6月29日(土)に開幕を迎える第111回ツール・ド・フランス。中級山岳ステージで始まり個人タイムトライアルで幕を閉じる本大会で、総合優勝の証マイヨジョーヌを掴むのは誰か。ヴィンゲゴーやポガチャル、ログリッチやエヴェネプールなど有力候補をプレビューします。



ツール・ド・フランス2023総合表彰台:2位タデイ・ポガチャル、1位ヨナス・ヴィンゲゴー、3位アダム・イェーツ photo:CorVos

イエロージャージを意味するマイヨジョーヌは総合リーダーの証。個人総合成績首位の選手だけが着用を許される栄光のジャージであり、総合優勝者は最終日ニースの表彰台でマイヨジョーヌを受け取ることになる。簡潔に説明するならば、開幕する6月29日(土)から7月21日(日)までの総距離3,498kmを最も少ない時間で走った選手が総合優勝に輝く。

仮に総合成績の上で2名が同タイムの場合は、個人タイムトライアルの成績を1/100秒のタイムまでさかのぼって比較し、それでも同タイムの場合は全ステージの順位の合計が少ない選手が上位に。それでも決まらない場合は最終ステージの順位で決定する。

2023年大会では第6ステージからマイヨジョーヌを守り抜いたヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク) photo:A.S.O.

第13回大会の1919年から続くマイヨジョーヌは、1987年から一貫してフランスのLCL銀行(コーポレートカラーも黄色)が今年もジャージのスポンサーを務める。もちろん毎ステージのマイヨジョーヌ着用者に与えられる「ライオンのぬいぐるみ」も健在だ。

また各ステージでは順位に応じたボーナスタイムが与えられ、ステージ1位の選手は10秒、ステージ2位の選手は6秒、ステージ3位の選手は4秒のタイムが総合時間からマイナスされる(個人TTは除く)。また計4つのステージ(第2、4、11、17ステージ)ではカテゴリーがついた山岳にもボーナスタイム(1位:8秒、2位:5秒、3位:2秒)が加算されるため、各チームの戦略に影響を及ぼす。



ヴィンゲゴーとポガチャルに対し、ログリッチとエヴェネプールはどう挑む?

自身やチームメイトの度重なる怪我のなか、3連覇を目指すヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos

2022年、23年と2連覇中のヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)にタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が挑む。その単純な構図が崩れたのは、4月に行われたイツリア・バスクカントリーでのことだった。

多くの選手を巻き込んだ落車により鎖骨と肋骨を骨折したヴィンゲゴーは、後に肺挫傷と気胸を負っていることを発表。しかしここからヴィンゲゴーは僅か1ヶ月後に練習復帰すると、驚異的な回復により高地トレーニングからツール出場にこぎつけた。本人は「状態は良く、モチベーションも高い」と語っているものの、ツールが実戦復帰となるため3連覇を狙えるコンディションであるかは不明なままだ。

世界トップの戦力でツール奪還狙うポガチャル

豊富なチーム戦力を整え、ダブルツールを狙うタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

一方、達成すればマルコ・パンターニ(1998年)以来のダブルツールを目指すタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)は今季絶好調。81kmの独走勝利を飾った今年3月のストラーデビアンケを皮切りに、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでも34kmの独走優勝。そして臨んだジロでは総合2位に約10分の差をつけて総合優勝(区間6勝)を飾るなど、文字通り敵なしの強さを誇っている。

開幕前日の記者会見ではジロ後、コロナに感染していたことを告白したものの、「深刻な状態にはならなかった」とベストコンディションであることを強調。そしてポガチャルは今季の好調ぶりに加え、ツール奪還の追い風となっているのが他を圧倒するチーム力だ。

前哨戦であるツール・ド・スイスで敵なしの強さを誇ったアダム・イェーツとジョアン・アルメイダ photo:CorVos

なぜならヴィスマはヴィンゲゴーの2連覇に大きく貢献したセップ・クス(アメリカ)が体調不良で不出場。そのためウィルコ・ケルデルマン(オランダ)と若手注目株マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ)が山岳アシストの大役を務めるものの、UAEは昨年総合3位で前哨戦のツール・ド・スイスを制したアダム・イェーツ(イギリス)と好調のジョアン・アルメイダ(ポルトガル)が揃う。またUAEにはパヴェル・シヴァコフ(ロシア)や若手のフアン・アユソ(スペイン)など豊富な山岳アシストがいるため、戦力的にユンボを上回る。

悲願の総合優勝を狙うログリッチと初出場のエヴェネプール

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエとチーム名&ジャージを改め登場したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア) photo:CorVos

チーム戦力で言えば新たなタイトルスポンサーを迎えたレッドブル・ボーラ・ハンスグローエも、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)を中心に強力なメンバーを揃えてきた。他チームならばエースであろうジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)とアレクサンドル・ウラソフ(ロシア)は献身的な山岳アシストが期待される。またログリッチ本人も前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネでは最終日の山岳で遅れる姿を見せたものの、ステージ2連勝とその実力を見せつけた。

そして先述した3名と合わせビッグ4の一人と数えられるのが、現タイムトライアル世界王者であるレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)だ。チームはスプリントなどステージ優勝狙いから一転、今年は自国のスター選手エヴェネプールのために総合系チームへと変貌。ただクライマーのミケル・ランダ(スペイン)を補強したのみと、戦力はライバルチームと比べると物足りない。

ツール初出場で総合優勝を狙うレムコ・エヴェネプールとアシストを担うイヴ・ランパールト(共にベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:A.S.O.

またエヴェネプールもヴィンゲゴーと同じ落車により、今年4月に鎖骨と肩甲骨を骨折。ドーフィネでは個人TTで区間優勝こそしたものの、山岳ステージでは早々と遅れるシーンが目立った。そのため山岳を耐え、第7と21ステージの個人TTでタイムを稼いで成功を狙う。

ロドリゲスとベルナルを揃えるイネオス

ベルナルとロドリゲスを擁するイネオス・グレナディアーズ photo:CorVos

イネオス・グレナディアーズは4月のツール・ド・ロマンディで総合優勝を果たした23歳のカルロス・ロドリゲス(スペイン)が中心となる。調子次第ではダブルエースを担うエガン・ベルナル(コロンビア)とジロから連戦のゲラント・トーマス(イギリス)という2人の総合優勝経験者に加え、ベテランアシストのミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)が若き総合エース支える。またトーマス・ピドコック(イギリス)もジョーカーとしては面白い存在だ。

山岳では前年の総合4位サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー)やフランス期待のダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)、リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)の走りにも注目。そして昨年チームで3勝を挙げたバーレーン・ヴィクトリアスはペリョ・ビルバオ(スペイン)と24歳サンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア)が総合争いの中心となる。

現役最後のツールに臨むロマン・バルデ(フランス、DSMフィルメニッヒ・ポストNL) photo:CorVos

また総合表彰台に過去2度上がっているロマン・バルデ(フランス、DSMフィルメニッヒ・ポストNL)は今大会、総合ではなくステージ優勝を狙う予定。開幕直前に来年のドーフィネでの引退とグラベルへの転向を発表したため、これが最後のツールとなる。
歴代のツール総合優勝者
2023年 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)
2022年 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)
2021年 タデイ・ポガチャル(スロベニア)
2020年 タデイ・ポガチャル(スロベニア)
2019年 エガン・ベルナル(コロンビア)
2018年 ゲラント・トーマス(イギリス)
2017年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2016年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2015年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2014年 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)
2013年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2012年 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス)
2011年 カデル・エヴァンス(オーストラリア)
2010年 アンディ・シュレク(ルクセンブルク)※コンタドール失格による繰り上げ
2009年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2008年 カルロス・サストレ(スペイン)
2007年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2006年 オスカル・ペレイロ(スペイン)※ランディス失格による繰り上げ
2005年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2004年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2003年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2002年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2001年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2000年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1999年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1998年 マルコ・パンターニ(イタリア)
1997年 ヤン・ウルリッヒ(ドイツ)
1996年 ビャルヌ・リース(デンマーク)
1995年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1994年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1993年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1992年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1991年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1990年 グレッグ・レモン(アメリカ)
text:Sotaro.Arakawa