ファンデルプールがチームメイトと逃げたツール・ド・フランス第9ステージは、予想通り集団スプリントによって決着。ティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)がマイヨヴェールを着るミランを力でねじ伏せ、今大会2勝目を手に入れた。



翌日に大会最初の山岳ステージを控えたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.

ファンとセルフィーを撮るファンアールト photo:A.S.O.
レース前に反射神経を鍛えるアレクシ・ルナール photo:A.S.O.


7月13日(日)第9ステージ
シノン〜シャトールー(平坦)
距離:174.1km
獲得標高差:1,400m
天候:晴れ
気温:31度


第9ステージ シノン〜シャトールー image:A.S.O.

例年であれば1週目の最終日。しかし今年はフランス革命記念日が月曜日のため、選手たちは翌日の山岳ステージを意識しながらのレースとなる。シノンを出発するツール・ド・フランス第9ステージの174.1kmコースは、カテゴリー山岳が登場しない唯一のフラットステージ。そのため、大方の予想は2日連続となる集団スプリントだった。

フィニッシュ地点のシャトールーは、非公式ながら「カヴェンディッシュ・シティ」の愛称を持つ。これは2008年、2011年、2021年にマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)が計3度の区間優勝を飾ったことに由来する。現地時間の午後1時25分にスタートが切られると、ヨナス・リカールト(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)がアタック。すぐさまチームメイトのマチュー・ファンデルプール(オランダ)が合流した。

アクチュアルスタートと同時に逃げたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)とヨナス・リカールト(ベルギー) photo:A.S.O.

プロトンはこの日もリドル・トレックが中心となり牽引した photo:A.S.O.

「ヨナス(リカールト)の夢であるツールの表彰台に立つため」とファンデルプールがレース後に語った通り、アルペシンの2人は快調にタイム差を稼いでいく。24.2km地点の中間スプリントをファンデルプールが先頭通過した時点で、メイン集団との差は3分50秒。メイン集団では3位通過(15ポイント)を懸けたスプリントが勃発し、リドル・トレックの盤石なリードアウトからジョナタン・ミラン(イタリア)が先頭を確保。着用するマイヨヴェール(ポイント賞)のリードをさらに拡げた。

その後もアルペシンの2名は順調にリードを拡げ、残り132km地点で早くも5分に到達する。一方のプロトンでは、イギリス王者のサムエル・ワトソン(イネオス・グレナディアーズ)ら5名による落車が発生。直後にはドイツ王者ゲオルク・ツィマーマン(アンテルマルシェ・ワンティ)も落車して沿道に投げ出されるシーンがあったものの、幸い大きな怪我を負う選手は出なかった。

最大5分以上のリードを得たファンデルプールたち photo:A.S.O.

バイクを降り、リタイアを選んだジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.

ミランで2日連続勝利を狙うリドル・トレックが先導するプロトンでは、2日前の落車で肋骨を骨折しながら走るジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツXRG)が集団から遅れ、無念のリタイアを選択した。今年はイツリア・バスクカントリーからツール・ド・スイスまで3連続総合優勝と、キャリアハイの調子で臨んだアルメイダ。マイヨジョーヌを着るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)は、今大会最初の山岳ステージを前に重要な山岳アシストを失う痛手となった。

ステージ後半、ブレンヌ自然公園に差し掛かったメイン集団に横風がふきつける。残り72km地点で集団は一時分裂したが、程なくして再合流。しかし、このエシュロン(横風分断)の危機感がプロトンのペースを押し上げ、逃げとのタイム差は残り30kmで1分20秒まで一気に縮まった。

ひまわり畑を進むプロトン photo:A.S.O.

リカールトが遅れ、単独先頭で勝利を目指したマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

その後も集団分断を誘発する緊張感の高い区間が続き、プロトン前方ではヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が、総合エースのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)やスプリント参戦をSNSに投稿したワウト・ファンアールト(ベルギー)のためにエシュロンを狙うも失敗。そして残り6km、狙い通り敢闘賞を射止めたリカールトが役目を終えると、ファンデルプールが独走に切り替え、逃げ切り勝利を目指した。

「カヴェンディッシュ・シティ」の市街地に入り、タイム差は残り5kmで28秒、3kmで13秒、そしてフラムルージュ(残り1km)で5秒差に。歯を食いしばり抵抗したファンデルプールだったが、残り700m、ついにグルパマFDJが率いるメイン集団に吸収され、高速の集団スプリントが幕を開けた。

先頭でもがくジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) photo:CorVos

先頭に立ったダニー・ファンポッペル(オランダ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)のリードアウトから、ヨルディ・メーウス(ベルギー)はうまく発射することができない。その背後から、ミランと自ら番手を上げたティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)がほぼ同時にスプリントを開始。右フェンス際で加速するミランに対し、メルリールは中央からミランの横につき並走。最後は両者がフィニッシュライン目掛けてハンドルを投げ込む、熾烈な争いとなった。

そしてヨーロッパ王者であるメルリールが、勝利を確信して両手を拡げた。

圧巻のスプリントで今大会2勝目をゲットしたティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

前日は終盤パンクに見舞われ、集団復帰のため脚を使いスプリントに参加できなかったメルリール。「チームのハードワークに勝利で報いることができて嬉しい。風と暑さで、コースプロフィール以上にタフなステージとなった。カヴェンディッシュがここで勝った4年前を覚えている。そんな地で再び、スーダル・クイックステップに勝利をもたらすことができて嬉しいよ」と喜びを語った。

接戦の末、またしてもメルリールとの直接対決に敗れたミランだが、大差でマイヨヴェールをキープ。3位にはロットのエーススプリンターであるアルノー・ドゥリー(ベルギー)が入り、リードアウトを務める2名が逃げたカーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク)は集団に埋もれ、10位に終わっている。

勝利を喜ぶティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:A.S.O.

敢闘賞を獲得したヨナス・リカールト(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:A.S.O.

ツール・ド・フランス2025第9ステージ
1位 ティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) 3:28:52
2位 ジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)
3位 アルノー・ドゥリー(ベルギー、ロット)
4位 パヴェル・ビットネル(チェコ、ピクニック・ポストNL)
5位 ポール・ペンウェット(フランス、グルパマFDJ)
6位 ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ)
7位 フィル・バウハウス(ドイツ、バーレーン・ヴィクトリアス)
8位 ヨルディ・メーウス(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)
9位 スティアン・フレッドハイム(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)
10位 カーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) 33:17:22
2位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) +0:54
3位 ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) +1:11
4位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) +1:17
5位 マッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) +1:34
6位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) +1:46
7位 オスカー・オンリー(イギリス、ピクニック・ポストNL) +2:49
8位 フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +3:04
9位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +3:06
10位 マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) +3:43
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) 227pts
2位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) 156pts
3位 ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ) 151pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツXRG) 8pts
2位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) 7pts
3位 ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) 4pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) 33:18:16
2位 ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) +0:17
3位 オスカー・オンリー(イギリス、ピクニック・ポストNL) +1:55
チーム総合成績
1位 ヴィスマ・リースアバイク 99:56:32
3位 UAEチームエミレーツXRG +7:53
2位 グルパマFDJ +13:07
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.

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