャフトでの高剛性リンク photo:Kei Tsuji新作トリガーのホイールサイズが26インチであったため、早合点する人は「え、29erは出さないの?」と思うかもしれないが、大きな間違い。というのも、このトリガーの登場により、すでに発売済みのフルサス29er『スカルペル29‘ER』の魅力が、浮き彫りになったのである。これもキャノンデールMTB戦略の一つだろう。

29er版のリア三角は、チェーンリングの裏にピボットが付き、積極的に動く29er版のリア三角は、チェーンリングの裏にピボットが付き、積極的に動く photo:Kei Tsujiスカルペル29erは、もともとレースバイクとして開発された26インチ版スカルペルとは、大きく異なる性格を持つ100mmストロークのフルサス29erだ。開発陣曰く、「トレールライド向けに開発した」というが、これを乗り味での言葉に変えると、「ものすごく小回りの効く29er」だ。

トリガーは、全体のジオメトリーは長距離向きだ。取り回しやすくても、そこはやはりロングランが似合うトレイルバイクである。なのだが、このスカルペル29er『プレイバイクに29インチの利点を取り入れたもの」という印象である。

乗り出すとすぐに気づくのが、29erのもっさりとした感じが「一切ない」こと。S字コーナーは、抜重だけで細かく曲がれるし、ギャップや根っこにタイヤを当ててきっかけを作れば軽く飛ぶし、ついでにリアホイールを横に蹴りだして、ねじって戻しての3Dライディングみたいなこともストレスなくできた。ヘタな26インチよりも操作性が高いのに、コーナーの出口や、全体的な走行スピード感は29インチのもの。これはおもしろい。

直進安定性は29インチで出し、全体の小回りはジオメトリーで実現しているのか。リンクのピボットは、図太く、高剛性のシャフトで構成される。コーナーで思い切り寝かしてネジっても、変にたわむこともなくサスは動き、リアホイールはしっかりと路面をつかむ。29インチ・ホイールの安定走行性と相まって、トレールを場合によっては26インチで走るよりも楽しくしてくれそうな、他に類を見ない29er、それがスカルペル29erだ。改めてわかった。《スカルペル29’ER 2》カーボンフレーム 499,000円/《スカルペル29’ER 4》アルミフレーム 279,000円。

スカルペル29‘ERのアルミモデルで、華麗なウィリーをキメる、ファッションモデル&MTBインストラクターの小林廉さんスカルペル29‘ERのアルミモデルで、華麗なウィリーをキメる、ファッションモデル&MTBインストラクターの小林廉さん photo:Kei Tsuji

というところが、キャノンデールの本気系MTBのトピックス。次回は、例によって、視点が他の視点とは全く違う、キャノンデールのお家芸とも言える新作トピックスを、お伝えしていく。

text: Pandasonic Nakamura
photo: Kei Tsuji / Koichiro Nakamura