2010年9月7日、ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIヒストリカル)第10ステージが行なわれ、逃げグループからゴール20km手前で飛び出したイマノル・エルビーティ(スペイン、ケースデパーニュ)が独走し、チームに連勝を呼び込んだ。総合争いはホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がボーナスタイムにより首位に。

逃げグループを率いるハビエル・モレーノ(スペイン、アンダルシア・カハスール)逃げグループを率いるハビエル・モレーノ(スペイン、アンダルシア・カハスール) photo:Unipublic選手たちは休息日にバレンシア州からカタルーニャ州に移動。休息日明けの第10ステージは地中海に面したタラゴナからビラノバ・イ・ラ・ヘルトルまでの175.7kmで行なわれた。

3週間の闘いの中に2回設定された休息日は、選手たちにとって数少ないリラックスタイム。しかしそんな休息日で、サクソバンクの2人が“ハメ”を外しすぎてしまった。

地中海に沿って北上する地中海に沿って北上する photo:Unipublicその2人とは、すでに総合で大きく遅れていたアンディ・シュレク(ルクセンブルク)とスチュアート・オグレディ(オーストラリア)。2人は前夜にホテルを抜け出し、レース当日の朝5時まで飲酒。ビャルヌ・リース監督はチーム内の規約を破った2人をスタートさせなかった。

リース監督は「彼らはチームのルールを尊重しなかった。グラスの数の問題ではない。朝5時まで飲んでいたことに弁解の余地無し。必要な処置を取ったまでだ。プロ選手ならプロフェッショナルな行動を取るべき。この処罰をブエルタ以降のレースに適応するつもりはない」と弁明した。

メイン集団をコントロールするカチューシャメイン集団をコントロールするカチューシャ photo:Unipublicそんな一悶着を経てスタートしたレースは、序盤から絶えることなくアタックが掛かる活発な展開。逃げを封じ込めたカチューシャは、41km地点のスプリントポイントでロドリゲスを3番手通過させることに成功する。総合で0秒差の2位につけていたロドリゲスは、ボーナスタイム2秒を獲得。マイヨロホを着るイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)から暫定的に総合リーダーの座を奪い取った。

ようやく逃げが決まったのは、レース開始から1時間が経過した46km地点。飛び出した12名のグループの中には、総合15位のフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)や、総合34位クリストフ・ルメヴェル(フランス、フランセーズデジュー)の姿が。

晴れ渡った地中海を横目に1級山岳ラット・ペナット峠を目指す晴れ渡った地中海を横目に1級山岳ラット・ペナット峠を目指す photo:Unipublic

ジルベールは2つ目のスプリントポイントを先頭で通過してポイント賞2位に浮上。しかしメイン集団が逃げを容認しない姿勢を見せたため、ジルベールは自ら逃げグループを離れて集団に戻った。

1級山岳ラット・ペナット峠に向けてメイン集団コントロールを開始するシャコベオ・ガリシア1級山岳ラット・ペナット峠に向けてメイン集団コントロールを開始するシャコベオ・ガリシア photo:Unipublicメイン集団は暫定総合リーダーのロドリゲス擁するカチューシャがコントロールを担い、先頭11名のリードを最大5分30秒に抑え込む。ゴール31kmに設定されたこの日最大の難所、1級山岳ラット・ペナット峠(登坂距離4.4km・平均勾配10.8%)でレースは動いた。

逃げグループは最大勾配が20%を超えるとも言われるこの上りで分裂し、急勾配区間でルメヴェルとハビエル・モレーノ(スペイン、アンダルシア・カハスール)が先行。一方、メイン集団はシャコベオ・ガリシアがペースを上げ、先頭グループから2分30秒遅れで上りに突入。軒並みスプリンターたちが集団から姿を消した。

1級山岳ラット・ペナット峠でメイン集団をコントロールするウラディミール・カルペツ(ロシア、カチューシャ)ら1級山岳ラット・ペナット峠でメイン集団をコントロールするウラディミール・カルペツ(ロシア、カチューシャ)ら photo:Unipublicラット・ペナット峠を先頭通過したルメヴェルとモレーノの2人には、他の逃げメンバー7名が合流。メイン集団をコントロールするカチューシャに逃げグループを吸収する理由は無く、先頭9名の逃げ切りが濃厚に。

するとラスト20km地点で先頭グループからエルビーティがアタック。追い上げるグループや集団に不利なアップダウンとワインディングが続く狭いコースで、エルビーティが順調にリードを広げ始めた。

エルビーティは牽制の影響でペースが上がらない追走グループを35秒、メイン集団を1分45秒引き離した状態でラスト10kmのアーチを通過。メイン集団はダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)の復帰に伴ってリクイガスがペースを上げ始めたが時すでに遅し。エルビーティの独走勝利が決まった。

46km地点で形成されたロメン・ジングル(ベルギー、コフィディス)やローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)ら11名の逃げ46km地点で形成されたロメン・ジングル(ベルギー、コフィディス)やローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)ら11名の逃げ photo:Unipublicマイヨロホを着て走るイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)マイヨロホを着て走るイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublicラスト20km地点から独走したイマノル・エルビーティ(スペイン、ケースデパーニュ)ラスト20km地点から独走したイマノル・エルビーティ(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Unipublic

独走勝利を飾ったイマノル・エルビーティ(スペイン、ケースデパーニュ)独走勝利を飾ったイマノル・エルビーティ(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Cor Vos休息日前の第9ステージでもダビ・ロペスガルシア(スペイン)が独走勝利を飾っており、ケースデパーニュは圧巻のステージ2連勝。チーム総合成績のリードを広げることにも成功している。

エルビーティはチーム戦略についてこう語る。「チーム内でアシストを担っているのはパサモンテス、ガルシアアコスタ、ロペスガルシア、そして僕。この4人のうち誰かが逃げグループに入るのが鉄則だった。日曜日にロペスガルシアが勝ったのも戦略通り。仮にパサモンテスとガルシアアコスタが逃げたとしても、同じような走りを見せたと思う」。

追走グループの先頭はフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、オメガファーマ・ロット)追走グループの先頭はフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vos「逃げグループにチャンスを与えてくれたジルベールに感謝している。ラット・ペナット峠ではかなり苦しんだよ。最後の短い上りで一か八か仕掛けてみようと思ったんだ。僕のようなアシスト選手にとって夢のような勝利」。エルビーティは2008年のブエルタでも逃げ切り勝利を飾っており、これが自身2度目のステージ優勝だ。

この日のもう一人の主役は、スプリントポイントでのボーナスタイムによりマイヨロホを奪い取ったロドリゲスだ。“プリート”のニックネームで親しまれているロドリゲスは、地元カタルーニャのステージでのマイヨロホ獲得にこだわった。

念願のマイヨロホに袖を通したホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)念願のマイヨロホに袖を通したホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Cor Vos念願のマイヨロホに袖を通したロドリゲスは「センセーショナルだ!地元カタルーニャでチームメイトが懸命に働いて手にしたジャージは格別。どうしても早い時期にマイヨロホを獲得したかった。確かに戦略的には後半のステージで総合首位に立つのが望ましいかも知れない。でもライバルたちからリードしているのは紛れも無い事実だ」とコメントしている。

総合上位入賞が期待されるロドリゲスにとって、個人タイムトライアルが唯一の鬼門とされる。「個人タイムトライアルまでに少しでも大きなリードを築く必要がある。明日のアンドラはグランツール前にトレーニングを行なう場所であり、またリードを広げることが出来ると思う。2003年のブエルタでリーダージャージを獲得した時は、チーム(当時オンセ)に煙たがられた。でも今回は違う。カチューシャは喜びに満ちていて、明日から全面的にサポートしてくれる」。ロドリゲスは翌日からの山岳ステージでの更なるアタックを誓った。

序盤の逃げに乗りながらも集団吸収の道を選んだジルベールは「自分が逃げに乗ったおかげで、カチューシャは逃げを容認しない姿勢だった。仮にオメガファーマ・ロットの選手が自分だけだったらそのまま逃げていただろう。でもファンアフェルマートが同じ逃げに乗っていたので、彼にチャンスを託したんだ」と語る。スプリントポイントでポイントを稼いだジルベールはポイント賞2位に浮上。最終的なポイント賞候補の一人だ。

翌第11ステージは実質的に今大会最初の本格的な頂上ゴールが登場する。ゴール地点は隣国アンドラ公国のバルノル・セクトル・パル(標高1900m)。登坂距離9.9km・平均勾配6.5%の上りが総合成績にシャッフルをかけるだろう。

選手コメントはレース公式リリースより。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第10ステージ結果
1位 イマノル・エルビーティ(スペイン、ケースデパーニュ)    4h13'31"
2位 ロメン・ジングル(ベルギー、コフィディス)           +37"
3位 フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
4位 マウロ・フィネット(イタリア、リクイガス)
5位 ハビエル・モレーノ(スペイン、アンダルシア・カハスール)
6位 アナス・ルンド(デンマーク、サクソバンク)
7位 クリストフ・ルメヴェル(フランス、フランセーズデジュー)
8位 ジャンパオロ・ケウラ(イタリア、フットオン・セルヴェット)
9位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)          +42"
10位 デミトリ・フォフォノフ(カザフスタン、アスタナ)       +1'36"
11位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)       +1'38"

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)       42h11'49"
2位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)          +02"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)        +04"
4位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +44"
5位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット)   +54"
6位 ルーベン・プラサ(スペイン、ケースデパーニュ)         +1'17"
7位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)     +1'20"
8位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)    +1'21"
9位 マルツィオ・ブルセギン(イタリア、ケースデパーニュ)      +1'24"
10位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)   +1'28"

ポイント賞(プントス)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) 60pts
2位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)   57pts
3位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)   55pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        41pts
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)  36pts
3位 ゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    25pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        32pts
2位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)  33pts
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)      36pts

チーム総合成績
1位 ケースデパーニュ      126h01'38"
2位 カチューシャ          +3'25"
3位 オメガファーマ・ロット     +6'27"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic

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