パリ〜ニース開幕から6日が経ち、ようやく現地取材をスタートさせた。前日に逃げた新城幸也(ユーロップカー)の元気な表情に安堵し、ブドウ畑を抜け、モンヴァントゥーを横目に進み、シストロンに到着。予想に反して日中は上着の必要がないほど暖かい。終着地コートダジュールはもう近い。

「今日はこのステージ」「今日はこのステージ」 photo:Kei Tsuji飛行機乗り継ぎのために降り立ったオランダ・アムステルダムのスキポール空港にあるスポーツカフェで、逃げている新城幸也(ユーロップカー)の姿を見た。

逃げ切ってほしいという強い気持ちの中に「明日からのステージに力を残しておいてね」というイヤらしい思いも混ざる。まったく、自分が取材するレースをテレビで観るのは些か違和感がある。

スタート地点シューズ・ラ・ルッスはワインの産地スタート地点シューズ・ラ・ルッスはワインの産地 photo:Kei Tsujiテレビの中ではオランダチームのオランダ人(ヴェストラ)がアタックし、そして勝った。というのに、旅行客は全く興味を示さない。というより、そもそも旅行客はパリ〜ニースを見ていない。立ち止まって「お、自転車レースをやっているのか」という反応を見せる人もいるが、多くの人はみなCNNのフクシマ特集に見入っていた。

3月9日の夜遅く、地中海に面したニースのコートダジュール空港に降り立ち、3ステージ分を逆走して(つまりパリに向かって北上して)第6ステージのスタート地点に向かう。

ワイン作りの邪魔はしないようにワイン作りの邪魔はしないように photo:Kei Tsujiスタート地点のシューズ・ラ・ルッスは、観光地アヴィニョンの北方、ローヌ=アルプ地域圏の南端に位置する。人口が2000人に満たない田舎町だが、ローヌワインの産地として有名。シャトーの中には「ワイン大学(l'Universite du vin)」まであるそうだ。

第5ステージで力強い逃げを見せたユキヤの表情は晴れやか。第6ステージと第7ステージでチャンスがあると勝手に踏んでいただけに、第5ステージで動いたことに驚いたと告げると「予想より早めに動くことになりました」と笑う。「チームは2日連続で逃げに選手を送り込めていなかったので、とにかく誰かが逃げに乗ることが作戦でした。するとアタックが一発で決まって」。

メイン集団内で最初の3級山岳をこなす新城幸也(ユーロップカー)メイン集団内で最初の3級山岳をこなす新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji逃げで疲労したユキヤを待っていたのは、レース後の250km移動。「こればかりはどの選手も一緒だから(文句は言えない)」と、ユキヤ。

現地の最高気温は15度ほど。レースの南下とともに気温が上がっているため、レースが開幕した頃とは空気が全然違うと、アクレディテーションを処理してくれたプレス担当者は話す。

ペダルを回す毎に地中海に近づき、気温が上がり、着るものが身軽になって行く。もし「パリ〜ニース」ではなくて「ニース〜パリ」だったら、本能的にペダルに込める力が数パーセント弱まりそうだ。

ブドウ畑が広がる丘陵地帯を進むブドウ畑が広がる丘陵地帯を進む photo:Kei Tsuji
ガーミン・バラクーダやチームスカイがコントロールするメイン集団ガーミン・バラクーダやチームスカイがコントロールするメイン集団 photo:Kei Tsuji北側からモンヴァントゥーを眺める北側からモンヴァントゥーを眺める photo:Kei Tsuji

ボトルを運ぶためチームカーまで下がる新城幸也(ユーロップカー)ボトルを運ぶためチームカーまで下がる新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiブドウ畑が一面に広がるスタート直後の平坦区間には、季節風ミストラルが吹き付けた。エシュロンが形成され、集団が分断され、マイヨジョーヌを含む総合上位の選手たちが先行し、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)が後方に取り残されるという展開のおかげで、スタート直後から超ハイスピード。

序盤ステージで落車し、ここまで精彩を欠いたイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)は早々に集団から脱落。結局バッソは90km地点でバイクを降りている。

逃げグループを追い上げるメイン集団がシストロンの街を駆け抜ける逃げグループを追い上げるメイン集団がシストロンの街を駆け抜ける photo:Kei Tsuji第6ステージはあの「魔の山」モンヴァントゥーの北側を舐めるように東に向かう。その堂々とした“はげた頂”は、かなり遠方からも視認出来ることで有名。頂上を覆う白い雪が、その標高の高さを物語っている。

でも山が連なる北側から見ると、あまり高さを感じない。富士山の中腹に沿うドライブウェイに入って、山頂がどこなのか、そしてどれぐらい高いのか分からなくなる感覚に似ている。

ハンドルを投げ込んでゴールするルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)とイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)ハンドルを投げ込んでゴールするルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)とイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン) photo:Kei Tsujiローヌ=アルプ地域圏を離れ、レースはいよいよプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏へ。何層にも重ねた粘土を両手で横からギュッと押しつぶし、それを殴ったり踏んづけたり、ナイフで切り落としたような山が連なっている。この白っぽい石灰岩の山々が地中海にせり出した部分がコートダジュールだ。

ゴール地点シストロンは「プロヴァンスの門」と呼ばれる歴史ある街で、岩山の上に築かれたシタデル(要塞)の周りに旧市街が広がる。横を流れるデュランス川に架かる橋と、対岸にあるボーム岩の“ディズニーランドもびっくり”の光景をツール・ド・フランスで見たことがある人もいるはず。今回はこのシストロンを起点とした19kmの周回コースをぐるっと回ってゴールを迎える。

14秒遅れのメイン集団の中でゴールする新城幸也(ユーロップカー)14秒遅れのメイン集団の中でゴールする新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji大集団を背にしたルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)とイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)の一騎打ちを、暖かな西日が照らす。2009年大会の覇者LLサンチェスが大会通算ステージ4勝目を飾った。

ちなみに、今回とほぼ同じシストロン周回コースが設定された2008年大会の第5ステージで、チームメイトのカルロス・バレード(スペイン)が逃げ切り勝利を飾っている。

疲労感の中に笑顔を見せる新城幸也(ユーロップカー)疲労感の中に笑顔を見せる新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji14秒遅れの集団でゴールしたユキヤは、チームスタッフから受け取った清涼飲料水を一口で飲み干す。「逃げた次の日にこんなハイスピードなレースは辛いですよ。補給ポイントを過ぎた辺り(100km地点)で雪も降っていました」。そう言って、手首にまくり上げられたアームウォーマーで顔を拭う。

「スプリンター(セバスティアン・シャヴァネル)を前に連れて行く予定だったのに、ゴール前の登りで番手を下げてしまって、ゴールまでの直線路で前に出れなかった」。

パリ〜ニースは残り2ステージ。最終日は個人タイムトライアルなので、実質的に逃げるチャンスがあるのは第7ステージのみ。「残り1日になっちゃいましたね」。ため息混じりの、少し悲しげな声でそう言って、ユキヤはチームバスに戻って行った。

text&photo:Kei Tsuji in Sisteron, France
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