ロンドン五輪を見据えるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)の2年連続マイヨヴェールは有り得るか?それとも成長著しいペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)やマルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)が存在感を見せるのか?今年もゴール前は熱い闘いになりそうだ。

スプリンター有利のポイント配分 スプリントポイントにも注目

昨年マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、当時HTC・ハイロード)が喜びのマイヨヴェール獲得昨年マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、当時HTC・ハイロード)が喜びのマイヨヴェール獲得 photo:Makoto Ayanoジロ・デ・イタリアではステージの種類に関係なくゴール地点で同ポイントが与えられていたが、ツールはステージを「平坦」「中級山岳」「上級山岳」「個人TT」の4種類に分類。それぞれ異なるポイント配分を設定している。

「平坦ステージ」で優勝を飾ると45ポイント獲得。以下35、30、26、22・・・と、上位15名までポイントを付与。「上級山岳ステージ」では20、17、15、13、11・・・。つまりスプリンターが有利にポイントを稼ぐことの出来る配分となっている。

ゴール前を熱くする高速スプリントゴール前を熱くする高速スプリント photo:Cor Vos注目したいのは、昨年変更されたスプリントポイントのポイントシステムだ。昨年から1ステージ・1スプリントポイントに固定され、そこでの獲得ポイントは全ステージ共通(個人TTを除く)。ポイント通過上位15名まで「平坦ステージ」のゴールポイントの約半分、そして「上級山岳ステージ」のゴールと同等のポイント(20、17、15、13、11・・・)が与えられる。

つまりスプリントポイントでの獲得ポイントが、マイヨヴェール争いに大きな影響を及ぼす。山岳ステージでも、コース前半にスプリントポイントが設定されている場合は、スプリンターチームがレースをコントロールするだろう。山岳ステージで逃げに乗るスプリンターも出てくるはず。上位15名までポイントが与えられるため、10名に満たない逃げグループが形成されている場合、集団前方は活性化する。

このシステム変更により「スプリントポイント」としての意味合いが増し、よりレース展開が刺激的になる。ポイント賞狙いの選手は、1日に2回スプリントすることになるだろう。スプリントポイントで脚を使えば、ステージ優勝に影響が出る。平坦ステージでも各チームの思惑が入り乱れそうだ。

また、山岳ステージを乗り切ることが出来ない限り、マイヨヴェール獲得のチャンスは回って来ない。そのためスプリンターたちはグルペットを形成し、タイムアウトの時間内にゴールを目指す。仮に審判の判断でタイムアウトが救済された場合は、その日のステージ優勝の獲得ポイントと同ポイントが減点される。

各ステージのポイント配分(いずれも上位15名に付与)
・平坦ステージ
優勝者45pts、以下35、30、26、22、20、18、16、14、12、10、8、6、4、2pts
・中級山岳ステージ
優勝者30pts、以下25、22、19、17、15、13、11、9、7、6、5、4、3、2pts
・上級山岳ステージ
優勝者20pts、以下17、15、13、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1pt
・個人タイムトライアル
優勝者20pts、以下17、15、13、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1pt
・スプリントポイント
先頭通過者20pts、以下17、15、13、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1pts

トレインを欠くカヴ 成長著しいサガン 平地に集うトップスプリンターたち

マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji昨年マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)はポイント賞ランキングで下位に大差を付けて完走。パリで初めてマイヨヴェールを受け取った。

その後、カヴはロード世界選手権で優勝して世界チャンピオンに。名実共に世界最強スプリンターの名声を得たカヴは、今年、チームスカイに移籍した。

エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ) photo:Cor Vosしかし、同イギリスチームの第一目標はブラドレー・ウィギンズ(イギリス)の総合成績であり、山岳ステージでのアシスト体制が優先されている。つまり、スプリント要員が手薄になり、昨年までカヴのために毎日運行していたようなトレインが今年は無い。

それに加え、今年のカヴには以前ほどの爆発的な勢いが無い。スプリント中の最高出力がダウンしているのはカヴ本人も認めるところ。その代わりにカヴは登坂力を強化した。ロンドン五輪に向けた身体のチューニングが進行中であると言える。

ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール) photo:Cor Vos軽い登りフィニッシュでは、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)がカヴに代わってスプリントを狙うだろう。基本的にはボアッソンハーゲンがカヴの最終発射台を担い、カヴが脱落した場合はそのままボアッソンハーゲンが行く。

今シーズンすでに最多タイとなる13勝を飾っているペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)は、ついにツール初出場。弱冠22歳のサガンは、今年ツアー・オブ・カリフォルニアでステージ5勝、ツール・ド・スイスでステージ4勝、スロバキア選手権で連覇を達成。飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

マルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)マルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ) photo:Cor Vos登坂力があるため、第1ステージのような登りスプリントがサガンの得意分野。それでいて、平坦スプリントでビッグスプリンターに競り勝つ爆発力を持つ。ダニエル・オス(イタリア)を従える初出場のサガンが、世界最高の舞台でどこまで存在感を見せるのか。最終的なマイヨヴェール候補の筆頭だ。

24歳のマルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)もツール初出場。直前のステル・ZLM・トゥールではビッグスプリンターを封じてステージ2勝を飾っている。大柄な体躯から繰り出されるパワフルかつ勢いのあるスプリントで、ベテランたちに勝負を挑む。

アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsujiおそらく、プロトンの中で最も速いトレインを組むことが出来るのはロット・ベリソルだろう。アダム・ハンセン(オーストラリア)、マルセル・シーベルグ(ドイツ)、ユルゲン・ルーランズ(ベルギー)、グレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド)が揃い、アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)のスプリント勝利を支える。ゴール前では主導権を奪うはずだ。

かつてカヴの発射台役として活躍したマーク・レンショー(オーストラリア、ラボバンク)やマシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)は、エーススプリンターとして世界チャンピオンに立ち向かう。

昨年ステージ上位入賞を繰り返すとともに、スプリントポイントでもポイントを稼いでポイント賞2位に入ったホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)や、序盤のベルギーステージで勝利を狙うタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・シャープ)、そしてフランスチームの期待を背負うヤウヘニ・フタロヴィッチ(ベラルーシ、FDJ・ビッグマット)らの活躍に期待。アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)とオスカル・フレイレ(スペイン、カチューシャ)のマイヨヴェール経験有りベテランコンビと若手との激突にも注目したい。


ツール・ド・フランス2011ポイント賞ランキング
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)     334pts
2位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)           272pts
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)    236pts
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)    208pts
5位 トル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)      195pts
6位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)   192pts
7位 アンドレ・グライペル(ドイツ、オメガファーマ・ロット)      160pts
8位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)       127pts
9位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)         105pts
10位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) 105pts

歴代マイヨヴェール受賞者
2011年 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)
2010年 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)
2009年 トル・フースホフト(ノルウェー)
2008年 オスカル・フレイレ(スペイン)
2007年 トム・ボーネン(ベルギー)
2006年 ロビー・マキュアン(オーストラリア)
2005年 トル・フースホフト(ノルウェー)
2004年 ロビー・マキュアン(オーストラリア)
2003年 バーデン・クック(オーストラリア)
2002年 ロビー・マキュアン(オーストラリア)
2001年 エリック・ツァベル(ドイツ)
2000年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1999年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1998年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1997年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1996年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1995年 ローラン・ジャラベール(フランス)
1994年 ジャモリディネ・アブドヤパロフ(ウズベキスタン)
1993年 ジャモリディネ・アブドヤパロフ(ウズベキスタン)
1992年 ローラン・ジャラベール(フランス)
1991年 ジャモリディネ・アブドヤパロフ(ウズベキスタン)
1990年 オラフ・ルードヴィッヒ(ドイツ)

text:Kei Tsuji in Liege, Belgium