「圧巻の勝利」と表現すれば簡単なのだが、誰しもが思ったのは「やはり今年も、誰もタデイ・ポガチャルを止められないのか」ではないだろか。ヴィンゲゴーやエヴェネプール、そして新星セクサスも、世界王者を止めることはできなかった。



スタート地点であるポーで、バルギルの名が呼ばれると大きく会場は盛り上がる photo:Sotaro.Arakawa

2026年ツール・ド・フランスに、最初の本格山岳ステージがやってきた。第3ステージもコース分類では山岳だったが、この日は超級山岳トゥールマレーを越えてガヴァルニー・ジェードルへ向かう、紛れもない総合争い。ここで、マイヨジョーヌを争う選手たちの脚色が明らかになった。いや、明らかになりすぎて、明日がパリなのではないかと錯覚するほどだった。

レース結果に驚いた者は少ないないだろう。意外だったこととすれば、区間2位ヨナス・ヴィンゲゴーとの差が2分38秒まで広がり、3位集団から19秒しか離れていなかったこと。

心配された雷雨も杞憂に終わったトゥールマレーでは、UAEチームエミレーツXRGが容赦なくプロトンを破壊。そして極めつけは牽引役を担ったイサーク・デルトロで、集団先頭でペースを上げると反応できたのはポガチャルのみ。ヴィンゲゴーをはじめとしたライバルたちを一蹴した。

そして頂上手前4.3kmでポガチャルは単独となり、トゥールマレーの頂上を先頭で通過。その時点でヴィンゲゴーとの差は約30秒。そこからさらにポガチャルは下りで差を広げ、最後の2級山岳ガヴァルニー・ジェードルも緩めない。結果的に42.7kmの独走勝利。おまけに一昨日、トルシュタイン・トレーエンに渡したマイヨジョーヌを取り戻した。

ギヨーム・マルタンギヨネ(フランス、グルパマFDJユナイテッド)応援団 photo:Sotaro.Arakawa
スタート地点ポーを出ていくコースには、歴代の総合優勝者の名がペイントされる photo:Sotaro.Arakawa


ヴィンゲゴーを擁するヴィスマの登場で盛り上がるデンマーク人ファンたち photo:Sotaro.Arakawa

小さなファンにサインするルイス・アスキー(イギリス、NSNサイクリングチーム) photo:Sotaro.Arakawa
いつもファンが取り囲んでいるので、パドックではなかなか露わにならないデカトロンCMA CGM)が使用するヴァンリーゼル photo:Sotaro.Arakawa


レース後のインタビュー、そして記者会見でポガチャルが思い返していたのは、2023年に同じトゥールマレーを越えた第6ステージのことだった。そのステージでポガチャルがヴィンゲゴーにつけたタイム差は、フィニッシュ時点で24秒。今回はトゥールマレーの頂上の地点で、その差を上回っていた。

あの日、攻撃を仕掛けたのは当時のユンボ・ヴィスマだった。セップ・クスがハイペースを刻み、背後に残ったのはヴィンゲゴーとポガチャルのみ。さらに逃げに乗って“前待ち”していたワウト・ファンアールトが、最終山岳コトレ・カンバスクで牽引を開始した。

トゥールマレーを独走でクリアするタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.

その日も勝ったのはポガチャルだった。最終山岳の頂上手前2.7kmでアタックし、マイヨブラン姿でツール通算10勝目を手に入れた。ただし当時のポガチャルは、約2ヶ月前に手首を骨折していた。万全ではないポガチャルが、ヴィスマの包囲網を破ったのだった。

それから3年。今度はUAEがレースを支配し、ポガチャルがトゥールマレーでヴィンゲゴーを置き去りにした。単純に両者の「差が広がった」と結論づけるのはまだ早い。それでも、フィニッシュ地点となったガヴァルニー・ジェードルで見せられた光景は、あまりにも一方的だった。

いつものお辞儀ポーズで、42.7kmの独走勝利を締めくくったポガチャル photo:Sotaro.Arakawa

苦悶な表情を浮かべ、ポガチャルから2分38秒遅れでやってきたヴィンゲゴー photo:Sotaro.Arakawa

大会2日目、モンジュイックの丘で区間4位に敗れたヴィンゲゴーは「あの登りは自分の脚質に適していなかった」と語り、第3ステージ後にも「ああいったスプリントでタデイを倒すのは難しい」と話している。そしてこの日も「自分に適したダウンヒルではなかった」と振り返った。

それでは、ポガチャルよりもヴィンゲゴーに適したコースとは何なのか。

もちろん、ヴィンゲゴーの弱音を隠す常套句ではない。ヴィンゲゴーは自分の状態とコース特性を把握してこその発言のはず。しかし、ポガチャルが短い登りでも、長い登りでも、下りでも、そして暑さのなかでも勝つのだとすれば、攻め入る場面はどんどんなくなっていく。

直近でヴィンゲゴーがポガチャルを直接下したのは、2024年第11ステージ、ル・リオランでの一騎打ちスプリントだ。だが山岳で「ヴィンゲゴーの土俵」と誰もが頷く勝利となれば、2022年第18ステージ、ここピレネーで行われた超級山岳オタカムの決戦まで、記憶を遡らなければならない。

しかも今のポガチャルには、デルトロがいる。

トゥールマレーでポガチャルを発射しながら、その後の下りと最後の登りで脚を回復させたデルトロは、3位争いのスプリントを制して総合でも3位に浮上。そしてヴィンゲゴーとの差は45秒。つまりヴィンゲゴーは今後、ポガチャルのアタックに反応し、場合によってはデルトロの動きにも対応しなければならなくなったのだ。

ガバルニー・ジェードルを前に、両端を取り囲むマイヨアポア区間が登場した photo:Sotaro.Arakawa

フィニッシュ地点にやってきたキャラバン隊。この後しっかりグミをキャッチ photo:Sotaro.Arakawa
ピレネーでは定番なのか、大西洋側のヴァンデ県旗を振る観客の姿が目立った photo:Sotaro.Arakawa


フィニッシュした選手たちの背後に広がるガヴァルニー圏谷 photo:Sotaro.Arakawa

最後に、大会初登場となったこの日のフィニッシュ地点であるガヴァルニー・ジェードルについても書いておきたい。

街というより、ピレネー山中にある小さな村。人口はわずか300人余り。ツールが走り出したスペインとの国境も近く、ほぼ360度を高い山々に囲まれている。ガヴァルニー滝が轟々と流れ落ちる「ガヴァルニー圏谷」は、ユネスコ世界遺産にも登録される景勝地。筆者が思ったのは、どことなく富山県の立山にも見えなくないこと。

だからだろうか。ここではツール観戦者より、サイクリストや登山客の気配の方が濃く、フィニッシュ後、さらに上へと続く道の先にあるプレスセンターへ歩いていると、ツールにはまるで興味がないと言わんばかりに、悠々と下ってくるサイクリストの姿が面白かった。

text&photo:Sotaro.Arakawa in Lourdes, France