タイムが満を持して発表したコンフォート系ロングライドモデルのハイエンドマシン。それが今回テストを行うVRS Fluidity(フルイディティ)だ。タイムが「歴代最高の乗り心地」と謳う高級カーボンバイクの詳細を紐解いていこう。

タイム VRS Fluidityタイム VRS Fluidity (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

1986年にフランスで創業したタイムスポーツ社の最初のプロダクトはクリップレスペダルだった。その後カーボンフレームの先駆けとなったTVT社をタイム社が吸収合併したことで、カーボンに関する知識やテクノロジーを得、それを昇華させたモデルをリリースしカーボンバイク専門ブランドとしての地位を確立した。

タイムは、プロチームへの供給とそこからもたらされるフィードバックを活かし、レーシング性能に特化した意欲的なモデルを多く発表する。しかしその一方で今では一般的となった、振動吸収性に着目したバイクをいち早く発表したのも、またタイムだった。

長距離ライドに向けたジオメトリーを採用する長距離ライドに向けたジオメトリーを採用する 上1-1/8、下1-1/2インチ上下異形テーパードヘッドチューブを採用上1-1/8、下1-1/2インチ上下異形テーパードヘッドチューブを採用 振動吸収素材「バイブレーザー」のロゴを冠するフロントフォーク振動吸収素材「バイブレーザー」のロゴを冠するフロントフォーク


ロングライド/グランフォンド向けのロードマシン「VXS」が発表されたのは2005年のこと。ロングセラーとなったVXSには、2009年に後継モデル「VRS Vibraser」が登場。そのヒストリーの中で2012年にリリースされたのが今回インプレッションを行うVRS Fluidityだ。レーシングモデル「RXRS ULTEAM」と双璧を成すVRSFluidityは、タイムの最新モデルだけに多くのテクノロジーが凝縮される。

フレームはタイムが得意とするRTM(レジントランスファーモールディング)工法によって製造される。金型にカーボンの板を貼り付け、バルーンで内側から圧力をかけて成型するのがカーボンフレームの最も一般的な製造方法だが、圧力をかけて素材を曲げるため、フレーム内部に残留物やシワができる問題が付きまとう。

三角形断面を採用するトップチューブ三角形断面を採用するトップチューブ 三角形から円形に変化するフォルムを持つダウンチューブ三角形から円形に変化するフォルムを持つダウンチューブ


弓なりにアーチしたトップチューブは究極の乗り心地を目指した弓なりにアーチしたトップチューブは究極の乗り心地を目指した 美しい仕上りを見せるボトムブラケット周辺の造作美しい仕上りを見せるボトムブラケット周辺の造作


対してRTM工法は、フレーム各部の形をした「ロウ」を作り、その上に自社で編み込んだカーボンを履かせていき、その素材を7層に重ねて金型に入れエポキシ素材を注入して成形。繊維層の剥離や空洞が生じないためリスクを無くし、安全性の向上を図ることが可能で、使用した「ロウ」はその後融解し吸い出すことでフレーム内部に残留物が発生せず、軽量化にもつながる。

そしてカーボン繊維を編み込んでいく工程で、優れた対衝撃・振動吸収性能を持つポリアミド繊維「バイブレーザー」をRXRSの2倍量使用することで、優れた乗り心地を実現。さらにRTM工法を施すことによって、前後方向の振動のみを吸収させている。つまり横方向に対しては剛性を維持し、コーナリングやダンシングの際にたわみが生じないという。

チェーンステーは複雑な形状を見せるチェーンステーは複雑な形状を見せる Di2バッテリーはスマートに取り付けがされるDi2バッテリーはスマートに取り付けがされる


長く取られたヘッドチューブを持つ特徴的なルックスは、「パフォーマンス・フィット」と呼ばれる性能と快適性を両立させた専用設計によるもの。タイム伝統とも言える細身のルックスやシートステーを湾曲させることで、使用する素材のみならず、さらなる上質な乗り味を求めた。

しかしVRSフルイディティへ搭載されるテクノロジーは、単に乗り味を追い求めただけに留まらない。クライミング性能や安定したコーナリングを実現するために、上1-1/8、下1-1/2インチ上下異形テーパードヘッドチューブを採用。左右非対称設計とされたチェーンステイは、優れたパワー伝達能力を発揮する。

下側に向けて湾曲するシートステー下側に向けて湾曲するシートステー シートステー取り付け部分はモノステーだシートステー取り付け部分はモノステーだ タイム独自のセミインテグラルシートチューブタイム独自のセミインテグラルシートチューブ


リアエンドの肉抜き加工や、エンドまでカーボン化されたフロントフォークなど、軽量化を求めた工夫も随所に見ることができる。そうしてVRS Fluidityの重量は、フレーム(シートポスト未カット)+フォークで1490gを達成し、カタログ上の数値ではRXRSに対して軽量化を達成している。

ハイエンドマシンだけにシマノの電動コンポーネントに完全対応し、さらにデュラエース用とアルテグラ用がラインナップ。ジャンクションBケーブル・バッテリー台座がもとより組み込まれ、通常タイプのボトムブラケットがBB30であるのに対し、Di2版はBB86プレスフィット仕様だ。

タイムが「究極の乗り心地とレーシング性能を両立したマシン」として送り出したVRS Fluidity。インプレッションを行ったライダー両名はどのような評価をするのだろうか。早速インプレッションをお届けしよう。





―インプレッション

「どこまでも走り続けられるような、究極の乗り心地が味わえる」鈴木祐一(Rise Ride)

非常に乗り心地の良さが際立ち、どこまでも走っていくことができるようなコンフォート性能の素晴らしいバイクという第一印象を持ちました。フレーム全体がバネのように非常にしなやかで、ペダルを踏んだことによる反発力や、路面からの振動を全て吸収し、踏み込む際の"味"を良いフィーリングに変換してくれました。非常に乗っていて気持ちのいいバイクです。

このバイクは、ハンドリングやダウンヒルでのコーナリング、ヒルクライムも含めて全てバランスが取られていて、ネガティブさを感じるシチュエーションが無いように感じます。コンフォートに振られたバイクですので少々まったりとはしていますが、かといってハイスピードのコーナーでもブレたりはしません。

クルマで例えるなら高級セダンといったところでしょうか。どんなスピード域でも受けた衝撃を適切な大きさにいなしてくれて、そのバランスが調度良いです。剛性の高さから安定感を出すバイクもありますが、このVRSは対照的に、まるでサスペンションによって安定感が出されているかのようなイメージを持ちました。

「どこまでも走り続けられるような、究極の乗り心地が味わえる」鈴木祐一「どこまでも走り続けられるような、究極の乗り心地が味わえる」鈴木祐一

硬すぎるフレームは踏み続けていないと路面に弾かれて宙に浮いてしまうことがよくありますが、VRSは路面と喧嘩をせず、しなやかさが路面追従性を生み出しているよう感じます。下からに突き上げを調和して、スピードを乗せていける、そんなマシンです。

トルクを掛けて踏み込んだ時、軽いギアで回転数を上げた時のどちらにでも対応してくれました。しなやかな分、ギアを重くかけて踏んだ場合は若干フレームのたわみを感じましたが、反発した時にグッと推進力に繋がる乗り味があります。クロモリフレームに似ているといえばわかりが良いでしょうか。

試乗車はデュラエース・Di2が装着されていますが、バッテリーがスマートに収まるように設計されていて好感がもてます。電動コンポーネントと組み合わせれば究極のストレスフリーマシンとなりますよね。ワイヤー式コンポを選択してもスマートにルーティングできそうですので、コンポーネントを選ばないマシンです。

マシンの設計コンセプトがロングライドですので、短距離のスプリントレースには向かないでしょう。でもその場合には同じ価格帯のRXRSを選べば良いですよね。乗った瞬間にわかる乗り心地の良さ。短距離のライドからブルベ600kmや、何日もかけて1000km走るといった究極のロングライドにも選びたいバイクです。


「ロングライドに適した乗り味の中に、レーサーの雰囲気も感じられる」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)


「ロングライドに適した乗り味の中に、レーサーの雰囲気も感じられる」「ロングライドに適した乗り味の中に、レーサーの雰囲気も感じられる」 非常に良いバランスで仕上げられたロングライドマシンという第一印象でした。振動吸収性を売りにしているバイクですが、しなり過ぎてロスを感じることが無く、踏み込んだ時に硬すぎず柔らかすぎず、タイムらしさがよく表現されたマシンですね。

タイムというメーカーは、それぞれのマシンにはっきりとしたコンセプトを持たせますが、レース用マシンもロングライドマシンでも、何かの性能が突出しすぎていることがありません。そのためロングライドマシンでも、ただ柔らかさや振動吸収性を求めただけだはなく、レーシングな雰囲気を感じさせるバイク造りをしてきます。このVRSはまさにその通りで、素晴らしい乗り心地の中にもレーサーらしさ十分に感じることができました。

上りや下り性能に関して言うなら、「ニュートラル」という言葉ば一番当てはまるのではないでしょうか。極端にクイックということもないですし、かといってダルさもありません。落ち着いていて乗り手の思う通りに動いてくれます。どんなギアを選択してもマシンが乗り手に合わせて進んでくれるような柔軟性があるため、巡航も楽で得意といえるでしょう。

設計の通り、ロングライドに向けて最高のバイクと言えると思います。しかしただゆっくりと走らせるだけではなく、途中にある峠でスピードを上げてもしっかりと応えてくれる。ダウンヒルでスピードを出した時にもタイムらしいレーサーな雰囲気をしっかりと味わうことが出来るでしょうね。

アッセンブルするコンポーネントやパーツは、フレームの性格を損ねないように中級以上のものを装備したいですね。フレームがしなやかですので、ホイールはカッチリとしたものを。電動コンポーネントもバッテリー取り付けなど配慮されていますし、非常に適したチョイスといえるでしょう。ロングライドに向けてチューブレスタイヤを装着しても良いと思います。

ロングライドに使うマシンとして、ウィークポイントはほぼ見つからないと言って良いでしょう。価格がちょっと高めの設定になっていますが、それ以上に価値のあるマシンです。実際走らせて気持ちが良いし、高級感があるから持っている所有感もある。カーボンを知り尽くしたタイムだけに、購入して間違いないバイクではないでしょうか。

タイム VRS Fluidityタイム VRS Fluidity (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
タイム VRS Fluidity
サイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
カラー:ブラックレッド、ホワイト
フロントフォーク:インテグラルRTMセーフ+2フォーク、CMTカーボンエンド
BB:BB30、BB86プレスフィット(Di2)
シートポスト:トランスリンクシートポスト31.6mm径、パフォーマンス・シートステイ
Fディレイラー:直付け
Rディレイラー:リプレイスメントエンド
ヘッドセット:タイム クイックヘッドセット
ベアリングサイズ:上1-1/8、下1-1/2インチ
付属品:カーボンボトルゲージ×1
価 格:420,000円(税込)、462,000円(税込、Di2仕様)



インプレライダーのプロフィール


戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
OVER-DOバイカーズサポート


鈴木祐一鈴木祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


ウェア協力:PISSEI

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO