世界で活躍する日本の自転車選手の中で、長いキャリアと共に輝かしい実績を有する一人が女子MTBダウンヒル選手の末政実緒だ。彼女の二十年にもわたる自転車競技歴を振り返りつつ、末政が挑む世界のMTBレース界の模様を語ってもらう。

末政実緒(FUNFANCY/INTENSE)末政実緒(FUNFANCY/INTENSE)
8歳でバイクトライアルから始めた末政は、10歳で全日本初制覇をして翌年も優勝して2連覇。中学生時代の海外遠征では世界選手権シリーズ戦でも2連覇を達成する。高校進学と同時にダウンヒルに転向してからは、全日本選手権のタイトルを獲得して、今日までじつに12連覇を守る。アジアMTB選手権も出場するレースは連勝中。世界選ジュニアクラスでは優勝して世界一の証でもあるアルカンシェルを獲得して、シニアエリートクラスでも世界選最高位2位でMTBワールドカップでは最高位3位と、日本人選手として世界の頂点を目指している。

― 父の影響でバイクトライアルから自転車競技を始める。

8歳の頃からウィリーをマスター8歳の頃からウィリーをマスター 「バイクトライアル競技は8歳頃から始めました。その当時父がオートバイのトライアルを趣味程度ですがやっていて、昔から練習やローカルレースに一緒に付いていって見ていたり、ビデオ等を見ているうちに自然と自転車でまねごとを始めました。

そして、父の友人の息子さんがバイクトライアルをやっていて、一度大会を観に行った時に自分でもやってみたいと思いました。 (バイクトライアルは)20インチのバイクなので子供でも乗れるし、バランス競技なので自転車の基本となるバランス感覚やテクニックが身に付き、子供の頃からやっておいて良かったな、と今でも思います。

セクションを攻略したり、約2時間の競技時間中に1セクション2分間の集中と気持ちの切り替えが必要な競技なので、そのことが今のダウンヒルにも生かされています」

―抜群のバランス感覚で10歳にして全日本を制覇、翌年も続けて2連覇を達成する。

「女子クラスに年齢は関係なく、大人も子供も同じ土俵で競います。昔から負けず嫌いと言うのはありましたが、あまり全日本制覇とか連覇とかは気にしていませんでした。とにかくセクションを上手くクリアしたい、勝ちたいという気持ちで走っていたと思います」

―1995年から海外遠征を開始。1996~97年にはトライアル世界選手権シリーズを2連覇。

中学生でトライアルの世界選手権シリーズを2年連続で制覇中学生でトライアルの世界選手権シリーズを2年連続で制覇 「日本で一緒に練習している周りの男の子達の中には世界チャンピオン等、世界選手権に行っている子達もいたので海外に行く事にはあまり抵抗はありませんでした。

海外のレースは何もかもが初めての事ばかりで何がなんだかよく分からない事ばかりでしたが、世界に行くと自分と同じようなレベルの女の子も多く良い刺激になりました。女子の世界選手権の場合は、年齢のハンデがありますが同じセクションを走ります。

主にヨーロッパ(スペイン、チェコ、スロバキア、フランス等)で世界選手権が約1ヶ月に集中してあり、主に母や姉と一緒に飛行機や電車等で遠征をしていました。途中に父も合流したり、観光したりしてとても楽しい遠征でした。

3年間トライアル世界選手権シリーズに参戦し、2年連続でシリーズチャンピオンにはなりましたが、一戦一戦喜びと悔しさと、色んな出来事がありました。

他の国の女子選手や同じ年頃の男子選手等と友達になり、特にライバルだったスロバキアのダニコバ選手とは文通をしたりと、大会ではライバルでしたが良い友達でした」

―トライアルで世界の頂点を極めたあと、次は山の斜面をハイスピードで下るダウンヒルに転向へ。

「2年連続で世界選手権シリーズで優勝した時は中学3年生で、高校進学を機に何か新しい事に挑戦したいと、何となく思っていました。そんな時ちょうど京都の亀岡にあるトライアル場でダウンヒルの大会を見に行ったのがきっかけです。初めて生で見る競技に楽しそうだなと思ったし、トライアルのテクニックも生かされる競技だと思い、ダウンヒルに転向する事を決めました。

ダウンヒルに転向した当時、Team YRSでYRSの山本明さん(DH部門があった時のチームブリヂストン・アンカー、後のTeam Ikuzawaのメカニック)のところでお世話になっていました。
トライアルとダウンヒルの一番大きな違いは、私は20インチでトライアルをしていたのでバイクのサイズが違うこと、そしてサスペンションがついていることで、慣れるのに時間がかかりました。コーナリングでは自転車を寝かして曲がることがトライアルにはなく新鮮でした。(トライアルでは後輪をブレーキを利用して上げる、ジャックナイフで方向転換をするのが基本でした)」

― 1990年代後半と言えば塚本岳・柳原康弘のコンビ「ダートブロス」人気や、白馬岩岳で行われていたMTBレース、新潟県・新井でワールドカップが開催されたりと、日本がMTBブームで沸いていた時代にダウンヒラーとして国内・アジアへ挑戦する。

2001年のMTB世界選アメリカ・コロラドではジュニアクラスで優勝2001年のMTB世界選アメリカ・コロラドではジュニアクラスで優勝 「私がダウンヒルを始めた1998年にはまだ白馬岩岳のレースがあり、名物だった「春の岩岳」ではゴンドラ待ち渋滞が1,2時間ぐらいは当たり前。ダウンヒル人口ってすごいんだな、と驚いていた記憶があります。

1998年のワールドカップ新井は、ダウンヒルを始めたばかりなので観客としてそこにいました。ワールドカップ開催前に新井でJシリーズが開催され、雨の中まともに下って降りれなかったコースを、同じようなコンディションの中をすごいスピードで走るワールドカッパーたちを見て、感動した覚えがあります。

当時日本のライバルは増田まみさん、猪俣浩子さん、水庫ひとみさん、そして鎌倉幸子さんなど、速い選手が大勢いて賑わっていました。ライバルがたくさんいて、悔しい思いをしたレースも多かったですが、毎レースがとても良い経験でした。

シリーズ初表彰台は1998年の栃木県のハンターマウンテン、初優勝は1999年の青森県のモヤヒルズでした。そして2000年にタイで開催されたアジア選手権優勝を皮切りに、全日本選手権、Jシリーズランキング、ナショナルランキングと初めて国内とアジアのタイトルを獲得することが出来ました。

また初のMTBの海外遠征は1999年カナダ・モンサンタンで、突然ダウンヒルに出場するにはUCIポイントが必要になり、デュアルスラロームのみ出場しました。日本人選手先輩方等と一緒に遠征をさせてもらったり、海外トップ選手等の走りを生で見て刺激を受けました。ダウンヒルは2000年のスロベニア・マリボル大会が初ワールドカップでした」

― 海外へ挑戦するべく、高校卒業と同時にプロライダーへ

「日本・アジアとタイトルを取り、やはり『次は世界』という思いが強く、高校卒業で進路を決める時に大学進学も少し考えましたが、両立出来ると思えず、世界に出るためには自転車一本でやって行こうと決断しました」

― 2001年のアメリカ・コロラド世界選は9.11テロショックの中、ジュニアクラスで優勝を勝ち取る。

ジュニアクラスでのアルカンシェルジャージジュニアクラスでのアルカンシェルジャージ 「9月11日、朝起きるとテレビのニュースで目を疑うような光景が流れていていました。テレビではあり得ない光景が映し出されているのに、会場となったアメリカのベイルでは至って平和な感じで、同じ国で起こっていることとは思えないほどでした。

当初は、レースが開催されるかどうかも危ぶまれ、最寄りの空港は閉鎖され果たして帰国出来るのかと、最初は何も分からずレースどころではないのでは?と思いました。なんとかレースは開催されることになり、おかげでジュニアチャンピオンになる事が出来ました」


〈末政実緒を支えてきたサイクルショップ輪娯ロード スタッフたちのコメント〉

― 末政さんをサポートするきっかけは?
「今から約10年前にお知り合いを通じてお会いしたのが当時18才のMioちゃん。彼女の考え方・MTB競技に対する姿勢に共感しサポートを決めました。一年後、世界選ジュニアでなんと世界一に輝き感動しました。今やなんと10年来のお付き合いになり、今後も彼女の活動に出来るかぎり全力でサポート致します」(店長 神崎さん)

― 印象に残るエピソードは?
「フランスのレジェで行われた世界選手権。ホットシートに座る末政選手が見えました。その当時のチャンピオン、バネッサ・クインがゴールしトップタイムでホットシートへ。その入れ替わる瞬間と表彰台で並んだ瞬間がとても印象に残っています。日本を代表する小さな巨人です」(スタッフ 中村さん)

― アスリートとしての才能は?
「初めて会った時の第一印象が小柄な女性だなと思いました。しかし、小柄ではありますがバランス感覚や器用さは抜群です。それもトレーニングに励み努力してきたからこそ身についた能力です。舞台は国内だけではなく海外がほとんど、海外へ一人で行きアウェイな地で好成績を出す勝負強さにはいつも驚かされます。
彼女自身アスリートとしての意識も非常に高く持っています、オフシーズンではロードバイクでのトレーニング、トレイルライド、ウエイトトレーニングそして食生活や体調管理と体にまで気を使っています。アスリートとしての才能は十分にあります」(スタッフ 中村さん)


次回は、エリートに上がり本格的にワールドカップに参戦するvol.2に続きます。

interview:Akihiro.Nakano


お知らせ
末政実緒選手のMTBスクールが開催されます。

末政実緒プロ クロカントライアル
~クロスカントリーやダウンヒルに役立つトライアルテクニックをレクチャーします~

日時と主な内容
1月 7日(グリーンピア三木) スピードコントロール
1月21日(菖蒲谷森林公園) 前輪を上げる
2月 4日(菖蒲谷森林公園) 後輪を上げる
2月25日(グリーンピア三木) 加重・抜重

詳しくは以下の申込みページでご確認下さい。
スクール詳細( 龍野MTB協会HP) 

2011年の12月に初めて龍野MTB協会で行われた末政実緒スクール。2012年は1月から2月まで計四回行われる。2011年の12月に初めて龍野MTB協会で行われた末政実緒スクール。2012年は1月から2月まで計四回行われる。 子供たちも基礎からバイクコントロールが学べます。子供たちも基礎からバイクコントロールが学べます。




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