最初の本格的な頂上ゴールが設定されたアルプス山岳ステージは、総合争いの選手たちにとって非常に重要な意味を持つ。互いの脚を披露し合い、今後のリーダーシップをとれるにふさわしい選手かどうかが明らかになる。

勝負どころはラスト50kmに集約されており、まずは1級山岳ラマズ峠が選手たちの前に立ちはだかる。モルジヌに入る前にこなすラマズ峠は、7年前にリシャール・ヴィランク(フランス)がアタックを成功させ、逃げ切り勝利とマイヨジョーヌを手にした上りだ。

スイス国境近くの美しい風景の中を進むスイス国境近くの美しい風景の中を進む photo:Makoto Ayano

サッカーワールドカップ決勝を意識してラボバンクは選手のバーテープを国旗カラーにサッカーワールドカップ決勝を意識してラボバンクは選手のバーテープを国旗カラーに photo:Cor Vos最後は3級山岳レゲを経由し、標高1796mの1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを駆け上がってのゴール。登坂距離13.6km・平均勾配6.1%の上りの先にゴールが待つ。

この日のレースに味付けをするのは今晩行われるサッカー・ワールドカップのオランダ×スペイン戦?オランダチームのラボバンクに所属するスペイン人、オスカル・フレイレとファンマヌエル・ガラテは複雑な心境?

チームメイトたちのバーテープはオレンジに。しかし二人のハンドルにはオレンジと赤のスペインカラーが巻かれた。フレイレは苦笑い。

逃げグループに入ったラボバンクのコース・ムーレンハウト(オランダ)の走りは、オランダの心意気と、エースのデニス・メンショフやロバート・ヘーシンクを最後に助けるためのもの。序盤にアタック合戦に加わっていたユキヤはこの逃げには乗れず。Bboxブイグテレコムは山で好調のアントニー・シャルトーもこの日のカギを握る選手。

アームストロングを襲った3回の落車

ツール7連覇チャンピオン、アームストロングのツール8勝目への挑戦は早くも終わりを告げた。3度の落車に見舞われ、11分以上の遅れを取り、総合を39位まで下げた。

1級山岳ラ・ラマズ峠で遅れたランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)がチームメイトに守られて走る1級山岳ラ・ラマズ峠で遅れたランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)がチームメイトに守られて走る photo:Makoto Ayano

落車で30分以上遅れたファビオ・フェリーネ(イタリア、フットオン・セルヴェット)落車で30分以上遅れたファビオ・フェリーネ(イタリア、フットオン・セルヴェット) photo:Makoto AYANOアームストロングの最悪の日の始まりとなった最初の落車は、スタート7kmで集団前方で発生した集団落車だった。

集団前方で走っていたファビオ・フェリーネ(イタリア、フットオン・セルヴェット)が落車し、避けきれずに10人以上が突っ込んだ。この最年少ライダーの落車にはアームストロングのほかエヴァンスもピノーも巻き込まれた。

ブライコヴィッチにアシストされながら1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上るランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)ブライコヴィッチにアシストされながら1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上るランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック) photo:Cor Vos最悪の事態は2回目の落車だった。ロンポアン(旋回式交差点)の縁石にペダルを引っ掛け、フロントタイヤがリムから外れてロックした。時速65km以上の高速走行で激しく地面に転がったアームストロング。ジャージの背中のところどころに破れがあったが、それ以上に「筋肉スーツ」を痛めていたようだ。

チームメイトに助けられ、先頭集団に追いつくも、ラマズ峠の上りに入ったメイン集団では勝負を決する闘いが始まっていた。サクソバンクとチームスカイがスピードアップする集団の速度は、追いつくのに体力を使い、落車のショックから回復するまでには至らないアームストロングには速すぎた。

ホーナーにアシストされて1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上るランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)ホーナーにアシストされて1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上るランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック) photo:Cor Vos遅れるアームストロングをみて、アスタナはアームストロングを突き放す絶好のチャンスとみてさらにペースアップを図った。弱みにつけ込むしたたかな面を見せたコンタドールとチームアスタナ。

勝負は冷酷だった。もしアームストロングとコンタドールの関係が良好であったなら、最後の勝負ポイントまでスピードを抑えて待つことはあっただろうか?ともかく、コンタドールはかつての友人に敬意を払って待つことはしなかった。

肩を落とすランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)肩を落とすランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック) photo:Cor Vosそしてランスを3つ目の落車が襲う。レゲ峠頂上で補給のサコッシュを受け取ろうとして転んだエゴイ・マルチネス(エウスカルテル)に前を塞がれるアームストロング。地面に打ち付けられることはなかったが、後方の選手から追突され、醜いサンドイッチ状態に。ダメ押しのアンラッキーに、腰に手をやり「やれやれ」というゼスチャーで立ちすくんだ。

一日のうちに襲った3度の落車。7連覇を達成した最強時代には有り得なかった不運だ。

かつてアームストロングは落車さえ跳ね返す強運の持ち主だった。2003年ツールではホセバ・ベロキが前で転んだとき、巻き込まれずに草むらを突っ切り、シクロクロススタイルでコースに復帰した。そして観客のサコッシュに引っかかって落車しても復活し、ステージ優勝を遂げる強運の持ち主だった。

「落車さえ味方に変えてしまう」そんな不思議な強運を備えていたというのに、3年ブランクを経て復帰してからというもの、ランスは落車については普通の選手同様、あるいはそれ以下の運の持ち主になったようだ。

2009年のカムバック。ジロ・デ・イタリア、そしてツールへの調整のために走ったブエルタ・ア・カスティーリャ・レオンで落車し、鎖骨を折った。その結果、ジロへの調整が遅れた。今年はジロの代わりに出場したツアー・オブ・カリフォルニアで落車し、顔面を切る怪我をしてリタイアしている。

ツアー・オブ・カリフォルニアで顔面を切ったランス・アームストロング(レディオシャック)ツアー・オブ・カリフォルニアで顔面を切ったランス・アームストロング(レディオシャック) photo:Cor Vosここまでなら運は他の選手同様といっていいだろう。しかし、この日の不運はアームストロングにとって7連覇した1999年から2005年までの強運に恵まれていた7年間と引換に、そのツケを一気に返されるような不運の一日だった。そしてこの1週間という単位で見ると、タイミング悪くパンクしてタイムを失った第2ステージでのパヴェでの走りにとともに、運には味方されていないようだ。

ヨハン・ブリュイネール監督はレース後、自身のTwitterにこう書き込んでいる。

「今日は我々にとって悪い日だった。それ以上にアームストロングにとってこの1週間はあの7年間をひとまとめにした以上に運の悪いものだった。でも我々はもう一度立ち上がって戻ってくる」。

レース総合ディレクターのクリスチャン・プリュドム氏は言う「彼にこれほどまで悪い日が来ようとは思ってもみなかった。我々は2003年のギャップへのステージで草むらを突っ切ろうとも決して転ばなかった彼を覚えている。2回の落車は彼にとってあんまりだ。そして熱暑との闘いもあった。蒸し暑い数ステージを経て、多くの選手が今夜は疲れきっていただろう。アームストロングは今後、ステージ優勝を狙ってくるだろう。でも彼にとってまだ総合成績を狙える範囲だと思う」。

果たしてアームストロングが負った11分以上のタイム差は、取り返すことができるものか?

不足ないアシスト力を見せたアスタナと機関車ナバーロ

チーム力が十分でないことが心配されていたアスタナは、パオロ・ティラロンゴ、ダニエル・ナバーロ、アレクサンドル・ヴィノクロフ、そしてコンタドールの4名が勝負どころで先頭集団に残り、山岳ステージで想像以上に強いことを証明してみせた。難関山岳でのコンタドールの闘いを支えるアスタナのアシスト勢の布陣と役割が明確に見えてきた。

ティラロンゴとナバーロを先頭に上りを進むメイン集団ティラロンゴとナバーロを先頭に上りを進むメイン集団 photo:Makoto Ayano

最後の1級山岳モルジヌ・アヴォリアズでペースを上げるダニエル・ナバーロ(スペイン、アスタナ)最後の1級山岳モルジヌ・アヴォリアズでペースを上げるダニエル・ナバーロ(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vos緩い勾配の上りアタックできる強さとスピードを誇るヴィノクロフ、かつてダミアーノ・クネゴの登りでのアシストとして活躍したティラロンゴ。そしてモルツィーヌ・アヴォリアズの上りで最後に先頭を引き続けたダニエル・ナバーロが、コンタドールにとって山岳での最後の切り札になる選手だ。

ナバーロは2009年ブエルタ・ア・エスパーニャで総合13位に入ったクライマー。今季はツールの前哨戦、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2010第5ステージの超級山岳シャンルースで一人メイン集団から飛び出し、それまで逃げていた選手たちを抜き去って頂上ゴールを制している。

ドーフィネでブレイクするまでは6年間の地味なアシスト生活を送ってきた26歳のナバーロは、2005~2006年にリベルティセグロスに所属、2007年からリベルティセグロスが自然消滅してスポンサーが入れ変わった今のアスタナに、つまりコンタドールとずっと一緒に所属し続けている選手だ。

チームアスタナここまでの平坦ステージでゴール前には力を抜き、落車を避け、体力を温存してきた。そして今日その力を存分に発揮して、まずはコンタドールを守りきり、そしてアームストロングを引き離すことに成功した。

コンタドールに反旗を翻し、自分の総合優勝を目指すのではないかと心配されていたヴィノクロフは、コンタドールとチームメイトたちを支える動きに徹した。緩い勾配の山岳で真価を発揮するヴィノの走りは、違う局面でコンタドールを支えることになりそうだ。

コンタドールは真のマイヨジョーヌ争いを先送りしたい?

チームメイトにアシストされながら快調に1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)チームメイトにアシストされながら快調に1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vosひとまずチーム力に問題がないことが証明されたが、コンタドールはモルジヌ・アヴォリアズでアンディ・シュレクやライバルたちに対して決定的なアタックを控えたように見える。大きなタイム差をつけられることは許さなかったが、自身がマイヨジョーヌを奪うための走りは目指さなかった。

コンタドールがもしマイヨジョーヌを早めに着ることになれば、それを守るためのチーム力を使わなくてはならない状況に陥るからだ。

今年のツールは最終日前々日のステージにツールマレーの登りが2度登場するなど、第3週のピレネーにより重点が置かれたコース設定だ。アルプスは決して軽視できるものでないが、コンタドールとアスタナは最終週までマイヨジョーヌへの勝負を待ちたいようだ。その自信と余裕がコンタドールにはあるように見える。

エヴァンスの落車&マイヨジョーヌのデジャヴ

ずっと前を牽き続けたカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)と握手するシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)ずっと前を牽き続けたカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)と握手するシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ) photo:Cor Vosシャヴァネルが遅れ、予想通りマイヨジョーヌを獲得したエヴァンスも序盤に起こった落車に巻き込まれ、苦しんだひとり。エヴァンスは言う。

「地面にキツく叩きつけられたんだ。幸い腕で衝撃を吸収したので脚にダメージは無かったけど、その落車の影響で厳しい闘いになった。ゴール前でシュレクが飛び出したのが見えたけど、自分は自分の走りに徹した。痛みで一日苦しんだ。左腕はひどく痛んだんだ。ゴールまで走り切れたことを喜ばなくてはいけない」

マイヨジョーヌに袖を通すカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)マイヨジョーヌに袖を通すカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vos山頂フィニッシュでマイヨジョーヌを獲得し、休息日を迎えるのはサイレンス・ロットに所属した2008年ツールと同様だ。エヴァンスは当時第9ステージで激しく落車して背中を痛め、それが原因で力を発揮することができずに結局はカルロス・サストレに負けて総合2位に甘んじている。

「確かに2年前のデジャヴだった。落車を避けることなんてできず、ただ突っ込んで、このままツールが終わると思った。

今日僕は落車した。でも2年前の落車は、キャリアの中でも最悪なものだった。ひどい痛みと出血。翌日、オタカムへのステージで、最初の上りでスプリンターと一緒に遅れたんだ。しかしマイヨジョーヌ獲得へ向けて闘った。そしてマイヨを獲得した。どん底のどん底からもっとも高いところへの闘いだった。今日はちょっと違ったよ」

2008年当時のサイレンス・ロットはチーム力がなく、山岳でひとりっきりで闘うことが弱みになった。しかしこの日、昨日に続いてチームメイトのスティーブ・モラビートのアシストに助けられた。

ジョージ・ヒンカピーとアレッサンドロ・バッラン、カールステン・クローンなど、今年は頼れる選手がいるBMCレーシングチーム。コンタドールと対照的に、早めのマイヨジョーヌ獲得を否定しないのは、チーム力に自信があるからだろう。くわえていい運に恵まれているとは言えないエヴァンスは、勝負を先送りすることはしないのだ。

脚を休めたユキヤ 山岳はこなすもの

ユキヤはこの日、序盤のアタック合戦に加わるものの、逃げが決まらなければ自分の日ではないとさっさと遅れた。それでも2つのグルペットのうち前のグルペットで27分49秒遅れでゴール。グルペット最後尾にいたため写真が撮れなかったが、こちらに気づいておどける合図を送る余裕の表情で通りすぎていった。

勝負に絡めない山岳は力を貯めることに専念し、次なる逃げのチャンスの日に備えるという割り切った走りだ。グルペットに乗っていれば遅れることに心配はいらないから、安心して見ていて欲しい。

ここまでの走りは明日休息日に機会をつくってもらう共同記者会見で聞いてみたい。

text:Makoto Ayano
photo:Cor Vos, Makoto Ayano

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