いよいよデリバリーが開始され、店頭にも並び始めたアルテグラDi2。すでに供給されているデュラエース7970 Di2はプロチームが実戦投入を行って高い評価を得ており、電動変速という分野を確立した。

そしてさらにセカンドグレードであるアルテグラDi2の登場となり、ハイエンドユーザーだけでなく、ホビーレーサーといった層にも電動変速機がポピュラーな存在となった。

より握りやすいブラケット形状になったより握りやすいブラケット形状になった FD-6770 アルテグラDi2 フロントディレイラー。デュラエースよりもやや大振り。167gFD-6770 アルテグラDi2 フロントディレイラー。デュラエースよりもやや大振り。167g RD−6770 アルテグラDi2 リアディレイラー。デュラエースよりもやや大きめの形状であるRD−6770 アルテグラDi2 リアディレイラー。デュラエースよりもやや大きめの形状である


アルテグラDi2はデュラエースDi2のテクノロジーを引き継ぎつつ、価格を抑え、機械式デュラエースよりも低価格のうれしい設定だ。心理的には電動化のメリットを考慮すると機械式デュラエースを購入するよりもアルテグラDi2に食指が伸びるというものだ。

外観上はデュラエースDi2との比較となるが、レバーブラケットの形状・大きさはほとんど変わらないものの、フロントディレイラーとリアディレイラーはやや大きくなった印象がある。

ST−6770 STIレバー。313g(左右ペア)。より握りやすいブラケット形状にST−6770 STIレバー。313g(左右ペア)。より握りやすいブラケット形状に RD−6770 アルテグラDi2 リアディレイラー。270gRD−6770 アルテグラDi2 リアディレイラー。270g


フロントディレイラーとバッテリーユニット。バッテリーはデュラエースと同規格のようだフロントディレイラーとバッテリーユニット。バッテリーはデュラエースと同規格のようだ FC-6700 ホローテックIIクランクセットは現行モデルFC-6700 ホローテックIIクランクセットは現行モデル


レバーブラケットは機械式に比べ小型化しており、女性や手の小さな人にも握りやすい。シフトレバーの操作性はデュラエース同様にスイッチ式なので、短いストロークでシフティングできる。また機能拡張性もあり、サテライトスイッチなどは今後リリースされるはずだ。

フロントディレイラーにはオートトリム機能が搭載され、リアのギア位置にあわせてフロントディレイラーの羽根の位置をオートマチックに微調整する。稼働時のモーター音はデュラエースのそれとはやや異なるものの、レスポンスやスピードに大差はないようだ。

ショートストロークを実現したスイッチ変速ショートストロークを実現したスイッチ変速 上部から見たリアディレイラー 大ぶりだが左右の張り出し量は大きくないことがわかる上部から見たリアディレイラー 大ぶりだが左右の張り出し量は大きくないことがわかる エレクトリック・ケーブル EW-SD50 は2芯となりケーブルが細くなったエレクトリック・ケーブル EW-SD50 は2芯となりケーブルが細くなった


リアディレイラーは転倒時の破損を防ぐセーバー機能を搭載。対応スプロケットはトップ側は最小11T、ロー側は28Tである。ターゲットとなるユーザーを考慮し、ワイドなギアを使える配慮もある。

しかしながらデュラエースと同レベルの防水機能や、コネクターの小型化、ケーブルを細くし全体の軽量化を達成している。さらに動作確認のためのセルフチェックをPCにリンクすることで変速システム全体で一括して行える。現行デュラエースDi2にはない機能性をもたせ、整備性が向上しているのもうれしい。

RD−6770 アルテグラDi2 リアディレイラー。最小ギアは11Tまで対応するRD−6770 アルテグラDi2 リアディレイラー。最小ギアは11Tまで対応する リアスプロケットの最大歯数は28T(最小は23T)。ワイドレンジを実現しているリアスプロケットの最大歯数は28T(最小は23T)。ワイドレンジを実現している


ホビーレーサーをターゲットにしているが、スペックを考慮すると十分にレースにも使えることがわかる。さて、その性能はいかなるものだろうか。ショップ&ライダーの視点から鈴木祐一が、ジャーナリストとして山本健一がインプレッションを行う。
なおインプレッション車両については、ピナレロジャパンの協力により PARISのアルテグラDi2完成車を用いた。通常の市販モデルであり、シマノから借りだしたものではないという意味でも、より市販モデルのテストに近いといえるだろう。




―インプレッション

「優しい変速感覚。機械式デュラエースとの差別化もある」 鈴木祐一(ライズライド)

静かな変速音とショックの少ないスムーズな変速がアルテグラDi2だ静かな変速音とショックの少ないスムーズな変速がアルテグラDi2だ ハイエンドモデルのデュラエースもヒットしているDi2。アルテグラDi2には「価格的に手の届くコンポーネント」として期待がもてる。電動化したことによってユーザーが求めているのは確実な変速だろう。また気になるのは変速性能の経年劣化だ。ワイヤー式だと、長期間使っているとワイヤーが痛み、伸びたりして変速がうまく行かなくなってしまう。

Di2ならばそのホコリや汚れ、ワイヤーの伸びから起こる変速不良によるストレスが解消されている。「ほぼ発生しない」というのが、デュラエースDI2からは感じられるので、それをアルテグラDI2にも期待している。そのDI2らしさ、変速性能の素晴らしさなど、期待通りにできていると思う。長く使ってもトラブルが起きないと思わせる完成度の高さを感じる。

気になるのはデュラエースとの性能比較だろう。その点は「シマノの巧さ」がある、というのが正直な印象だ。レーシングシーンで求められるコンポーネントの「パワフルさ」がデュラエースにある。とくに変速時のパワー感というのがデュラエースには存在している。

ショックが少なく、スムースに変速する。グロッシーグレーのパーツに統一感があるショックが少なく、スムースに変速する。グロッシーグレーのパーツに統一感がある

一方のアルテグラDi2は決して弱いというわけではないが、マイルドな変速のイメージがある。例えばデュラエースDi2が“ドカン”と変速するようなパワー感があり、リアのスプロケットの歯数差があるところでは、デュラエースはガチンガチンと、パワフルに一段一段変速していくイメージがある。

一方のアルテグラDi2は“スッ、スッ”と変速するような感じである。しかし、これがアルテグラの魅力ともいえる。そのスムースさは、「あれ?変速したの?」というぐらいの感じだ。チェーンを介してクランクに伝わる変速時のショックが抑えられ、結果的に脚に伝わる不快な振動を抑えている。ツーリングベースで使うライダーには、アルテグラのほうがより優しいだろう。

変速スイッチ デュラエースDi2とほぼ同じ形状・大きさだ変速スイッチ デュラエースDi2とほぼ同じ形状・大きさだ ブラケットの形状は、デュラエースよりも若干大きくなっている感じはするものの、かなり近い形で小型化されている。ブラケットの大きさに悩みをもっていた人でも握りやすく変速しやすくなっているだろう。

デュラエースDI2の良さやヒットした理由はアルテグラDi2にも盛り込まれていて、決して期待を裏切らないだろう。アルテグラならではの良さは「やさしい変速の質感」だ。「価格が安いからアルテグラ」という選び方だけでなく、アルテグラの性能を選択する理由が他にも存在しているということも伝えたい。

また気になるのが価格がかなり近い、従来のデュラエースとの比較だろう。目的や好みで変わるが、レーシングユースならばデュラエースのほうが変速速度や安定感は優れているのでおすすめだろう。レースでスピードが上がり、アタック掛けているようなときに求められるパワフルさはデュラエースに軍配があがる。
このパワフルさが必要なシチュエーションというのは、レース中ではしばしば起こり、デュラエースはそういった場のために存在している。ワイヤー式だが、レスポンスの良さはアルテグラDi2以上といえる。

ただロングライドの場合、たとえばツーリングなど何時間も自転車の上で過ごすようなとき。ペダルを回し続けるということは変速も絶え間なく続けているということ。変速を続けるという意味でどちらが良いかと考えると、優しい変速のアルテグラDI2に軍配があがる。

変速スピード、レスポンスやパワフルさを考えると機械式デュラエースがよいだろう。しかし快適性やスムースさを求めるとアルテグラDi2だ。そんな住み分けができていると思う。


デュラエースDi2と比較しても遜色のない性能 山本健一(ロードバイクジャーナリスト)

上位モデルとしての電動コンポーネントという認識があったDi2。アルテグラグレードでリリースするというウワサを聞いたのが2010年の秋で、にわかに信じられないと感じたが、こうして実物を手に取ると、それも今では懐かしい想いがある。

アルテグラとしての電動コンポーネントは、デュラエースと同等であるはずもない。価格的にもデュラエースを越えることはできない。「意図的」にアルテグラグレードで作り出すという、製作面ではデュラエースよりもハードルが高かったのではないだろうか。

ダウングレードと感じられる部分はあるが、ある意味ではデュラエースを越える面もあり、このコンポーネントの優れた一面をかい間見れた。意図的にスチールプレートで作られたフロントディレイラーの羽根などは、まさにホビーレーサーをターゲットにしているという象徴だろう。

ブラケットの形状もデュラエースDi2譲りで小振りになったブラケットの形状もデュラエースDi2譲りで小振りになった

プロショップに聞くと、変速系の消耗はフロントディレイラーに多く見られるという。初級者の場合、フロントの変速時にいわゆるペダリングの力を一瞬抜くようなテクニックを知らずに、そのまま力任せに変速することがしばしばあり、フロントディレイラーの羽根がすぐに広がってしまうという。たったひと月で、ものすごく広がってしまう例もあったという。

デュラエースでは軽量化も視野に入れておく必要があり、フロントディレイラーにもかなり軽量化の手が加えられている。アルテグラDi2は耐久性に重視し、ホビーレーサーでも安心して使えるような配慮が見られる。かといって力任せな変速が良いわけではなく、ディレイラーだけでなく、チェーンやチェーンホイールにもダメージが蓄積するので、テクニックを磨くことをお勧めしたいところだ。

全体的な形状はデュラエースDi2と比較するとかなり大きく見える。重量的にもやや重い程度で、影響を及ぼすものでも、気になるほどでもない。それを補い余る変速性能があるのだから。

アルテグラDi2はマイルドな変速のイメージアルテグラDi2はマイルドな変速のイメージ 個人的にはこのアルテグラでも変速性能は十分に満足できるものだった。確かにレスポンスがやや鈍いような感覚があるが、モーター音の違いによる錯覚だろう。それほど差はないように思える。フロントは特にモーターの音が主張するので、そう感じやすい。静かなところではかなり音が響くので、レースで使うならばライバルに変速動作を悟られるような場面もあるかもしれない。

リアの変速はデュラエースDi2と比べても遜色ないレベルだろう。多段変速、高い技術による変速スピードという面ではワイヤー式にはかなわない。これはデュラエースDi2にもいえることだ。

変速テクニックに長けたライダーには電動変速は必要ないと思うかもしれないが、レバーのストローク(ボタンのプッシュ操作)の少なさは一度使うと、ワイヤー式のストロークが途方もなく遠く感じた。これだけでも何となくロスに感じてしまうほど、このレバーには魔力がある。

ブラケットの形状もデュラエースDi2譲りで小振りになり、握りやすい。握り部分のアーチもほど良い形で手のひらにしっくりと収まる。フードの柔軟性も高く、素手でもよく馴染んだ。当方はかなり手が大きい部類だが、使いやすいと感じた。逆に手が小さい人にも使いやすいのではないだろうか。

アルテグラDi2は求められる性能を巧みに実現している。生産コストの制約の中で、これだけのパフォーマンスを発揮できることは驚愕だった。サテライトスイッチを挿入するジョイント部も確認できるので、拡張パーツもそのうちにリリースされるだろう。そうなった時点でアルテグラDi2の性能は極まる。

デュラエースDi2よりやや大ぶり。ルックスを気にする人はいるだろうデュラエースDi2よりやや大ぶり。ルックスを気にする人はいるだろう 正直に「買い」のコンポーネントである。競合2社はこのアルテグラDi2によって窮地に陥ってしまうのではないかと懸念してしまう。それほどまでに破壊力がある。ワイヤー式のデュラエースとほぼ同価格帯であるが、その価値はある。より多くの人が電動コンポのラグジュアリーなライディングを楽しむことできる。

贅沢を言えば、タイムトライアル用の拡張パーツもリリースしてほしいところだ。またバッテリーも走行可能時間を少し落としてもよいので、小型化してほしかった。ホビーレーサーの場合はデュラエースほどバッテリーが持つ必要はないような気もする。それよりも小型・軽量化してあげたほうが歓迎されたかもしれない。

しかしながら、セカンドモデルの電動コンポというイメージはない。拡張パーツの充実や、ブラッシュアップが行われれば、歴史に名を残すコンポーネントとなりえるだろう。



シマノ・アルテグラDi2
STIレバー ST-6770-R/ST-6770-L 価格:31,526円(左右ペア)
フロントディレイラー FD-6770 価格:21,639円
リアディレイラー RD-6700 価格:24,249円
バッテリー SM-BTR1 価格:6,693円
バッテリーマウント SM-BMR1-L 価格:10,297円/SM-BMR1-S 価格:10,062円/SM-BMR1-I 価格:10,536円
エレクトリック・ケーブル EW-SD50 価格:2,038円(150mm)~2,323円(1400mm)

記事訂正(2011.11.8)
記事中のデータに誤りがありましたので修正しました。
・フロントディレイラーの重量 167g
・レバーの重量 313g
・リアディレイラーの重量 270g
・エレクトリック・ケーブル EW-SD50 価格:2,038円(150mm)~2,323円(1400mm)

なお、動作確認のためのセルフチェックは、PCにリンクすることで変速システム全体で一括して行えます。




インプレライダーのプロフィール


鈴木祐一鈴木祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


山本健一(バイクジャーナリスト)山本健一(バイクジャーナリスト) 山本健一(バイクジャーナリスト)

身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。


バイク協力:ピナレロ・ジャパン
ウェア協力:ビエンメB+(フォーチュン)


text:Kenichi.YAMAMOTO
photo:Makoto AYANO