アニュエル峠、イゾアール峠を経由して、ガリビエ峠の3つの超級山岳が待つ今ツールの最難関クイーンステージでマイヨジョーヌ争いは激化した。アンディの勇気あるアタック。そしてコンタドールの脱落。ヴォクレールのマイヨジョーヌ死守と、ドラマに溢れた一日になった。

壮大な景色が広がるガリビエ峠を登る壮大な景色が広がるガリビエ峠を登る photo:Makoto Ayano

寝て、待つ寝て、待つ photo:Makoto Ayanoガリビエ峠がツールに登場してから100周年にあたる今年。ツール主催者はそのガリビエ峠頂上にフィニッシュするというとんでもないステージを考案した。
昨年のツールマレー頂上決戦では揃ってゴールし、決着のつかなかったアンディとコンタドール。ガリビエ峠はふたりの決戦の場としてふさわしい。

ガリビエは風の名所。頂上が近づくにつれて素晴らしい景色が開けていく。と同時に山に遮られることのない風が吹き上げる。峠へと上るほどに風は強さを増す。
「強風が吹くと数分の差が開くだろう」「観客の人垣が風を遮るかもしれない」さまざまな予測が流れる。たしかに風はひとつの鍵を握る。幸い、天気は最高。

ガリビエ峠でロックンロール エルビス兄弟出現ガリビエ峠でロックンロール エルビス兄弟出現 photo:Makoto Ayano登り口に当たるロータレ峠の交差点は信じられないほどの人ごみ。ツール最高の見せ場をこの目で目撃しようと、世界中から観客が詰めかけている。混乱を避けて一気に上る。
天気は最高。宇宙のような景色にいつも圧倒される。見下ろすはるか遠くには、キャンピングカーの列が続く。

アンディのサプライズアタック コンタドール陥落

前夜には5cm積もっていたという頂上近くの雪は消えた。しかし風は予想通り強く吹いている。「この風では誰もアタックできないだろう」そう思えるほどだった。
イゾアール峠でのアンディ・シュレクのアタックはサプライズ。早過ぎるアタックは自殺行為か、はたまた兄フランクの勝利のためのサクリファイスか?

しかし逃げ集団には2人のレオパード・トレックの選手、ポストゥーマとモンフォールが含まれていた。アンディが合流すると、ルーラーとクライマーのふたりが協力してアンディをガリビエ峠の麓まで連れて行った。登り口で4分あったタイム差は、結局大きくは縮まらなかった。力強さを増すアンディの走り。

先頭でガリビエ峠を駆け上がるアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)先頭でガリビエ峠を駆け上がるアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Makoto Ayano

エヴァンスだけが必死になって追う追走集団は、アンディを追うという意思の統一は取れていなかった。エヴァンスもコンタドールもひとりきり。ヴォクレールには今日もピエール・ロランがいたが、牽かざるをえない状況のエヴァンスの強さを利用する闘い方を続けていた。そしてコンタドールは明らかに精彩を欠き、苦しそうに集団についている。そして頂上まで2km、ついにコンタドールが脱落した。6つのグランツールに勝ち続けてきた現代最強のステージレーサーが、7度目の挑戦でついに崩れた。

ガリビエ峠の頂上でアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)のガッツポーズが決まるガリビエ峠の頂上でアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)のガッツポーズが決まる photo:Makoto Ayanoガリビエ峠ラスト2kmでメイン集団から遅れたアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ガリビエ峠ラスト2kmでメイン集団から遅れたアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Makoto Ayano


カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が率いるメイン集団がアンディ・シュレクを追うカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が率いるメイン集団がアンディ・シュレクを追う photo:Cor Vos作戦通りだったアンディのアタック

アタックはチームの作戦通りだったとアンディは言う。
「今日は特別なプランがあった。朝のミーティングで逃げに2人の選手を送り込むことに決めていた。ひとりはいいルーラー、そしてもうひとりはクライマー。そしてイゾアール峠で僕がアタックする。
自転車レースにはいくつも作戦がある。でもその通りにコントロールできない状況がいくつも起こる。でも今日はプランどおり完璧にいった」。

ポストゥーマは逃げ集団の中でモンフォールを助け、モンフォールはアンディが合流してからガリビエ峠ま17kmに渡ってで風除けとなり、力強いアシストを果たした。

観客をかき分けてガリビエ峠を登るアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)観客をかき分けてガリビエ峠を登るアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Cor Vosアンディは言う「マキシム(モンフォール)とヨースト(ポストゥーマ)のふたりがいなかったら、そしてチーム全体のサポートがなかったら今日成し遂げたことは不可能だった。彼らに感謝して僕がステージ優勝したよ」。

もちろんアンディのアタックのタイミングまでメイン集団をコントロールしたのはフォイクトやカンチェラーラ、オグレディたちだ。アンディを勝たせる作戦を用意し、それを完璧なまでに遂行したレオパード・トレックのチーム力。そしてアンディは力強い走りを披露し、不調の噂や批判をすべて帳消しにした。ダウンヒルが下手という嘲笑までも吹き飛ばした。


3分50秒遅れでゴールするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)3分50秒遅れでゴールするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Cor Vos「ツールには勝てない」負けを認めたコンタドール

ラスト2kmで脱落し、アンディに対して3分50秒遅れ。エヴァンスにも1分半の遅れを喫したコンタドールは、総合首位を死守したヴォクレールからは4分44秒遅れで、もはやツールの総合優勝の夢を諦めざるを得ない。
ツールの4勝目、2009年からの3連勝、そして参戦したグランツールに6連勝するという記録はここで打ち止めになりそうだ。1998年のマルコ・パンターニ以来の同年にジロとツールに勝つというダブルツールへの挑戦も叶いそうにない。

「ツールに勝つことはもう不可能だね。いい日じゃなかった。ラスト10kmは力が残っていなかった。恐ろしいほど苦しんだんだ。なぜそうなったか分からないよ。登り始めでは付いていくことはできた。
残り6,7kmでこれ以上速くは走れないことが分かった。自分が思うようなアタックは無理だった。調子が悪くて、使い切っていた。それからはもう自分のリズムでいこうと決めたんだ。今はもう明日休むことを考えている。」。

「アンディはとても強いことを証明したね。アンディがタイム差を開いたとき、後で取り戻せると思ったけど、彼は強かった。最後までそれを維持するだろうと確信したよ。
今日僕はアンディに対してタイム差を開くつもりだったけど、彼は自分とチームメイトというカードを正しく使った。彼の作戦は正しかった。それがうまくいったことを祝福するよ」。

サクソバンクのビャルヌ・リース監督は言う「これで終わったわけじゃない。でもツールに勝つことはもう難しい。アンディはとてもとても強かった。彼に脱帽だ。コンタドールはついていけなかった。それについて今それ以上言えることはない。それだけだね。私は彼の話を聞かないと。今日彼に何があったかは分からない。でも彼には闘う脚がなかった。彼は朝、今日はアタックしたいと言っていたけど、脚がなかったからライバルたちについていけなかった」。

リース監督はコンタドールの負けを認めつつ、アンディの走りを賞賛した。
「素晴らしかった。彼が今までに成し遂げたいくつかのベストなレースのひとつだろう。勇敢だった。とても勇敢だった。同時に、クレイジーだった。これこそ自転車レースの美しさだ。脱帽だ」


いつまで続くヴォクレールのマイヨジョーヌ

またしてもマイヨジョーヌを死守したヴォクレール。驚異の新人ピエール・ロランに守られ、エヴァンスに追走集団の先頭引きを任せて、遅れを最小限にとどめた。総合2位に浮上したアンディとのタイム差はたった15秒。
上りながらアンディとのタイム差が分からず、マイヨを守れたことを知ったのはゴールラインを越えてからというにの、なぜかガッツポーズでのゴール。したたかに、しかし最大限の努力を払ってふたたびマイヨを着る日を伸ばした。

ガリビエ峠で熱い走りを見せるマイヨジョーヌのトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)ガリビエ峠で熱い走りを見せるマイヨジョーヌのトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Makoto Ayano

ガッツポーズでゴールするマイヨジョーヌのトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)ガッツポーズでゴールするマイヨジョーヌのトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Cor Vosヴォクレールは言う「風と、観客たちに注意するために集団での位置取りに特別に気を遣っていた。観客があまりに僕を押したり叩いたりするから2度落車しそうになった。彼らはハンドルだって叩くんだ。プラトー・ド・ベイユとの違いは、あのときは有力選手たちの数分後を走っていたこと。

リュザルディダンもプラトー・ド・ベイユでも着いて行けたことは予想外だった。今日は強風だったし、エヴァンスはとても強かった。僕にとって優勝予想はエヴァンス。彼は上りでとても強かった。僕は特別なタイトルは求めていないし、自分を祝福もしない。ただ全力をつくすだけだ」。

マイヨジョーヌ獲得のチャンスがラルプデュエズまで伸びたアンディは言う。
「今日マイヨジョーヌを取れなかったことにはがっかりしていない。明日はきっとマイヨジョーヌを着れるだろうから。その後はまだ大事なステージ(個人タイムトライアル)が残っている。マイヨを勝ち取るためにすべてをかけて闘うよ」

今日は苦しい戦いを強いられたが、総合争いで依然有利な位置につけるのはエヴァンス。安定したタイムトライアル能力をもつため、ラルプデュエズで他のライバルたちはもっとタイムを奪うアタックにでなければならない。

翌19ステージのラルプデュエズフィニッシュでマイヨジョーヌを獲得することがほぼ確実視されるアンディ。しかし最終日前の個人タイムトライアルでエヴァンスに返されるタイム差を考えれば、マイヨジョーヌを獲得する以上に十分なタイム差をつけておくことが重要になる。

レオパード・トレックのキム・アンダーソン監督は言う「明日のレースでもっとタイム差をつけておく必要がある。コンタドールは脱落したが、エヴァンスは依然として優勝候補だ」。


時折精悍な顔つきを見せるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)時折精悍な顔つきを見せるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) photo:Makoto Ayanoタイムアウト失格をまぬがれたマイヨヴェールのカヴ

マイヨヴェールのカヴェンディッシュを含む最終集団"グルペット"がゴールしたのはアンディがゴールしてから35分40秒後。通常は優勝タイムの10%が足切りの基準になるが、89名のグルペットをまるごと失格させるわけにいかない主催者は救済処置をとることを決めた。しかし20ポイントを減じるという措置も同時に取られた。

これによりカヴはロハスに迫られたものの、シャンゼリゼに到着するまでにもっとも心配していたクイーンステージのタイムアウト失格という自体だけはまぬがれた。

新人賞2位のレイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)がガリビエ峠を登る新人賞2位のレイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)がガリビエ峠を登る photo:Makoto Ayanoマイヨブランのリゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)がガリビエ峠で遅れるマイヨブランのリゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)がガリビエ峠で遅れる photo:Makoto Ayano


マイヨブランを失ったリゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)マイヨブランを失ったリゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ) photo:Cor Vos行方の見えないマイヨブラン争い ユーロップカーの作戦は?

新人賞首位のリゴベルト・ウラン(チームスカイ)が遅れ、レイン・ターラマエ(コフィディス)が健闘したことによりマイヨブランは交替。たが、驚異の走りを披露するピエール・ロランの新人賞獲得のチャンスがすぐそこにまで見えている。その差は33秒。

ロランはこのステージでもヴォクレールを献身的にサポートする力走をみせた。上りの力ではターラマエを上回っていることは確実だが、明日のラルプデュエズフィニッシュはヴォクレールのマイヨジョーヌ死守にとって正念場。しかし同時にロランにとって最後のチャンスでもある。
タイムトライアルが得意なターラマエに対し、ロランはTTが苦手。シャンゼリゼでマイヨブランを獲得するためには、TTで失う以上のラルプデュエズでタイム差をつける必要がある。

ラルプデュエズでマイヨジョーヌを守るのはこんどこそ難しい。ロランはヴォクレールのマイヨジョーヌのために働きながらも、パリでのマイヨブランを目指す? 果たしてそんなことが可能なのか?  ユーロップカーの戦略が問われる。


text:Makoto.AYANO in France
photo:Makoto.AYANO,CorVos
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