ツール・ド・台湾、第5ステージは、74km地点に1級山岳、一度下り、ゴールに向かいまた登り返すという111kmのコースレイアウトで開催された。90kmという長距離をたった1人で逃げ続けた福島晋一(日本ナショナルチーム)の胸には東日本大震災の被災者へ向けた熱い想いがあった。

90kmを逃げ切ってステージ優勝を挙げた福島晋一(日本ナショナルチーム)90kmを逃げ切ってステージ優勝を挙げた福島晋一(日本ナショナルチーム) (c)Sonoko.TANAKA

39歳の福島晋一、90kmの単独エスケープ

福島の総合順位は、第4ステージを終えた時点で、トップから35分12秒遅れの86位。山岳ではメイン集団から遅れてゴールすることも多く、今回はコンディションがあまり良くないのでは? そう心配する声も聞かれた。しかし、レース前にそんなコンディションについて聞くと「ランカウイの落車以来、どうもコンディションが良くないんですよね。でもここにきて日に日に調子は良くなっていると感じています。今日からは行きますよ!」と笑顔を見せた。

取材を受ける日本ナショナルチーム取材を受ける日本ナショナルチーム (c)Sonoko.Tanaka壇上で紹介されるシマノレーシング壇上で紹介されるシマノレーシング (c)Sonoko.Tanaka

レースが始まって20km地点。たくさんのアタックがかかっていたなかから、福島晋一が1人で飛び出したアタックが決まる。「強い向かい風のなか、誰も付いてこなかったので、1人で行きました」。ゴールまで約90km。まさか逃げ切るなんて、プロトンは予想していなかった。

メイン集団はリーダーチームであるタブリーズ・ペトロケミカルが中心となってコントロール。1級山岳を登り切った時点で、福島とのタイムギャップは5分10秒。下りにかけて、ゴールスプリントで勝負したいダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPOやドラパックが集団を加速させる。しかし、先導のバイクを抜かすくらいのハイスピードで追ったと言うが、福島との差はさほど縮まらなかった。

台中郊外を走る選手たち台中郊外を走る選手たち (c)Sonoko.Tanaka

福島も残り10km地点で、脚が攣りそうだったと振り返る。タイム差は3分。逃げ切れるという可能性とともに、ここでタレてしまったら吸収されると思ったそうだ。これまで80kmを単独で逃げていながらも、懸命にゴールをめざした。

リーダージャージを着るマルクス・アイベッガー(オーストリア、タブリーズ・ペトロケミカル)リーダージャージを着るマルクス・アイベッガー(オーストリア、タブリーズ・ペトロケミカル) (c)Sonoko.Tanaka

ステージ優勝を喜ぶ福島晋一(日本ナショナルチーム)ステージ優勝を喜ぶ福島晋一(日本ナショナルチーム) (c)Sonoko.Tanakaゴール後、福島は「東北での地震や津波を受けて、自分にできることはなんだろうか?と考えたとき、自分には走ることしかなかった。自分の走りで東北の人たちに喜んでもらいたい。苦しんでいる人のことを想って、すべての力をペダルに乗せました」とコメント。被災地の多くの人を想う気持ちが、前へ進む大きな力となった。レース後の記者会見で、そんなエピソードを話した福島に、台湾の記者からは大きな拍手が送られた。

福島の愛車のスペシャライズドのバイクには、Cyclist pray for Tohokuのステッカーが貼られていた。これは既報のとおり、日本のトップサイクリストたちが始めたチャリティー運動だ。

「昨日まではうまく力を出せなくて、情けないと思っていました。でも今日は調子が良くて、結果的に優勝できたことを嬉しく思います。残り10キロくらいで脚には相当きていましたが、そのとき、タイム差は3分。ここでタレてしまったら捕まると思ったので、残っている力で一生懸命踏んでゴールまで走りました」。

ステージ優勝した福島晋一(日本ナショナルチーム)ステージ優勝した福島晋一(日本ナショナルチーム) (c)Sonoko.Tanaka表彰を受ける福島晋一(日本ナショナルチーム)表彰を受ける福島晋一(日本ナショナルチーム) (c)Sonoko.TanakaCyclist pray for Tohokuのステッカーを貼って闘った福島晋一(日本ナショナルチーム)Cyclist pray for Tohokuのステッカーを貼って闘った福島晋一(日本ナショナルチーム) (c)Sonoko.Tanaka

メイン集団のスプリントはパク・スンベクが制す

メイン集団のゴールスプリントを制したパク・スンベク(韓国ナショナルチーム)メイン集団のゴールスプリントを制したパク・スンベク(韓国ナショナルチーム) (c)Sonoko.Tanaka福島を捉えることができなかったメイン集団は、集団スプリントの体制に入る。残り4.3kmにかけて登り、平坦区間を経て、ゴール直前でさらに緩く登るコースで、集団は残り3km地点で急激に加速する。シマノレーシングとダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPOは、その加速にうまく乗れずスプリントに絡むことができなかった。そしてパク・スンベク(韓国、韓国ナショナルチーム)がメイン集団のスプリントを制し、2位でフィニッシュした。総合順位に変動はなし。

これまで登りを含むステージが続いたが、明日の第6ステージ、翌第7ステージと平坦ステージとなる。これまで我慢していたスプリンターが動き出すだろう。


ステージ順位
1 福島晋一(日本ナショナルチーム)2:53:52
2 パク・スンベク(韓国、韓国ナショナルチーム)+01:26
3 ソウラビ・メディ(イラン、タブリーズ・ペトロケミカル)
7 清水都貴(日本ナショナルチーム)
9 村上純平(シマノレーシング)
10 綾部 勇成(日本ナショナルチーム)
28 鈴木讓(シマノレーシング)
31 鈴木真理(シマノレーシング)
39 佐野淳哉(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)
58 畑中勇介(シマノレーシング)
60 吉田隼人(日本ナショナルチーム)
66 青柳憲輝(シマノレーシング)
68 伊丹健治(日本ナショナルチーム)
69 西谷泰治(日本ナショナルチーム)
70 西薗良太(シマノレーシング)


総合順位
1 マルクス・アイベッガー(オーストリア、タブリーズ・ペトロケミカル)14:27:18
2 ソウラビ・メディ(イラン、タブリーズ・ペトロケミカル)+0:02
3 マッキャン・デヴィッド(アイルランド、ジャイアント・ケンダ)+0:19
7 鈴木真理(シマノレーシング)+1:27
9 佐野淳哉(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO) +1:29
10 村上純平(シマノレーシング) +1:31
13 鈴木讓(シマノレーシング) +1:37
19 吉田隼人(日本ナショナル) +1:38
26 綾部 勇成(日本ナショナル)+2:16
29 青柳憲輝(シマノレーシング)+2:17
32 西薗良太(シマノレーシング) +2:20
34 伊丹健治(日本ナショナル) +2:23
35 清水都貴(日本ナショナル)+2:25
39 畑中勇介(シマノレーシング)+3:06
40 西谷泰治(日本ナショナル) +3:07
84 福島晋一(日本ナショナル) +33:33

ポイントリーダー
オジャヴェ・マート(エストニア、チャンピオンシステム)

山岳ポイントリーダー
ソウラビ・メディ(イラン、タブリーズ・ペトロケミカル)

アジアンリーダー
ソウラビ・メディ(イラン、タブリーズ・ペトロケミカル)



photo&text:Sonoiko.TANAKA

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