ツール・ド・フランス主催者が大会最大の山場として設定した超級山岳ガリビエ峠で、マイヨジョーヌ争いは大きな局面を迎えた。連覇が懸かったコンタドールは精彩を欠いて失速。大逃げを成功させたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)がステージを制し、トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)が15秒差で首位を死守した。

第18ステージ・コースプロフィール第18ステージ・コースプロフィール image:A.S.O.超級山岳アニェル峠(標高2744m)、超級山岳イゾアール峠(標高2360m)、そして超級山岳ガリビエ峠(標高2645m)。

アルプス山脈を代表する3つの難関山岳を越える第18ステージは、正真正銘のクイーンステージ(最難関ステージ)だ。

イタリア国境の超級山岳アニェル峠を目指すイタリア国境の超級山岳アニェル峠を目指す photo:Cor Vos累積標高はツール最大級の5000mオーバー。200.5kmのコースのうち、本格的な登り区間だけで合計70kmに達する。アニェル峠は今大会最高地点であり、しかもガリビエ峠はツール史上最も標高のあるゴール地点。雄大なアルプスの峠で、熾烈なマイヨジョーヌ争いが繰り広げられた。

イタリアのピネローロを出発した一行は、まずはフランス国境に位置する超級山岳アニェル峠へ。威勢の良いスプリンターチームが逃げを吸収しながら、46.5km地点のスプリントポイントに向かう。しかしスプリンターたちのポイント獲得を拒むように、スプリントポイントの2km手前で16名の逃げが決まった。

逃げグループに入っヨースト・ポストゥーマ(オランダ、レオパード・トレック)逃げグループに入っヨースト・ポストゥーマ(オランダ、レオパード・トレック) photo:Cor Vos最終的に19名まで膨れ上がった先頭グループには、総合21位のニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)やマキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ)、ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)の姿が。

最も注目すべきは、レオパード・トレックが2名(モンフォールとポストゥーマ)を逃げに送り込んだこと。先頭グループは9分近いアドバンテージを得てアニェル峠の登坂を開始した。

カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が率いるメイン集団カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が率いるメイン集団 photo:Cor Vos頂上手前10kmの平均勾配が10%を超えるアニェル峠で先頭は11名に絞られ、イグリンスキーが頂上先頭通過を果たす。一方のメイン集団はからはロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)やリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)がアタックを仕掛けて先行。メイン集団はレオパード・トレックがコントロールした。

テクニカル且つハイスピードなダウンヒルダウンヒル区間で、ヘーシンクやライプハイマーの追走グループは吸収される。続く超級山岳イゾアール峠の登り開始の時点で、先頭グループとメイン集団のタイム差は4分30秒。先頭グループからはイグリンスキーが飛び出し、単独でイゾアール峠を駆け上がった。

壮大な景色が広がるガリビエ峠を登る壮大な景色が広がるガリビエ峠を登る photo:Makoto Ayanoメイン集団はレオパード・トレックのイェンス・フォイクト(ドイツ)&スチュアート・オグレディ(オーストラリア)がペースアップ。するとイゾアール峠の頂上まで7kmを残してアンディが飛び立った。これには誰も、そしてどのチームも反応しない。

逃げていた選手たちを追い抜きながら、そして前から落ちてきたポストゥーマのアシストを受けながら、快調にイゾアール峠を登るアンディ。イゾアール峠の頂上通過時点で、先頭イグリンスキーからアンディまで1分50秒。そしてアンディからメイン集団まで2分10秒。

ガリビエ峠を先頭で駆け上がるアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)ガリビエ峠を先頭で駆け上がるアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Makoto Ayanoイゾアールの下りで合流したモンフォールの献身的な引きにより、アンディはメイン集団とのタイム差を広げながら最後のガリビエ峠へ。先頭のイグリンスキーを吸収したアンディグループは、3分30秒のリードでガリビエ峠に突入した。

向かい風が吹く緩斜面を、アンディは独走に近い形で走り続ける。対するメイン集団は、サクソバンク・サンガード、BMCレーシングチーム、エウスカルテルのアシストたちが強力に牽引。しかし緩斜面を進めば進むほどアンディとのタイム差が広がる。

マイヨジョーヌキープのためにガリビエ峠で追い込むトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)マイヨジョーヌキープのためにガリビエ峠で追い込むトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Cor Vosタイム差が4分まで広がり、ガリビエ峠の勾配が増したところでようやくアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)がペースアップ開始。しかしコンタドールのペースは長続きせず、アシストを失った有力選手たちによる牽制状態に。

メイン集団とのタイム差を4分25秒まで広げたアンディは、ペースを崩すことなく快調にガリビエ峠を登る。メイン集団ではカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)自ら先頭に立ち、逃げるアンディを追う。

アンディから2分遅れでゴールに向かうトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)やカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)アンディから2分遅れでゴールに向かうトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)やカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vos総合5位のサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)を脱落させるほどのペースでエヴァンスはメイン集団を引き続けたが、肝心のアンディとのタイム差が縮まらない。そして頂上まで2kmを残した地点で、ずっと集団後方で走っていたコンタドールが脱落。コンタドールは喘ぐこともなく、苦しい表情を見せる訳でもなく、ただ力無くメイン集団から遅れていった。

結果、アンディは独走のままガリビエ峠を登りきった。前日までの“下れないキャラ”を払拭するかのごとく、標高2645mのガリビエ峠で拳を突き上げるアンディ。

一方、ライバルのマークに徹した兄フランクはゴール前でメイン集団から飛び出して2位に。そしてアンディから2分36秒のリードを得ていたヴォクレールは、アンディ2分21秒遅れでゴール。15秒差でマイヨジョーヌを守ったヴォクレールは、苦しみながらガッツポーズを繰り出した。

ガッツポーズでゴールするアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)ガッツポーズでゴールするアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Cor Vosマイヨジョーヌを守ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)がガッツポーズマイヨジョーヌを守ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)がガッツポーズ photo:Cor Vos3分50秒遅れでゴールするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)3分50秒遅れでゴールするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Cor Vos

シュレク兄弟によるガリビエ峠ワンツー勝利。レース序盤から2人を逃げに送り込み、ゴールまで距離を残してアンディを解き放ち、逃げていた2人にアンディをサポートさせ、そしてアンディが頂上ゴールを制す。レオパード・トレックの戦略が見事にはまった。

ステージ優勝に輝いたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)ステージ優勝に輝いたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Cor Vos「このガリビエ峠で勝つなんて夢のようだ。コースの発表時から、このステージを勝ち取りたいと思っていた」。充実感に満ちた表情でアンディは語る。

「自分の勝利の中で、今日の勝利がベストだと思う。今日までずっとツールは“待ち”のレースが続いていた。そこで、今日は自分のレースに持ち込もうと、ゴールまで距離を残して賭けに出たんだ。すると予想以上に大きなタイム差がついた」。

グルペットを形成してガリビエ峠を登る選手たちグルペットを形成してガリビエ峠を登る選手たち photo:Makoto Ayanoアンディはトップと15秒差の総合2位に浮上。最大のライバルと目されるエヴァンスから1分近いリードを得ることに成功している。「マイヨジョーヌを着る準備はできている。今日の走りで、マイヨジョーヌに値する男だと証明した」。ラルプ・デュエズと個人タイムトライアルを前に、アンディはツール初制覇への道を切り開いた。

この日のもう一人の勝者は、マイヨジョーヌを死守したヴォクレールだろう。本格的なアルプス山岳でライバルたちに食らい付き、15秒差で首位を守った。「全力を尽くした。これはある意味で勝利だ。ゴール前でアンディから3分遅れていたので、ピエール・ロランに言ってペースを上げさせた。それがこのジャージキープに繋がったんだ。ミラクルだ」。本人も驚きを隠せない。

対してコンタドールは3分50秒遅れでゴールした。登りでタイムを挽回するどころか、調子の悪さを露呈し、そして実質的にマイヨジョーヌ争いから脱落した。サクソバンク・サンガードのブラドリー・マックギー監督は「スポーツマンとして今日の敗北を受け入れなければならない。アンディは大きなリスクを冒して駆けに出て、それを完遂したんだ。エヴァンスやヴォクレールの走りにも敬意を表したい。今日は劇的なレースが展開された。そこで我々のチームが主役になれなかったことが残念だ。アルベルトは最後まで食らいつく脚を残していなかった」と敗北を認める。コンタドールは総合7位。アンディとの総合タイム差は4分29秒まで広がった。

この日、マイヨジョーヌ、マイヨヴェール、マイヨアポワはともに変動無し。新人賞トップのリゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)が7分31秒遅れたため、マイヨブランはステージ8位のレイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)の手に。ヴォクレールの活躍に貢献したロランが33秒差の新人賞2位に浮上している。

コメントはレース公式サイト、ならびにサクソバンク・サンガード公式サイトより。

ツール・ド・フランス2011第18ステージ結果
1位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)   6h07'56"
2位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)    +2'07"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)    +2'15"
4位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)     +2'18"
5位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)          +2'21"
6位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)           +2'27"
7位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)          +2'33"
8位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)          +3'22"
9位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)       +3'25"
10位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・サーヴェロ)       +3'31"

15位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) +3'50"
18位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)        +4'42"
27位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)         +7'31"

個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)        79h34'06"
2位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)    +15"
3位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)   +1'08"
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)   +1'12"
5位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)         +3'46"
6位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)
7位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) +4'44"
8位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)        +5'20"
9位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)      +7'08"
10位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、アージェードゥーゼル)   +9'27"

ポイント賞 マイヨ・ヴェール
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)        300pts
2位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)              285pts
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)        230pts
※カヴェンディッシュとジルベールはタイムアウトの救済措置が適用されため20ポイント減点

山岳賞 マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ
1位 イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット)       74pts
2位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)             72pts
3位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)        70pts

新人賞 マイヨ・ブラン
1位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)            79h43'42" 
2位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)               +33"
3位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)             +3'10"

チーム総合成績
1位 ガーミン・サーヴェロ                       238h16'08"
2位 アージェードゥーゼル                         +10'30"
3位 レオパード・トレック                          +11'06"

敢闘賞
アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)

text:Kei Tsuji
photo:Makoto Ayano, Cor Vos

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