9月20日、台風の影響が残る雨のなか埼玉県飯能を拠点としたライド「ASSOS SPEED CLUB RIDE 」を走った。アソスとしてはブランド初と言えるソーシャルライドに、髑髏(ドクロ)をあしらった特別な限定ジャージを着た6人の仲間たちが集り、山深い林道のライドを楽しんだ。



背中に髑髏(ドクロ)があしらわれた限定ジャージ背中に髑髏(ドクロ)があしらわれた限定ジャージ photo:Studio104ライドを企画した常陸識考さん(ASSOS PROSHOP TOKYO)ライドを企画した常陸識考さん(ASSOS PROSHOP TOKYO) photo:Studio104


スイスのサイクルウェアブランドASSOS(アソス)の呼びかけで、世界じゅうで開催された「ASSOS SPEED CLUB RIDE(アソス・スピードクラブライド)」。各国のアソスのアンテナショップやサイクルショップなどを拠点に企画されたグループライドだ。今回は東京・芝のASSOS PROSHOP TOKYO(アソスプロショップトーキョー)が企画した埼玉県飯能市拠点のライドに参加したレポートをお届けする。

「ASSOS SPEED CLUB RIDE 」は、2022秋冬シーズンの新作「EQUIPE RS JERSEY S9 TARGA – SPEED CLUB 2022」の発売にあわせて企画された。背中に髑髏(ドクロ)があしらわれたジャージは販売数量が極少数の限定品で、このジャージを着てグループで走ろうというもの。アソス初とも言える世界的なキャンペーンを絡めたソーシャルライドで、各国で小規模なライドが同時期に開催され、参加者によってSNS投稿がされている。

もっとも、このジャージを手に入れられた人は幸運。数が非常に限られていたため、このライドを企画したASSOS PROSHOP TOKYOでも26着しか入手できず、その販売は「いつもアソスを愛用してくれる特別なお客様」に限定して頒布されたのみだという。日本に数店舗あるアソスを取り扱う有力サイクルショップでも、おそらく即完売に近い状況となっているはずだ。

飯能のサイクリストスペース Studio TECOLI(スタジオ・テコリ)に6人が集合飯能のサイクリストスペース Studio TECOLI(スタジオ・テコリ)に6人が集合 photo:Studio104
ライドが予定された9月20日は前代未聞の大型台風14号・ナンマドルが日本列島を直撃・縦断した日。この日の朝に関東を通過して影響が残ると予報されていた。しかし台風一過の晴天を期待して決行されることに。しかし予報では夕方まで確実に雨模様で、しかも降水量も多め。

それでも飯能に集まった6人。私、綾野(CW編集部)も実は常陸さんとは普段からライド仲間であり、アソス好きとあってグループの一員に加えさせていただいた。そして今回チョイスされたのは私のホームエリアとあって、半分はホスト側で仲間たちを迎える立場に。千葉と愛知からつながりある2人をゲストに迎え、初対面で一緒に走ることに。

水飛沫を立てて走る6人が奥武蔵へと向かう水飛沫を立てて走る6人が奥武蔵へと向かう photo:Studio104
朝9時過ぎ、アソスのアンバサダーとして知られる篠さんの先導で走り出す。雨は止む気配どころか、走り出してから徐々に雨量を増していった。SNSをフォローしている人なら御存知の通り、篠さんも飯能を拠点としているだけあって普段から走り尽くしているエリア。市街を出てすぐに細道の入り組むルートになるが、我が道のようにガイドしてくれる。

飯能エリアを知り尽くしたアソスのアンバサダー、篠さんが先導して進む飯能エリアを知り尽くしたアソスのアンバサダー、篠さんが先導して進む photo:Studio104
じつは常陸さんによって引かれたルートを篠さんが修正した。崩落や落石によって通行止めになるマイナー林道が多いこのエリアの状況は流動的。当初の予定コース上の通行止めポイントを篠さんが見つけてくれたのはさすがというほかない。

雨の中しぶきを上げながら走る6人。そのスピードの速さに少々驚く。初めて会う方も2人居たが、いずれのメンバーも脚に覚えのある者ばかり。さすがはアソスを愛用するユーザーだ、と妙に納得をさせられた。走り出しでいつもエンジンの「かかり」が遅い私は、さっそく上りで青息吐息。このライドは到底生ぬるくはなさそうだった。

集落をつなぐ渓谷沿いの細道で標高を上げていく集落をつなぐ渓谷沿いの細道で標高を上げていく photo:Studio104
もっとも、お揃いのジャージを着た6人が黙々と走るカッコ良さと言ったら。雨のなか隊列を組んで走るロードバイクのグループの背中にはドクロマーク。見かけた人にはきっとインパクトが大きいだろう。

山を登るスピードは速く、リズムが良い山を登るスピードは速く、リズムが良い photo:Studio104
ところでアソスと言えばグループライドやコミュニティなどソーシャル的なつながりとはあまり縁の無いブランドに思える。どちらかといえばカタログをみてもソロライドの写真ばかりが使われ、楽しげなグループライドとは無縁の「孤高のサイクリスト」のイメージ。そんなアソスがなぜグループライドを企画するのか。アソスを専門的に取り扱って10年以上になる常陸さんは次のように説明してくれた。

「ASSOS SPEED CLUB とは、2019年にスタートした世界中の熱烈なアソスユーザーを繋ぐコミュニティ。ライドを通じてアソスの世界観を共有し、お互いをさらに向上させるために集まったサイクリスト集団です。しかしすぐに新型コロナによるパンデミックに突入したことで実際の活動はできずにいました。コロナ期は発信しづらく、複数人で一緒に走ることがはばかられるという期間でしたが、最近になって世界は徐々に元の状況に戻りつつあります。同時に自転車が見直された2、3年でしたが、『再びつながっていこう』という意味の込められたジャージなんです」。

苔むした道は滑りやすく、ペダリングさえ難しい苔むした道は滑りやすく、ペダリングさえ難しい photo:Studio104
奥武蔵エリアではつとに有名な子の権現(ねのごんげん)への道は、悪名高い勾配28%もの激坂。路面に苔がむした小道は雨に濡れて滑りやすく、立ちこぎでムラのあるペダリングをすればすぐに後輪がスリップしてしまう。激坂でのトルクのかけ方が難しく、ハンドルにしがみつくように登る。

常陸さんがパンク。裂けたタイヤサイドをパッチで補修する常陸さんがパンク。裂けたタイヤサイドをパッチで補修する photo:Studio104
激坂区間の頂上間際で常陸さんがパンク。降り続く雨のなかでサイドが大きく裂けたタイヤを修理した。この日はここから度々カットパンクが続くことになる...。

子の権現への激坂区間は見上げるほどの勾配だ子の権現への激坂区間は見上げるほどの勾配だ photo:Studio104
うまくトルクを掛けないと後輪はたちまちスリップしてしまううまくトルクを掛けないと後輪はたちまちスリップしてしまう photo:Studio104
子の権現・天龍寺の参道入口で迎える仁王様の許しを請うて本堂を参拝する。この寺には鉄製の巨大な下駄と草鞋(わらじ)が境内にあり、足腰守護の寺として知られる。山深いハイキング道の途上にあり、ハイキングがてら参拝する登山者やサイクリストが多いのだ。

子の権現の参道を進むと仁王様が迎えてくれる子の権現の参道を進むと仁王様が迎えてくれる photo:Studio104
祈るのは今日の無事か、強い足腰を手に入れることか祈るのは今日の無事か、強い足腰を手に入れることか photo:Studio104子の権現・天龍寺の境内の巨大な鉄の草鞋(わらじ)子の権現・天龍寺の境内の巨大な鉄の草鞋(わらじ) photo:Studio104


メインロードから離れ、クルマがほとんど来ない山道へと分け入っていく。関東近郊のサイクリストにはあまりに有名な奥武蔵グリーンラインは、その洒落た名前に反して舗装が悪く、アップダウンを繰り返し、勾配も厳しい。路面は荒れ、苔で滑りやすく、枯れ葉に混じって石が散らばっている「酷道」と称される細道だ。森が深くて展望も効かないから路面と睨めっこになる。

山深い細い林道をつなぐようにして走る山深い細い林道をつなぐようにして走る photo:Studio104
山域に伸びるマイナーな林道をつなぎ、彷徨うように走る。うっそうとした森の静けさに、あがる自分の息遣いと仲間の存在を感じつつ、路面と対話する時間。でも、そんな酷道が雨で一層魅力を増すから不思議だ。

ランチにはルートから少し外れにある山麓のうどん屋に立ち寄る。冷たいうどんも選べたが、皆が例外なく温かいうどんを所望したのは当然。このエリアを含む一帯に昔から伝わる地粉を使いつけ汁でいただく「武蔵野うどん」の流れを汲むうどんで、雨に濡れて冷え切った身体を芯から温めた。

雨に冷え切った身体に温かいうどんが嬉しかった雨に冷え切った身体に温かいうどんが嬉しかった photo:Studio104
なおこの由緒あるうどん店は、近場で確保できる水量が少なくて提供できる食数に限りがあるため、常連さんのみ対象での営業に抑えている。そのため記事での紹介はしないで欲しいとのことだった。しかし決して一見さんお断りではないので、行きたい人は自力で探してほしい。お客さん限定とは、まるで今回の我々のライドのようだ。

小腹を満たし、龍穏寺へ向かう。先に訪れた子の権現が天龍寺で、この龍穏寺へ向かう小道の脇にも「龍」のつく川が流れる。この一帯の地名にこめられた意味と歴史的な背景を常陸さんが説明してくれる。まるで土着文化に詳しい文化人類学者のようで、いつも感心する。

名も無い小さな峠を越えるとグラベルが待っていた名も無い小さな峠を越えるとグラベルが待っていた photo:Studio104
篠さんもカットパンク。シーラントでは塞がらず篠さんもカットパンク。シーラントでは塞がらず photo:Studio104
寺の裏から再び急坂の小路でこの日2度めのパンク。今回の犠牲者は篠さん。尖った小石を踏んでのカットパンク。チューブレスのシーラントで穴は塞がらず、しばし格闘、チューブを入れて修復することに。

全ルートを通じて展望がきかず、荒れた路面との対話になる全ルートを通じて展望がきかず、荒れた路面との対話になる photo:Studio104
小さな峠を越え、砂利のグラベルを下ってOKUMUSA MARCHE(オクムサ・マルシェ)へ。ここは奥武蔵サイクリストには人気のカフェ。雨の平日に訪れる人は少ないが、週末は賑わう。この時期ならではの地元の栗を使ったケーキとホット甘酒、淹れたてコーヒーをいただく。

OKUMUSA MARCHE(オクムサ・マルシェ)OKUMUSA MARCHE(オクムサ・マルシェ) photo:Studio104OKUMUSA MARCHE(オクムサ・マルシェ)の和栗ケーキとプリンをいただくOKUMUSA MARCHE(オクムサ・マルシェ)の和栗ケーキとプリンをいただく photo:Studio104


お茶していたら雨があがっていた。雲の切れ目からは青い空も覗くが、時刻はすでに16時。普通の感覚の持ち主なら飯能へと直帰するところだが、「せっかくだからもう一山行きましょう」となるのがこのメンバー。激坂の上にある桂木観音の峠へ向かうことに。この日3つめの寺である(笑)。

濡れそぼる林道を彷徨う。クルマの気配はほとんど無い濡れそぼる林道を彷徨う。クルマの気配はほとんど無い photo:Studio104
桂木観音の本堂への石段の登り口が展望の良いこじんまりとした広場になっている。その峠からは武蔵丘陵と飯能、遠くに池袋や新宿までが見渡せた。雨上がりにけむる景色を眺め、一日のライドを振り返る。ずぶ濡れだったウェアも乾き始めていた。ただしこの日3度めのパンク発生。一日に3度のサイドカットとは、奥武蔵ライドの過酷さを物語るにはもってこいのデータかもしれない。

雨が止み、乾いた路面に嬉々として峠に向かう6人雨が止み、乾いた路面に嬉々として峠に向かう6人
桂木観音の峠から武蔵丘陵の展望が楽しめた桂木観音の峠から武蔵丘陵の展望が楽しめた photo:Studio104
気温が高かった夏もこの日で終る気配。今年はじめて秋を感じた一日だった。走行データは約80kmで獲得標高1,800m。濃すぎるほどに濃い8時間だった。飯能のStudio TECOLIに帰着した頃にはすでに18時を回っていた。

常陸さんは言う。「奥武蔵は自分が10数年走ってきたエリアで、今回あえて独りで普段走っている埼玉ローカルを楽しんでもらおう、この地を知っていただく良い機会になるとルートを引きました。スケール感で言えば長野や群馬栃木などの山岳地帯に負けますが、木々に覆われた山深い林道に入っていくと路面はテクニカルで、山が高くないぶん上り下りで変化を付けて走るのが面白い。展望が効かず他のものが目に入ってこないからか、研ぎ澄まされるような感覚や日常からの逃避感、精神的な安定が味わえます。閉ざされたローカルな空間の中で、探検気分を味わってもらえたらと思っていました。こだわりとしてはイージーにすることもできるけど、接待ライド的にはしたくなかった。こんな天気と状況のなかで走った仲間たちは最高でしたね。特別なライドになりました」。

ドクロのマークを背中にお揃いのジャージを着て走ったライドは、仲間と一緒に走る喜びを感じることができた一日だった。まだコロナに気を遣う日々は当分続きそうだが、グループライドは徐々に戻りつつある。

なお世界各国でのASSOS SPEED CLUB RIDEの様子は、各SNSでハッシュタグ「#assosspeedclub」でたどることできる。

立ち寄ったカフェ ”薬膳ごはんと喫茶”OKUMUSA MARCHE(オクムサ・マルシェ)

飯能拠点のライドやアウトドア活動のベースになる多目的スペース Studio TECOLI(スタジオ・テコリ)

photo:Studio104
text:Makoto AYANO