前日からの雨が灰色にそぼ降るゲンティンハイランド。朝7時半、前日のフィニッシュ地点のすぐ近くのホテルからプレス用のバンに乗り合わせ、カメラマンたちは今日のスタート地点のラワンへと出発した。

スタート前の盛一大(愛三工業レーシングチーム)スタート前の盛一大(愛三工業レーシングチーム) photo:Yuko Sato白く霧におおわれ見通しのきかないつづら折りの下りを、ゆっくりと進むバン。続くカーブに車酔いしそうになりながら、幻想的な話の舞台にでもなりそうな霧の山を、車がしだいに降りていくのを感じる。

どこかで聞いた昔話のようにしだいに霧が晴れて視界は開け、バンの車内につぶやきがもれる。「ああ、町だ…。」「なんだか久しぶりな気がする。」迷い込んだ異界から再びおりてきて我に返る物語は、こんなところの実感から生まれるのかもしれない、と思う。

笑顔でインタビューに応えてくれた宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)笑顔でインタビューに応えてくれた宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ) photo:Yuko Satoこの日のスタートは9時。スタート地点のラワンは、広い道路の両側に商店の並ぶ、にぎやかな町だ。この日の気温は、初夏のような「そう暑くはないが湿度がある」感じで、山の上で羽織ってきたゴアテックスのジャケットだと少々暑い。大通りの1本裏手の道にスタートゲートが作られ、選手たちはすでにそこに集まっている。愛三工業レーシングの青いジャージ、そばには宮澤崇史の日本チャンピオンの赤白ジャージも見える。

愛三サポートカーの脇で出走の準備中の盛一大。「今日はどんなふうにいかれますか?」とにたずねると、「今日は、総合の行方はほとんど決まっているので、それ以外を狙ってうまく走れればと思います。ステージ優勝できれば一番いいんじゃないかと思いますね。」

第1山岳ポイントを通過する選手たち第1山岳ポイントを通過する選手たち photo:Yuko Sato2日前に「第6ステージからの勝負に集中する」と語っていた宮澤。「今日のコースが得意とか特にそういうのはないんですが、(周回コースのラスト)残り2.5kmがずっとストレートなので… まあ、なるようになります! トライするだけですね!」と、緊張感ある笑顔を見せた。

今日の撮影はプレスバイク。大会のプレス担当者がそれぞれの日にバイクに乗るカメラマンを割りふってくれるので、今日がその順番というわけだ。車のときと同様、スタート直前にバイクに乗り、選手より先にスタート。まずは第1山岳賞ポイントに先回りして選手たちを待つ。

集団内で平坦路をこなす盛一大(愛三工業レーシングチーム)ら集団内で平坦路をこなす盛一大(愛三工業レーシングチーム)ら photo:Yuko Satoこの日のコースはラワンを出発して15分ほどの小さな山が、まず第1山岳賞ポイント地点。そのあと2つのスプリントポイントを経てプトラジャヤに入り、フィニッシュゲートと同じ地点で第3スプリントポイントを決めたのち、1周11kmの周回コースを3周してフィニッシュ。その周回の途中の小さな丘が第2山岳賞ポイントだ。

全体的に平坦で、レース終盤に周回する町・新行政首都プトラジャヤは、クアラルンプールからの政府機関本拠地の移転が進みつつある「モスクのある霞ヶ関」のような町。前日までの山のコースとはいろいろな意味で対照的な「町のコース」だ。

道路の片側を規制してレースが行われている。対向車線は車がいっぱい道路の片側を規制してレースが行われている。対向車線は車がいっぱい photo:Yuko Satoバイクは曇り空の下をすすみ、道路の両側で応援する人々に見送られて第1山岳ポイントへ。前日の山道を見てしまうとこれを「山」と呼ぶのか?という気持ちもわいてくるが、この日のコース中最大、151mの山である。

第1山岳賞ポイントのラインを最初に超えたのはアルバート・ティマー(オランダ、スキル・シマノ)。後続を2、3秒ほど引き離し、フィニッシュラインの上で小さく左右に蛇行してテールをふってみせる余裕をみせた。まもなく後続の5人ほどが通過し、大きなひとつの集団が続く。

第2スプリントポイント、ボリス・シュピレフスキー(ロシア、タブリス・ペトロケミカル)が先頭通過第2スプリントポイント、ボリス・シュピレフスキー(ロシア、タブリス・ペトロケミカル)が先頭通過 photo:Yuko Satoふたたびバイクに乗り、町の中の広い道路を第1スプリントポイントへ向かう。雨が降り始め、顔にビシビシ当たる。やったことはないが「ソーダ水に顔をつけているよう」に痛い。20分ほどした9時38分ごろ、第1スプリントポイントへ到着。こんどは歩道橋の上で選手を待つ。歩道橋の上にも観戦の人がいっぱいだ。

遠目ではほぼひとかたまりにみえる集団の先頭はトレンガヌ・プロアジアのジャージ。沿道の観客から絶大な人気をほこるマナンだ。そして青いポイント賞ジャージを着るグアルディーニが続く。

逃げグループを懸命にリードする鈴木謙一(愛三工業レーシングチーム)逃げグループを懸命にリードする鈴木謙一(愛三工業レーシングチーム) photo:Yuko Satoふたたびバイクに乗って応援の人々が手を振る町を抜けて進んでゆくと、プレスバイクは料金所らしきところを通過する。どうやらレースはハイウエイを進んでいくらしい。この頃に雨はあがり、ひとまずはひと安心。

続く第2スプリントポイントも、両側に商店が並ぶ町の中。大きな集団の先頭6人ほどがスプリントで飛び込んでくる。10時16分頃、先頭を切ってラインを通過したのは、ボリス・シュピレフスキー(ロシア、タブリス・ペトロケミカル)だ。集団はほぼひとつでたてに長く伸び、少しずつ疎密を作り、ばらけはじめながら前進している。

プトラジャヤの整然とした町並み。前方がフィニッシュプトラジャヤの整然とした町並み。前方がフィニッシュ photo:Yuko Satoこの集団を見送ってから、再度選手たちを追い抜き、前に上がる。10時22分ごろ、集団を追抜いていくと、集団の前方がばらけ、さらに前方に6人ほどの逃げができている。鈴木謙一(愛三工業レーシング)の姿もみえる。土井は逃げの後方、宮澤は大きな集団の中に位置しているようだ。

そのまま選手たちを追抜いて車列の前方に出てしばらくゆくと、道の両側に都会的なモニュメント。マレーシアの国旗がひるがえる。大きく美しいモスクの姿。アジア的な雑駁さを感じないどこか高級感のただよう新しい町に入ったことが感じられる。道の突き当たりにはMINISTRY OF FINANCEの大きな建物がそびえている。

逃げ続ける鈴木謙一(愛三工業レーシングチーム)ら6名逃げ続ける鈴木謙一(愛三工業レーシングチーム)ら6名 photo:Yuko Sato右折すると、3車線の広い道路が遠くまでまっすぐ伸びている。この先がフィニッシュゲートだ。今日のコースのラスト数kmは、見事なまでに平坦で完全に直線のコースなのが見てとれる。

選手たちがまず最初にここを通過するとき、このフィニッシュ地点が第3スプリントポイントとなる。そしてその先は周回コースとなり、小さな丘があり、2周目の途中で第2山岳ポイントをカウントする。

第1周回後半を周回している選手をプレスバイクで追い抜く。前方4人の逃げの先頭には、鈴木の姿があった。

フィニッシュ地点に移動して、最終周回に入る選手たちを見る。鈴木はまだ先頭にいる。このまま最後まで逃げ切るか、あるいはラストの直線でスプリンターたちがどれだけ上がってくるかーー。

いよいよフィニッシュ。見通しのよい道路の遠くから、けむりを上げるような勢いで選手の一団が飛び込んできた。中央で片手を上げたのは青いジャージ。グアルディーニ(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)。

スプリント3勝目を飾ったアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)スプリント3勝目を飾ったアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ) photo:Yuko Sato

ステージ3位に入った宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)ステージ3位に入った宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ) photo:Yuko Satoそしてその後方で手をあげているのは、赤白のジャージの宮澤崇史だ。宮澤は、このステージ3位となり、チームメイトのグアルディーニとともに表彰台に上がった。

逃げを鈴木は108位。西谷泰治(愛三工業レーシング)は8位となり、UCIポイントを獲得した。

西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)のコメント
「今日は逃げ中心で動いていて、他のチームも同じようなことを考えていました。(鈴木)謙一がうまく逃げに乗ってくれて。スプリントは残念でしたが、ちゃんと踏めているので、しっかり明日以降やっていきたいと思います。」

宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)のコメント
「最後、グアルディーニと一緒に走れてスプリントに持ち込めたのでよかったです。チームとしてはいい展開です!明日の第7ステージは、ポイントまたはゴールを狙って逃げてみようかと思っています。」

photo&text:Yuko.SATO