「逃げの展開を狙う選手にとって、実質的に最後のチャンスとなる」。ツール・ド・フランス第18ステージについて常々そう話していた新城幸也(ユーロップカー)が、有言実行のエスケープを試みた。最終ゴールスプリントは世界チャンピオンの手に落ちている。

パリに向けて北上を開始したプロトンパリに向けて北上を開始したプロトン photo:A.S.O.マイヨジョーヌ争いの決着は翌日の第19ステージにお任せして、レースの主導権はスプリンターたちに戻される。この日はブラニャックからパリの方向を目指して222km北上。逃げ切りを狙う選手にとってはラストチャンスであり、まだ勝利を手にしていないチームが積極的に動くことは容易に想像出来る。

すでに多くのスプリンターがリタイアし、しかもこの日の地点には4級山岳が置かれている。3〜4級のカテゴリー山岳が散りばめられたコースは、100%スプリンター向きであると言えない。逃げのチャンスを掴むべく、この日もレースはアタックの応酬で始まった。

ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)やジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)が逃げグループを率いるミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)やジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)が逃げグループを率いる photo:A.S.O.数名が集団から飛び出しては吸収され、続けざまに別の選手が飛び出す。平均50km/hに近いハイスピードな展開は、最初の3級山岳通過後にようやく落ち着く。メイン集団から飛び出した16名の中に、ユキヤが入った。

ユキヤとともに逃げたのはヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック・ニッサン)やエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)、ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)と言った面々。

ヒマワリ畑を縫っていくヒマワリ畑を縫っていく photo:Cor Vos逃げに選手を送り込めなかったラボバンク、オメガファーマ・クイックステップ、ソール・ソジャサン、アージェードゥーゼル、エウスカルテル、リクイガス・キャノンデールがメイン集団をコントロール。逃げとのタイム差は3分30秒を上限とし、レース後半にかけて縮小に転じる。

120km地点でコースに飛び出した犬が原因でフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)やデニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)、タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・シャープ)らが落車。幸いどの選手も問題なくレースに復帰している。

敢闘賞を獲得したアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)敢闘賞を獲得したアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Cor Vosゴールまで42kmを残した4級山岳でユキヤがアタックし、そのまま頂上を先頭通過。この動きによって逃げグループは14名まで絞られた。

ラスト30kmで早くもタイム差が1分割れ。するとゴールまで20kmを残して逃げグループからアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)とジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)がアタック。これによって逃げグループは完全に崩壊し、ユキヤは追走グループを形成して先頭を追うも、結局はチームスカイがリードするメイン集団に掴まってしまう。

ゴール20km手前でアタックしたアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)ゴール20km手前でアタックしたアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル) photo:A.S.O.諦めずにもう一段ペースを上げたヴィノクロフとルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)が先頭のハンセンに追いつき、30秒リードでこの日最後の4級山岳へ。気迫溢れるヴィノが4級山岳を先頭通過した。

メイン集団からはニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)、アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)、ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)の3人が飛び出し、前のヴィノクロフ、パオリーニ、ハンセンに合流。この先頭6名は10秒リードでラスト5kmアーチを潜る。

久々のステージ優勝を飾ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)久々のステージ優勝を飾ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vos降り始めた雨によって濡れたコーナーを慎重にクリアする先頭6名。マイヨジョーヌを着るブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)自らがメイン集団を率い、この逃げを捕まえにかかる。

最終ストレートに入り、LLサンチェスとロッシュの2人が最後の抵抗。しかし、その後ろからマン島の超特急がかっ飛んできた。

大会2勝目を飾ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)大会2勝目を飾ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vosウィギンズとエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)の力を借りて好位置をキープしたカヴェンディッシュは、ライバルたちが躊躇うラスト300mでスプリントを開始する。

低い体勢でペダルを踏み込む世界チャンピオンが、リードアウト役の選手たちを抜き、先頭のLLサンチェスとロッシュを置き去りにする。為す術が無いまま肩を落とすライバルたちの数メートル前で、カヴが雄叫びのガッツポーズを見せた。

今大会2勝目、ならびにツール通算22勝目を飾ったカヴ。今年はウィギンズの総合狙いにフォーカスするチームスカイに移籍し、ロンドン五輪に合わせて体重を落としたこともあり、以前見せていたような圧倒的なパワーは影を潜めていた。

しかし、この日のスプリントは「速いカヴ」のそれだった。「インクレディブルだ(信じられない)」。カヴは18日ぶりの勝ちレースをそう表現する。「ゴール寸前まで逃げている選手がいたけど、チームメイトたちの走りはパーフェクトだった。監督は逃げ容認のオーダーを出したけど、ブラッド(ウィギンズ)が『スプリント勝負に持ち込もう』と言ってくれたんだ。そしてその通りになった。ブラッドやフルーミーはリラックスしてゴールすればそれで良かった。でも実際にはブラッドが引いて、それまで逃げていたエドヴァルド(ボアッソンハーゲン)リードアウト。彼らは最高のチームメイトたちだ」。カヴのロンドン五輪に向けた準備は万端。最終パリステージでも勝利を狙ってくるだろう。

マイヨジョーヌ、マイヨアポワ、マイヨブランの順位に変動は無し。この日はアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)が遅れたため、ステージ3位のペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)がマイヨヴェールのリードを広げることに成功している。

満面の笑みで表彰台に上がるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)満面の笑みで表彰台に上がるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vos柔らかな表情を浮かべるブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)柔らかな表情を浮かべるブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vos

選手コメントはレース公式サイトより。

ツール・ド・フランス2012第18ステージ結果
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)          4h54'12"
2位 マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
3位 ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)
4位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)
5位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)
6位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・シャープ)
7位 ボルト・ボジッチ(スロベニア、アスタナ)
8位 セバスティアン・イノー(フランス、アージェードゥーゼル)
9位 ダリル・インペイ(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)
10位 サミュエル・ドゥムラン(フランス、コフィディス)
115位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                    +4'42"

個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)            83h22'18"
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                 +2'05"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)     +2'41"
4位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)         +5'53"
5位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)      +8'30"
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)         +9'57"
7位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)       +10'11"
8位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)                +10'17"
9位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ)              +11'00"
10位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)               +11'46"
84位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                    +2h23'07"

ポイント賞 マイヨ・ヴェール
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)

山岳賞 マイヨ・ブラン・アポワ・ルージュ
トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)

新人賞 マイヨ・ブラン
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)

チーム総合成績
レディオシャック・ニッサン

敢闘賞
アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos