スタート地点のレカナーティは、立派な城壁に囲まれた中世の面影を色濃く残す街。アドリア海を望むマルケ特有の都市国家の中心、レオパルディ広場に193名の選手が集う。今日も盛大に名前をコールされながら出走サインを済ませた別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は、ヴィラッジョで寛ぎながらガゼッタ紙を眺める。

スタート前にガゼッタを読みながら寛ぐ別府史之(オリカ・グリーンエッジ)スタート前にガゼッタを読みながら寛ぐ別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji前日の第6ステージで思うように走れなかったことに切歯扼腕していたフミだが、スタート地点で実に晴れやかな表情を見せる。ジロ開幕から1週間が経ち、ようやく「自由行動」が許されたのだ。

出走サインを済ませたフミは、ヴィラッジョ(スタート地点のスポンサーテント)のエスタテブースに入り、甘い紅茶を片手にガゼッタ紙を広げる。「今日はスプリンターが残るコースではないので、自由に動けます」。いつも以上にうきうきしている。

チームNIPPOのマネージャーのアンドレア・トンティと別府史之(オリカ・グリーンエッジ)チームNIPPOのマネージャーのアンドレア・トンティと別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiマルケ州出身で、チームNIPPOのマネージャーを務めるアンドレア・トンティと挨拶を交わし、スタート地点に着く。燦々と照らす太陽が、観客が身にまとった色鮮やかなキャラバングッズをより一層目立たせる。

この日はレカナーティからアペニン山脈を越えてアブルッツォ州に入り、標高1392mの2級山岳ロッカ・ディ・カンビオにゴールする。主催者によると難易度は3つ星で、獲得標高差は3000mオーバー。カテゴリー的には中級山岳ステージだ。

逃げグループを形成するミルコ・セルヴァッジ(イタリア、ヴァカンソレイユ・DCM)や別府史之(オリカ・グリーンエッジ)逃げグループを形成するミルコ・セルヴァッジ(イタリア、ヴァカンソレイユ・DCM)や別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiスタートしてすぐ、ラジオコルサ(競技無線)が早速アタックを告げる。最初に飛び出したのは3人で、その中には101番、つまり別府史之の名前もある。しばらくして1人追いつき、4人の逃げが形成された。

「ここまでのステージでスタート直後にアタックが決まっていたのを見ていたので、スタートすぐの下りで飛び出した」とフミ。メイン集団はすぐにこの逃げを見送った。距離が200kmオーバーということもあり、タイム差は一気に9分まで広がりを見せる。メイン集団は焦ることなく状況をコントロールする。

フミは昨年大会第10ステージに続く2年連続の逃げ。当時逃げたコースはテルモリからテーラモまでで、走る地域としてはとても似ている。昨年はアドリア海沿いの平坦路を北上したのに対し、今年は内陸の丘陵&山岳地帯を南下する。

逃げグループを率いる別府史之(オリカ・グリーンエッジ)逃げグループを率いる別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Riccardo Scanferla

最後の2級山岳ロッカ・ディ・カンビオで遅れる別府史之(オリカ・グリーンエッジ)最後の2級山岳ロッカ・ディ・カンビオで遅れる別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Riccardo Scanferla「去年逃げた時は、すぐに集団のペースが上がって、ずっとタイム差が3分を推移した状態で追われていた。けど今回はそんなこともなく大きなリードを得たので、前半はツーリング気分で走ることが出来ました」。

まさか逃げていた選手から「ツーリング気分」という言葉が出るとは思わなかったが、確かにレース中の映像を見ると、カメラに向かって笑顔を振りまくなど、レース前半は余裕の走りを見せている。それでいて、101km地点の3級山岳ガッルチォ峠を先頭通過し、さらに178km地点の中間スプリントも先頭通過してみせる。

一緒に逃げていたセルヴァッジらと15分10秒遅れでゴールする別府史之(オリカ・グリーンエッジ)一緒に逃げていたセルヴァッジらと15分10秒遅れでゴールする別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji「逃げ切り」という思惑が一致する4人は終盤に入っても変わらず協調体制を維持したが、マリアローザ獲得に興味を示すガーミン・バラクーダがペースアップを始めたのを機に、ずるずるとタイム差が縮まって行く。

「最後の登りまでにもう少しタイム差を稼ぎたかった。ローテーションは回っていたものの、他の選手が踏むのを止めてしまって、どんどんリードが失われてしまった」。

ゴールで待っていたスタッフと笑顔を交わす別府史之(オリカ・グリーンエッジ)ゴールで待っていたスタッフと笑顔を交わす別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji結局、最後の2級山岳ロッカ・ディ・カンビオに入ってすぐフミは吸収。フミは一緒に逃げていたミルコ・セルヴァッジ(イタリア、ヴァカンソレイユ・DCM)らと並んで15分30秒遅れでゴールしている。

2級山岳ロッカ・ディ・カンビオで最後まで粘ったマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)が敢闘賞を獲得。なお、ラボッティーニはアブルッツォ州のペスカーラ出身で、父ルチアーノは1986年にティレーノ〜アドリアティコで総合優勝している元プロ選手。ジロを9回完走している父をもつ2世選手だ。

笑顔でインタビューを受ける別府史之(オリカ・グリーンエッジ)笑顔でインタビューを受ける別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji合計187kmにわたって逃げたフミは、敢闘賞2位、フーガ(逃げ)賞2位。この日の結果を受け、フミは山岳賞6位、中間スプリント賞5位、総合フーガ賞7位、総合敢闘賞8位に。

「出来る限りの走りをしてゴールした。もちろん勝ちを狙って逃げていたし、逃げて嬉しいという気持ちは全くない。結果には結びつかなかったけど、最後の登りを前に2分しかタイム差がなかったので仕方がない。フィーリング良く踏めていたし、またトライしてみたいと思います」。

今年最初の逃げは失敗に終わった。ジロはミラノまで残すところ14ステージ。フミの逃げ切りにチャンスがありそうなステージは残り5〜6つ。再び勝ちを狙いに行ってくれると強く信じている。

text&photo:Kei Tsuji in Rocca di Cambio, Italy
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