8年ぶりのフルモデルチェンジを果たしたブリヂストンのロードタイヤ"EXTENZA"。今回は、その実力をチームブリヂストンサイクルの選手として活躍し、現在はブリヂストンサイクルに籍を置く徳田優とCW編集部員の高木によるインプレッションを通してお伝えしていこう。



8年の時を経て全てが変わった ブリヂストンのフラッグシップロードタイヤ EXTENZA

今回、インプレライダーを務めた二人。徳田優(右)は昨年までチームブリヂストンサイクリングに所属してきた。CW編集部員である高木三千成(左)も那須ブラ―ゼンやさいたまディレーブなどトップチームでの経験を持つ。同じレースを走ってきたライバルだ。

CW:久方ぶりのモデルチェンジとなったEXTENZAですが、長きにわたって愛用してきた徳田さんにとって、新型はどのようなタイヤですか。

徳田:一言にまとめてしまうと「レースに使えるタイヤ」ですね。

前作ももちろん良いタイヤだったのですが、やはりあの時代はレースタイヤ=チューブラー、という認識でした。それが今やチューブレスが主流になり、名実共にレースで選手が使うタイヤへと生まれ変わりました。開発の際には色々とフィードバックもしていて、本当に選手の目線や欲求に寄り添ってもらったな、という実感があります。

「トレッド幅はプロのコーナーでのバンク角に対応する幅を持たせている」徳田優(ブリヂストンサイクル)

CW:具体的にはどういったフィードバックが反映されましたか?

徳田:一番初めに伝えたのが、トレッドの幅についてですね。最初のテストが広島の森林公園だったのですが、完全にトレッド幅を使い切ってしまって、ケーシングに走った痕がはみ出していました。そこで、もっと倒しこんでも問題ないようなトレッド幅を確保してほしい、という要望を出したんです。

新しいETRTO規格に対応する、というのは新型の開発初期からの方針だったのですが、近年各ホイールメーカーのリム内幅がETRTO規格よりも更にワイド化されているため、結果としてトレッド幅が足りなくなってしまいました。

CW:しっかり走れ、タイヤの限界を引き出せるテストライダーの存在は大きいですね。前作では、3モデルがラインアップされていたのが1モデルに統合されたのも選手からの要望でしょうか。

「新型R1Xは従来のR1SやR1Gの領域もカバーできるマルチタレントなタイヤ」徳田優(ブリヂストンサイクル)

徳田:R1Sは軽いけどパンクしやすかったり、R1Gは逆にグリップは良いんですが重く感じたりと、キャラクターが強めだったんです。結局、R1Xのバランスの良さというのは魅力的で、基本的にはずっとR1Xばかり使っていたという実情がありました。

今回のモデルチェンジでは、新しいコンパウンドのおかげもあって、転がりもグリップも耐久性も同時に向上させることが出来たので、SとGが担っていた領域もしっかりとカバーできるようになっていると感じました。

CW:ブリヂストンとしては初のロード用チューブレスタイヤですが、その印象はいかがですか。

徳田:個人的にはチューブレスタイヤって、気密性を確保する兼ね合いかビード周りが厚くなり、しなやかなケーシングとのギャップを感じるモデルが多かったんです。その影響で、空気圧を下げるとタイヤの潰れ方がぎこちなくなることがあります。

でも、このEXTENZAはそういったネガティブな部分を全く感じないですね。そのしなやかさは装着時からも明らかで、全くタイヤレバーの出番がないんです。それでいて気密性もしっかりしていて、フロアポンプでもバッチリビードが上がるというのは驚きました。

セッティングの幅が広いバーサタイルレーシングタイヤのR1X

8年ぶりのモデルチェンジを果たしたEXTENZA。フラッグシップのR1X、セカンドグレードのR2Xが揃う

CW:実際の走りにおいて新型のR1Xはどういった強みを感じますか

徳田:コンパウンドの柔らかさ、ケーシングのしなやかさ。この2つの相乗効果によって、非常に多彩なセッティングが可能になっているのが、R1X最大の特徴だと思います。

最近はフレームの剛性も上がって、タイヤのエアボリュームも増えて、という流れがある中で、基本的には空気圧は低めで乗っている人が多くなってますよね。ケーシングがしなやかなので、しっかりとタイヤ全体を潰して、快適性とグリップを得ていくセッティングももちろんカバーしています。

一方、高圧なセッティングにすればコンパウンドの柔らかさが際立ちます。タイヤ剛性を確保しながらコンパウンドで地面を捉えていく、という乗り方も新型EXTENZAは可能としています。

徳田と高木、体格も走りのスタイルも異なる2人だが、新型EXTENZAのセッティング幅の広さは好対照の2人をもカバーする

高木:確かに懐の広いタイヤだと感じました。新しいタイヤを使う時は、最大空気圧から落としていって良い所を探しますが、新型EXTENZAはMAX近い空気圧でもしっかりグリップしてくれる感覚がありました。

CW:実際お二人はどのようなセッティングが好みなのでしょうか

徳田:自分は路面からの情報をダイレクトに受け取りたいので、高めが好みなんです。ロードインフォメーションがしっかりと手や身体に伝わってこないと、逆にギクシャクする感じがあって、28Cで7気圧くらい入れる時もあります。ちなみに体重は75kgですね。

高木:私は59kgで、4.7気圧くらいが好みでした。冬場はCXに出ていることもあり、タイヤ全体に仕事をさせて走らせるタイプなのですが、4.5気圧まで落とすとちょっと崩れる感じがあったので、気持ちプラスして、というセッティングです。

28Cで実測27.3mm。少し細めでクラウンRが小さくなっている。

徳田:タイヤ断面の形状としては、クラウンRが若干小さいんです。その分、ケーシングを潰すような乗り方でも接地面が極端に大きくなりづらくて、走りの軽さを確保できるんです。

高木:確かに低圧で運用していても野暮ったさは感じなかった。転がりもそうですけど、バイクを倒した際の挙動も軽かったです。とくに、S字でバンクさせて、逆のコーナーに切り返す、というようなシチュエーションでも鋭く反応してくれます。

徳田:特に今はタイヤの値段も高騰してきていますよね。用途やシーンに応じて、いくつものタイヤを使い分けるよりも、一つのタイヤで様々な使い方が出来る方が良いと考えています。新型R1Xなら、セッティング次第でR1Sのような走りも、R1Gのような走りもカバーできる。それでいて、パンク耐性も耐久性も高いという。

体重がいくつならこの空気圧!とオートマチックに決まるのではなくて、体重も含めてライダーそれぞれがそのライドスタイルや走る場所、季節や天気によって柔軟に対応するべきなのがタイヤセッティングです。そのマニュアル感をぜひ楽しんでほしいですね。

「低圧セッティングでも野暮ったさは感じない。切り返しもスムーズな身のこなしが印象的」高木三千成(CW編集部)

高木:最近のロードバイクはどんどん統合化が進んでいっていて、あまり手を入れられる場所が減ってきていますよね。その中で、タイヤというのは非常に多くの選択肢が残されているパーツですよね。しかも自転車の中で唯一地面に接していて、乗り味にとても大きな影響を与える部位でもあります。

そんなタイヤとの付き合い方を学ぶことが出来るという意味で、この新型EXTENZAはとても面白い存在だな、と感じました。あと、最近はタイヤも高いですから、この一本でいろんな楽しみかたが出来るというのは、お財布的にも嬉しいですね。

コンパウンドは共通するR1XとR2X その使い分けとは

CW:新型コンパウンドは新しいEXTENZAシリーズの2グレードに共通とのことですが、どういった基準で使い分けると良さそうでしょうか

徳田:R1XとR2Xの違いはケーシングで、R1Xチューブレスレディが170TPI、R1Xクリンチャーが120TPI、R2Xが60TPIになります。また、R2Xのパンクプロテクターがナイロン製なのに対し、R1Xはケブラー製となっていて突き破りにくさを向上させています。結果として、R1Xのほうがより薄く、しなやかな乗り味になりますね。あとチューブレスレディの設定はR1Xのみとなるのが大きな違いですね。

170TPIケーシングによりしなやかさを前面に出すR1Xチューブレスレディ。特に低圧で運用したいという方にはR1Xがオススメだと徳田さん

高木:今回どちらのモデルもテストさせてもらった印象だと、思ったよりも差が少なくて驚きました。厳密にはR1Xはチューブレスで、R2Xはクリンチャーでのテストだったので、やはり乗り心地なんかはR1Xの印象が優っているんですが、タイヤ形式の差も考慮すればR2Xの性能は相当高いレベルにある。

正直、R2Xだけ渡されて新型のR1Xですよと言われても、普通に信じてしまいそうなほど、レーシングタイヤらしい走り心地に仕上がっています。

徳田:走りの軽さという部分では、両者はほぼ互角ですね。レースを走れる、というコンセプトはR2Xにも貫かれていて、どちらもレースタイヤとしての性能を与えられています。

R1Xが、レースユースの中での使い方の幅を広げてくれるタイヤとすれば、R2Xはタイヤの使い方自体の幅が広いモデルだと言えるでしょう。ケーシングも丈夫ですし、トレッドもR2Xのほうが厚めに設定されているので、レースだけでなく週末のライドや練習、日々の通勤でも気兼ねなく使いやすいのはR2Xです。

ハイエンドモデルと同じコンパウンドを用いるR2X。レースタイヤとしての性能と普段使いも出来る耐久性を兼ね備えたハイパフォーマンスモデルだ

高木:個人的にはよりグリップを求めたいようなシチュエーション、例えば雨のレースなんかだとR1Xを低圧運用したいですね。一方で、そんなシビアなコンディションではそもそも乗らない、という方であればR2Xがぴったりだと思います。

正直、価格差を考えるとR2Xは非常に大きな魅力を持ったタイヤだと思います。

CW:なるほど。新EXTENZAの魅力がとてもよく分かりました。最後に一つ質問なのですが、新モデルでロゴが目立たなくなってしまったのが残念だという声が編集部でも多く上がっていました(笑)。これは何か理由があるのでしょうか。

旧モデルと比べるとロゴはかなり大人しくなった新型EXTENZA。実はこれには理由があって……

徳田:実はこれはトレッド幅を広げた結果なんです。新しいETRTO規格に適合しようとすると、どうしてもタイヤサイドのスペースが狭くなってしまいます。その上、僕らがトレッドをもっと広くしてほしいという要望を出した結果、よりスペースが減り、ロゴを入れられる面積が少なくなってしまったということなんです。つまり、僕のせい……?(一同笑)

逆に言えば、どんなホイールやバイクにもマッチしやすいということで、新型EXTENZAの性格を表したようなデザインだと思っていただければ。

高木:確かに、あえて個性を押し出さずに溶け込んでいくような、ブリヂストンらしい質実剛健なイメージに仕上がっていると思います!

ブリヂストン EXTENZA



ブリヂストン EXTENZA R1X クリンチャー
サイズ/重量:25C/215g、28C/235g
パンクプロテクター:ケブラー
ケーシング:120TPI
価格:11,000円(税込)

ブリヂストン EXTENZA R1X チューブレス
サイズ/重量:25C/295g、28C/320g
パンクプロテクター:ケブラー
ケーシング:170TPI
価格:13,000円(税込)

ブリヂストン EXTENZA R2X クリンチャー
サイズ/重量:25C/245g、28C/270g、32C/310g
パンクプロテクター:ナイロン
ケーシング:60TPI
価格:8,200円(税込)

photo:Naoki.Yasuoka