局所的にバケツをひっくり返したような雨と、限りなく続くアップダウン。タフなコンディションに見舞われたリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑んだ別府史之と土井雪広は、どちらもアシストとしての働きを全うし、途中でレースを降りた。日本チーム正ゴールキーパーの川島永嗣選手が訪れたレースの模様を振り返る。

川島永嗣選手がロードレース初観戦

ベルギーでプレーする川島永嗣選手の激励を受ける別府史之(グリーンエッジ)ベルギーでプレーする川島永嗣選手の激励を受ける別府史之(グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiリエージュのサンランベール広場に、ひと際大きな存在感を放つ日本人が登場した。ベルギーのジュピラーリーグ、リールセSKでプレイする川島永嗣選手が日本人選手の激励に訪れた。

世界に挑むアスリートの語学習得を応戦するプログラム、グローバルアスリートプロジェクトのアンバサダーを務める川島選手。

サンロシュの登りに立つ川島永嗣選手サンロシュの登りに立つ川島永嗣選手 photo:Kei Tsuji同じく同プログラムのアンバサダーを務める別府史之(グリーンエッジ)のチームバスを訪れ、固く握手を交わす。川島選手、全日本チャンピオンの別府、そして土井雪広(アルゴス・シマノ)は同じ1983年生まれ。

ロードレース観戦初体験の川島選手は「ロードレースの存在は知っていたけど、実際に見るのはこれが初めて。(リースセSKの)チームメイトたちが前日のレースで誰が勝ったという話をしていたけど、自分は分からなかった」と話す。

川島選手は急勾配のコート・ド・サンロシュに「こんなところを自転車で登るとは」と驚き、選手たちが260kmの距離を走破することに驚く。刺激的なロードレース観戦になったようだ。

スタート前に握手する土井雪広(アルゴス・シマノ)と別府史之(グリーンエッジ)スタート前に握手する土井雪広(アルゴス・シマノ)と別府史之(グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji

伏兵イグリンスキーの独走勝利

ワロン地域と言えば雄鶏のフラッグワロン地域と言えば雄鶏のフラッグ photo:Kei Tsuji「晴れて気温が20度以上に上がれば、スペイン人選手に有利になると思う。でも雨が降って気温が下がれば、ベルギー人向きだ」。前日のチームプレゼンテーションで、フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)はそう語っていた。

蓋を開けてみれば、レース当日は雨と曇りと晴れが入り乱れる慌ただしい天候に。局所的な豪雨が選手を襲い、雹がコースに打ち付け、強い風が南西から吹き付ける。レースコンディション的には極限まで厳しい状況。

観客が詰めかけたサンロシュの登り観客が詰めかけたサンロシュの登り photo:Kei Tsujiアルデンヌ・クラシックの最終戦として、アムステル・ゴールドレースやフレーシュ・ワロンヌと並んでカウントされるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。しかしその難易度は際立って高い。アムステルとフレーシュが「丘のクラシック」なら、リエージュは「山のクラシック」。延々と続くスケールの大きな丘陵地帯を突っ走る。

「ニーバリを追ってカウンターアタックを仕掛けたとき、まさか自分が勝つとは思わなかった」。カザフスタンチームに所属するカザフスタン人選手、イグリンスキーは記者会見でそう振り返る。

コート・ド・ラ・ルドゥットを登るフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)コート・ド・ラ・ルドゥットを登るフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsuji2010年のストラーデ・ビアンケで優勝し、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネやツール・ド・ロマンディでステージ優勝しているイグリンスキー。アスタナはエンリーコ・ガスパロット(イタリア)のアムステル制覇に続くアルデンヌ勝目。しかもガスパロットが3位争いのスプリントを制し、ワンスリー勝利を飾っている。

2005年と2010年のアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン)に続くカザフスタンチャンピオンの誕生。ヨーロッパチームを渡り歩き、2007年からアスタナに所属する31歳は「長いキャリアの中で最も大きな勝利」と喜んだ。

独走でゴールするマキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ)独走でゴールするマキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ) photo:Kei Tsuji


アシストを終え、途中リタイアした別府史之と土井雪広

集団前方でサンロシュをクリアする別府史之(グリーンエッジ)とオスカル・フレイレ(スペイン、カチューシャ)集団前方でサンロシュをクリアする別府史之(グリーンエッジ)とオスカル・フレイレ(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji日本から出場した別府史之と土井雪広は、結果的にリエージュDNFに終わった。土井は前半からアタックを仕掛けたものの決まらず。逃げが決まってからはエースのアレックス(ジェニエ)のアシストとして風よけになり、ボトルや補給食を運び、最後の勝負どころに備えた。

ゴールまで20kmを残してバイクを降りた土井は「完全に出し切った。これ以上ないと言えるぐらい追い込めた。3週間のブエルタ・ア・エスパーニャを走り終えたときよりも疲れきっている。でも、疲れているけど調子は良い」と語る。

メイン集団から少し遅れてコート・ド・ラ・ルドゥットを登る土井雪広(アルゴス・シマノ)メイン集団から少し遅れてコート・ド・ラ・ルドゥットを登る土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji土曜日にお伝えした通り、土井は翌日のフライトで日本に帰る。シーズン前半の目標であり、調子のピークを合わせていたアルデンヌ・クラシックを終えたばかりの好コンディションで、1週間後の全日本選手権に挑むことになる。

今年の全日本選手権は、昨年同様岩手県八幡平で行なわれる。周回数が増やされたため、全長は200から250kmに延長。当然一日の獲得標高も膨れ上がり、計算では4000mを超える。「(全日本の)タイトルを取りに行く」。土井は高いコンディションとモチベーションをもって日本に帰国する。

ゴール後すぐにメカニックがバイクを洗浄するゴール後すぐにメカニックがバイクを洗浄する photo:Kei Tsuji別府も同様にチームの仕事をこなし、レース終盤に遅れてバイクを降りた。「コンディションは悪くはないけれど、今日はハードなレースだった」と別府。

レース後すぐに別府はチームバスで移動。その日のうちに200km移動し、翌日スイスに向けて更に500km南下する。翌々日の火曜日には、2年連続出場となるツール・ド・ロマンディが開幕する。「ツール・ド・ロマンディでは良い走りがしたい」。ツール・ド・ロマンディは別府が全日本チャンピオンジャージを着て走る最後のレースとなる。

「そして、ジロ・デ・イタリアではステージ優勝を狙う」。別府のモチベーションは高い。カタルーニャとアルデンヌを共に走った1983年生まれの2人は、それぞれの大きな目標を持って、それぞれの道を突き進む。

text&photo:Kei Tsuji in Liege, Belgium