今はトラックレース、パリ五輪での金メダルを目指すが、そのうち日本のロードレースレベルを上げるかもしれない怪物、チームブリヂストンの今村駿介に今から改めて注目しておきたい。レース、チーム、競技への想いといった問いに対し、その実直な人柄でわかりやすく答えていく。(インタビュー : 中村浩一郎)



パリ五輪出場を目指す今村駿介にインタビュー。その思いを聞き出した photo:JCF

昨年末に、RTA『ロード・トゥ・ラブニール』プロジェクト構想を発表した日本ロード界のレジェンドであり世界への牽引力でもある浅田顕監督。CW綾野編集長から聞いた話だが、その浅田監督が、身体能力を絶賛する3人の自転車選手がいるという。松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)、留目夕陽(EF・NIPPOディベロップメントチーム)、そしてここで紹介する今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)だ。

今村は2018年の中央大学在籍時よりチームブリヂストンサイクリングに加入。トラックレース男子オムニアムで東京2020五輪出場を目指し、代表候補選手選抜の3名に選ばれるも、2021年の本戦はリザーブ選手として見守った。

2015年にポイントレース種目で世界選手権ジュニアクラスに優勝、自転車競技の世界チャンピオンの証であるジャージ、アルカンシエルに袖を通している。2018年のロードレースシリーズ、Jプロツアーでは鮮烈なデビューウィンを飾り、2020年11月23日には日本初となるアワーレコードに挑戦し1時間で52.468kmを走り、挑戦当時で世界5位の記録を残した。

ハロゲートで開催されたロード世界選手権(U23)を走る今村駿介 photo:Kei Tsuji

2020年11月には日本初となるアワーレコードに挑戦し、当時の世界5位、52.468kmという記録を叩き出した photo:Satoru Kato

その今村は2022年にも日本エリートクラスの自転車選手として、大会国内外を含めて多くの優勝を記録した。トラックではネーションズカップ、世界トップのマディソンで表彰台に2度登り、世界選手権のオムニアムでは途中の暫定1位で世界舞台での強さを見せた。ロードレースではUCIレースのツール・ド・北海道で3ステージ中2ステージを勝利した。下が今村の2022年の優勝と主な戦績だ。
今村駿介の2022年の優勝と主な戦績
4月
International Belgium Track Meeting(ベルギー)
男子エリミネーション 優勝
男子オムニアム 優勝
男子マディソン 2位
ネーションズカップ(イギリス/グラスゴー)
男子マディソン 2位
6月
アジア選手権(インド/ニューデリー)
男子チームパシュート 優勝
男子オムニアム 優勝
男子マディソン 優勝
7月
ジャパントラックカップI&II(静岡県伊豆市/伊豆ベロドローム)
男子マディソンI&II 優勝
男子オムニアム II 優勝
ツール・ド・北海道(北海道)
ステージ1 優勝
ステージ3 優勝
9月
トラック全日本選手権(静岡県伊豆市/伊豆ベロドローム)
男子チームパシュート 優勝
男子マディソン 優勝
10月
トラック世界選手権(フランス/サン=カンタン=アン=イブリーヌ)
男子オムニアム 6位
男子マディソン 7位
開催まで2年を切ったパリ2024オリンピック。トラック競技の歴史に目を向ければ、日本がメダルを取る可能性はとても大きい。東京2020五輪では女子オムニアムで梶原悠未が銀メダルを奪った。今村は2023年1月現在25才、ジュニア時代から世界トップで走り続けてきた経験で、現在今度のパリ五輪には絶対に出場するつもりだ。

2018年に現在のチーム加入時に、測定で出た数値に当時のブリヂストンフレーム開発チームも驚いたと聞く。その身体能力を称するのは世界ロードレースを知る浅田監督だけではない。パリ2024オリンピックでのメダルに近い日本人男子選手、今村駿介に話を聞く。パリ五輪で金メダルを獲ったら、次はぜひツール・ド・フランス優勝を目指して欲しい。



今村駿介 プロフィール
チームブリヂストンサイクリング所属・1998年2月14日生、福岡県うきは市出身。元競輪選手の父に憧れ自転車競技を始める。2015年のジュニア世界選手権ポイントレースで優勝。2018年に現チーム入り。チームパシュートでの日本記録(現3分52秒956)、アワーレコード日本記録(52.468km)。所属チームの母体であるTEAM BRIDGESTONEのアスリート・アンバサダーも務める。



国内ロードレースでは、どう勝っている?

伊豆ベロドロームでのトレーニング中、インタビューに応えた今村駿介 photo:koichiro Nakamura

ーロードレースではいつもどんな勝ち方をイメージしていますか?

コースにもよりますけど、耐えて耐えてっていう感じです。自分の脚質が、ピュアにスプリントっていうタイプではないので。疲労した中で、そこに残ったメンバーの中ではパワーがある。

自分からあんまり攻撃的に、っていうより、残っているメンバーが減っていけば自分からも攻撃しますけど、そうじゃない時は耐えて、最後までいけば勝てるメンバーに絞っていく。どんどんどんどん強い選手が絞られていく、そこで最後のチャンスをなんとかものにして勝つレースです。

ー2022年はツール・ド・北海道で第1と第3ステージでの優勝が戦歴として大きかったと感じます。同じような戦略でしたか?

北海道でステージ2勝を挙げた今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato

そうですね。北海道は、峠では遅れはしましたけど、最後なんとか追いついて、飛び出しにも対応できました。第3ステージは最初から逃げましたが、とにかく喰らいついて、喰らいついて。最後の最後に振り絞った感じです。

ーロングスプリントが今村さんの持ち味とよく言われました

窪木さん(チーム員の窪木一茂)みたいな、最後にドカンって踏むパワーがないんで。自分の持ち味で『ここからは誰も仕掛けようと思わないよね』っていうところから踏んだりします。逆算ですよね、ゴールからの、自分がどれだけ持つのかっていう距離の逆算です。

ートラックレースの中距離種目には、ロードレースに通じるものがある?

その……『トラックレースのためにロードレースを走らせてもらってる』って言うと、すごく誤解を受けるかもしれないですが、トラックに活かすためにロードで走っている。『ここは耐えるのがトラックに活かせる』という認識でいます。だから、リラックスして走れているんだと思います。その分、レースで勝てれば自信になるっていう考えです。

北海道ではステージ2勝を挙げ、総合ポイント賞を獲得した photo:Satoru Kato

気持ち的には「勝たないといけない」ではなく、リラックスしたスタンスでいるからこそ追い込めますし、最後の最後、モノにできるタイミングであれば勝てる。落ち着いて走れているからこそ、変に勝ちを意識してないのが良い結果に繋がっていると思います。



トラック種目での世界レベルから見る現状は

全日本選手権の男子エリートオムニアム。窪木一茂に競り負け2位となった(写真中央) photo:Satoru Kato

ーではトラック種目ではどういうスタンスで?

トラックでは、やっぱり大きい大会は勝ちたいっていうのがあります。国内のレースでは勝ち負けは二の次で、もちろん勝てれば良いけど、その中でしっかりと脚を使って勝負すること、且つ、勝てればさらに良いと思っています。

でも納得いくぐらい脚を使っても、レベル的には世界の強度には達していないです。けれど自分の出せるエネルギーは、ほんと底を尽きるぐらいまで出して、自分が逆に苦しい中で戦わないといけない。疲労した状態でレース走った方が、若干寄せていけるという。

ーでは世界でこそ戦ってるな、生きてるなって感じを受けます?
窪木とはマディソンのアジア王者コンビでもある。2人が着るチャンピオンジャージがその証だ photo:Satoru Kato

4月のネイションズカップの銀メダルにしろ、世界選手権でのオムニアムの6位もそうでしたが、どうしても強い選手に付いて行って、おコボレじゃないけど、小さなポイントを積み重ねていけた。みんなやっぱり1位を狙うから、大きく負けるか、勝つかっていうところになる。誰も4、5位なんて狙ってないから、なんとかそこに食らいついていけるっていう。レベル差は感じます。

ー自分の中でのメイン種目は?

僕はオムニアムでパリ2024オリンピックのメダルを目指しています。そこは誰にも譲るつもりもないですし、しっかり目標を掲げてやらないといけないなと思っています。

ー2022年に一番手応えを感じたレースは?

10月の世界選手権オムニアムで、テンポレースでの1位を獲ったことです。総合リザルトは6位でしたが、オムニアムでのレースをひとつ挙げるなら、そのテンポレースです。

世界選手権の男子オムニアムで総合6位。途中のテンポレースでは1位を獲った photo:JCF

あの中で一番強いのは僕じゃなかったんですが、タイミングとあと脚の使いどころをしっかり見極めたおかげで、選手の中でひとりだけ2ラップできましたし。そこで暫定1位になりました。

強い選手が勝つのが普通ですけど、戦略を立て、チャンスを見出し戦う所がオムニアムの面白いところです。もっともっと脚力がつけば戦法も増えるし、逆に戦法を使えば、多少力が劣っていても戦えるっていう手応えがあります。

ー身体の強さとレース運びのうまさはどっちを優先するべき?

やることは両方にはなると思いますが、でもずっと僕のなかでは身体、フィジカルがどうしても優先になるなと思っています。

ですが世界選手権のテンポレースは、本能的に体が動いていたんです。上手くハマった、ハメることができたというより、体が自然と動いてハマった感じでした。そういうのもやっぱり映像を何回も見返してたから、ここだって思えて動けたのかもしれないし。レースは走らなくても、映像を見て学ぶのはすごく大事で。チャンスはいくつも転がってないから、あった時にモノにできるようにしないと。

100%ここはチャンスだ、という時に勝つことが出来るのが、ヨーロッパの強い選手たちであると思っています。

だから向こうの選手があれだけ勝ち続けるのは、脚の強さもありますが、定石というか、良いポイントで動くから強く見えるんだと思います。しっかり学びたいです。



パリ2024オリンピックへ出場する道筋は?

「オムニアム、チームパシュート、そしてマディソンでパリ2024オリンピック出場枠を」 photo:JCF

ーオリンピックはどうすれば出られますか?

国別の出場枠としては、自分でオムニアム出場の枠を取ります。チームパシュートでももちろん全力で枠取りを目指します。

ー枠はどうやって取るものですか?

チームパシュートで枠を取れる10カ国はそのままマディソンの枠もついてきます。マディソンには、団体追抜きに出た10カ国+5カ国が出られます。オムニアムはマディソン出場の15カ国に、さらに7カ国を加えた21カ国です。ですからオムニアムはおそらく枠は取れますが、マディソンはこれからのチャレンジでメダル獲得まで、見据えたいと思います。

なので、全部出られるチームパシュートを目指そうってなっていますが、やっぱりチームパシュートは四人の力がそろわないといけないですから。

もちろんチームパシュートも力を抜くつもりはありません。個人種目でも、チーム種目でも、枠を確保する気でいます。

ー枠取りには獲得すべきポイントの割合が今年が8割だと聞きました。

2023年の世界選手権、3回のネーションズカップ、そしてアジア選手権。そのポイントの比率が全然違うんです。世界選手権が一番大きいので、チームパシュートもマディソンもオムニアムも世界選手権に出ないことには、ほぼ枠は取れない。

「個人種目、チーム種目でも全力でオリンピック出場枠を狙う」 photo:koichiro Nakamura

ー世界選手権は今年の8月、もう日も少ない。

2、3、4月はネーションズカップが毎月あって、トレーニングを積める時間もない。ですから1月の沖縄合宿がすごく重要です。6月中旬のアジア選手権前にまたトレーニングを積めるぐらいです。怪我も出来ないし、すごく重要な年です。みんな意外とピリピリしてますね。



チームブリヂストン所属のメリット

ーブリヂストンサイクルのプロチーム員であることにどう感じていますか?

このチームは、日本代表として自転車競技活動をする僕たちを理解し、サポートしてくれる最大のパートナーです。その全面的な協力、バックアップがあるので、今は全力で夢、というか目標に向かってチャレンジできています。

「チームの全面的な協力があるから苦しい状況でも前を向ける」 photo:koichiro Nakamura

僕は学校を卒業して、最初にこのチームに来たから、この環境を当たり前に感じられています。個人で活動している方は、これらを全部自分でやらないといけない。

この全面的な協力があるので、自分がキツいなあとか、次の大会どうかなとか、ちょっと心が折れそうになっても、チームには周りがいてくれて、監督がいて、チーム運営がいるから、苦しい状況でも前を向いてずっと狙い続けられる。もう自分がヘコむ間もないぐらい周りが押し上げてくれるから、そこの環境はもう。

それに僕らが使ってるこのフレームは、ブリヂストンの国産バイクで東京2020でトラック競技の日本代表選手の全員がこのブリヂストンのバイクで参加しました。

それに僕がブリヂストンに所属しているから、なんでもすぐ言いやすい。これが例えば別のチームにいたんなら、すぐになんでも言えない。僕らは監督にこうして欲しい、ああして欲しいって言えば、開発に伝えてくれる。いつやるかは別ですが、こっちが何かアクションを起こせば、何かしらの回答をもらえますから。

ーバイクの開発にも携わっていますか?

チームブリヂストンの一員として、意見を言うことができます。それが通らないは別として、そこは同じグループだからこそ、できることだと思います。

練習中、機材準備に余念のない今村。開発陣にも意見を伝えることもあるそうだ photo:koichiro Nakamura

頻繁には行けないですが、定期的に本社に行きます。同じブリヂストンチームだから応援してくれる。

そうやって僕らががんばることで、「見てるよ」とか、一人、二人でも声かけてくれる。この前の会社に行った時もそうでした。そういうのがなんか嬉しくて。

そうやってどんどんつながっていく。僕らががんばることで、知らなかった自転車競技を知ってくれて、一緒にうれしくなってくれて。「明日の仕事ちょっとがんばろうかな」って思ってくれれば僕らはうれしい。そういうつながりが、どんどんどんどん広がっていく。自転車も含めてブリヂストンという強みを当たり前の環境に、最初からしてもらったことに感謝しつつ、夢を目指してこのチームで一緒に活動が出来れは、すごく嬉しいと思っています。

なぜ、自転車競技にここまで打ち込める?

バイクペーサーをつけ、隊列を組んでベロドロームをハイスピードで駆け抜ける photo:koichiro Nakamura

ートラックレースに打ち込んでいる理由は?

まあ今のところは、体重が重くて、そこまで登りに耐えられる選手ではないので。でも今はトラックで輝けるっていう。もちろん父の影響(競輪選手だった)はありますけど、なんか脚質がどんどん中距離寄りになっていきましたね。競輪選手っていうよりは自転車競技の選手に。

そんな中でオリンピックがあるのを知って、ジュニア時代に世界選手権で勝ったんですが、そこでジュニア止まりだって、言われ続けるのが悔しくて。次は絶対にエリートで、っていうその想いもあります。

ー自転車競技は、なにが楽しい? 厳しいトレーニングに、なぜそこまで打ち込めていますか?

これは普段から思っていることなんですけど。別に自転車競技に限ったことじゃなくて。

自分が考えて、練習して。やって、いいこともあり、悪い事もあって。コーチのトレーニングもするけど、自分で考えて自分でやりたい方法でもやって。それで成長して、試合を走って、結果が出るっていう。その一連の流れがあって、それがすごい楽しくて。

「考えて結果を出すというプロセスがすごく楽しい」 photo:koichiro Nakamura

年明けにはチームと共に初詣へ photo:koichiro Nakamura
結果が出ればもちろんうれしいし、成績が出ればみんなも「良かったね」って言ってくれるから。そこは自分の存在価値っていうか、承認欲求じゃないですけど、認めてもらえている。ひとりの人間として、価値が高まっていくのは、やっぱり嬉しいことなんです。

親が競輪選手だったから、最初に競輪を見てきて。自転車の道に進んで。そこから競技が好きになっていったところです。たまたま自転車の道に進んだから、今これを突き詰めていますけど、これがもしかしたら、ほかの競技でも同じようにやっていたかもしれないです。

今は自転車競技のこのオムニアムっていう種目にすごい魅せられて、そこで勝ちたいと思ってやっています。でも何に勝ちたいとかそういうよりは、自分の成長を楽しんで活動できています。

いくらでも可能性があって、いろんな方法があって。もう何百通りってあるから。それを全部はできないけどいろいろ試して、いい方法を見つけてハマった時の喜びみたいな。そこに僕が楽しさを見出している感じです。

ー今年どのレースで今村選手を見ればいいですか?

まずは2月末のネーションズカップのジャカルタです。ここからがパリ2024オリンピック予選本番です。そしてイギリスの世界選手権です。選ばれる、選ばれないとか考えてたらどうしようもないんで。自分が走るつもりで。

世界選手権のイギリスでは、昨年、一昨年よりも、もっとレベルが上がってるけど、そこでメダルを獲ります、はい。最後のポイントレースで自分からアクションを起こしポイントを加算してメダルを取ります。

「2月のネーションズカップからが、パリ2024オリンピック予選本番」 photo:koichiro Nakamura
2023年 トラック種目の主なレース群
2月23〜26日 UCIネイションズカップ第1戦 インドネシア・ジャカルタ
3月14〜17日 UCIネイションズカップ第2戦 エジプト・カイロ
4月20〜23日 UCIネイションズカップ第3戦 カナダ・ミルトン
5月12〜15日 全日本自転車競技選手権大会(トラック・パラサイクリング) 静岡県・伊豆ベロドローム
6月14〜19日 アジア自転車競技選手権大会 マレーシア・クアラルンプール
8月23〜27日 UCI世界選手権大会-トラック イギリス・グラスゴー
9月23〜10月8日 第20回アジア大会 トラック 中国・杭州