Mt.富士ヒルクライム。日本を代表するヒルクライムレースであり、サイクリストにとっての“夏の甲子園”的存在。今年(ちょっと)突然にその舞台に立つことになった。目標は――65分。ゴールドリング。

はっきり言って、そんなに甘くはない。でも、やるからには本気で狙いたい。

これは、シクロワイアード編集部・高木の、ちょっと遅れてやってきた“ジブン超えチャレンジ”の記録です。挑戦のきっかけから、頼れる相棒「Madone SLR 9 Gen 8」との試走レポート、そして気になる作戦まで、まずは前編でお届け。



近くて遠かったあの頂へ。目標は、ゴールド。

トレックがMt.富士ヒルクライムで開催する「#ジブン超えチャレンジ」にシクロワイアード編集部員の高木が挑戦 photo:So Isobe

シクロワイアード編集スタッフと並行しつつ、Jプロツアー歴は既に10年。現在は稲城FIETSクラスアクトで走っている私、高木にとって、富士ヒルは“いつかは出たい”レースだったものの、毎年JPTのスケジュールと被っていてなかなかタイミングが合わず…。

トレック・ジャパンの#ジブン超えチャレンジ。この文章にグッときた (c)トレックジャパン
仲間もこぞって参加していたし、気づけばSNSで「エントリーできた!」「走ってきた!」という投稿を、指をくわえて眺めるばかり。そんな中、トレックから「#ジブン超えチャレンジ」へのオファーが飛び込んできた。

目標は“ゴールド”。富士ヒルでゴールドを獲るには、65分を切らなければならない。ヒルクライムを専門とする猛者たちが本気で狙いにいくタイムだけれど、せっかくやるなら目標は高く持ちたいと思った。

参考までに、最近のスバルラインでの自己ベストは70分ちょっと。ただしこのタイム、東京の自宅から往復290kmを自走した“旅のついでヒルクライム”。今回はちゃんと機材と身体をを整えてレース仕様で挑む。しかも、富士山五合目までをランニングで駆け上がった大会では1時間39分でフィニッシュしているので、標高と低酸素濃度のキツさはすでに身体に刻み込まれている。条件は整った。

あとは……やれんのか、ジブン!

御嶽ヒルクライムでは好感触。まだMadoneは届いていないのでマイバイクで
練習不足!? なんとか仕上がった...かも。

オファーがあったのは、富士ヒルの約1ヶ月前。本来なら3ヶ月前から減量や出力を意識したトレーニングを始めておきたいし、本気のクライマーは既にツール・ド・八ヶ岳や榛名山ヒルクライムを走っているタイミング。とはいえ自分もロードレースやトレイルランの大会に出ていて、体重は普段から60kg前後にコントロールしているので余地はありそう。JPTの個人TTやロードレースを走りながら、ヒルクライム向けのインターバルやSSTをミックスして、なんとか仕上げていこうと思った。

8分ほどの登りを使用し、ペース走で登ったり、SSTをしたり、インターバルトレーニングを繰り返していく反復トレーニングを続けたところ、Jプロツアーの御嶽ヒルクライムでは好感触だった。あれ、これ結構いける...のかも??とにかく、今あるコンディションを“最大化”させるしかない。

相棒は「Madone SLR 9 Gen 8」。

トレック Madone SLR 9 Gen 8のProject Oneカラー「ICON Shimano Dura-Ace x Trek」 photo:So Isobe

3Dプリントによる凹凸グラフィックは、DURA-ACEのクランクデザインに着想を得たものだという。カッコいい。 photo:So Isobe
充電時の青LEDをイメージしたというメタリックカラー photo:So Isobe



今回の相棒は、トレックの最新エアロオールラウンドバイク「Madone SLR 9 Gen 8」だ。軽量化と空力のバランスを追求した一台で、まさに富士ヒルでゴールドを狙う(スバルラインは平均斜度が緩くてスピードが乗るのだ)にはうってつけの一台。いわゆる「案件」だけれど、こんな素晴らしいバイクをお借りして、なおかつ限界まで攻められるのは自転車メディア勤務の特権!...でも一方で確実に成績を出さなければいけないプレッシャーは、完全にプロ選手と同じなのです。シゴト、マッタクアマクナイ。

ただ今回は、トレック・ジャパンさんの好意で「コンポーネントとかハンドル、ギアは好きなように注文してもらっていいですよ!」というありがたすぎるオファー。ということで、自分のポジションと好みに合わせたProject Oneカラー「ICON Shimano Dura-Ace x Trek」のMadone SLRが届いたのでした。

・サイズはM(175cm)
・Project Oneカラー「ICON Shimano Dura-Ace x Trek」(ブルーメタリックがエモい)
・Aeolus RSL 51ホイール&28Cタイヤでエアロ特化
・DURA-ACE DI2 R9270(アウターを踏切る前提の52-36T×11-30T)
・ハンドルはトップ350mm幅(前面投影面積を小さくするため)

ホイールはスピードの出るスバルラインを想定して51mmハイト photo:So Isobe

アウターで踏み切る前提でチェーンリングは52×36T、スプロケットは11-30Tのギア比 photo:So Isobe
ブラケット部分は350mm、フレア部分は380mm、ステム長は90mmの仕様のAero RSL Roadを選択 photo:So Isobe


トレック RSL エアロウォーターボトル&ケージでよりエアロな仕様に photo:So Isobe
サイクルコンピューターとボトルなしの重量は7.49kg



実測重量は7.49kg(ボトル&メーター除く)。もう少し勾配がキツい登坂でタイムを狙うならリムハイトが低いボントレガー Aeolus RSL 37 TLRホイール(前後1,325g)を選ぶのもいいと思う。装備はガチ。やれることはやった。あとは脚。

試走で得たヒント。勝負は“ペース配分”

試走では今回のチャレンジの相棒となるMadone SLR 9 Gen 8の初ライドとなった photo:So Isobe

スバルラインを走るために試走に出かけた。Madoneが届いたのが土曜日で、朝7時に営業所止めにしたバイクを受け取って、現地で組み立てて初乗りするという強行軍だ。タイム計測は料金所スタート。Mt.富士ヒルクライムは富士北麓公園からスタートし、胎内洞窟入口交差点を曲がった先が計測開始地点。フィニッシュは富士山五合目までの24kmだ。標高差は1,255mで、勾配は平均5.2%、最大7.8%。

1合目までは踏みすぎないように注意し、中盤以降に備える。2〜3合目ではシッティングとダンシングを切り替えて身体の負担を分散。終盤は標高による酸素不足を意識して、粘り強くペーシングする。ヒルクライムだけど、やることはタイムトライアル。ペース配分が命。これはもう、全力の“自分超え”勝負だ。

1合目まではペースを抑えつつ、中盤から後半に備える photo:So Isobe
2~4合目まではシッティングとダンシングを切り替えながら、筋肉を使い分けていく photo:So Isobe


5合目の平坦区間では、溜めてきた力を使いながら、ロングスパートを開始 photo:So Isobe

1合目付近で工事により少々のストップがあったが、66分10秒でフィニッシュ。本気で悔しいけれど、本番に向けて好感触 photo:So Isobe

全力で踏んでみた結果は66分10秒。おお、1合目付近で工事ストップがあったことを考えれば上々のペース。試走は単独だったけど、本番は集団で走れる分、ドラフティングで多少タイムは稼げるはず(たぶん)。でも試走のほうがタイムが良かった――なんてことも珍しくないので油断は禁物。最初は抑えて、緩斜面や平坦でペースを上げる走り方が富士ヒルタイム短縮のコツだと思う。

レース1週間前。調整は“攻めすぎず、崩さず”

この1週間は、むしろ“引く”タイミングだ。疲労を抜きながら、強度は維持する。トレーニングは3日前までに終え、2日前からは完全レストかアクティブレスト。前日は脚を回して、短い刺激を数本だけ。食事は控えめに、消化のいいものを選ぶ。早朝レースだから、当日の食事タイミングは3時台。眠いけど、ここは外せない。

初乗りとは思えないほどMadoneは扱いやすい。最後はちょっと踏み負けちゃったけど...。 photo:So Isobe

早朝だと食欲は湧きにくいけれど、おにぎりを1~2つほど入れておきたい。消化しづらい油っこいものや、食物繊維が多く含まれている生野菜などは控えるように。スタートまでにスポーツゼリーやバナナなど消化の良いもので補給しておこう。

富士ヒル公式サイトにあるタイム相関表をプリントして貼り付けました。おすすめ! photo:Michinari TAKAGI
ゴールド狙いであれば1時間5分で走り終える計算になる。レース中には何が起こるかわからないため、ヒルクライム中にも補給できるように、保険でスポーツジェルを背中のポケットに入れておくのもよい。多少の重量増となるけれど、お守りとしてそれ以上の効果があると思う。

ゴールは五合目。標高は2,300m近く。風も冷たく、天候も変わりやすい。防寒装備はマストだ。とにかく預け荷物にはありったけの冬装備と、下山までに食べられるおやつと、あったかい飲み物を詰め込んで。薄着のまま余韻に浸っていたら、一瞬で身体が冷える。そこから風邪をひいたら、翌日のお仕事がパーになってしまうから。

あと少し。ジブンを、超えられるか

残された時間はわずか。でも、まだできることはある。バイクのチェック、体調管理、そして気持ちの準備。「今回は無理かもしれない」そんな弱気が、頭をよぎる瞬間もある。でも、挑戦しない限り、何も得られない。いま、自分がどこまでやれるのか。それを確かめるために、富士山の坂道へ挑みます。

参加者の皆さん、「#ジブン超えチャレンジ」、共に頑張っていきましょう!特に、第3スタートでゴールドを目指す方は、共に走りましょう。

#ジブン超えチャレンジ

text: Michinari TAKAGI
photo: So Isobe

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