超軽量カーボンロードバイクでレースシーンに鮮烈さをもたらし、プロユースのカーボンバイク使用を決定づけたスコット。昨シーズンにフルモデルチェンジを果たしたCR1は、軽さと剛性に高い振動吸収性をプラスした熟成のカーボンバイクだ。

スコット CR1 SLスコット CR1 SL (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

スコットが2003年に発表したCR1は、当時のマスプロカーボンロードバイクとしては世界最軽量を誇る白眉のバイクだった。ただ軽いだけでなく、しっかりとした剛性をもたせたレースバイクとして、その知名度と人気を不動のものにした。その後の軽量・高剛性カーボンバイクの潮流をつくったバイクだと言えよう。

その後スコットのロードバイクラインに「アディクト」というピュアレーシングモデルがあることにより、CR1はこれまでの方向性から、進化した新しいバイクのあり方を模索することになる。そして具体的にCR1が新たに求めたのものは、快適性だった。そして昨シーズンにフルモデルチェンジを果たし、今のCR1へとリボーンを果たしたのだ。

振動吸収性の追求から生まれたSDSを搭載

快適性を得るために、新たなテクノロジーが搭載された。その名もショックダンピングシステム=「SDS」だ。これはCR1と、XCマウンテンバイクのSCALE(スケール)にだけ採用された振動吸収機構だ。

SDSシステムは路面からの振動を最小限におさえ、ライダーのパフォーマンスの低下を防ぐ。路面と「垂直方向の硬度」と「横方向のねじれ剛性」を、リアトライアングルとフロントフォークで適切なバランスにすることで、快適かつ剛性のあるバイクを実現させた。

ヘッドはオーバーサイズを採用。剛性を上げすぎず、快適性を確保しているヘッドはオーバーサイズを採用。剛性を上げすぎず、快適性を確保している オリジナルフォークはS字型に湾曲し、振動吸収性を高めるオリジナルフォークはS字型に湾曲し、振動吸収性を高める ヘッドはオーバーサイズを採用。剛性を上げすぎず、快適性を確保しているヘッドはオーバーサイズを採用。剛性を上げすぎず、快適性を確保している


垂直方向の硬度は路面から突き上げる振動に直結し、走行安定性と快適性に大きく影響するポイントだ。また側面硬度(横方向の硬さ)は、ゴールスプリントなどでペダリング時の加速反応性や登りでの「かかり」の良さに関わる。それだけに、次のような要因にこだわったフレーム製作がなされている。

フレーム全体の硬さは、サイズと形状、そしてカーボンチューブの厚みによって決定される。そのカーボンチューブの繊維と織り方を吟味することで、カーボンそのものの硬さを調整。そしてバイクの味付けを決めるのはフレームジオメトリー。プロにバイクを供給してきたスコットのノウハウが生きる場面であるが、CR1は垂直硬度と側面硬度のバランスを考えたジオメトリーで、振動を吸収する設計がなされている。

シートステーにかけての流れるようなフォルムにスコットの高い成形技術がうかがえるシートステーにかけての流れるようなフォルムにスコットの高い成形技術がうかがえる トップチューブは上部が扁平でボリュームが感あふれるトップチューブは上部が扁平でボリュームが感あふれる



S字に湾曲したリア三角が快適さと剛性感に一役買う

スコット独自のチューブ形状は、シートステイ、チェーンステイ、そしてフロントフォークの構造と形状の研究から生み出されている。側面から見た時に、シートステイとチェーンステイはともにS字型を描くよう湾曲しているのがわかる。

高い成形技術を伺わせる美しい造形。スコットの技術力の高さが分かる高い成形技術を伺わせる美しい造形。スコットの技術力の高さが分かる シートステーをS字型に湾曲することで、振動吸収性を高めつつ横方向への入力を逃さないシートステーをS字型に湾曲することで、振動吸収性を高めつつ横方向への入力を逃さない リアエンド部。四角いパイプをシートステーに用いているため、エンドにはクリアランス確保の角度がつくリアエンド部。四角いパイプをシートステーに用いているため、エンドにはクリアランス確保の角度がつく


このS字は垂直方向への硬さを和らげ衝撃吸収性を確保し、踏み込んだ時の横方向への力を逃さないというスコットのこだわりを実現する着想だ。リアだけでなく、フロントフォークにもS字湾曲を取り入れることで快適性能と高剛性を高い次元で両立することに成功した。

シートステー、チェーンステーともに扁平な面を持つチューブ形状も、スコットがCR1に望む性能、快適性と高剛性の両立のため。チューブ形状から見直したことでバイクそのものの雰囲気も変わった。こうしてCR1はフルモデルチェンジを果たした。

プレスフィットのボトムブラケットは比較的コンパクトだが、チェーンステーにつぶしが入ることで剛性を確保しているプレスフィットのボトムブラケットは比較的コンパクトだが、チェーンステーにつぶしが入ることで剛性を確保している SDSの設計により、チェーンステーにはつぶしの入った角断面のパイプを用いているSDSの設計により、チェーンステーにはつぶしの入った角断面のパイプを用いている


では、これまでの剛性感を損なうこと無く快適性を増すという難題に挑み、フルモデルチェンジという選択を行ったこのCR1 SL、2人のサイクリストのインプレッションを聞いてみよう。





—インプレッション


「どの面でも95点以上をつけられる優等生バイク」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)


またがった瞬間に感じるモノがある、というのはバイクのインプレッションとして大事なことだと思います。実際の重量の軽さから来ていると思うけれど、またがったときに軽いと感じさせるモノがCR1にはありました。

「どの面でも95点以上をつけられる優等生バイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「どの面でも95点以上をつけられる優等生バイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) バイクとして完成した時の金額としては高くなるとは思いますが、重点をロングライドに置くことでレースをやらない人を対象とするバイクですね。カーボンを活かし、乗ってみると手に来る振動が少ないのが感じられました。初心者の人にも負担の少ないバイクと言えますね。

スコットのカーボンバイクの特徴、「持って軽い・踏んで軽い」はかつて一斉を風靡したものです。だけど今になると、他社のバイクのキャラクターが濃くなってきたせいで少しその特徴が薄れてきた感がある。ただブランドとして、アディクトというレースバイクとCR1という体に優しいロングライドバイクと分けているので、これはバイクの特質上仕方ないところでしょうね。

このCR1はデザイン的にもシックで、レースをバリバリと言うよりは、体に優しい落ち着いたバイクというのがヴィジュアル的にもわかりやすくなっている。ヘッド回りは上下オーバーサイズです。これは1.5や1-1/4みたいに下ワンを太くしないことで剛性を上げすぎないというところを狙っているのだと思います。フロント回りの剛性をすごく高めていくトレンドがある中で、それに乗っていない。むしろ近づけちゃうとCR1らしいところが無くなっちゃう。

が、難癖のようですが出来上がりすぎている印象があります。ロードバイクの新製品はある程度クセがあってもいいと思うんです。優等生すぎて面白みに欠けるところはありますね。フレームだけで見ても、完成車としてのパッケージで見ても本当に穴がない。これ以上スペックアップするところもありませんし。ロングライド向けはもちろんのこと、レースバイクのセカンドバイクとしてもいいと思います。ただ繰り返しになりますが、優等生ゆえに、クセのある他のバイクと並べた時に目立ちにくいということは感じます。

登りでの軽さは充分に感じましたし、振動吸収性の高さは100km、150km、200kmとゆっくり長い距離を走った時の体への負担が相当少なくなることは想像に難くない。芝や砂利の上も走ってみましたがスピードが落ちませんでした。コブの上を走っていく感じで走れます。総合得点が高いがゆえに、どこか飛び抜けている点、と言うのが難しい。どのポイントでも95点以上と言った感じです。

登りでかなりモガいてみたのですが、ロードレースやヒルクライムでタイムを狙うような走りでも充分にいけると感じました。このスペックですから価格は張ってしまいますが。換えるところがあるとすれば、登りをあまり重視しないという前提であればカーボンのディープリムホイールに履き替えて、平地での巡航性能を高めるのは面白い方向性だと思います。


「振動吸収性と剛性感のトータルバランスに優れたバイク」
鈴木祐一(Rise Ride)


以前のスコットのCR1にも乗ったことがありますが、このCR1は似ていて違うものと考えた方がいいですね。スコットは軽さを売りにしてバイクを走らせるイメージだったんですが、この新しいCR1は形状こそ以前と似ていますが、かなり振動吸収性、路面追従性、フレーム自体のショックの吸収性が高まっています。乗り心地が高まったことでストレスの少ない自転車に仕上がっていると思います。

フィーリングとしては柔らかいイメージなのですが、ペダルパワーは逃げている感じがしない。BB回り、クランクからパワーを伝達するところではかなりロスの無い作りがなされていると思います。路面から上がってくる縦方向の振動に関してもかなりカットしてくれているな、という印象です。

「振動吸収性と剛性感のトータルバランスに優れたバイク」鈴木祐一「振動吸収性と剛性感のトータルバランスに優れたバイク」鈴木祐一

乗り味はマイルド。では、バイクのコントロールのフィーリングはというと、フロントセンターが詰まり気味なので、キビキビとしていて反応性が高い。ジオメトリーを煮詰めてきていますね。走りの軽さやバイクの振りやすさという運動性能の軽快感は残っていて、ショック吸収性と絶妙なバランスを成している。

フロント回り、前三角に関してはしっかりとしていてねじれも感じず、下りのコーナーや登りのダンシング、ダッシュをかける時にも剛性感に不満はありません。そしてリア、後ろ三角でショックを吸収するというトータルバランスが優れていますね。

向いている走り方としては、ロングライドでかなり遠くまで走るシチュエーション。それもかなりペースが速めのロングライドが得意だと思います。特に後半の疲れに対して体へのストレスは少なくできると思うので、そういう走り方をする人にはすごく優れたバイクだと思います。

SDS(ショックダンピングシステム)については、マウンテンバイク(SCALE)の動画を僕も見たんですけれど、荒れた路面で2cmくらい動いているんですよね。なので、このCR1でも僕が今日乗って感じたこの乗り味がSDSの賜物なのだと思います。スコットにはアディクトというレースバイクのラインナップがあり、レースをそちらに譲ることで、CR1はファストラン的な走りに対して高性能にすることができたのでしょう。

ショップのお客さんのバイクでフレームのパイプの中を覗いたことがあるんですが、スコットはかなりきれいに内部処理していました。カーボンフレームだとバルーンの屑やバリ処理の甘さがよく見受けられるものなのですが。小さいバリの処理でも重量やフレームの精度に関わることを知っているのだと思います。スイスの会社だからというのもあるのかもしれませんが、ひとつひとつ自転車を作り込む真面目な会社だなと感じています。

難点を挙げるとすれば、何年も前からあるモデルなので、バイクとしての目新しさが無いというところ。もちろんフルモデルチェンジでバイクの性格はだいぶ変わっているので、似ていながらも新しいバイク、というイメージでこのCR1を見てもらったらいいと思います。

デザインはシックですね。おとなしく見えるけれど、実際に見ると迫力もある。この試乗車みたいに全体を黒で統一することで重厚な迫力が出てくるし、逆に派手なパーツを入れてオリジナリティを出すのも面白いと思います。






スコット CR1 SLスコット CR1 SL (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

スコット CR1 SL
サイズ:XXS・XS・S・M・L・XL・XXL
重量:6.66Kg
フレーム:Scott NEW CR1 HMF NET(IMP Carbon technology,Road Comfort geometry,INT BB)
フォーク:Scott NEW CR1 HMF NET(1 1/8 " Carbone steerer Integrated Carbon Dropout)
ヘッドセット:Ritchey WCS Integrated
リアディレイラー:Shimano Dura-Ace RD-7900 20 Speed
フロントディレイラー:Shimano Dura-Ace FD-7900
シフター:Shimano Dura-Ace ST-7900 Dual control 20 Speed
ブレーキ:Shimano Dura-Ace BR-7900 Super SLR Dual pivot
クランクセット:Shimano Dura-Ace FC-7950 Hollowtech II 50 x 34T
ボトムブラケット:INT Dura Ace SM-BB9141
ハンドルバー:Ritchey WCS Logic Curve 31.8 Carbon Oversize Anatomic
ステム:Ritchey Wcs 4 AXIS Matrix Carbon OS 1-1/8" four Bolt
シートポスト:Ritchey Carbon Superlogic 31.6/300 mm
シート:FIZIK ARIONE CX
ハブ フロント:Mavic Ksyrium SL Black
ハブ リア:Mavic Ksyrium SL Black
チェーン:Shimano NEW Dura Ace CN-7900
カセット:Shimano NEW Dura - Ace CS-7900 11-28T
スポーク:Mavic Ksyrium SL Black
リム:Mavic Ksyrium SL Black 16 Front / 20 Rear
タイヤ:Continental Grand Prix 4000 700 x 23
希望小売価格:780,000円(税込)






インプレライダーのプロフィール


戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート


鈴木祐一鈴木祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


ウェア協力:SUGOi

text:Yufta.OMATA
photo:Makoto.AYANO
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