リドルを新たなタイトルスポンサーに迎え、今年過去最多となるチーム42勝を飾ったリドル・トレック。自身も12勝したマッズ・ピーダスン(デンマーク)に、チーム躍進の理由を聞いた。



ジャパンカップ出場のため来日したマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)は早々にリタイア photo:Makoto AYANO

「お金だよ」とピーダスンは即答した。「今年チームが勝利を量産した理由は?」と言い終えた直後に、悪戯っぽい笑みと共に。

「優秀な選手を獲得できたことも大きいし、何より『僕らは予算のあるチームだ』というマインドセットは選手たちのモチベーション向上に直結する。また、1人が勝ち始めるとそれを見たチームメイトが影響を受ける。その良い連鎖が42勝という結果に繋がったのだろう」。

2019年に23歳でロード世界選手権を制し、いまや「登れるスプリンター」の代名詞となったマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)。緩斜面での集団スプリントはもちろん、今年パリ〜ルーベでの3位入賞が表すように、悪路や混沌としたレースでもその強さが光る。特にサバイバルなレースの精鋭集団にピーダスンが入ると、スプリントを嫌った選手たちの独走アタックを誘発させるほどの存在だ。

2024年10月20日に行われたジャパンカップに出場するべく来日したピーダスンに、今シーズンの総括や新スポンサーによるチームの変化、今年投入された新型MADONEについて語ってもらった。

今年は嬉しくも、悔しさ残るシーズンだった

ファンデルプールをマッチスプリントで下し、2度目のヘント優勝を果たしたマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) photo:CorVos

ピーダスン:ヘント〜ウェヴェルヘムで2度目の優勝をするなど、シーズン前半の調子は良かった。ロンド・ファン・フラーンデレンは勝てず、パリ〜ルーベでは3位で表彰台に上がった。僕の思い描いたもの近い結果だったものの、本音を言えばもっと活躍したかった。

その後もクリテリウム・デュ・ドーフィネの初日で勝った。だがマイヨヴェールと区間優勝を狙っていたツール・ド・フランスでは落車し、リタイア。理想とはほど遠い結果に終わったよ。

左肩を負傷し、ツールを途中棄権したピーダスン photo:CorVos

―その後はデンマーク代表としてパリ五輪に出場しました。

リタイア後すぐに家に戻り、目標を五輪に切り替えトレーニングに励んだ。だがそのレースも予想通りには進まなかった。*ロード20位

シーズン12勝(3つの総合優勝を含む)は素晴らしい数字ではあるものの、狙ったレースで勝ったわけではない。嬉しいと言えば嘘になるし、だからと言って決して悪いシーズンではないという印象かな。

今季はジョナサン・ミラン(イタリア)と共に勝利を量産したピーダスン photo:CorVos

―今年は新加入のジョナサン・ミラン(イタリア)が11勝、21歳のティボー・ネイス(ベルギー)が9勝とチームは躍進しました。チーム創設以来最多となる、シーズン42勝できたのはなぜだと思っていますか?

お金だね。

―2023年6月にリドルがタイトルスポンサーについたことで、チーム予算が増額したということですね。具体的に何が変わったのですか?マッサーが選手一人一人についたとか?

いいや、現場よりもパフォーマンス・チームのスタッフが増えた。それに若く才能のある選手を獲得できたことも大きい。彼らの才能を伸ばす環境が整ったことで、多くの選手が目指すチームになった。なぜなら僕らは勝ち星を重ねており、成功は人を惹きつけるのだからね。

―お金が増えたことで、選手たちのモチベーションも…

それはそれは空高く上がっていったよ!(笑)

ジャパンカップクリテリウムでチーム4連覇を成し遂げたリドル・トレック photo:Kei Tsuji

―スポンサーが変わり、チームの空気がガラリと変わりましたか?

いや、変化は徐々に生まれていった。でも「うちのチームには潤沢な資金がある」というマインドセットは選手たちのモチベーションに直結する。それにチームではあらゆる分野で改善が行われていった。

―改善という面では、今年のツールに合わせてトレックの新柄MADONEが投入されました。それも好調だった要因になっていますか?

トレックは常に改善を試みており、以前のMADONEも良いバイクだったので勝利数の増加にもたらした影響は少ないだろう。なぜなら旧MADONEで走っていたシーズン前半も多く勝利を挙げていたからね。でも新しいバイクはいつだって気持ちよく、このバイクで走るあと2年間も多くの勝利が期待できるだろう。

―MADONE SLRの印象は?

とにかく軽いね。おそらく800gぐらいは軽くなっているはずだ。

―空力性能や快適性は?

体感的に軽さ以上の変化はあまり感じられない。だがエアロボトルの導入など多少は速くなっているはず。快適性も僕が感じるほど(の違い)はないかな。

2023年ツールで区間優勝を掴んだピーダスン photo:So Isobe

―過去ヴィンゲゴープリースパイタースンに対し、デンマーク人選手の強さの秘訣を伺ってきました。ずばり何故だと思いますか?

分からないよ。なせならヴィンゲゴーがどういうトレーニングをしているか知らないからね(笑)。

でもデンマーク人が自転車界で目立ち、様々なチームに所属しているのは良い流れだ。デンマーク人の魅力が広まり、より多くのデンマーク人がプロトンで活躍できるようになった。

デンマーク人が強いのはデンマーク籍のチームが育成に成功しているからかな。世界トップを目指すことのできる才能が多く発掘され、「評判の良いデンマーク人に対しワールドチームがチャンスを与える」という良い循環が確立された。

―デンマークで若い選手と練習する機会はありますか?

全くない。僕は自分のトレーニングに集中しなければならないから、そんな時間はどこにもないんだ。

―つまり、まだ若手に対しメンターのような振る舞いをする年齢ではないと?

その通り(笑)。

text:Sotaro.Arakawa
photo:Yuichiro Hosoda