2023年初頭にロードバイクラインアップを一新し、ロードレーサーをFシリーズとして統合したピナレロ。フラッグシップDOGMA Fに次ぐグレードのレーシングモデル"F9"をインプレッション。妥協せず開発が行われたセカンドグレードの実力に迫る。



ピナレロ F9

トッププロ選手が使用するフラッグシップモデルを頂点とし、そのテクノロジーや開発で得た知見を波及させるミドルグレード、エントリーグレードとピラミッド型の製品展開が形成されがちなロードバイクのラインアップ。ピラミッド的プロダクト構成の象徴的な例はフレームのモールドはハイエンドと共通で、カーボンレイアップを調整することで価格のバランスを整えたミドルグレードと同じフレームと言っても良いだろう。

このラインアップを形成することで、数多くのサイクリストが最先端のテクノロジーやルックスのバイクを手にすることができるという恩恵を預かってきた。今回テストを行ったピナレロのF9も、DOGMA Fを最高峰とするピラミッド構造に当てはめるとするとセカンドグレードという言葉と説明できそうだが、その実は単なるセカンドグレードではないと言っても過言ではない。

ピナレロらしい滑らかな曲線を描くシートステー
カムテールデザインのダウンチューブが採用された
ピナレロが誇るONDAフォークが採用される



つまりピナレロは本気でF9をレーシングバイクとして開発しており、DOGMA Fに次ぐモデルだったとしても高い戦闘力を誇るマシンを実現している。もちろんDOGMA Fはイネオス・グレナディアーズと共に勝利を掴むため、チタン3Dプリントなど徹底してマージナルゲインを稼いでいるスペシャルなバイクとしての立ち位置も変わらない。どちらも競技においてライダーを支えることが主眼に置かれていることが共通項だ。

2023年初頭にローンチされたピナレロの最新作でもあるF9は、これまでのミドルグレードを凌駕するルックスにまとめられている。スケッチから新型を生み出すピナレロの美意識が反映されておりDOGMA Fと見間違えるほどだが、その細部はF9のためにデザインが起こされている。剛性の調整などでバランスを崩すミドルグレードが多い中で、整ったルックスのF9はユーザーの所有欲を満たすだけの美しさがある。

エレガントな出立ちに性能を加えることがピナレロの得意技だ。F9でもコンピューターによるCFD(数値流体力学)解析と風洞実験を通してエアロダイナミクスの開発を行なっており、その性能はDOGMA Fに近づけられている。そして、この徹底した開発手法こそが先述した単なるセカンドグレードではない理由の一つだ。

サドルもセルフプロデュースのMOST Aircross
MOST Talon Ultra Lightがセットされている


カムテールのチュービングによって高い空力効果を発揮する
スリムなヘッドチューブでエアロ性能を高めている



形状面から見てもこれまでセカンドグレードを担ってきたPRINCE FXなどと比較してもF9はDOGMA Fにより似ており、カムテールデザインのチューブとフォークフラップ、ボトルと同等幅のチューブなど、そしてONDAフォークの曲がり方などがそっくり。ケーブル内装システムを採用したTALON ULTRAが搭載される点においても同様のスペックであり、エアロに関しては高い性能を備えている。

非常に薄く作られたシートポストは実物をチェックするとそのシャープさに驚き、空力への期待が一層増すほど。シートポストを薄くするために、これまでシマノDI2のバッテリーはシートポストに収められていたが、今作ではボトムブラケットシェル部分に移動させ、シートポストクランプの小型化による影響など、細かい部分の設計を煮詰めることで薄いシートポストを実現した。この細部に至るまで開発を行うことがピナレロのきめ細やかさを物語っている。

大きな造形のBBシェル周りが高い剛性を実現する
エアロと剛性のバランスを整えるシートステー集合部



F9がDOGMA Fに迫るマシンとして開発されているものの、DOGMA Fはブランドを象徴するマシンだけあり採用されている素材などはプレミアムなものばかり。特に炭素繊維メーカーの東レが開発する高弾性カーボンT1100が採用されていることはポイントの一つだが、F9ではT900を採用しセカンドグレードとしてのバランスが整えられている。

一方でF9はトップエンドと同じモールドを採用せず、F9は独自のフレーム形状としているためT900での最大パフォーマンスを発揮する設計が行われていることは忘れてはならない。ピナレロのDNAであるアシンメトリーなシートステーとチェーンステーは健在であり、それをF9用にチューニングしており、シンメトリーなライディングフィールを実現する。

ピナレロのライディングフィールへの追求はライダーが第一に考慮されていることもポイントだ。フレームの造形だけではなく、ジオメトリーを各サイズで徹底的に調整しているため、フレームサイズが異なるがチェーンステー長は全て揃えるという設計は行わず、406~410mmの幅でジオメトリーの開発が行われている。さらにサイズ自体も9種類も用意しており、ライダーが最大のパフォーマンスを発揮できるポジションを実現させられるようになっている。DOGMA Fは更に多いため、ピナレロの姿勢は自ずと伝わるはずだ。

非常に薄いシートポストで空気抵抗を削減している
ボトルを装着する部分のダウンチューブはワイドになり、エアロダイナミクスを向上させる
滑らかな曲線を描くヘッド周り



またDOGMA Fが最大28mmのタイヤに対応しているが、F9では最大30mmまでのクリアランスを備えていることも違い。レースでは25C〜28Cを使う選手が多くなってきたが、それよりも幅広のタイヤを装備可能とするのは、エッジーなレーシングバイクであるDOGMA Fに対して、F9はより汎用性が高いことを示している。

そんなピナレロの新型レーシングバイク"F9"は、シマノが誇るフラッグシップコンポーネントDURA-ACE DI2(R9200系)で組み上げられた完成車として販売される。コックピットのMOST Talon Ultra Light、サドルのMOST Aircross、ホイールのMOST Ultrafast 40という自社プロデュースのパーツが多く搭載されており、重量は7.29kg。価格が1,606,000円(税込)のバイクの実力に迫ろう。



−インプレッション
「DOGMAの次点としてでなく、一つのレーシングモデルとして魅力に満ちている」磯部聡

何がいいって、全部良い。走りも良いし、造形も良い。ペイントも良い。パッケージも良い。でも、一つだけありました、欠点。タイヤにはトップモデルをつけてもらいたかったですね。ピレリのP7がついていましたが、このバイクのパフォーマンスであればP ZEROが相応しいと思います。それ以外は完全無欠。

「DOGMAの次点としてでなく、一つのレーシングモデルとして魅力に満ちている」磯部聡 photo:Kenta Onoguchi

走りを一言でいえば、軽いバイクです。軽くて、硬くて、前に前に進んでいく、絵に描いたようなレーシングバイク。硬さが裏目に出て、高出力じゃないと気持ち良くないというバイクも多いですけど、F9は流している時から気持ち良いですね。出力が高くても低くても、ペダルがストンと落ちて、後輪に力が伝わっていく。このバイクの気持ちよさを味わえるのは、レーサーだけじゃないですよ。

軽さというのはペダリングに対してだけでもなくて、全体的な挙動についても言えますね。特にハンドリングは非常に軽快でした。下りが好きな人にはたまらないフィーリングでしょう。

定常円旋回では安定していて、そこから倒したり起こしたりする時に、姿勢制御がとてもスムーズ。この挙動の軽さはDOGMA Fと共通するものですね。確かに、DOGMA Fと比べると最後の最後の部分で少し重さを感じる部分はどうしてもあるけれど、紙一重と言っていいレベルに肉薄しています。これが他社のハイエンドモデルとの比較になれば、本当にその立ち位置を喰っちゃうような、それだけの性能がありますよ。

前作となるプリンス FXだと、グレード間の差というのはもっと明らかでしたけど、今回のF9はそういった、いわゆる車格の違いというものが非常に希薄になった気がします。それは、走行性能だけでなくて、フレームの造形面にも言えることです。

「自転車に目を落とすと惚れ惚れする。そんなスタイリングの良さも魅力」磯部聡 photo:Kenta Onoguchi

他のブランドのセカンドグレードだったら、型は共通でカーボンをダウングレードしてお茶を濁すところも多いけれど、F9はそもそも形状が違う。もちろん全体的なテイストは受け継いでいるけど、形状自体は全く新しいデザインだから。

例えば信号待ちで、自転車に目を落とすと惚れ惚れする。ダウンチューブのヘッドチューブ側のくびれている部分とか、たまらないよね。思わず写真を撮りたくなるもん。そこにシルバーメタリックのロゴがあって、かっこいいよね。

なんというか、DOGMAと言われれば納得しちゃう雰囲気がある。ペイントの質もとても艶やかだし。その一方で、空力の面でDOGMA Fよりも進化している部分もいくつかあるということで、このF9は今のピナレロの最新レーシングバイクだという位置づけでもある。

なので、これまでのセカンドグレードという存在に対する先入観が覆されるバイクでした。ハイエンドバイクに手が届かないから、セカンドグレードを我慢して買う、みたいなイメージってあると思うんですけど、このF9は違います。F9が良いから、F9を買う。それだけの魅力を持ったバイクですね。


「ある意味でピナレロの中でも最もレーシングバイクらしい一台」高木三千成

DOGMA Fとはまた違った方向性の走りが面白いですよね。ある意味、このF9のほうがレーシングバイクらしいとすら感じてしまうような乗り味が印象的でした。

DOGMA Fは、硬さの中に軽やかな加速感があって、出力が低めの段階からでもその良さを味わえるような味付けだったのですが、F9はもっと高出力域にフォーカスを当てたような乗り味に仕上げられています。

「ある意味でピナレロの中でも最もレーシングバイクらしい一台」高木三千成 photo:Kenta Onoguchi

剛性感という言葉で表すなら、トップモデルのDOGMAよりもF9のほうが剛性感は上だと感じましたね。グイグイ踏みつけていってもビクともしないような、がっしりとした剛性感で、パワーや体重のあるライダーはF9のほうが好みという人も多いでしょうね。

ただその分、割と脚へも返ってくる感覚はありますね。綺麗に回していくようなペダリングであれば、そういった反動も感じませんから、そこのマネジメントも含めて乗りこなす楽しみというのも味わえる一台だと思います。

例えば、この区間はおとなしく回しておいて、その先でアタックしよう、というような計画を自然に考えさせてくれます。いざアタックを掛ければ、その溢れんばかりの剛性感がペダリングを受け止めてくれて、どんどん前に前に進んでくれます。

エアロダイナミクスについても、DOGMA譲りの基本設計が効いていると感じますね。20km/hからでも空気ぬけの良さは感じますし、40km/hを越えてくれば明らかに巡航が楽だと感じます。

巡航性能という側面から言えば、直進安定性も抜群に良いですね。手放しでもビシっと真っすぐ進んでいくので、高速走行でもストレスが少ない。その点も、レーシングバイクらしく、想定速度域が高めであることを窺えるポイントでした。

「どれだけ踏んでも踏み負けないようなバイクを求めているスプリンターにオススメ」高木三千成 photo:Kenta Onoguchi

剛性感の高さはハンドリングにも良い影響を与えていて、バイクを倒そうとするときに、ハンドルからヘッドチューブ、フォークまでのラインが一切撓むことが無いので、タイムラグがゼロなんですよ。曲げようと思った時には、曲がっている。

アセンブルされるホイールもかなり剛性高めで、バイク全体のテイストとしてもかなりスパルタンに仕上げられていると感じました。逆にいえば、軽量級ライダーが乗るのであれば、もう少し逃げの部分をホイールで作ってあげると、より乗りやすくなるのではないでしょうか。

ここまで、硬いバイクだと散々言ってきましたけど、快適性は意外に高いんですよね。そこが面白い点でもあって、路面からの突き上げもマイルドだし荒れた路面でも跳ねづらいんです。チューブレスタイヤのおかげかな、と思っていたらクリンチャーで驚きました。しかもピレリのP7というミドルグレードタイヤがついているので、上位モデルへと交換すれば更にライドフィールを向上させる余地もあります。価格を考えれば、ハイエンドタイヤがついてきても良いとは思いますが、このレーシーな乗り味のバイクに、更に伸び代が残されているというのは素直に驚きました。

どれだけ踏んでも踏み負けないようなバイクを求めているスプリンターの方にこそ、ぜひ一度乗ってみてほしいと感じる一台でした。

ピナレロ F9

ピナレロ F9
カラー:RAZOR WHITE D100
カーボン素材:T900
コンポーネント:SHIMANO Durace Di2
ホイール:MOST Ultrafast 40
コックピット、シートポスト:MOST Talon Ultra Light, Standard seatpost
サドル:MOST Aircross
重量:7.29kg
価格:1,606,000円(税込)



インプレッションライダーのプロフィール

磯部聡(シクロワイアード編集部)磯部聡(シクロワイアード編集部) 磯部聡(シクロワイアード編集部)

CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。ロードの、あるいはグラベルのダウンヒルを如何に速く、そしてスマートにこなすかを探求してやまない。



高木三千成(シクロワイアード編集部)高木三千成(シクロワイアード編集部) 高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。


text: Gakuto Fujiwara
photo: Kenta Onoguchi
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